『グランツーリスモ5』プロデューサー山内一典氏独占インタビュー完全版
プレイステーション3 ゲーム2010年11月25日に無事発売され、順調な滑り出しを見せている『グランツーリスモ5』。開発を終えて、現在プロモーション活動に奔走する山内一典プロデューサーに、いまの心境やシリーズの今後の展望についてうかがってみた。
●世界同時発売に向けた苦労
―― まず、約6年間にわたる開発期間を終えた現在の心境を聞かせてください。
山内一典氏(以下、山内) とにかく開発し続けたものが世の中に出せたことがうれしいです。『グランツーリスモ5』(以下、『GT5』)のコンセプトとしては、なるべく”未来へ”ということと、得体の知れないものを作りたかったんです。得体の知れないものって、狙ってできるものではないですよね。それを作り上げるまでのコツコツとした作業が、とてもつらかったです。あと、『グランツーリスモ4』(以下、『GT4』)のあとに『GT5』が継続的に出せるという保証はどこにもなく、状況によっては『グランツーリスモ』シリーズが、『GT4』で終わってしまう可能性もありました。なんらかの理由で「あ、だめだ! もう次は作れない」ということもあるわけで、その中でよくやったなと思っています。
―― 得体の知れないものは、ある程度できたと思いますか?
山内 そうですね。細かい粗はありますが、その目標は達成されたとおもいます。
―― 発売後4日間で、日本市場の売上が約41万本という結果が出ています。
山内 初代『グランツーリスモ』が登場してから13年のあいだに、クルマ離れが叫ばれている日本国内の現状や、日本のゲーム市場が非常に特殊性を増している状況を考えると、「ある程度予想通りの数字だな」とは思いますね。ただ、不思議だったのは秋葉原にも発売当日に列ができていましたよね。発売当日に200万枚出荷したタイトルならば、よくある話じゃないですか。でも、初回出荷数が約50万枚だった『GT5』で行列ができたことは、すごくうれしかったですよ。
―― 『GT5』はシリーズとしては初の世界同時発売となりましたが、これまでのシリーズにはなかった苦労があったのでは?
山内 その通りです。『GT4』までは、まず日本で発売したあと、数ヵ月遅れて北米、欧州、そのほかの地域という順で発売してきました。しかし『GT5』に関しては、オンラインを通じて世界中のユーザーが同時に遊んでほしいという構想があったので、ゲーム本体の開発と同時進行で翻訳作業も進めないといけない。その点が悩ましかったですね。
―― 今回はスペインのマドリッドで発売日を迎えられたようですね。
山内 当たり前ですが発売日は1日しかないので、その日に自分の身をどこに置くのかという点が、とても悩ましかったですね。ヨーロッパ側とアメリカ側で綱引きもありましたし。アメリカ側はサンフランシスコで発売イベントをやるので、店に来た客にサインしてほしいという要望がありました。さまざまな要望があった中で『グランツーリスモ』シリーズ最大の市場であるヨーロッパであることと、マドリッド市が全面協力するということで、マドリッドに行くことに決めました。とにかく街全体が『グランツーリスモ』に染まり、マドリッド市街地コースで収録した要所ごとにスーパーカーが展示してあり、メインの会場となったマドリッド市役所の中庭には、巨大なパーティ会場が設けられていました。展示していたスーパーカーはどこから集めたのかと思うほど数多く集結していましたね。パッケージの素材になったメルセデス・ベンツ SLS AMGやGT by シトロエンがあることは予想していましたが、私が今年のニュルブルクリンク24時間耐久レースでドライブしたレクサスIS Fまで飾られていたことには驚きました。
―― スペインのユーザーと日本のユーザーとの違いは、なにか感じましたか?
