『アリス マッドネス リターンズ』の狂気の世界を生んだアメリカン・マッギー氏の頭の中

ゲーム プレイステーション3 Xbox 360 PC インタビュー
エレクトロニック・アーツから2011年7月21日に発売された、プレイステーション3、Xbox 360用ソフト『アリス マッドネス リターンズ』。同作のクリエイティブ・ディレクターを務めるアメリカン・マッギー氏が、本作の日本発売を記念して来日。

●アメリカン・マッギー氏が語る狂気の世界が生まれたゆえん

 エレクトロニック・アーツから2011年7月21日に発売された、プレイステーション3、Xbox 360用ソフト『アリス マッドネス リターンズ』。童話『不思議の国のアリス』を独自のテイストで染め上げた狂気の世界観&ストーリーが注目され、発売前から大きな話題を集めていた。そんな本作のクリエイティブ・ディレクターを務めるアメリカン・マッギー氏が、本作の日本発売を記念して来日。本作の魅力をアピールするべく、インタビューに応じてくれた。CEROのレーティングでZ指定を受けるほどの過激な内容を持つ作品はどのようにして生まれたのか? アメリカン・マッギー氏の頭の中を探るインタビューに、ぜひご注目いただきたい。

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■アメリカン・マッギー氏
『DOOM』、『QUAKE』のレベルデザイナーを経て、2000年に『アリス イン ナイトメア』をリリース。その後、上海にて自身が代表を務めるゲーム開発スタジオ“SPICY HORSE”を立ち上げた。最新作である『アリス マッドネス リターンズ』(開発はSPICY HORSEが担当)では、クリエイティブ・ディレクターを務める。

●5分刻みのメモから生まれた『アリス

――本作の開発でとくにこだわった部分はどこでしたか?
アメリカン・マッギー(以下、アメリカン) もっとも力を入れたのは、アリスというキャラクターをしっかりと描くことで、アリスが体験するストーリーの構築にいちばんの重点を置きました。前作である『アリス イン ナイトメア』でとくに評判がよかったアートの部分、それに合わせたゲームプレイの感覚というのは、前作を踏襲すればユーザーさんに受け入れてもらえると思っていたので、意識してあまり変えないようにしたんです。そのおかげもあって、とくにアリスを描くストーリーに力を入れられたと思います。

――アメリカンさんは本作のクリエイティブ・ディレクターを務めていらっしゃいますが、本作の開発で具体的にどのような役割をされていたのでしょう?
アメリカン 私のチームでの役割は細かい指示を出すのではなく、アリスが何を考えているのか、スタッフがアリスの心境を理解するうえでのお手伝いをするというものでした。とある場面でアリスはどんな表情をしているのか、そのとき彼女はどんな衣装を着ているのか、それらを各スタッフが考えるのですが、アリスの考えていることと違う道筋を進みそうな場合にだけ、私から「アリスならばきっとこういう表情をするよ」といった伝達をする役割をしていたんです。

――アメリカンさんは、アリスの代弁者として、全体の統率をされていたんですね。
アメリカン はい。確かに開発の後半では統括に徹する部分もありましたが、開発初期段階で私がしたのは壁にたくさんのメモを貼ることでした。そのメモというのが、アリスのストーリーを5分ごとの細切れにしたもので、それを壁一面に貼っていたんです。アート系のアーティストはその壁に貼られたメモを見ながら、この5分はこういうアート、つぎの5分はこういうアートと考えて、アートデザインを作っていました。同じくゲームデザインのチームも、この5分にはこういうシステムでこういうプレイを……と考えて作っていましたね。そのメモのようにゲームのコンセプトである全体のマップやストーリーというのを私が最初に提示するわけですが、各アーティスト、ゲームデザイナーが作業をする中で、ときに方向性がブレることや、実現ができないということもありますので、それらの問題を解消するために、つねにミーティングをしていました。1週間の半分以上はミーティングに費やしましたね。

