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【CEDEC 2010】人気作家・瀬名秀明氏が明かす、ゲームのポイントはいかに“重力感”をデザインするか?

ゲーム
CEDEC 2010開催2日目に行われた『パラサイド・イヴ』などでおなじみの作家、瀬名秀明氏による基調講演の模様をお届けしよう。瀬名氏がゲーム作りのキーワードとして挙げた“重力感”とは?

2010-09-01

●現代人は眼球からゲームにダイヴする!?

 CEDEC(CESAデベロッパーズカンファレンス)2010が、2010年8月31日〜9月2日の3日間にわたって、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて開催中だ。社団法人コンピュータエンタテインメント協会(CESA)主催によるCEDECは、ゲーム開発者の技術交流などを目的に開催されている講演会で、今年で12年目。ゲームの知が集結するCEDEC 2010の模様をリポートする。

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 来場者の注目がもっとも集まるCEDECの基調講演だが、昨年より“ゲーム業界関係者”、“ゲーム業界外の識者”、“中間の識者(コンテンツの作り手)”という基準により人選が行われている。これはゲームクリエイターに、ゲーム業界以外の幅広い知見に触れて、発想のヒントにしてほしいとの主催者の思いによるものだが、CEDEC 2010開催2日目にあたる2010年9月1日に行われた基調講演に登壇したのは、“中間の識者(コンテンツの作り手)”にあたる作家の瀬名秀明氏。ゲーム化もされた『パラサイト・イヴ』などでもおなじみの瀬名氏だが、意外なことにゲーム関係者に向けて講演をするのは初めてとのこと。 “ゲームの知能と小説の感覚 ヒトと宇宙の究極(?)問題を考える”とのタイトルで行われた講演は、“重力感”をキーワードに人のありかたに迫るというもの。博識ぶりを持って知られる瀬名氏だけに、話題は映画から自身が免許を持っているという飛行機操縦まで多岐にわたり、聴いていて飽きない基調講演となった。

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 講演の端緒となったのは、宇宙を統べる4つの力。科学者によると、現代宇宙の法則は4つの力で成り立っているそうで、それは“重力”、”電磁気力”、“強い力”、“弱い力”になる。中でも“重力”は私たちの生活にもっとも身近で、“重力で遊ぶ”ゲームも数多い。たとえば、パチンコ、将棋崩し、ダルマ落としなど。『テトリス』にしても、重力感覚を取り込んだゲームと言える。日常生活もいかに重力と折り合いをつけるか……というシチュエーションに満ちていて、「人生における重力への初挑戦はさかあがりでは?」と瀬名氏は言及する。重力にさからって鉄棒でうまく回転することで、人は重力の何たるかを学ぶ。ある意味スポーツというのは、いかに重力とうまく折り合いをつけるか、にかかっていると言えるだろう。そして、人は重力に代表される日常の物理法則に則って常識を判断する。たとえば球を投げれば放物線を描くのはご存じのとおりだが、人は物理法則が体に染み付いているから球の軌道を予測して捕球することができるというわけだ。

 では、重力に縛られた状態(2次元)と、開放された状態(3次元)では、人の思考のありかたは違ってくるのか? 瀬名氏自身は飛行機の免許をもっており、度々空を飛んでいるとのことなのだが、確かに考えかたが変わってくると指摘する。たとえば、同じ“まっすぐ進む”でも、地上(2次元)にいたら山あり谷ありで本当にまっすぐ進むことはできないが、空(3次元)ならは、文字通りまっすぐに進むことができる。視点の位置を変えるとモノの見かたが変わってくるのは間違いなくて、宇宙飛行士の向井千秋氏によると、宇宙では動詞まで変化してしまうという。「あれを取って」が「あれを押して」に変わるというのだ。

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▲2次元と3次元とではモノの見えかたが違ってくる。「自動車と飛行機とでは安全性への考えかたがまったく違う」と瀬名氏は語る。ちなみに、瀬名氏の知り合いの羽田空港の管制官によると、空を飛ぶときは人間の知能は半分になるらしい。

 そういった意味で、“重力感をどうデザインするか?”が、クリエイティブな作品を作る上で非常に重要になってくる。ここで瀬名氏が引用したのは、宮崎駿監督の名作『ルパン三世 カリオストロの城』。同作では、冒頭でフィアットによる有名なカーチェイスのシーンがあるのだが、そこではあえて“重力感”を無視し、フィアットを空中に浮遊させるなどの表現をすることで、これから始まる物語のワクワク感を演出しているのだという。

 「現代人は眼球からゲームにダイヴします!」と瀬名氏は語る。それは、意訳すれば、とくに視覚面での影響力が強いゲームというコンテンツは、“重力感”の描きかたが重要になってくるということ。「視覚的ゲームの行き着く先はどうなるのか? “重力感”をしっかりとデザインできたものになっていないでしょうか? いびつなものになっていませんか?」と瀬名氏はまとめる。“重力感”とは、ゲーム業界に身を置いているとなかなか接することのないテーマだが、その指摘はきわめて示唆に富む。一方で、ゲーム作りにとってはあらゆることが“ヒント”になると言えるのかも。いずれにせよ、瀬名氏の講演はクリエーターにとってCEDECならではの貴重な機会だったと言えるのではないか。

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▲瀬名氏の基調講演では多岐にわたるトピックが取り上げられたが、本文中では触れられなかった話題の補足を。話は人工知能のことにおよび「機械は人間のように考えることができるか?」という問いかけがなされた。スタンリー・キューブリックの名作映画『2001年宇宙の旅』に登場する宇宙船ディスカバリー号は、“完全無欠”のコンピューター“HAL9000”によって制御されていたが、ある科学者は、「人間と同じ身体を持っていないので、同じ知能はありえない」と結論づけたのだとか。ちなみに、HAL9000は最初は人型ロボットとして構想されていたらしい。

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▲人種によってもモノのみかたが異なる。西洋人と東洋人とでは人工知能(AI)についての考えかたも違う。AI研究者の中島秀之氏によると、西洋人はAI世界を外から見下ろすのに対し、日本人は内側に入り込んで観測するのだとか。

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▲小説にも“重力感”は存在する。三人称の“彼”で始まった文は、“おれ”という擬似的な一人称で読者との行動を重ねあわせ、“うまい”という感情表現で主人公の内面と同化させることになる。

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