山内 違いはまったくなかったですよ。ただ、『グランツーリスモ』ナンバリングタイトルの発売が6年ぶりということもあって、ネットメディアが成熟した中で発売日を迎えましたよね。6年前にはツイッターのようなものはありませんでしたし。マドリッドでのイベントやツイッターといった全世界のネットメディアを見た中で感じたのは、どこの地域でも『グランツーリスモ』シリーズって、好きな人はメチャクチャ好き、興味のない人は全然関心がないということですね。「みんなが買うから自分も買う」というタイトルではない。そういった点では、欧州、北米、日本、どの地域のファンも違いは見当たりません。
―― 山内さん自身も含めて、このシリーズが6年間で成長できたという実感はありましたか?
山内 6年前に『GT4』をリリースしたあと、「『GT5』はあるのだろうか?」という素朴な疑問がありました。映画などにも言えることですが、『GT4』で終わっても別におかしくはありませんよね。同じ物を何度も制作しても格好悪いので、『GT5』を制作する場合は、相当な覚悟を決めて取りかかる必要があると思っていました。13年前に発売した初代『グランツーリスモ』が登場したときと同じような変化を『GT5』で実現したいと考えていたので、その部分が達成されたことで成長できたという実感がありますね。これからこのシリーズが進化していくための土台を完成させたと思います。『GT5』はいろいろ悩んで考えて、スクラップ&ビルドをくり返して完成させました。カーレースゲームの将来の姿とは何かということを、考え抜いて作ったわけです。これから先、オンラインアップデートを通じて追加されていく要素がありますが、これまでの『グランツーリスモ』とは違い、別のゲームに生まれ変わらせることに成功したのではないかと思います。ですので次回作のイメージは、もうできています。
―― 次回作に向けて、すでに動き出していると考えていいのですね
山内 はい。スタッフに「とりあえず『GT5』出たからさ、次回作のミーティングしようよ」って言ったらウンザリしていました(笑)。
―― 開発スタッフは、リフレッシュ休暇に入っているのですか?
山内 オンラインアップデートでやりたいことがあるので、まだ休暇には入っていません。リファインしたいところもありますし、細かい部分でも改良を加えたいところは数多くありますからね。
●オープニングムービーは20分バージョンを入れるつもりだった!?
―― 『GT5』のオープニングムービーは、7分間にもおよぶものでしたが、これだけ長いものを入れた意図は何でしょう?
山内 もともとはもっと長く、20分くらいのものを作るつもりでした。ばかばかしいけれど、ゲーム史上もっとも長いオープニングムービーを作ろうという構想が、出発点にありました。結果として、7分という尺になったのです。僕らが伝えたかったことは、クルマと言えばサーキットで見かけるレーシングカーだったり、モーターショーで飾ってあるきらびやかなクルマといった、クルマの完成系を見てあれこれ感想を抱いたり、いろいろな意見を言ったりしますよね。でも今回は、クルマが持っている底辺の広さ、物質が持っている底辺の広さを伝えたかったんです。なぜクルマの材料となる鉄が生まれたかというと、恒星が超新星爆発を起こした瞬間に誕生した重い元素が地球に埋まっており、その元素を掘り出して、溶かして生成するところから始まるわけじゃないですか。その部分から製造している人々や、クルマの製造に携わっている人々への応援メッセージを伝えたかったのが前半パートなんです。あと、もうひとつのテーマが”道”というものがありました。『GT5』を制作していく過程の中で、道っておもしろいなと感じたんです。よく海外に行って仕事をするので飛行機に乗る機会が多いのですが、飛行機の窓からシベリア上空などを見ると、何もない原野が多いんです。しばらくすると一本の道が見えてきて、「こんな何もない場所に人が住んでいるんだ」とわかる瞬間があるんですよ。『GT5』を制作している時期って、「クルマの魅力が失われていくのではないか」とか、「この先、クルマはどうなっていくのだろうか」と言われ続けた時代でもありました。その時期に空から地上にある道を見たときに、人がいるかいないかは道の存在でわかることに気づいたのです。道というのは人が住んでいる地点に繋がっていて、そこを走るのはほかならぬクルマですよね。クルマの存在が今後絶対になくなることはないと、平原に伸びる道を見ながら安心したのです。オープニングだけではなくエンディングにも道を走る映像が出てきますが、本当は宇宙から見た道の映像とか入れてみたかったんですよ。ただ、その辺はちょっと息切れをしまして、予定よりも短いものになりました(笑)。いつかオープニングムービーのディレクターズカットバージョンを作ってみたいと思っています。
―― ムービーの中では首都高速のシーンが多く見受けられますが、首都高速に対するリスペクトみたいなものがあるのですか?
