カプコンのコンポーザー牧野忠義氏へのインタビューをお届け

 カプコンから2013年4月25日発売予定のPS3、Xbox 360用ソフト『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』。同作の音楽アルバム『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン オリジナル・サウンドトラック』が、スクウェア・エニックスより2013年4月24日に発売される。全53曲収録予定、価格は2800円[税込]。
 『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』の音楽を手掛けるのは、コンポーザー牧野忠義氏を中心としたカプコンサウンドチーム。今回は、その牧野氏がマスタリング作業を東京のスタジオで行っているということで、お話を聞きに。オリジナル・サウンドトラックの聴きどころや制作秘話、コラボレーションの経緯からカプコンサウンドの作り方まで、幅広く語って頂いた。ここからは、そのインタビューをお届けする。

『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン オリジナル・サウンドトラック』の聴きどころや制作秘話を、コンポーザー牧野忠義氏に聞いた_03

【商品概要】
◆商品名:ドラゴンズドグマ:ダークアリズンオリジナル・サウンドトラック
◆品番:SQEX-10363-4
◆発売日:2013年4月24日(水)
◆価格:2800円[税込]
◆収録曲数:全53曲(予定)
◆仕様:12センチCD・2枚 初回生産分のみオリジナル・スリーブケース付き
◆作曲:牧野忠義、近藤嶺、Inon Zur
◆発売元:スクウェア・エニックス

『ダークアリズン』楽曲の制作秘話

『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン オリジナル・サウンドトラック』の聴きどころや制作秘話を、コンポーザー牧野忠義氏に聞いた_01

――本日は『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン オリジナル・サウンドトラック』のマスタリング作業で東京にいらっしゃっているということですが、制作は順調に進んでいますか?
牧野忠義氏(以下、牧野) はい。もう詰めの段階で、クオリティも非常に高いものに仕上がってきています。

――前作の『ドラゴンズドグマ』から今回の『ダークアリズン』まで、あまり間をおかずにリリースされますが、新規楽曲はゲーム中にどのくらい収録されているのでしょうか。
牧野 24曲ですね。

――基本的には『ダークアリズン』で登場する新エリア”黒呪島”で流れるものですか?
牧野 そうです。前作『ドラゴンズドグマ』の部分で変更・追加されているものはないですね。

――前作の楽曲が100曲弱とお聞きしましたが、そう単純なものではないにせよ曲数だけで考えても”黒呪島”はかなりボリュームのあるエリアだと想像できますね。
牧野 はい。当初はそれほどの数にはならないかなと思っていたのですが、ゲームの内容を見ていくと、演出が必要なところやこだわる部分などもあって、結局この数になりました。

――では新規楽曲について、前作から意識して変えたところなどはありますか?
牧野 前作では広大なオープンフィールドが舞台ということで”ネイチャー”なテイストを意識して、ベーシックなオーケストラサウンドで構成しました。ありがちといえばそうなのですが、今後の追加・拡張を見据えて、あえてそういう選択にしたんですね。そして今回拡張版の『ダークアリズン』が実現することになりました。そこで、メインの舞台となる”黒呪島”のBGMには、前作では封印していたシンセサイザーのサウンドを取り入れています。ダンジョンという閉ざされた空間、また異世界だという雰囲気を出すには、オーケストラでは表現しにくいですし、激しい戦闘がメインとなるので、荒々しい感じ、プレイヤーの気持ちを高揚させる音を出したかったということもあります。

――ちなみに、この場面に曲を充てよう、この演出に曲を用意しよう、といったことは牧野さんが判断されるのですか?
牧野 そうですね、基本的には僕が必要なもののおおよその見積もりを立てて、それをディレクターに見せて、意見交換をしながらすり合わせていく形です。

――なるほど。つまり、牧野さんはゲームの仕様や内容も把握したうえで楽曲の制作を行っているんですね。
牧野 はい。他社さんでどうなのかはちょっとわかりませんが、カプコンではディレクターから指示が降りてくるという形ではなく、コンポーザーの側から楽曲のテイストも含めて提案していくという作り方ですね。基本的に内製で作っているという利点を活かして、密に連携をとって制作を進めています。

