『FFXV エピソード アーデン』開発スタッフに訊く見どころとこれから――物語は“ファンのために書かれた”小説へとつながる

公開日時:2019-03-27 19:00:00

 2019年3月26日に配信となった、『FFXV』の最後を飾るDLC『エピソード アーデン』。その開発経緯や見どころなどについて、作品の中軸を担うスタッフにインタビューを実施した。4月25日に発売予定の小説やLuminous Productionsの今後など、気になる話題も。なお、一部ネタバレを含んでいるので、見たくないという方はプレイ後に読んでほしい。

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左:ディレクター 寺田武史氏
中央:リードアニメーター 加部栄一郎氏
右:シナリオディレクター 小山内貫氏

アーデンならではのアクション

――発表された新DLCシリーズ“未来への夜明け”のうち、3本が開発中止になっています。その中で、『エピソード アーデン』だけがリリースされることになった理由とは?

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寺田 最初に作り始めていたという開発の進捗状況的な側面もありますが、いちばんの理由は、以前実施したユーザーアンケートで“アーデンのエピソードが見たい”という要望が1位だったことです。その声を受けて新規DLCシリーズの企画がスタートしたこと、そして物語の重要性からも、『エピソード アーデン』はユーザーの皆さんに届けなければならないと考えました。

――ファンの方からは、どういった声が届いていたのでしょうか。

寺田 アンケートでは、「アーデンは魅力的なキャラクター」、「アーデンが好き」と回答してくださった方が多かったですね。アーデンの“王家を恨む理由”や“過去に起こった出来事”は、本編ではあえて描かなかった部分でもあったのですが、彼のことをもっと知りたいというリクエストをたくさんいただきました。

――今回、DLCに付随するアニメも制作されていますが、DLCとは別の作品にした理由とは?

寺田 アーデンにスポットを当てるとなると、本編から約2000年前、彼が世界を救おうとしていたときに起こった出来事は外せません。ただ、そこをゲームで描こうとすると、DLCとしては成立できないボリュームになることが明白でした。そこで、2000年前の物語はアニメにしようということになったんです。

FINAL FANTASY XV EPISODE ARDYN - PROLOGUE

――では、『エピソード アーデン』の内容についてお聞きします。ゲームとしてどういったコンセプトで制作されたのでしょうか?

寺田 制作を始めるとき、僕は“悪役が主人公の『FF』”を作りたいと思ったんです。世界を救うためにみんなががんばる、というのがいままでの『FF』シリーズ。それとは逆に、悪の主人公になって“世界を壊す”ゲームにしたかった。そのコンセプトで、アーデンのアクションを作ったり、イベントの流れを決めたりしました。とくにアクション部分には力を入れましたね。

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加部 アクションについては、アーデンにこういったことをさせたい、ダークな主人公でいきたい、という資料を最初に作って開発チームに見てもらいました。いままでにないものだったので、反対意見もあるかなと思ったんですが、すんなりとその方向性で決まりました。

寺田 “悪”である、“最強”である、という部分を重視したよね。

加部 そうですね。とくに“最強”は重要なポイントでした。最後のDLCなので、気持ちいいくらい最強にしようと。そのために、バランス調整は難航しましたが(笑)。

――いきなり強すぎても、ゲームとしておもしろくないですものね。そんなアーデンのアクションで、とくに気をつけた部分や軸にした部分はどこですか?

加部 僕の中で、アーデンは“一生懸命武器を振る”というイメージがなかったので、そのイメージを崩さないまま攻撃するにはどうすればいいかが課題でした。そこは、たとえば「アーデンだから、一撃必殺の技をバンバン出せてもいいじゃん!」という発想で、新たなシステムを組み込むことで解消していきました。正当な主人公ではできないことを、いろいろと盛り込んでいきましたね。

――シャドウムーブもアーデンならではのアクションです。

加部 僕は『エピソード イグニス』のアクションも作っていて、イグニスのワイヤー移動が気持ちよくて気に入っていたんですよね。新たなDLCを作るなら、あの気持ちよさを超えていないと意味がないと思い、そこからシャドウムーブを考案しました。アーデンは本編でも神出鬼没じゃないですか。あれは、アーデンが時間を止めているわけじゃなく、高速で動いているから周りが止まって見えているんです。そこをアクションに取り入れたのがシャドウムーブ。最初は高性能すぎて、たくさん不具合が出たりもしましたけどね(笑)。

