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モントリオールで見た、ゲーム開発の最新事情(その3)

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モントリオールのゲーム開発事情を探るリポートの3回目。今回は現地スタジオツアーの前編をお送りする。

 ユービーアイソフト・モントリオールやアイドス・モントリオールなど大手ゲームスタジオが集まる、カナダのケベック州モントリオールから、ゲーム開発の最新事情を4回にわたってお届けする。今回は現地スタジオツアーの前編。

●精鋭チームで時間をかけて開発するアイドス

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 まず訪問したのは、スクウェア・エニックス傘下のアイドス・モントリオールスタジオ。スタジオが目標とするは、最新の技術を使った批評とセールスを両立したAAA(トップクラス)のタイトルを開発すること。個人個人の顔が見える開発チームを形成するために1タイトルあたりのチームの規模を120名程度に限定し、その代わりに2〜3年と時間をかけて開発するというスタイルを取っている。

 モントリオール市街のビルの複数階を使った構成となっており、現在は『Deus Ex(デウスエクス)』やスニーキングアクション『Thief』シリーズの新作『Thief 4』(日本発売未定)、そして未発表タイトルの3ラインを開発している。キャラクターとストーリー性、デザインが両立したゲームが特徴だ。

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 全体のスタッフ構成は、スタジオを案内してくれたジェネラル・マネージャーのステファン・ダステュ氏のもとにプロデューサーなど10人のマネージャーを置き、身軽だがしっかりした組織を持っている。従業員の48%がシニア(上級)レベルの開発経験者、36%が中レベル、16%がジュニアレベルで入社、すぐに仕事をこなせる人たちの割合が多い。社員が知り合いを推薦して採用された場合は1000ドルの賞金がもらえるプログラムがあるという。

 QA(品証)を担当するチームはロンドンのアイドスグループ本体に属しており、テスターが開発チームに入ってマップ毎にテストを行っている。このオフィスにもテスト用のブースが用意されており、ここはマジックミラーで囲まれていた。見られていることを意識せずにプレイしてもらい、行き先を見つけられないといったマップデザイン上のミスなどがないか、開発チームが後ろでチェックするのだ。

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 今後はオンライン要素などは今後強化していきたいとしつつも、あくまでリプレイ性の高いタイトルの開発を主眼に置いているため、マルチプレイを無理に作るよりも、現在グループが抱えるタイトルに合った協力プレイに力をいれたいということのようだ。ただし現在発表されているタイトルに導入されるかは不明。

●現地発祥のスタジオBehaviorを率いるのはリアリスト

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 次に訪問したのはBehavior。といってもスタジオ名が変わったばかりで、日本でもベセスダ・ソフトワークスから発売されたアクションシューティング『WET』や、エレクトロニック・アーツのアクションゲーム『ダンテズ・インフェルノ』のPSP(プレイステーション・ポータブル)版などを手掛けたA2Mと言ったほうがわかりやすい人は多いかもしれない。

 スタジオのビジョンは“ベスト・インディ・スタジオ”。モントリオールのゲーム開発シーンはユービーアイソフトのモントリオールスタジオ設立で大きく変わったとされているが、Behaviorが設立したのはそれより前の1992年で、現地発祥のスタジオとしては最古にして最大級となっている。スタッフは350人で、チリのサンチャゴにも45人ほどのスタッフがいる。

 ビジネスのコアはファミリー向けのゲームで、ディズニーやワーナー、マーベルなどの版権モノや移植タイトルなどをやりつつ、『WET』やクマの人形が暴れまくるアクションタイトル『Naughty Bear』(日本未発売)といったオリジナルのゲーマー向けタイトルなども挑戦していくといった感じ。開発スタジオも“ファミリー”、“ゲーマー”、“オンライン”(今後強化したいとのこと)、“ポータブル”、“ダウンローダブル”と、ラインアップごとに5つに分割している。

 スタジオを案内してくれたCTO(チーフ・テクニカル・オフィサー=技術面のトップ)のマーティン・ウォーカー氏の印象は、かなりのリアリスト。決して世界最高のスタッフや技術を備えているというわけではないが、自分たちの強みをよく把握し、スタッフを振り分けてコンスタントにタイトルを開発しているという印象を受けた。

 ちなみに記者は『WET』と『Naughty Bear』などの挑戦的なタイトルが好き。どちらも細かいところを突っ込んでいくとキリがないが、ファミリー向けのラインのほうで手堅く稼いでいるからこそできるのだろう“スタッフが好きにやっている感”がある。あえて「どちらも批評的/セールス的に大成功を収めたとはいえないが今後は……」とイジワルな質問をぶつけてみると「どちらも続編を開発中だよ!」とのこと。スタジオ内には『WET2』のアートワークやゲームの仕様などが貼りだされていた。