――となると、実際に牧野さんがゲームをプレイして音を確認する工程もあるのですか?
牧野 もちろんあります。サウンドチームは、曲を作るだけが仕事ではないですね。ゲームに実装してみては調整する、という作業を繰り返しやります。仕事の種類でいうと、余談ですが、実は今回の『ダークアリズン』で一番大変だったのは、日本語フルボイス化ですね。これもサウンドチームの仕事なのですが、基本的に全部が日本語ボイスに差し替わるということで、声優さんの収録、音の調整と、それはもう膨大な量で(笑)。

――それは想像するだけでも大変なのが伝わってきます(笑)。話を戻しますが、そうして制作を進めていく中で、ボツになった楽曲などはありましたか?
牧野 いくつかはありましたね。まずは曲を充てるシーンに対して僕の持ったイメージで曲を作りますが、ディレクターと話していく中で、方向性自体が違う、となることはやはりあります。そういった場合はボツにして作りなおしますね。今回で言うと、新しいシステムで”死体沸き”というものがあるのですが、これに関しては木下(研人ディレクター)の思い入れが強く、何回も僕の席に来てもらって調整しました。最初は荒々しい、テンションが上がる感じの曲を作って持っていったのですが、ゲームの内容的にも通常戦闘とのメリハリという点でも「ドーンと落としてほしい」と。ですので、最終的にかなりサスペンス調な、前作にはなかったホラー感の強い曲になりました(※曲名は「腐肉に群れし獣」)。

――お話を聞いて、理想的なゲーム音楽の作り方のひとつだと感じますが、この場合、ディレクターさんもコンポーザーさんに任せっきりではなく、サウンドに対してイメージを持っていないといけませんよね。
牧野 慣れもあると思いますが、カプコンではそれが普通ですね。これも余談ですが、僕が関わった中では『モンスターハンター』シリーズの藤岡(要ディレクター)はすごくサウンドにこだわりますね。僕の席に張り付きっぱなしということもままありました(笑)。全部を見て、世界観を作り上げていくディレクターという仕事は、やはり大変だと思いますね。

スクウェア・エニックス、そして関戸剛氏とのコラボレーション

――前作に引き続き、『ダークアリズン』のサウンドトラックはスクウェア・エニックスから発売されます。珍しい形でのコラボですが、まずこれが実現した経緯をお聞かせください。
牧野 これは、プロデューサーの小林(裕幸氏)が、「中世ファンタジー風だしRPG要素もあるし」ということで、そのジャンルではトップクラスのスクウェア・エニックスさんにお願いしました。

――サラッと聞くと納得してしまいますが、冷静に考えるとすごく大胆な判断ですよね(笑)。
牧野 そうですね、”らしい”というか(笑)。ですが、僕も音楽に関しては垣根はあまりないと思っていますし、今回の場合なら、『ドラゴンズドグマ』のファンだけでなく、スクウェア・エニックスさんのファンタジーRPGファンにも聴いてもらえるチャンスになる。『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』をはじめ偉大なタイトルを持っているメーカーさんですし、そのファンの皆さんにアピールできる機会を頂けるというのはうれしいことです。

――さらに今回は、牧野さんと関戸(剛氏)さんという両社のコンポーザーのコラボレーションも実現しました。
牧野 はい。「死闘の果てに」という曲でギターで共演させていただきました。この曲はボーナストラックとして収録されています。

――おふたりのコラボはどのような経緯で?
牧野 じつは、スクウェア・エニックスさんの大阪事業所とカプコンの大阪開発ビルはそんなに離れていない場所にありまして、同じゲーム音楽畑ということもあり、関戸さんとは普段からお話したり飲みに行ったり、交流があったんですね。そういったこともあり、僕のほうから「ぜひ、一緒にやりませんか?」ということでオファーさせていただきました。

――すでに顔見知りだったのですね。牧野さんから見て、関戸さんはどんな方ですか?
牧野 関戸さんは……まだ108のネタを聞き切れていないので、いつ全部披露してくれるのかなと(笑)。