山内 リスペクトと言うか、首都高速って世界的に見ておもしろい存在なのですよ。都市高速道路であれほど規模が大きくて、走っていて楽しい道ってほかになかなかないですね。海外の高速道路は、だいたい街の周辺で高速道路区間が終わっていて、都市のど真ん中に高速道路があるのは日本以外にほとんどないのです。夜に、きらびやかなネオンの中をハイスピードで走る景色というのは、珍しい景色なんです。そういった景色を、世界に紹介したいと思って入れました。
―― オープニングだけでなく、エンディングでも首都高速のシーンがありましたね。
山内 エンディングの最後に『グランツーリスモ』シリーズの開発拠点がある豊洲の出口を収録しています。「ポリフォニーに帰ってきた」という感じで(笑)。
●走っていておもしろい面が多いコースを作りました
―― 今回からシリーズ初登場のコースとして、モンツァサーキット、ニュルブルクリンク GP/F、インディアナポリス、トップギアテストトラックが入りましたが、これらのサーキットを採用した意図は、どのあたりにあったのですか?
山内 モンツァはコースレイアウトが好きなので、以前から入れたかったんです。すごくシンプルで、超低速コーナーとハイスピードコーナーがうまくミックスされていて、走っていてじつに楽しい。トップギアテストトラックに関しては、私は実際に走ったことがあるのですが、とにかくつかみ所がないコースで、相当事前に走り込まないとまともに走れないですね。あそこは。そこで『グランツーリスモ』の中に収録して練習したいと思いましたね。
―― あのコースは、コーナリング中にどこからアクセルを踏み始めたらいいのかを判断するのが悩ましいコースですよね。
山内 そうです。でも、あのコースはそういうものですから、”チャレンジしてみたい人はどうぞ”というコースですね。
―― 最終コーナーのひとつ手前にある滑走路から細い道に入る左コーナーは、とくに難しいですよね。
山内 ものすごいハイスピードコーナーです。ずーっとクルマがコーナーの外側に流れっぱなしですからね。
●ウエットレースで見せた、エンジニアの執念
―― 話は変わりますが、今回からウエットコンディションのコースが大幅に増えて、『GT4』のウエットレースは敵車1台との対戦だったのが『GT5』で16台に増えましたよね。ウエットレースの要素は、開発するうえで苦労されたのですか?
山内 そうですね。ウエットレースの出走台数については、どんなゲームモードでも16台出したいというエンジニアの強烈な熱意があって実現しました。
―― スペシャルイベント”AMGドライビングアカデミー”で雨のニュルブルクリンクを1周走行するイベントがありますが、ゴールドを取るのに苦労しました。
山内 『グランツーリスモ』はけっこう間口が広く、基本はAスペックもBスペックも初心者向けに作られています。初めて"グランツーリスモ"に触れる人が、きちんと遊べるように設計されているんですよ。ゴールドを取るのはたいへんですけれど。ただ、スペシャルイベントに関しては、13年間『グランツーリスモ』をやり続けた、なかばプロみたいな人向けに作られたイベントです。『GT5』に入っている雨のニュルブルクリンクは実物と同じものですから、路面によって滑りやすい場所が違うのでウエットコンディションのラインを集中して走らないと、簡単にコースアウトしてしまいます。ニュルブルクリンク24時間レースに本気で出場したい人が学べるような、超プロフェッショナル向けのイベントなんですね。
―― コースによっては夜になるものもありますよね。現実と同様に、コースレイアウトを熟知していても、思い通りに走れませんでした。
山内 現実と同様、文字通り”暗闇”をゲームの中で再現しましたからね。たとえば映画だったら、あえて暗くしないですよ。なんとなく画面に青いフィルターをかけて、相当明るく夜の場面を映し出しますよね。それが、映像におけるリアルな表現だったりするのですが、『GT5』では、本当に真っ暗になります。
●シエナのカートコースがなくなった事情
―― 『GT5』で、初めてカートが登場しましたよね。カートが登場することが発表された際、シエナのカンポ広場を走り回っていたシーンがありましたが、あのコースは製品版に収録されていないのですか?