●Blizzard恐るるに足らずと豪語するFuncom

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 スタジオツアーの初日最後に訪れたのは、オンラインゲームをメインに手掛けるFuncomのモントリオールスタジオ(本社はノルウェー)。ミゲル・キャロンCEOは「ゲーム業界のクエンティン・タランティーノか?」とばかりに、とにかく喋りまくる人だった。現在は北米を中心に運営中の『Age of Conan: Rise of the Godslayer』や、ファミ通.comでも紹介した『Secret World』といったオンラインRPGを手掛けている。スタジオの規模は今年末で170人になる予定。自社エンジンで開発費を抑えつつ、テクニカル・チームがツールを作り、タイトル開発の中心となるチームはそれを使ってゲームデザインを練りこんでいくというスタイルを取っている。たとえプログラミングの専門知識がなくともシンプルな操作でコンテンツを作り込んでいくことができ、ゲームデザインに注力することができるのだ。

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 『Age of Conan』は期待されながらもローンチに失敗したが、見事にリカバリーして2008年から現在までに120万本を出荷。「もっとも改善されたゲームという評価をもらったが……これは自慢できることではないな(笑)」としながらも、Blizzardの世界最大級のオンラインRPG『World of Warcraft』より質的には高いと自信を持っている。次作となる『Secret World』では質と市場での成功が両立可能と考えているようだ。ちなみに『ファイナルファンタジーXIV』への評価は「シリーズ全般が好きだったが今回はちょっとがっかり」との辛辣な評。『Age of Conan』での当初の失敗も振り返りつつ、マネージメント面で発売日を発表することはせず、可能な限りゲームを作り込んでチューニングしたいと語っていた。警戒しているのはエレクトロニック・アーツの『Star Wars: The Old Republic』で、「いいゲームだとは思わないが」と前置きしつつも、圧倒的な存在感を誇る『スターウォーズ』ブランドとリリース時期が被ることだけは避けたいと語っていた。

 『Secret World』の特徴は“ノー・レベル、ノー・クラス(職業)”。現代とファンタジー要素を組み合わせたタイトルで、近いものを挙げるとすれば舞台のテイストは『Hellgate』を想像してもらいたい。プレイヤーは特殊能力を持った人間といった感じで、最初はパワーを上げてモンスターを倒すこともできるが、成長過程で魔法攻撃や回復に特化したくなってもキャラを作り直す必要はなく、すでに取得したパワーを削って欲しい能力に変換すればいいのだとか。

 ニューイングランド、ニューヨーク、ロンドン、ソウル、東京などの都市が登場し、東京はチュートリアルなどを含めた最序盤になるらしい。世界にはみっつの組織があり、プレイヤーはテストによってどのグループに所属するかが決まる。テンプル騎士団はロンドン、イルミナティはニューヨーク、ドラゴンはソウルといったように、それぞれに中心となる都市が存在する。組織によってクエストやモラルが異なるのだが、クエストをくれるキャラクターが嘘をついていることもあり、組織と自分のやりかたに従って、書いてあることの逆をやらなきゃいけない場合もあるという。

 パーティの能力は連動しており、仲間がモンスターに火の能力を使ったあとでマシンガンを撃ちこむと弾が爆発するといった仕掛けもある。特殊能力は現在時点ですでに200種類が開発済み。ちなみに東京ステージのものと思われるスクリーンショットには実在する新聞や雑誌の名前が出ていたが、これは「上海スタジオはほとんどアーティストで構成されているんだけど、彼らが撮ったんだろうな!」と笑っていた。

 オンラインゲームのビジネスへの見解についてもいくつか尋ねたところ、近年のコンテンツ消費速度の上昇についてはそれほど問題視していない様子。例として2001年にリリースした『Anarchy Online』を挙げた。10年目に突入しようとしているタイトルだがコンテンツ開発の効率化に成功しており、6人という少ないチームに対していまだ膨大な収益があるという(もっともこれは先行者利益の部分も大きいだろう)。『Secret World』についてはプレイフィールドが広大で、ニューイングランドだけを取っても端から端まで25分かかるというのも武器として考えているようだった。家庭用ゲーム機でのオンラインゲームについては市場が爆発的に広がるポテンシャルはあり、「ファーストパーティが止めているだけ。恐らく次の波の最初のタイトルはXbox 360にせよプレイステーション3にせよファーストパーティ製のタイトルになるだろう」との見解だった。

●モントリオールにスタジオが集まる理由とは

 Funcomのキャロン氏はモントリオールにスタジオを構えた理由として財政面での優遇を挙げていた。カリフォルニアなどと比較した場合に地価は安いし、州政府からの税金控除が受けられるシステムがあるのだ。現地にはゲーム開発に向いた教育機関なども多数存在しており、人材の供給にも事欠かない。今回は性質の異なる3つのスタジオの模様をお届けしたが、次回はゲーム産業の異なるパートについても紹介するのでお楽しみに。

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