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モントリオールで見た、ゲーム開発の最新事情(その4)

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ユービーアイソフト・モントリオールやアイドス・モントリオールなど大手ゲームスタジオが集まる、カナダのケベック州モントリオールから、ゲーム開発の最新事情を4回にわたってお届けする。ラストは現地スタジオツアーの後編。

 ユービーアイソフト・モントリオールやアイドス・モントリオールなど大手ゲームスタジオが集まる、カナダのケベック州モントリオールから、ゲーム開発の最新事情を4回にわたってお届けする。ラストは現地スタジオツアーの後編。

●できたばかり! THQモントリオール

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 まさに2010年10月にオープンしたばかりというTHQのモントリオールスタジオ。現在雇われているスタッフは49人なのだが、今後5年間で400人規模までチームを増強する予定だ。スタッフの95パーセントを地元で雇用する予定なので、今後300人以上の雇用が生まれることになる。

 スタジオはビルの5階から7階まで、7000平方メートル以上もの広大なスペースが確保されており受け入れは万全。まだオフィスはがらんとしており、机やパーティーション用の壁などが据え付けてあるだけ。フロアーの天井は高く(かつて新聞社が入っていて、大型印刷機を置いていた)、照明は暗い……のだが、これは意図的なもの。明るい照明を好まないアーティストが多いからというのがその理由。テキサスでスタジオを作った際も法規上最低限の照明で、どっちみちアーティストが照明を消しちゃうらしい。

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▲パントンチェアーが置いてあったり、卓球台を会議室の机に使っていたりと内装は凝っている。人はいなくとも冷蔵庫とドリンク類は完備するのが北米のオキテ。

 新たなスタジオを設立することになった理由は、大作を開発するにあたり、複数のチームを抱えることができる大規模なスタジオが必要になったから。ひとつのチームを働かせて完成させたらちょっと休ませるのをくり返すのではなく、スタジオ全体で複数のラインを走らせて、スタッフをより効率的に使おうというわけだ。もちろん、規模が大きくなればなるほど、税金の優遇や地価の安さといったモントリオールのメリットが活きてくるのは言うまでもない。スタジオ内にはスタッフの職業訓練に使える部屋も設けられているのだが、これはトレーニングを行うと政府の補助金が出るため。

 このスタジオで開発するゲームが出てくるのはしばらく先になる。現在は『Homefront』や『Red Faction: Armagedon』といったTHQで現在開発中のタイトルのサポートやローカライズ業務がメインとなっている。

●次代のクリエイターを生み出す教育機関

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 ゲームや映画のCGを担当するデジタル・アーティストの養成機関、CenterNADにもお邪魔した。6人の講師の下で60人の学生が学んでおり、その半分がゲーム向けのコースに所属している(もう半分は映画・テレビ向け)。従来は専門学校と、すでに業界で働いている人向けのコースをやっていたのだが、昨年よりケベック大学シクティミ校のカリキュラムの一部にもなっている。3年間学ぶことで3Dアニメーションとデジタルデザインの学士を得ることができる。ケベックの学校制度は日本とちょっと異なり、大学にはカレッジ(短大)に2年間行くか、作品から相応の能力が認められれば入学できる。ちなみに、大学の授業の一環であるため授業はすべてフランス語。専門家向け講座のみ英語も使われている。

 カリキュラムはキャラクター・モデリング、ドローイング、写真、2Dアニメーション、デザインなど理論、実技のコースがあり、モデリング、アニメーション、テクスチャリング、ライティング、カメラ、ムーブメントなど2Dデザインのすべての基本を学ぶことができる。

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▲たぶん日本好きな生徒がいるんだろうなぁ……。

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▲『アサシン クリード』に参加した卒業生によるパネル。

 1992年に創設された当初はSoftimage(同名CG用ツールのメーカー)の社内にあり、おもに映像のためのCGデザインを教える学校だった。1997年からビデオゲーム向けの講座がスタートするのだが、この年はまさにUbiモントリオールが設立した年にほかならない。モントリオールにとってUbisoftモントリオールの設立とその拡大がいかに大きいものだったのかは、モントリオール市出身で現在は人材コンサルタント会社3podを経営するフレデリック・ブラッサード氏の話からもうかがえた。

●ヘッドハンター活動中

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 「めちゃくちゃゲームが好きだったから、父親を安心させるためにUbisoftに就職したんだよね」と語るブラッサード氏は、社内のコンピューターバイヤーとして仕事をはじめ、のちにE3でのテクニカルサポートや、ファーストパーティーとの渉外役も務めるようになる。

 「最初にE3で仕事をやれって言われたとき、なにも知らないから困ったよ! どうにかこうにか21個のPCを詰め込んで、とにかく持っていったんだよな」と、当時のおおらかな業界の様子がうかがえるというエピソードも披露してくれた。2004年から転職アシスタントとして仕事をはじめ、2007年にはひとりで自社を創立し、2010年からは社長なのだが、じつに気さく。

 ブラッサード氏によれば、1997年にモントリオールスタジオができて注目されはじめ、2002年に『スプリンターセル』が成功を収めたことで画期的な変化が起こり、『アサシン クリード』シリーズの成功で決定的なものになったという。いまやケベック州にはゲーム開発者が7000人おり、そのうちUbisoftモントリオールは2000人以上のスタッフがいる。

