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宮本茂氏と養老孟司が対談――ゲームの根源的なおもしろさとクリエイティブを語る

ゲーム
2010年9月5日、“文化庁メディア芸術祭 京都展”が開催中の京都国際マンガミュージアムにて、同施設の館長である養老孟司氏と任天堂の宮本茂氏によるシンポジウムが行われた。

2010-09-05

●「解けない問題は解けないから、解ける問題に置き換える」(宮本)

 アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガなどのすぐれたメディア芸術作品の顕彰と観賞の機会を提供する目的で行われている“文化庁メディア芸術祭”。同企画は国内外のさまざまな都市を巡回しながら企画展を実施しており、2010年9月2日〜9月12日までは京都にある京都芸術センターと京都国際マンガミュージアムの2会場にて“文化庁メディア芸術祭 京都展”が行われている。文化庁メディア芸術祭 京都展内ではアート部門とマンガ部門の作品を中心とした展示に加えてさまざまなプログラムも設けられており、会期4日目に当たる9月5日には、京都国際マンガミュージアムにて同施設の館長である養老孟司氏と任天堂の宮本茂氏によるシンポジウムも行われた。

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▲京都国際マンガミュージアムでは、フィギュアの系譜という企画展が実施されている。

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▲シンポジウムは先着200名まで入場可能。会場はご覧のとおり満員となった。

▲養老氏(左)と宮本氏(右)。

 シンポジウムは、ゲームにも深い造詣を持つ養老氏がホスト役となり、宮本氏のゲーム作りに対する姿勢やクリエイティブへの考えたなどを掘り下げるという形で進行した。宮本氏は最初に自身の子供時代に触れ、小学生でマンガの魅力に目覚め一時はプロを目指していたことや、小さいころの夢は操り人形の人形師になることであったなどのエピソードを披露。一見ゲーム作りとは無縁のように思えるそれらの経験だが、同氏はその多くがいまの仕事をするうえで糧になっていると語る。たとえば、代表作のひとつである『ドンキー・コング』を開発した際は、キャラクターのアニメーションを手掛けるうえでマンガや人形作りで培った技術が活きることに。また、プレゼンテーションを行う際の資料などで、使用するイラストを自分でも描けるというのも強味になった。実際、『スーパーマリオブラザーズ』の企画を社内でプレゼンテーションした際には、自分で描いたマリオのイラストを資料に載せたという。「なんか、結果的に昔やりたかったことに近づけましたね(笑)」と、当時を振り返る宮本氏。ちなみに、同氏が入社したのは、任天堂が家庭用ビデオゲーム“テレビゲーム15”を発売した1977年で、その翌年には全国で『スペースインベーダー』ブームが起きている。コンピューターゲームという存在が一気に全国へ知れ渡った時期だ。そこで養老氏から、日本のコンピューターゲーム黎明期から業界にいる立場から見て、ゲーム開発技術の進化速度がどう映っているのか? という問いも投げ掛けられた。宮本氏はこれに「30年前にイメージしていたものからすると、ありえない進化」と回答。また「10年前に考えていたものと比較しても5倍、10倍くらいの速度で進んでいる」と、つねに自身の考えを上回るスピードでゲームの技術が進化していることを明かした。

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 技術の進化に置いていかれないための研究に加えて、近年はグローバル化への意識を持つこともゲーム開発者にとっては重要な仕事のひとつだ。しかし、宮本氏はグローバル化については「あまり考えたことがない」と話す。その背景には、任天堂が東京ではなく京都の企業である点が関係しているようだ。「僕も30歳くらいのときには東京に憧れていて、東京に行かなければ置いていかれるという危機感を持っていた。でも、そのころにゲーム会社ではないところがゲームを手掛けたり、メディアミックスが盛り上がってきて……何かキナ臭さを感じたんです(笑)」(宮本)。そういった経験を経て、周囲に流されずおもしろいものを「ずっと京都から発信していく」という意識を固めることになる。また、海外でソフトを展開するうえではローカライズが必要だが、その際には「自分たちが作ったものをいかに正確に遊んでもらうか」を第一にし、ビジネス的な考えにはほとんどタッチしないという。このように、グローバル化をほとんど意識していない宮本氏だが、同氏の作品は世界中で支持されている。その理由はもちろんクオリティーの高さにあるが、それを支えているのは京都という地域の風土なのかもしれない。