――これはまたコアな話題が出ましたね(笑)。
(解説:ファンならご存知の方も多いと思うが、関戸氏は常々「自分は108のスベらないネタを持っている」と語っており、ライブなどでこれが披露されることもある。しかし関係者の証言によると「ウケたのを見たことが……」という。要するに楽しい方なのです)
牧野 まあそれはともかく、THE BLACK MAGES(関戸氏の所属していたバンド)のことももちろん知っていましたし、手掛けられた曲も好きでした。僕もBlack Lute(モンスターハンターオフィシャルギターユニット)で演奏する際は、実は参考にしていたりします。実際にお会いするととても物腰柔らかな方なんですが、ギターを持つとエゲツない、というのが印象でしょうか(笑)。今回のコラボ提案も快諾して頂き、素晴らしい演奏をして頂きました。業界の大先輩としても、ギタリストとしても尊敬しています。また今回のことで初めて判明したのですが、『ドラゴンズドグマ』チームの中にも関戸さんのファンが多かったという。コラボ曲もみんな関戸さんのギターにうっとりですよ。「俺も頑張ってるんだけど」と少し言いたくなるくらい(笑)。

――(笑)。そんな関戸さんとのギターコラボ曲も収録された『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン オリジナル・サウンドトラック』。制作は順調とのことですが、新規楽曲の中からオススメの1曲を挙げるとしたら?
牧野 メインテーマの「Coils of Light ~Dark Arisen Main Theme~」ですね。これは「Eternal Return」という曲を歌モノとしてしっかりとアレンジしまして、『ダークアリズン』のストーリーに沿った詩を充て直したものになっています。歌っているのは10代前半のウィリアム・モントゴメリー君で、彼の透き通った声も聴きどころです。

――楽しみにしています。では最後に、読者にメッセージをお願いします。
牧野 『ドラゴンズドグマ』はまだ生まれたばかりのタイトルですが、ファンの皆さんの大きな声援、愛情に支えられていると感じています。それに応えられるよう、1曲1曲愛情を込めて作っていますので、ゲームと併せてこのオリジナル・サウンドトラックを手にとって頂いて、楽しんでいただけたらうれしいです。よろしくお願いします。

『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン オリジナル・サウンドトラック』の聴きどころや制作秘話を、コンポーザー牧野忠義氏に聞いた_02

【関戸剛氏からのコメントも到着!】
――制作で苦労したことなどありましたらお聞かせください
今回、ギター演奏で参加させていただいたのですが、ハモリやユニゾンのフレーズなど非常に速いパッセージが含まれるため大変でした。自分は普段はこんなに速く弾くタイプではないので…(汗)

――メーカーの枠を超えたコラボレーションとなりますが、実際にやってみての感想をお聞かせください。
大変興味深かったです。牧野さんの楽曲「死闘の果てに」は、ブルガリアでのレコーディングとお聞きしましたが、聴けば聴くほど発見があり、大好きな曲の一つになりました。またオリジナル版もボーナストラック版もそうですが、楽曲に対する牧野さんのギターのアプローチが多彩で、その根っこを支えるのが演奏スキルの高さ、知識に裏付けされた柔軟な発想であり、それらによって選択肢も広がるのだな~っと、感じました。あれ以来ちょこちょこ自主トレーニングも始めています。(笑)

――関戸さんの牧野さんの印象をお聞かせください。
過去に何度かお会いする機会があったんですが、もうその頃から外見も内面も男前な人だな! っと言う感じでした。物腰が柔らかく明確な主張も備えていて、制作におけるカプコンのサウンドディレクター岡田信弥さんとのコンビネーションもばっちりで攻守ともに手ごわい相手だな、っと思いました。むむ、手ごわいと言うのはちょっと違うかもしれませんね。スキがない!! と言った感じでしょうか(笑)。

――関戸さんから見たカプコンのサウンド作りの特徴は?
あくまでも個人的な感想ですけれども……『ドラゴンズドグマ』サウンドの制作にあたって記載してある記事をいくつか読ませていただきました。「業界あるある」的なモノから「なるほど!」っと、自分自身、今後の参考にさせていただこうと思うものまでいろいろありました。大規模なタイトルとなるとプレッシャーもあると思うのですが、さまざまな試みが高い次元で見事に昇華されたアメイジングなサウンドメイキングが特徴だと感じましたね。

――最後に読者にメッセージをお願いします。
素晴らしい楽曲群が皆様をお待ちしております。ぜひご期待ください!! ふたりのギターは10000ボルト!! めちゃめちゃ熱いでっせ~!!

(C)CAPCOM CO., LTD. 2012, 2013 ALL RIGHTS RESERVED.