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宮本茂氏、コ・フェスタPAOで“もの作り”の楽しさを語る「何かを楽しいと感じるとき、そこには作る感覚も動いている」
ゲーム●ヨーロッパ企画とともにトークショーを実施
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経済産業省とNPO法人映像産業振興機構(VIPO)が主催し、2010年10月から実施されている“コ・フェスタPAO”。10人のトップクリエイターらがプロジェクト・デザイナーとなり、“映像”と関連付けた次世代の新しいクリエイター発掘・育成のための企画や提案をトークショー、ワークショップ、展示などの形式で披露するこのプロジェクトに、2011年1月19日、任天堂の宮本茂氏が登壇した。“宮本茂PAO”と題された今回は、京都を拠点に活動する劇団“ヨーロッパ企画”の代表である上田誠氏と、同じくヨーロッパ企画に所属する俳優の角田貴志氏も参加。“ものを作らなソンやと思わへん?”というテーマでトークショーを行った。
最初にひとりで登壇した宮本氏は、まず今回のテーマにもある“物を作る”という行為について「物を作るのは誰にとっても楽しいこと」と説明。これはゲームについても同じことが言えて、おもしろいゲームは「遊んでいる人が何かを考えているから楽しい」のであり、自分の仕事は「それをどう作るか」と認識しているという。この思考の延長から生まれたのが、たとえばニンテンドーDSi、DSi LLのカメラ機能。ただ撮影するだけでなく、撮った写真を加工することができるこのカメラは「ゲームじゃなくてコンピュータを使ったおもちゃ」(宮本)であり、「与えられるゲームではなく、コンピュータを使って楽しいことをするゲーム」(同)なのだ。
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宮本氏が近年手掛けた“物を作る”ゲームとしてはほかに、DSiウェア用タイトルで『うごくメモ帳』がある。シンプルなメモ帳としてはもちろん、複数枚のイラスト描いてパラパラマンガを作ったり、さらには写真や音声を取り入れられたりと、遊ぶ人のアイデアによってさまざまな楽しみかたが産まれるソフトだ。またこのソフトでは自分が作ったパラパラマンガなどをネット上にアップして、ほかのユーザーと共有することもできる。そこでの反応を見て宮本氏は“物を作るのは誰にとっても楽しいこと”という考えをより強くしたのだという。いわく、80以上からなるパラパラマンガの連作を投稿している人や、昨年『スーパーマリオブラザーズ』生誕25周年を記念して行われたパラパラマンガコンテストで生まれて初めて“作品”と呼べるものを作った人などがいるのだという。「ふだん物を作っていない人でも、作ってみると病みつきになる」――今回の宮本茂PAOでは当初「ふつうにゲーム作りの話」をするつもりだったそうだが、このような背景もあって“もの作り”全体に関して捉える内容となったのだ。
宮本氏に続いて登壇した上田氏、角田氏が所属する劇団“ヨーロッパ企画”は、テレビゲームを彷彿とさせる演出を舞台に取り入れるなど、いわゆる“ファミコン世代”の感性を持つ集団でもある。また、従来までの常識を覆すような仕掛に果敢に挑戦するところは、新たな遊びの形を提案し続ける宮本氏の姿勢と重なっている。さらに、京都が活動拠点という点でも共通していることから、今回の宮本茂PAOへ登場することになった。
3人の話は、それぞれが物を作るようになったきっかけからスタート。宮本氏は人形劇用のパペットやマンガ、上田氏はクラスの壁新聞やゲームのプログラム、角田氏は絵であったりと、物はそれぞれ異なっているが、共通しているのは幼いころからつねに何かを作っていたということ。そして、いまもつねに“もの作り”のことを考えていることだ。しかし、宮本氏ならゲーム、ヨーロッパ企画のふたりなら舞台と、現在仕事にしている物が最初から目標だったわけではない。それどころか、宮本氏はいまでも「自分は本当にゲームを作りたくて作っているんだろうか?」と思うことすらあるという。「得意だから作っている、もしくは誰かに褒められたいという自己顕示欲が強いだけなのかもしれない(笑)」。ヨーロッパ企画を率いる上田氏も、舞台を始めたのは「高校のときのクラス演劇の台本を頼まれたのがきっかけ」で、自分から動いたわけではない。ではなぜゲームを、舞台を仕事にしたのか? これについて宮本氏は「誰かを楽しませる何かを作りたかった」とシンプルに分析した。ちなみに同氏がそういった考えかたの中でゲームを選択した詳しい理由は後述するが、ひと言で言えば“コンピューターがルールをジャッジする”ことに対する衝撃である。