寺田 『FFXV』は、プレイヤーキャラの移動速度に合わせて読み込み速度やメモリ管理を行っています。当初はシャドウムーブでのアーデンの動きが速すぎて不具合が連発したものの、プログラマーたちの努力で、高速移動は維持し読み込みの仕様を調整することで成立させられました。本編のノクトのシフトでは移動できるポイントを決めていましたが、シャドウムーブではどこにでも行けるようにしたのがこだわりでもあり、たいへんなところでもありました。

加部 高いところでシャドウムーブボタンを押し続けると高度を落とさずに動ける、というアクションを実現できたのは、個人的には満足感がありますね。

寺田 大きなワールドマップではなく、行動範囲がインソムニアに限られていたから実現できた部分ではあります。

――シャドウムーブを使って行える探索もおもしろいですよね。崩壊前のインソムニアは新鮮に感じます。

寺田 インソムニアは『FFXV』の歴史を物語っています。僕は、本編でも王都周辺を担当していて、最初は狭かった区画をどんどん広げていったんですよ。『FFXV ロイヤルエディション』があったことも大きいですね。これほどの規模と作り込みができたのは、『FFXV』が長く続いていたからこそです。

――『FFXV ロイヤルエディション』での建物の位置関係は維持されているんですか?

寺田 はい。本編と同様に写真機能があるので、街を飛び回って写真を撮りまくって、シェアしていただきたいです。

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――新宿の街並を模したインソムニアは、コンビニがあったり、ビルの裏に駐輪場があったりと、細かく作り込まれていることに驚きました。

寺田 あれは、あちこちにある看板が新宿っぽさを醸し出しているんです。あれがなくなると、別の国の街に見えるんですよね。デザインとしてすごくこだわっているポイントです。現実とファンタジーの融合がインソムニアのテーマだったので、そこはずっと大事にしています。

――街では帽子ショップで買物もできます。帽子を装備すると、能力だけじゃなくて見た目も変化するという(笑)。

小山内 あれは『エピソード イグニス』のメガネからの流れですね(笑)。

加部 そうそう(笑)。「つぎは帽子かな?」って。

寺田 シナリオはすごくシリアスなので、ゲーム部分で遊びを入れたほうがバランスが取れると思って、そういう要素は大事にさせてもらいました(笑)。

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――ゲームの難度に関しては、とくに帽子で能力を上げなくてもクリアーできる程度になっていますよね。

寺田 『エピソード イグニス』のときは、シナリオを体験させたいというのが軸だったので、難度は低めにしていました。今回は、アクション部分の体験もより重視しているので、ある程度歯応えのあるものにしているのですが、アーデンはHPがゼロになっても死なないのでゲームオーバーにはなりにくいですね。そういう意味では、難度は高くないと思います。

――アクション面では、ノクトとアーデンをどう差別化しましたか?

加部 ノクトはハイテンポで動くのに対して、アーデンは堂々と動く感じにしたかったんですよね。だから、あまり素早くは動かず、召喚した武器を使って効率よく敵を倒す技などを取り入れ、場面に応じてクレバーに戦えるように設計していきました。

――相手をシガイ化させる攻撃も独特です。

加部 僕的には、アーデン=(イコール)シガイというイメージがあり、シガイ化くらいさせられるだろうと。あとは、“最強”というコンセプトもあったので、一撃必殺技が欲しかったというのもあります。そこから、現在のシガイ化攻撃が生まれました。相手がシガイ化可能状態なら、どこまででも追いかけて、何体でもできるようになっています。シガイ化攻撃は、コンボのフィニッシュだけではなく、バックアタックで浮かせた後にも狙えるんですよ。空中専用のモーションもあって、魅せプレイも可能です。

寺田 シガイ化に関しては、“背徳アクション”にこだわったんですよ。

――背徳アクション!?

