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15年で15作、“市場に流通しない”ゲームを作り続けたクリエイター【GDC 2011】

ゲーム
15年で15作、市場に流通しないゲームを作り続けたEA/MaxisのStone Librande氏。セッションのラストでは感動的な結末が……。

●15年にわたるプライベートなゲーム作りの先に待っていたこととは

 2011年2月28日〜3月4日、アメリカ、サンフランシスコのモスコーニセンターにて、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2011が開催。世界中のゲームクリエイターによる、世界最大規模の技術交流カンファレンスの模様を、ファミ通.comでは総力リポートでお届けする。

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 技術関連のものを除いて、GDC内で行われているセッションの内容を極めてシンプルにひとことでまとめると、“ユーザーはどんなゲームを求めているのか?”といった感じだろうか。話す側、聞く側のどちらもが、つねに顧客の存在を意識している。しかし、GDC 2011の最終日に行われたEA/MaxisのStone Librande氏によるセッション“15 Games in 15 Years”は例外だった。内容は、Librande氏が15年のあいだに作った15個のゲームを紹介しながら、開発時の苦労やリリース後の反応など語るというもの……と、書くと「どこが例外なのだ?」と疑問に思うかもしれない。が、その15のゲームはすべてノンビデオゲームで、しかも市場に流通していない、と聞いたらどうだろうか?

 Librande氏は『SPORE』のリードデザイナーを務めたこともある実力派のゲームクリエイター。だが、モノ作りをするうえでは「何かに価値や価格を付けると、どこかで妥協してしまい自分の作りたいものが作れなくなってしまう」という不安を抱えているという。しかし、ふたりの子どもたちを喜ばせるためのモノ作りでは、その不安から解放される。15個のゲームとは、この、子どもたちを喜ばせるためだけに作られた、Librande氏の極めてプライベートな作品群のことなのである。

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 子どもたちのためのゲームを初めて作ったのは、長男が3歳、次男はまだ生まれていなかった1995年のクリスマス。ツリーの準備をしているあいだ子どもをあやしておくよう妻から言われたLibrande氏は「息子の頭がどれだけキレるのかを試してみよう」と思い、トイレットペーパーの芯などありものから『Hidden Reindeer』というゲームを作る。鹿のオブジェを探したり、隠したりするこの作品には確かなゴールも勝ち負けもないので、“ゲーム”と呼べるのかどうかは微妙だが、以降Librande氏はおもにクリスマスの時期に、子どもたちのために毎年1作ずつゲームを手掛けることになった。

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 セッションではここから時系列順にLibrande氏のプライベート作品群が紹介されたが、それらをひとつひとつ詳しく解説するのは野暮というものだろう。また、ゲーム開発における普遍的な価値観などを読み取るのも恐らく違う。なので、ここでは同氏のこの活動が子どもたちと自身にどのような影響与えたのか? というところに焦点を当ててリポートをお送りしよう。

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 1997年、長男が5歳、次男が2歳のときに作った『Alpha Zoo-tauri』というSFがテーマのボードゲーム。ここで初めて長男が、遊び側から作る側へ加わるようになる。「親父の点稼ぎになった(笑)」とLibrande氏。ゲームを使った知育というのは以前から謳われていることだが、同氏はこの経験から「子どもといっしょにゲームを作ること」も教育的であると考えたそうだ。

 本記事冒頭でも述べた通り、Librande氏が子どもたちのために作った作品はボード、カードが中心のいわゆるノンビデオゲーム。ビデオゲームとノンビデオゲームどちらが優れているか? という比較は意味のないことだが、同氏の作品は一時期“ビデオゲームVSノンビデオゲーム”という構図を取ることになる。2002年、10歳の長男と7歳の次男は周囲の友だちと同じくビデオゲームに夢中だった。子どもたちが遊んでいる場へ自身のゲームを持っていっても見向きもされない。親父としては非常に寂しい状況だ。しかし、これに奮起したLibrande氏はプライベートゲーム開発のキャリアにおける最高傑作を生み出す。

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 「『ディアブロ2』のカードゲーム化を目指した」と語る『MONSTER HUNTER』は、テーブルトークRPG『ダンジョン&ドラゴンズ』を彷彿とさせる、本格派のファンタジーカードゲーム。400枚あるカードは業者に頼んで制作する力の入れようで、さらにそれらに付随する情報はエクセルで管理するほど膨大だったという。親父渾身の一作は「ビデオゲームに夢中な子どもたちの興味を惹くことができた」と当初の目標を達成するだけでなく、妻も巻き込んで家族のレジャーとして楽しまれるようになった。さらに『MONSTER HUNTER』は、Librande氏の人生にも大きな変化を与える。知人にこのゲームを紹介してみたところ、それがゲーム会社の目に留まりビデオゲーム業界への就職決定したのだ。ビデオゲームから子どもたちの興味を惹くために手掛けた作品で、ビデオゲームの世界への道が拓けるというのはどこか皮肉な感じもするが、おかげで『SPORE』などのタイトルが生まれたのだから、我々ゲームファンにとっては喜ばしいこと以外の何ものでもないだろう。

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 ビデオゲーム業界で忙しく働きつつも、子どもたちのためのゲーム制作は欠かさなかったLibrande氏。しかし、年ごろを迎えた子どもたちは悲しいことに親父の相手をあまりしてくれなくなってしまう……。2005年、長男13歳、次男10歳のとき、もう『MONSTER HUNTER』のころのように家族が集まってゲームをすることはあまりないだろうと考えた同氏は、「好きなときに気が向いたら遊べるもの」として『FRIDGE』というボードゲームを作る。特徴的なのは盤面で、冷蔵庫のドアを利用して遊ぶのだ。駒はマグネットになっていて、プレイヤー(家族)はそれを使って陣取り合戦的なことをする。牛乳を取るついでに1手、思いついたときに1手といった遊びかたが想定されており、またゲームが進行するにつれ冷蔵庫のドアが賑やかになるのもユニークだ。なお、現在もLibrande家の冷蔵庫ではゲームが進行中で長男のターンなのだが、現在彼は家を出てひとり暮らし中。帰省し次第再開予定とのこと。

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 最新作となる15個目のゲームは、2010年の『1001 Words』。さまざまな単語を組み合わせて遊ぶパズルゲームで、シンプルかつ奥深い内容には15年という歴史の重みが感じられる。そして現在、18歳になるLibrande氏の長男は自分の道を歩み始めた。選択したのはゲームデザイナーの道。15年におよぶプライベートなゲーム作りは、自身のキャリアを決定づけただけでなく、子どもたちの人生にとって確かな道標にもなっていたようだ。記者はセッションの最後に明かされた、まるでドラマのようなこの結末に思わず感動の涙を流しそうになってしまった。

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 「自分がこれだと思うものを作ってほしい。皆さんも家に帰ったら、身近な人に楽しんでもらうことを考えてゲームを作ってみてください。それはとてもエネルギーのいることですが、ぜひチャレンジしてみてもらいたい」。Librande氏はそんな言葉でセッションを締めくくった。

 ちなみに、15個の作品はすべて市場に出まわっていないと説明したが、2006年に作った『NAN BOTS』というボードゲームは、その後形を変えてXbox LIVE アーケードタイトル『Micro Bot』としてエレクトロニック・アーツから発売されている。日本でもダウンロード購入が可能なので、興味がある人はぜひチェックしてみてほしい。

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