山内 あのコースはシエナ市と協議した結果、なくなりました。シエナ市の中には、コントラーダという6つ〜7つの街区があって、街区ごとに旗があります。街中に旗がはためいていて、シエナ市の彩りの一部になっているのです。旗というのは基本的にパブリックドメインですから、旗に権利が発生するということは基本的にはないので、現地の風景をそのまま収録しました。ところが、『GT5』の中でカートのレース場として旗が登場することが知られた際に、地元の方々が「パリオという伝統芸能が行われている舞台をクルマが走り回っていては困る」と……。じつはこの街では、年に2回、カンポ広場に特設コースを造って”パリオ”という競馬競技が行われいるんですが、パリオには長い歴史があって、それぞれの街区に住む地元の人々が大事にしているという事実を、この問題が起きた際に初めて認識したのです。私たちとしても無理して収録することはないし、喜んでもらえるといいなと思ってやっていた部分もあったのですが、「すぐ引っ込めます」ということで一件落着しました。
―― バーチャルの世界でも「困る」と言ってきたのですか?
山内 そこは伝統芸能の世界だから、僕たちの価値判断が及ぶ話ではないんですよ。これまでの守るべき歴史、伝統があったうえでの話ですから。日本でも「相撲の土俵のうえに女性が足を踏み入れてはならない」みたいな”しきたり”が数多くありますよね。そういうものといっしょで、伝統芸能を守っている人々の考えが優先されるべきだと思いました。ただ、カンポ広場自体は、フォトモードの舞台として登場しますよ。
●ランダム生成されたコースにおもしろさを見出した瞬間
―― ケープリンク、スペシャルステージルート7など、『GT5』から新登場したオリジナルコースは、白紙の状態から制作していると思いますが、『GT5』ではどのような点を重視して制作したのですか?
山内 新コースとは言っても、マドリッドのようにコースの形状が現実の世界にあるものと、ケープリンクのように白紙の状態から作り上げたものがあります。ケープリンクの場合は、とにかくさまざまなコーナーの種類を盛り込みたいというゲーム的な発想というか、なるべくいろいろな遊びかたができるように設計しました。
―― 実際に首都高速道路の中で、「ここのコーナー形状はおもしろいから、ゲームの中に入れてみよう」という考えはあったのですか?
山内 設計している最中というのは、つねにそういうものはありましたよ。ただ、『GT5』から、コースメーカーというモードを作りましたよね。あれはランダムでコースが作られていくものなのですが、あのモードを作っていてわかったのは、人間の想像力よりもランダムで作られたコースのほうがおもしろいことに気づいたのです。今後、このモードをどのような形で『グランツーリスモ』シリーズに活かしていこうかというと考えています。
―― 新登場したコースの中で、いちばん気に入っているコースはどこですか?
山内 マドリッドがいちばん好きですね。あと、コースメーカーの作り出すコースも気に入っていますよ。地形の起伏に関係なく作り出されるコーナーの形状は、ニュルブルクリンクよりもすごい場所があって、「こんなハイスピードで、ジャンプスポットがある最中に曲がらせるのか!? 」など、自分の想像を超える道が目の前に現れた瞬間は、とてもエキサイティングでしたね。これまで自分が持っていた道のイマジネーションが、いかに浅はかだったというのがわかりましたよ。
●経験値システムを導入した背景
―― 『GT5』からGTモードに経験値の概念が導入しましたよね。これは、どういった意図で入れたのですか?