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続いて話題は、“もの作り”を行う際の両者の姿勢へ移る。角田氏は何かを作るときは「ほかの人と違うことがしたくなる」と話し、宮本氏もこれに大きくうなずく。同氏はファミコンの場合はこれにシステム的な制限が多くあったと付け加え、制限があるときこそ「人と違うことをしないと(作品の)密度が上がらない」と持論を展開。また、昨今の何でもできる状況では物量に頼りがちになってしまい「すごいことができそうな気がするけど、それでは密度が上がらない」とも指摘した。「時間は有限だからほかがやっていることにそれを費やすのはもったいないし、新しいフィールドに飛び出したほうがネタは簡単に見つかる。いまのゲーム業界は物量で戦わないと勝てないような、シンドイ方向へ行っていると思います」(宮本)。この話題に関連して、京都で活動する意味にも言及した。上田氏は「東京でやれば物事は大きくなる気はします。でも、ゼロから作るには東京ではダメだと思うんです」とコメント。宮本氏はこれを受けて、東京は人が集中し過ぎるゆえに考えが“日本ローカル”になりがちであると表現し、「世界でやるには京都くらいがちょうどいい(笑)」と語った。もちろん両者とも、流通および各種情報伝達などにおいて東京の利便性は認めている。だが、“もの作り”に関しては「地元で作ったものを東京に持っていく」(角田)という感覚のようだ。
オープニングから途切れることなく話は続いたが、ここで一旦中断して今回のメインイベントとも呼べる企画を実施。ヨーロッパ企画が前述した『うごくメモ帳』で作ってきた作品が披露されたのだ。お笑いのコントを彷彿とさせる実写を取り入れたパラパラマンガや、テキストだけで表現したホラー、懐かしのゲームブックを再現したもの、指で遊ぶツイスターゲームなどなど、5つある作品はどれもエッジの効いた仕上がりとなっていた。そして、決して多いとは言えない『うごくメモ帳』の容量で、これだけ多彩な表現を行ったことに宮本氏は深く感心。「技術の制約自体がおもしろいのかもしれない」と改めて制約と“もの作り”の関係性にも触れていた。
作品その5 |
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ヨーロッパ企画の作品に刺激されたのか、発表終了後に宮本氏は自身の制作スタイルについて積極的に語り始める。同氏は特定のタイトルがないときでもつねに何かしらの実験をしており、そこで生まれたアイデアに“ダメなところのラベル”を貼ったうえで頭の中にストックしておくという。そして、ダメなところが解決して、何かのテーマと結びついたタイミングで製品化へ動き出す。これを宮本氏は“ツリー式”と表現。「アイデアをどんどん展開して、枝を切ったりつぎ足していく」というわけだ。その中ではもちろん、作品の質を上げるためのアイデアだけでなく、商品を売るためのことも考える。たとえどんなにいい作品でも「シンボリックに見える」(宮本)何かがなければ、売上に結びつかないこともあるのだ。たとえばニンテンドーDSの『New スーパーマリオブラザーズ』、Wiiの『New スーパーマリオブラザーズ Wii』はアクションゲームとしての質を高めるだけでもよかったのだが、それは正直不安だったという。そこで前者は巨大化するマリオ、後者では4人同時プレイという新要素を入れたそうだ。