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 現在3podがメーカーに手配した人材の70パーセントから80パーセントがカナダ外からの転職で、そのためにビザ申請や各地の住宅環境についても熟知しているという。最近韓国から上級プログラマーを転職させた際には、住居まで探して家族の生活の心配をさせないようにしたほどだとか。年間で30人ほどのリクルートを行っているそうで、いま一番求められているポジションは3年くらいの経験がある中間レベルのプログラマーとのこと。

●モントリオールが強いその理由

 今回はオープンしてこれから拡大していこうとするスタジオと、教育機関や人材コンサルタント業について触れた。これは、スタジオが人を必要とし、教育機関が輩出して、人材コンサルタントが流動性を生み出すというサイクルのそれぞれのパートだ。ではそもそも、なぜモントリオールにスタジオが集まってくるのか? “人材がいるから”、“地価が安いから”といったこともあるのだが、最大の理由は、やはりケベック州政府からの援助が手厚いことだろう。それ以外の理由は、その結果として付いてきた側面が強い。

 ここで、ケベック州がゲーム開発スタジオ誘致のために出している資料『Quebec is Game』から引用してみることとしよう。当地ではゲーム開発スタジオに対して税金控除が行われており、ゲーム開発者の給与の30パーセントから37.5パーセントが控除を受けられる。これには社員の総人数による制限はなく、期間限定でもない。さらに、そのスタジオがカナダに主体を置いている必要すらないのだ。それどころか、控除分を先に資金として使用することも可能で、新規スタジオの設立にあたっても資金援助が受けられるという。

 最新のゲーム開発技術は日進月歩で進んでいくもの。THQモントリオールについての部分で教育援助について軽く触れたが、スタッフの教育費用の25パーセントが申告によって返金される。カレッジと一緒に社員教育を行う場合はその費用の一部が大学の予算から補助金として出るが、自社の出費は50パーセント戻ってくる。それでもスタッフが足りなければ採用だ。人事については3podのような専門企業を使って採用を行う場合や、新たに採用した人事部長の給与2年間の50パーセントが控除として返金される。また、海外からやってきた開発者は、所得税の控除を受けられる。最初の2年間は100パーセント控除で、以下3年目は75パーセント、4年目は50パーセント、5年目は25パーセントの所得税控除となっている。

 北米でもっとも法人税が安い地域となっているため、先述のブラッサード氏によれば「会社の運営費用は米国にくらべて20パーセント安い」とのこと。多くの最新海外ゲームを生み出すモントリオールは、官民共同で成立していたのだ。

●おまけ:現地のゲームショップ視察

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 お堅い産業リポートのようになってしまったので、ラストは現地のゲームショップ視察といこう。記者がまず向かったのはVideotron。ケベック州の巨大メディアカンパニーで、ケーブルテレビのネットワークを中心に、電話やインターネット接続、携帯電話まで提供しており、そのなかで小売店舗も経営している。

 記者が向かったのは若者が集まるストリートにある、DVDやブルーレイ、そしてゲームの小売とレンタルを行っている結構大きな店舗。そう……ゲームを店舗でレンタルしているのだ! 取り扱いは新品と中古とレンタルで、ハードは現行のものから、NES(ファミコン)とSNES(スーパーファミコン)とGENESIS(メガドライブ)が動くマシンなんていう代物も扱っていた。レジ近くの目立つ位置にあったのは『コール オブ デューティ ブラックオプス』とKinectだが、店の入口には地元モントリオールで開発された『アサシン クリード ブラザーフッド』のPOPも。目立つところに『ブラックオプス』とKinectという組み合わせは、取材の合間に立ち寄った量販店でも見られた。

 Videotronでは『Fallout New Vegas』の攻略本と、ユービーアイソフトからゲームも出た『Scott Pilgrim vs. the World』(日本上映未定)のブルーレイを購入。ホテルに帰って中身を見たらディスクを入れ間違えてDVDが入っていたけどね……。まぁ海外ゲーム担当でもある記者は北米版のXbox 360を2台も持っているので問題なし(ブルーレイだと日本と北米のリージョンがおなじなので、日本の再生機でそのまま見られるのだ)。映画はいたるところにゲームネタのオマージュが仕込まれているので、もし日本上映が決まったらゲームファンはチェックしてみてほしい。

 もう一軒はモントリオール周辺に8店舗を展開するGAMEBUZZ。こちらは新品と中古を取り扱うゲームショップなのだが、フィギュアやぬいぐるみ、Tシャツといった周辺グッズが豊富。マリオやゼルダにオマージュを捧げたものはもちろんカプコンの『バイオニックコマンドー』やベセスダ・ソフトワークスの『Rogue Warrior』(日本未発売)といったタイトルのTシャツまで扱っているのだからトンでもない。中古も現行機種のものにはじまり、現地でいまだ強いプレイステーション2や初代Xboxのタイトルはもちろん、SNESのレア物がガラスケースのなかに陳列されているなど、熱心なファンも納得するだろうラインアップだった。店員の知識も豊富でフランク。Xbox版『スタスキー&ハッチ』(日本未発売?)を買おうとする記者に「英語はできるか? (ちょっとだけと返事をすると)オーケー、ユーのコンソールでは多分動かないと思うぞ」とわざわざ心配してくれた。ここは大量に新品を取り扱っている大規模な量販店の反対側にあるのだが、量販店にはない独自性を出してお客を定着させようとする努力がうかがえた。

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