山内 これまでだとSライセンスまで一気に取得して、あとは作業的にレースをこなしていくという遊びかたに、どうしてもなってしまいがちでした。GTモードって、もともとRPGみたいなものですよね。『GT5』では、RPG的な要素を徹底させたいと考えて導入しました。
自分がイベントをこなすことによって蓄積されていく要素がほしいと思い、経験値とレベルの概念を入れました。今後アップデートを通じて追加イベントを配信する予定ですが、そのイベントで収めた成績に応じて経験値が入っていきます。
●Bスペックドライバーはテンションを上げすぎないことが重要!
―― 『GT4』のときは、Bスペックドライバーがコースアウトしたコーナーは覚えないという要素がありました。コースアウトしないペースで走らせることでコーナーを覚えさせるという仕様だったのでレベルの概念はなかったのですが、レベルと経験値によってコーナリングスキルが伸びていく『GT5』では、コースレイアウトを覚えてさせなくてもいいのですか?
山内 そんなことはないですよ。どんな成績であれ実戦に出場させることで経験値が増していくのですから。レベルが低ければコースアウトしたり、敵車が背後に張りついた状況になれば、大きなミスをしますからね。
―― 序盤はホットになりっぱなしでした。
山内 最初はひたすらクール指示を連発して、テンションが上がらないようにしたほうがいいですね。速く走らせることよりもコースアウトしないように走らせることが、いい成績につながりますから。敵車を運転するドライバーも下手なキャラクターがいるので、敵車の背後で待っていると、自分のBスペックドライバーよりも先に体力や精神力が切れて、コースアウトします。ファイナルラップで3位だったのが、前方を走っていた1位と2位が競り合う中で両方ともコースアウトし、棚ぼたで優勝するという場面が序盤ではありますよ。
―― Bスペックドライバーを性能が飛び抜けたクルマに乗せて勝たせるよりも、敵車と競り合えるようなクルマに乗せてオーバーテイク技術を付けさせたほうが、成長が早いのですか?
山内 成長面はどちらも変わらないですよ。Bスペックドライバーのレベルに合ったクルマに乗せないと、きちんと運転できませんから。レベルの低いBスペックドライバーを性能が飛び抜けたクルマに乗せてしまうと、簡単にコースアウトしますからね。
―― 『GT4』までにあったレースの進行を早くする”3倍速モード”がなくなってしまった理由は、何かあるのでしょうか?
山内 今回の『GT5』は、ユーザーに長く遊んでほしいと思っています。たとえば24時間レースを8時間で終わらせるのは、お手軽と言えばお手軽なのですが、何か切ないものがあるんですね。Bスペックってクルマを選んだり、ドライバーを鍛えたりする手間そのものがゲームですから。手間そのものを省くようなことを用意してはいけないと考えました。Aスペックレースで3周走ることって、すごく手間がかかるじゃないですか。その手間やプロセスに応じて経験値が手に入るのですが、Bスペックのしかも倍速で手に入るというのもどうかという気がするんです。もちろん、経験値の要素がなければBスペックで倍速モードをやってもいいと思っていました。技術的には10倍速ぐらいまで可能ですが、それをやってしまうと、Aスペックでプレイするのがばかばかしく思えませんか? 『GT4』では実験的な意味合いもあって倍速モードを入れていましたが、『GT5』では倍速モードをやってはいけないと考え、入れませんでした。
―― なるほど、よくわかりました。ちなみに、山内さん自身をBスペックのドライバーにたとえたら、どの辺りのレベルになりますか?
山内 どんな感じになりますかね〜。性格面は、けっこうクール寄りですよ。レベルは……25ぐらいかな(笑)。
●お気に入りの収録車種は1970年代のスーパーカー!
―― 『GT5』では、プレミアムカーを中心に200台以上を収録していますよね。この中でいちばん気に入っているクルマは、どんなクルマですか?