――とても珍しいゲームの作りかたですね。アメリカンさんの才能を周囲が固めるようなチームという印象ですが、ほかのゲームも同じように開発されていたのでしょうか?
アメリカン いえ、ほかのタイトルに関してはこういう作りかたはしていません。ほかのゲームはもっと規模が小さいので、大きな企画の骨子を立てなくとも大丈夫なんです。一方、『アリス マッドネス リターンズ』のような大規模のゲームを作る場合は、誰かの頭にちゃんとした骨子が入っていないと、そもそも作ること自体が不可能だったと思います。とくに、今回の開発チームで大規模作品を作るということは初めてでしたので、不可能と思われた開発を実現するために、こういう手段を取ったんです。現在はもっと小さなタイトルを作っているので、いまは各チームがそれぞれの中でゲームプランを考えるようにしています。

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●幼少時の境遇から生まれた狂気の世界

――『アリス マッドネス リターンズ』の狂気の世界観、ストーリーはどこから着想を得ているのでしょうか?
アメリカン 私は、若いころから物語を作るということは得意で、とくにダークなものを作ることは多かったんです。そこで、私が考える要素に、アリスというキャラクターのフィルターをかけることで作り出していきました。ただ、このゲームを作る際に私はルールを設けました。それは、ゲーム内に登場するものは、すべてアリスが見たもの、嗅いだもの、味わったものといった、アリスが想像できうる範囲内に留めるというものです。たとえ私がもっと残酷なものを考え付くとしても、すべてはアリスという少女が経験し、想像できる範囲内で納めないといけないのです。

――とはいえ、本作に登場するロンドンやワンダーランドの世界観、そしてストーリー展開などは常人には浮かばないものだと思います。そういったものが生み出せる秘訣は何なのでしょう?
アメリカン 私の子供時代の話をすると、とてもダークなことや変わったこと、おかしなことがたくさん起きていたんです。……具体的に話さずに全体的な説明をさせていただくと、私は子供のころにふたつの家で育ったんですね。どちらも家族構成がひどかったのですが、ひとつの家は非常に厳格すぎる宗教家で、日常的な感覚でキリストへ祈るということではなく究極的な感覚を持った家でした。かたや、もうひとつの家は非常に破天荒で、ドラッグでもなんでもオープンという状況で、こちらも極端に荒れた家でした。その極端なふたつの環境を見て育っているという境遇から、私が着想を受けるものを想像していただければと思います。それがゲームを作る際のインスピレーションとして、当時のことをちょっと掘り出したりしているんですね。いまはこれをゲームに活かしていますが、もしかしたら今後本を書くことに活かすかもしれませんね(笑)。

――ご自身の深い話をありがとうございます。そういったアメリカンさんの発想を、各アーティスト、ゲームデザイナーが具現化する中で、齟齬が起こることはなかったのでしょうか?
アメリカン そういうことは少なかったです。というのも、私から「このクリーチャーは、こういう外見でこういう要素を持っているんだ」といった詳細な指示はしませんので。さきほどお話をした壁に貼ったメモというのも、貼ったら絶対に変えないというものではなく、ちょっとずつ変えることもできましたので、ゲームデザイナーのアイデアを見て、ふさわしいメモを探すといったこともしました。それと、そもそも開発の早い段階でスタッフとイメージを統一していましたので、伝達が難しいということはありませんでしたね。ただ、開発中に「アリスの外見をまったく別のものに変えたい」と言ったデザイナーがいました。そのデザイナーはアートディレクターだったのですが、彼とは何度もケンカをしましたね(笑)。私が迷っているのではなく、彼がやりたいことと私のやりたいことのぶつかり合いでした。でも、どちらかと言うと、彼はアートディレクターとして、自分の特徴を出すことに終始していたと思います。ただ、その言い合いは私にとって難しいものではなく、私が「それは変えないよ」と言うだけで解決しました(笑)。

――それはブレませんね(笑)。本作は、日本でも前評判が高く、発売前から話題になっていましたが、この反響の多さは想像していましたか?
アメリカン 前作である『アリス イン ナイトメア』の時点で、すでに日本で驚くような反響がありましたし、何より想像以上に長く愛されていました。ですので、日本にいるコアな『アリス』シリーズのファンから、きっと今回もいい評判をもらえるだろうとは思っていました。とはいえ、やはり前評判が高いとうれしいですね(笑)。