 ちなみに、いまなお現役のクリエイターとして活躍する宮本氏だが、養老氏からは「そろそろキャリアの整理も考えていませんか?」という質問も。これに対して「まだまだやり続けていきますが」と前置きしたうえで「自分が何もしなくなったとき、誰が代わりをやるのか? ということは考えるようになりました」と宮本氏。その姿勢に養老氏は、「技術者が管理の仕事を任されるとダメになってしまうことが多いが、宮本さんはそこが自然にできていますね」と称賛のコメントを贈っていた。

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▲対談の途中では、『スーパーマリオギャラクシー2』をふたりでプレイするひと幕も。

 シンポジウムの後半では、ゲームのおもしろさから始まり、クリエイティブという概念に対しても言及された。

 ゲームのおもしろさの根源について宮本氏は、養老氏が好きな昆虫採集に近いと説明。「やり始めるといろいろな虫を集めたくなるし、習性も調べたくなる。そして、それを人に広めるのも楽しい」。たとえば、ニンテンドーDSの『nintendogs(ニンテンドッグス)』は、犬の調教学校へ足を運んだ際に「これは犬を調教してもらっているのではなくて、犬のことを教えてもらっているんだ」(宮本)という発見ができたことに感動して「このおもしろさをどうやって伝えればいいのか?」(同)と考えたところから生まれたという。このように「身近なところにいくらでも素材は転がっている」と考え、それを実践している宮本氏なので、「世間で流行っているから作る、といったマーケティング的なことはやったことがない」そうだ。養老氏はこれらの話を聞いて、ゲーム開発に限らずクリエイティブの醍醐味は「既成概念を壊す快感」にあると分析。宮本氏もこの意見に同意し「フラットな視点で物ごとを見ることができたとき、僕はそれができたことをうれしく感じる。その快感を味わうためにゲームを作っているのかもしれない」とコメントしていた。

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 クリエイティブ論から再び話はゲームへ戻り、養老氏は宮本氏の開発における姿勢に迫っていく。宮本氏は現在、常時10本くらいのタイトル開発に携わっており、そのうち年間で3本くらいが発売されていくそうだ。開発スタッフの数は『Wii Sports』で30人くらい、『ゼルダの伝説』シリーズになると100人近くになるという。ただ、現場のスタッフは流動的で、これらの数字はもっとも多いときのものとなる。以上のデータを提示したうえで宮本氏は「ゲームのおもしろい部分だけを作るなら、10人くらいでできる」と説明。しかし、同氏が言う“ゲームのおもしろい部分”は“おもしろいゲーム”とイコールではない。おもしろい部分というのは、ゲームにおける“遊び道具”の部分であって、要するに「絵の具と筆だけを作る」(宮本)ことに近い。絵の具と筆さえあれば絵を描くことはできる。だが、誰もがそれをできるわけではない。ゲームのパッケージ化とは、絵の具と筆のセットに「パレットを追加したり、下絵やスタンプを用意する」ことなのだという。

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 ちなみに宮本氏は、ゲームの基本設計については、ひとりの人間がすべてやるべきであると考えている。「ボタンを押したら反応するのか、離したら反応するかなどは、全部自分で決めるし反対意見も聞かない。そういうところはひとりでやらないとダメ。みんなで考えると違和感が生じてしまうから。だから、自分がディレクターをやるときは全部やる。でも、ほかの人がディレクターなら僕は絶対そこへ踏み込まない。その代わりすべてをやらせるようにしている」。

 宮本氏は対談の最後で、新しいゲームを生み出すネタの源泉にも言及。数多くの斬新なタイトルを輩出してきた同氏だけにさまざまなテクニックがあるのでは……と思いきや、さきほど例にあった『nintendogs(ニンテンドッグス)』のような日常の中から見つけるパターンと、「新しい技術で何ができるのかを実験する」(宮本)のふたつくらいで、基本的には「決まったスタイルがないとしか言えない(笑)」そうだ。むしろ、冒頭にもあったように過去の体験がいまに活きることが多いそうで「子どものころ野山で遊び、おもしろいものを見つける目が鍛えられたのかもしれない」という。また、クリエイティブという行為のありかたについても触れ、「がんばって考えたものは尊い」のはもちろんだが「僕は楽して作られたものも尊いと思う」と持論を展開。「解けない問題を解く人は天才。でも、僕は解けない問題は解けないんです。だから、解けない問題を解ける問題に置き換えることをよくする。それがうまくできると快感なんです(笑)」とその理由を話した。


文化庁メディア芸術祭 京都展の問い合わせ先
CG-ARTS協会内“文化庁メディア芸術祭京都展担当”
会期後:03・3535・3501

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