山内 難しい質問ですね……。最近はいろいろとクルマを見る幅が広がってきたので……。やっぱりランボルギーニ ミウラは、かっこいいかな(笑)。もともとフォード GTにインスパイアされて作られたのがミウラなんですよ。フォルムもよく似ていて、ミッドシップスポーツカーとしては、すごくよくできていると思います。
―― 限られた制作時間の中で、収録できずに悔しい思いをしたクルマは、どんなものがありますか?
山内 それはもう、いっぱいありますよ。たとえばフォルクスワーゲン シロッコはギリギリで入らなかったし……。レースカーだとジャガー XJR9とか、あとは小冊子の写真にもあったフェラーリ 365GTB/4(通称フェラーリ デイトナ)も収録できずに悔しい思いをしています。
―― 今後スタンダードカーにあるクルマを、プレミアムカーでも収録する計画はあるのですか?
山内 そうですね。スタンダードカーの中にも歴史的に偉大な名車がありますから、そういったクルマをプレミアムカーでも制作したいと考えています。
―― フォトトラベルでスタンダードカーが撮影できないというのは、ちょっとショックでしたね。
山内 そうですね。以前はレースフォトモードで写真をどんどん撮ってほしいなと思っていたんです。一部のスタンダードカーでフォトトラベルにすると少々きついなというものはあったのですが、スタンダードカーもクオリティの高いものは数多くありますので、すべてのスタンダードカーでフォトトラベルが使えないのはどうだったかな……といまになって思っていますね。
―― 『GT5』のフォトモードはヨーロッパの地域が大半を占めていますよね。北米地域のロケーションが入らなかった理由は何かあるのですか?
山内 たまたまですよ。とくに大きな理由があったわけではありません。フォトトラベルのロケーションは現地に行き、細かい部分まで全部収録しなければならないんですが、今回は北米地域まで取材しに行く時間が取れませんでした。
●月に1回はアップデートデータを配信する予定!
―― 今後のアップデートの予定について教えてください。
山内 2010年12月20日前後に予定されています。来年以降のアップデートスケジュールは未定ですが、月1回のペースでやろうと考えています。
―― これまでに3回アップデートが実施されましたが、けっこう頻繁に行われるんですね。
山内 なぜ月1回ペースで行うかというと、オンラインタイトルのゲームって生き物のようなものなんです。『GT5』の場合、初日に全世界で500万枚が出荷されて、今回はオンラインの比率が『グランツーリスモ 5 プロローグ』よりもはるかに高い。プレイステーション3のネット接続率を考えると、一夜にして数百万人の『GT5』公共圏が生まれたわけです。それだけ多くのユーザーが何を求めているのか、どんな遊びかたをしたいのか、どんな不満があるのかという声を、これから僕たちは聞かなければいけない。これまでの『グランツーリスモ』シリーズと違うのは、”リリースして終わり”ということではなく、『GT5』公共圏にいる人々の声に対してスピーディーに対応しなければいけないという点ですね。
―― 2010年12月20日前後に行われる予定のアップデートは、どの程度の規模になりますか?
山内 この日に予定されているアップデートは、わりと大規模なものになります。アメリカで”GTアカデミー”の予選(タイムトライアルランキング)が始まったり、ヨーロッパでBスペックを使ったイベント”SLSチャレンジ”が開催されるのに対応したゲームモードの追加を、2010年12月20日前後に行います。“SLSチャレンジ”の優勝賞品は、本物のメルセデスベンツ SLS AMGになります。
―― 本物のベンツがもらえるのですか!? すごいですね!!
山内 “SLSチャレンジ”は、Bスペックドライバーで競いますので、Aスペックがうまい人が必ず優勝するとは限りませんからね(笑)。ドライバースキルを高めないといけないし、勝つための戦略も重要な要素になります。さらに、コースとの相性も良くないといけないので、勝者の読めないイベントになりそうですね。
―― 今後、オンラインアップデートを通じて車種、コース、フォトトラベルのロケーション、コースメーカーのテーマなどといった追加コンテンツを供給する予定はありますか?