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トークショーの終盤では、ヨーロッパ企画が来場者に代わってさまざまな質問を宮本氏にぶつける時間も設けられた。最初は『スーパーマリオブラザーズ』について。同作のタイトル画面は左下にマリオが右を向いて配置されており、パッと見ただけで画面を右へ進むルールであるというのがわかる作りになっている。このような、プレイヤーが自然とルールを学べる仕様がほかにもあるのか? というのがヨーロッパ企画からの質問。宮本氏は同作が「それの集積」であると回答し、具体例としてクッパと戦う際のシチュエーションを挙げた。ほとんどの人はご存知だろうが、『スーパーマリオブラザーズ』のクッパ戦(最終ステージ以外は偽物だが)ではファイアーボールを当てる以外に、飛び越えて橋を落とすという攻略法が用意されている。この後者の攻略法が取り入れられた理由が、非常に宮本氏らしい。「右へ右へ進むゲームだから、なかには“もっと右へ行けばクリアーできる”と思う人がいるのでは? と考えたんです」。基本ルールに忠実でいればゲームが進むというわけだ。一方で、『スーパーマリオワールド』以降では開始地点から左に行けるステージも登場している。これは「遊んでいる人が自然に考えることに沿いながら裏切るところは裏切る。期待しているところからちょっと裏切ると共感が生まれる」という宮本氏の考えによるもの。「作る人側の視点、遊ぶ人側の視点を持っている人はうまくやれる」(宮本)。
第2の質問は、アイデアを出すときはひとりがいいのか、グループがいいのか? というもの。これに対し宮本氏は、アイデアを数多く出す段階は複数でもいいが、それをまとめるのはひとりでなければいけないと回答。昨今のように開発規模が大きくなった状況では全員の意見を尊重していると内容にブレが出てしまう、それを避けるには「ひとりがすごく悩んで考えているものを、ほかのみんなが補強する」体制が理想であるとした。また、そもそもアイデアはどうやって生まれるのか? ということにも宮本氏は言及。いわく、つまらないものを見たときにアイデアは生まれやすいのだという。「どうしてこんなことをするんだろう? 俺ならこうするのに――と思うんです(笑)」と、何かが違うと感じるようだ。
続く質問は、制作が暗礁に乗り上げたときの回避方法。「ものすごくうまくいったゲームにも地獄のような時機はある」と、ゲーム開発でそういった事態が不可避であることを説明したうえで「暗礁に乗り上げたらまずは考える。要素をバラして考える」と答える。また、要素をバラす段階では過去にさかのぼる必要もあるという。企画は、その内容に不備がないと判断されたうえで動きだすのだから、そもそも暗礁の乗り上げるなんて起こりえないはず。だが、ソレは必ず起きてしまう。「どうして乗り上げたのかを考えるんです。暗礁を脱出するためにはがんばるのではなく、戻ったほうがいい」(宮本)。この戻るという判断では勇気に加えて、間違ったポイントの見極めも必要になる。そこで重要なのが、前の質問で触れた“ひとりで決める”行動。「ひとりで決定していないと、どこで間違ったのかがわからない」(同)というわけだ。
最後の質問は、ゲームを作り始めたときに現在のような状況を想像したか? というもので、宮本氏からは「ゲームの未来はぜんぜん想像していなかった」と意外とも言える答えが飛び出す。しかし、「インタラクティブな表現は絶対に残ると感じた」と宮本氏。ここでトークショーの序盤で語った、“もの作り”をするうえでゲームを選んだ理由が改めて語られた。同氏が“コンピューターがルールをジャッジする”ことに衝撃を受けたのは『スペースインベーダー』を遊んだとき。1ドット単位の当たり判定を見て、これまでの遊びの「いろいろなことが変わってくる」と感じたという。言い換えれば、従来までのアナログな遊びがすべてコンピューターに移植できる――「世界には膨大な資産がある」(宮本)ことに気づいたのだ。宮本氏はこれからのゲームについても「まだまだこれから、何ができるかわからない」と意見を述べる。インタラクティブ表現全体についても「まだまだ仕事がある」と話し、ほかの業界の人々「たとえばNASAの人たち(笑)」が意見を聞きに来てもいいほど、価値あるものであると結論づけた。
2時間にわたって、途切れることなく語られた“もの作り”論。宮本氏、ヨーロッパ企画の話はときに脱線することもあったが、それも何かを作ることに対する両者の真摯な思いの現れと言えるだろう。「何かを楽しいと感じるとき、そこには作る感覚も動いている。そういった部分で共感を引き出していくのが、これからの僕の“もの作り”かなと感じています」。宮本氏は最後にそう語ってステージをあとにした。
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