――開発中の段階で日本のレーティングを意識した調整をされたと伺いましたが、具体的にはどのような部分を調整されたのでしょう?
アメリカン 確かに日本を強く意識はしていましたが、そこまで大きく変えたというものはありませんでした。変えたのは非常に細かい部分で、ひとつは女性の胸を露出させてはいけないというものですね(笑)。あとは、ロンドンで警官が盗人の子供を叩くシーンがあったのですが、それを子供から大人にしたくらいです。

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●アメリカン氏と須田剛一氏のコラボ!?

――日本のゲームについてお伺いしたいのですが、日本のゲームの中でとくに印象深いものや、インスピレーションを受けた作品はありますか?
アメリカン バトルシステムは、任天堂の『ゼルダの伝説』を研究して考えましたね。あと、ゲームを形作る土台の仕組みなどは『マリオ』シリーズなどを研究しています。やはり宮本(茂氏。『マリオ』シリーズ、『ゼルダの伝説』シリーズの生みの親)さんのゲームから影響を受けたことは大きいです。

――ほかに日本のゲームクリエイターでよくご存じの方はいらっしゃいますか?
アメリカン 須田剛一(グラスホッパーマニファクチュア代表。代表作は、『killer7(キラー7)』など)さんですね。彼の新作である『Shadows of the DAMNED(シャドウ オブ ザ ダムド)』と合わせて本作のプロモーションツアーをいっしょに回ったりしていたので、彼のことはよく知っていますし、彼の性格がとても好きなんです。ふたりでよく話をしていたのが、ふたりともゲームではないところでキャリアを積んで、それからゲームクリエイターになったという共通項でした。

――おふたりとも手掛けられるゲームに独特のセンスを感じますね。
アメリカン そうですね。ゲームの中でいろいろなことを試せる自由度や、それまでのゲームの規則を破ったようなものを作る部分は似ている気がします。それは、やはりふたりが最初からゲーム業界にいたのではなく、途中から入ったという似た感覚があるからなのかもしれません。ふたりとも変わったゲームを作っていますが、変わっているということは悪いことじゃありませんしね。いつかふたりでコラボレーションして同じゲームを作れたらとてもおもしろいなと思います。

――期待しています! 『アリス イン ナイトメア』、『アリス マッドネス リターンズ』と2作品が発売されましたが、今後のシリーズ展開について、どのように考えていらっしゃいますか?
アメリカン じつは、『アリス』シリーズは、三部構成になっているんです。ですので、もちろん第3弾の構想がありますし、発売したいとも思っています。ですが、それができるかどうかはファンの皆さんの反応、そしてその反応を見たエレクトロニック・アーツさんの「第3弾を作るぞ!」と言ってくれる決断にかかっています(笑)。

――『アリス イン ナイトメア』から『アリス マッドネス リターンズ』の発売まで約10年がかかりましたが、第3弾発売までどれだけ時間がかかるのか気になります……。
アメリカン また10年後に戻ってきます(笑)。

――(笑)。では、最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
アメリカン 日本のファンの方々は私たち開発スタッフにとってとても重要で、『アリス イン ナイトメア』の反響が大きかったこともあり、続編を作る際にとても日本のファンを意識しました。たとえば、アリスにはとてもたくさんのドレスを用意していますが、これは日本のコスプレイヤーさんがコスプレをしてくれることを期待して入れた部分でもあるんです。そういった要素をぜひ楽しんでいただきつつ、「この開発チームは日本のことを思いながら作っているんだな」ということに気づいてもらえたらうれしいですね。

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(C)2011 Electronic Arts Inc. EA, the EA logo and Alice: Madness Returns are trademarks of Electronic Arts Inc. All other trademarks are the property of their respective owners. ※画面は開発中のものです。※本ソフトはCEROにより“18歳以上のみ対象”の指定を受けておりますが、掲載にあたっては、ファミ通.comの掲載基準に従い考慮しております。

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