山内 車種、コースの追加要素は、不具合の修正や操作性の向上のためのアップデートのように頻繁にはできないんですよ。車種、コース、コースメーカーのテーマに関してはすでに作り始めていますが、時間をかけてじっくり制作したいと考えています。もしかしたらやるかもしれないし、『GT5』ではなく、次回作に収録するかもしれません。
―― 前作まで登場し、『GT5』には入らなかったニューヨーク市街地、シアトル市街地、グランドキャニオン、エルキャピタンなどといったコースは、今後復活する可能性はありますか?
山内 可能性はあるでしょうね。
●世の中の流れを注視しながら開発したい
―― 本格的にネット対応を果たした『GT5』がマスターアップしたと同時に、次回作へ向けての開発が始まりましたが、次回作では、どのようなことを目標にして開発されますか?
山内 まだわからないですよ(笑)。次回作に関しては、世の中のニーズに対して柔軟に対応しつつ、しなやかに進めたいと思っています。10年前だったら、世の中のことを予測することって比較的簡単でしたよね。でもいまは、3年先のことなんて予想できますか? それはゲームの世界も同様で、未来のことを予測するのが難しい時代なんです。そういった現状を踏まえて、ここは耳を澄ませながら、世の中の流れを感じながら開発を進めていったほうがベストだと考えています。
―― 山内さん自身は、次回作をプレイステーション3で制作したいという意欲はありますか?
山内 おそらくプレイステーション3で制作することになると思いますけどね。でも、まだまだわからないですよ。どんなハードが出てくるかわからないし。
―― かつて6年前に神宮外苑で『GT4』の完成パーティーを行った際に、"グランツーリスモ キッズ"を作りたいという発言をされていましたが、『GT5』をベースに制作したいと考えていますか?
山内 本当はやりたいですね。この質問は欧州のメディアからも聞かれました。でも実際問題、そこまで手が回っていないのです。ある意味プレイステーションポータブル用で発売した『グランツーリスモ』は実際に子どもでも楽しめるように作ったつもりでした。『GT5』はオンラインで相当なレベルでのコミュニケーションスキルが求められるので、子どもにはきついかなと……。いまの子どもたちには、もう少し大人になってから遊んでほしいと思っています。
―― 最後に、週刊ファミ通とファミ通.comの読者にメッセージをお願いいたします。
山内 長いあいだ、お待たせしてしまって、本当にごめんなさい。『GT5』は、新しい時代におけるレースゲームの礎になっています。ものすごく広大で、いろいろな要素が込められているので、それらを全部発見してほしいと思います。中には荒削りなものもありますが、『GT5』は、13年前に発売された初代『グランツーリスモ』が持っていたような”やればやるほど、どこかに発見がある”というゲームになっています。ゆっくり遊んでいただきつつ、『グランツーリスモ』の未来は、こういう風に突き進んでいくのだなというものを感じてほしいと思います。
◆山内一典プロフィール
1967年8月5日千葉県出身。『モータートゥーングランプリ』(1994年)などのプロデューサーを経て、1997年にプロデューサーを務めたプレイステーション版『グランツーリスモ』が世界的に大ヒット。以来13年間にわたり、合計11作の『グランツーリスモ』シリーズに携わる。
メーカー | ソニー・コンピュータエンタテインメント |
---|---|
対応機種 | プレイステーション3 |
発売日 | 2010年11月25日 |
価格 | 7,980円[税込] |
ジャンル | レース |
備考 | PlayStation Network対応、3D立体視対応、フェイストラッキング対応、初回限定生産版は、特製ブックレット、プレゼントカーのダウンロードコード同梱、 『PlayStation3 GRAN TURISMO 5 RACING PACK』は35980円[税込]、開発:ポリフォニー・デジタル、プロデューサー:山内一典 |
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