ゲーム開発者向けツール&ミドルウェアの総合展示会“Game Tools & Middleware Forum 2013(以下、GTMF)”。2013年7月19日の大阪開催に続いて、2013年7月23日には秋葉原UDXにて東京でのイベントが開催された。

 ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏が行った講演、“これからのゲーム開発のために投資すべき3つのこと”は、前半が昨晩配信されたばかりの同社のゲームエンジンの最新版Unity 4.2のアップデート内容紹介、後半がタイトル通りの、ゲーム開発者が将来のために先行投資しておくといいのではないかと考える3つの要素の提案となっていた。

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30人でゲームを“作りきる”ためにはどうするか

 ここではまず、その後半部分からご紹介する。第1の要素として提案されたのは、少人数チームでゲームを作りきるための手段の開拓。
 前提として大前氏は、AAA(予算・規模が最上級)のスタジオが減ってきているという現状を挙げる。一方でモバイルから据え置き機まで、ゲームに要求される品質は年々向上しているわけで、“より少ない人数でより高品質”という、一見矛盾した問題があるわけだ。
 次世代機向けに発表されているゲームでも、海外のインディースタジオによるものなど、意外なほどの少人数で制作されているタイトルは結構あり、たとえ従来のパッケージのフルゲームのようなAAAゲームでなくとも、少人数で一定以上の品質を持った商業ゲームとして作りきる方法を開拓しておくのは、生存戦略として確かに有効だろう。

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▲次世代ゲームが控える現在、大規模スタジオは減りつつある。その中で増えてきているのが、インディースタジオを含む少人数チームによるゲーム制作。しかしゲームの規模はある程度調整できるとしても、どうやって30人程度のチームで“作りきる”のか? そこで提案されたのが、仕組みを作って自動生成(プロシージャル)、ストアで買ってくる、あるいはコミュニティの力を借りてみるという選択肢。

 もちろん、GTMFのようなゲームエンジンやミドルウェアの展示会が盛んなのも、そういったツールのメリットのひとつとして、限られた人的資源の効率を高める効果があるからなのは言うまでもない。大前氏はここで、大量のアセット(素材)制作を助ける、プロシージャル生成を行うツール群を中心に紹介を行った。

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▲まずはプロシージャル生成。“周囲に街路樹や草がいい感じに生えた道路”を作るのに、いちいち一個ずつオブジェクトを置いていく(時間がかかる)のではなく、自動生成できるような仕組み(ルール)を作り、それを組み合わせて目的のコンテンツを得るという解決法だ。

 例えばSide Effects Softwareが発表したばかりのHoudini Engine。これは、これまでゲームでも利用されてきたコンテンツ制作技術を、UnityやMayaなどのツールにプラグインを介して統合し、Unityなどから直接パラメーターを弄れるというもの。
 最初に自動生成を行うためのルール作りをする必要はあるが、ちょっとした修正やバリエーションを作るなどの作業が、ある程度実際に配置を行うレベルデザイナーなどの手で直接行えるので、一番人的リソースが必要な大量生産のフェーズの労力を幾分か省略化できるという寸法だ。

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▲一例として紹介された、Side EffectsのHoudini。“Houdini Engine”が発表されたばかりで、プラグインを通じてUnityやMayaからパラメーターを弄れるという。
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▲ではこれがどういう効果を生み出すのか? これまでだったら出来上がっているアセット(例えば上の写真のような階段)でレベルデザイナーができるのは、サイズを変えたり質感を変えたりといった程度。しかしパラメーターとして弄れるなら、レベルデザイナーの発想で階段の段数や角度なども変えられる。しかもアーティストに作り直してもらう必要がない。
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▲もうひとつ紹介されていたのが、テクスチャをプロシージャル生成するAllegorithmicのSubstance。これは大前氏の次のコマでデモが行われた。

 その他にも、ファンコミュニティの力を利用するといった実例も紹介された。ここで紹介された『Wasteland 2』はクラウドファンディングによるファンからの出資も受けており(記者も出資しているんですがリリースはまた遅れたそうで……)、長らく分断されることが多かったゲーム開発とファンの関係は、こういったレベルでも変化していくのかもしれない。

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▲コミュニティーの力を借りる例として紹介されていたのが、inXile entertainmentの『Wasteland 2』。アートディレクションを定めたキットを配布することで、ファンによるいい感じの素材が公開されている。

“ゲーム体験”は次のレベルに進むことができるか

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 そしてお次は、新しいハイエンドなゲーム体験のための模索。大前氏は、プラットフォームが躍進するタイミングには、必ずゲーム体験の革新があると述べる。
 こうした“新たな体験”への模索は、それが新しいがゆえに、より高品質なグラフィックの追求などの“本流”の研究からはそれがちだが、何かのタイミングで爆発的に伸びる可能性がある。

 例えば、VRデバイス“Oculus Rift”。3Dヘッドマウントディスプレイにヘッドトラッキングセンサーがついたこのデバイスは、開発機が出荷されている段階でありながら、すでに多くの開発者を魅了している。

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▲ゲーム体験にもう一度魔法はかかるのか? VRデバイス“Oculus Rift”はその候補のひとつ。リッチになったゲーム世界に次のレベルの没入感を与えられるかもしれない。

 現状では可能性のひとつでしかないが、今後ハイエンドゲームでの採用が進み、リッチになった(割にプレイヤーに昔ほどの感動を与えない)ゲーム世界に新たなレベルの没入感というレイヤーを加えるかもしれない。
 普及するかどうかはともかく、そのゲーム体験が革新的であるのは、昨年夏から何度か体験している記者も保証できる。(悲しいことに)まだその新しさをうまく伝える言葉を持っていないぐらいだ。気になる人は、8月に東京で有志による体験イベントが行われるので、参加してみてはいかがだろうか。

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▲いくらRiftが現実的なVRデバイスとして画期的とはいえ、もちろんまだまだハードルは高い(そもそも開発機が出荷されている段階に過ぎない)。

プラットフォーム対応のコストと可能性

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 そしてラストは、プラットフォーム対応について。大前氏は、今年のGDCアワードの結果を引用し、開発者の興味がコアゲームに回帰してきているのではないかと語った。

 これは大前氏が先に語ったような、AAAゲームの道が厳しくなってきているのと必ずしも相反しない。パッケージで据え置き機で十数時間遊べてマルチプレイがついているようなゲーム超大規模ゲームでなくとも、どこかでバランスを取って「プラットフォームはモバイルだけど体験はハードコア」とか「ダウンロードゲームで10時間に満たないが印象的な経験ができる」といった作り、いわゆる“ミドルコア”ならば、パブリッシングの限界や制作リソースの限界を乗り越えることもできるからだ。

 大前氏はさらに、東京ゲームショウとニコニコ超会議の来場者数を比較した上で、後者で人気のゲームがPCをプラットフォームとしていること、つまり(国産ゲームの商業ベースでは限定的なものと思われがちな)PCゲームが、実は大きな数字を持っていることを示した。

 これが意味するところは何か。安価にプラットフォーム対応が可能ならば、自分たちの作りたいコアゲームが成功できる土壌が、これまで暗黙的に対応して来なかったプラットフォームに存在するかもしれない。
 そこでの成功がライトゲームをモバイルでヒットさせた時よりも限定的なものだったとしても、要は大きく賭けて損をするより、小さくとも利益が出た方がいいわけだ。そうした“マーケットの斥候”という意味でも、デリバティブ(派生)としてのプラットフォーム対応の可能性があるのではないかと指摘していた。

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▲コアゲームでも成功できる市場がどこかにあるかもしれない。

Unity 4.2では350以上のアップデート

 Unity 4.2の紹介では、350以上にも及ぶアップデート項目がダイジェストで紹介された。グラフィックの強化や新プラットフォームの対応、「コンソールの現行機レベル」とするモバイル向けグラフィックでのOpenGL ES 3.0のサポートといったものから、カラーやパーティクルのパラメーターのカーブなどのプリセットのライブラリー化&共有といったチーム制作を円滑にするものまで、その内容は実に多種多様。

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▲無料版が強化されたほか、新プラットフォームへの出力対応も。
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▲パーティクルの衝突によって蓋が閉じたり火が弱まったりといったデモも。
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▲iOSではアプリ申請時に“PIE Compatible”ではないとの警告が出されるようにことを受け、いずれ必須項目になる可能性を考慮して対応。
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