寺田 「悪いことをしてますよ」という感覚が味わえるアクションです。一時期、シガイ化させた相手がもだえ苦しむ姿が見えるような演出にしていたこともありました。

加部 ちょっといきすぎて、チーム内からも「やりすぎ」と言われ……。確かに、苦しんで転げ回っているのはかわいそうすぎましたね。

小山内 僕は、「やられている相手が静かで背徳感が足りないから、もっと叫び声入れて」と言っていました(笑)。

寺田 演出の度合いはかなりのせめぎあいがありましたね。

加部 最終的には、最初の動きだけ少し見えて、消滅するようになりました。

――バトルの際に注目してみます。アーデンはHPがゼロになるとさらに強くなる、というのもおもしろいですね。

加部 意識がなく暴走している状態で、攻撃力がものすごく上がります。その代わり、シガイ化攻撃などのアクションは使えなくなります。○ボタンだけでなく△ボタンでも強い攻撃ができるので、攻撃を受けると最大HPが減るというリスクはありますが、チャンスでもあります。

寺田 ほかのキャラクターだとHPがゼロになった後は、逃げることしかできなかったんですよね。そんな中、逆転のチャンスもあるというのがアーデンの特徴のひとつです。

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――イフリートの召喚も強力で、共闘できるのはかなりインパクトがありました。

寺田 最初にシナリオ側でイフリートを登場させることを決めたんですよね。

小山内 寺田が「ユーザーの予想を裏切るようなバディを入れたい!」って言い出したんです。誰だろうって考えていたら「イフリートがいいんだけど」と言われたので、「どうにかしてみる……」と返事をしました(笑)。

寺田 そこでシナリオ的には大丈夫という話になったんですが、いちばんの問題がサイズで。かなり大きいヤツが視界を横切るので、プレイ感が悪かったんですよね。だから、ずっといっしょに歩かせるのではなく、コマンドを使うと一定時間いっしょに戦ってくれる形にしました。

――確かに、ずっといたらちょっと邪魔かもしれません(笑)。先ほど加部さんがシガイ化の魅せプレイが可能とおっしゃっていましたが、どういった動きがオススメですか?

加部 スティックを上に倒しながら攻撃すると、相手の真後ろに回り込めるんです。そこから打ち上げてシガイ化するのがカッコいいですね。あとは、アーデンの育成で、コンボが100ヒットを超えると出せる特殊技が使えるようになります。敵を1ヵ所に集めた後、その技を使ってまとめてシガイ化するのもオススメですよ。

――集める前に敵を倒しきってしまいませんか?

加部 そういうパターンも多かったですね。アーデンが強すぎるので……(苦笑)。

寺田 ガーディアンと戦うときに狙うといいかもしれません。

――アーデンの育成で使えるようになる要素では、銃(ケルベロス・試作型)をどういった場面で使うべきかイマイチわからなかったんですが……。

加部 銃は、プレイヤーが好きに使って楽しんで使えるものとして用意しているんです。

寺田 あれは、コンバットチームが黙って入れたんですよ(笑)。バルーンを壊すのに便利だったりしますが(笑)、ヘッドショットがかなり強く、意外と使える武器でもあります。

加部 遠距離から一方的に攻撃できるので、戦場のギリギリから狙い撃つのがおすすめです。してやったり感があります(笑)。

――“悪”ですね(笑)。同じくアーデンの育成で使えるようになる魔法(ダークトルネド)は、使いやすくてわかりやすい強さがあります。

加部 魔法をヒットさせるとしばらくのあいだ敵のステータスがダウンするので、最初に当てておくとバトルを有利に進められます。あとは、ボタン長押しで使うと、アーデンが指でフレームを作り「どこにしようかな」という動きをするところにもこだわりました。武器を使ったアクションを含め、動きにはアーデンのキャラクター性を出したかったんです。

――そこも注目ポイントですね。それから、クリアー後に挑めるようになるエクストラバトルが……かなり手強い! 逃げ回りながら戦ってようやく勝てましたが、正攻法で倒しているところを見てみたいです。

加部 ほかのDLCのエクストラバトルも、短時間で倒している方がいらっしゃったので、皆さんにはがんばって倒していただければ。おもしろいバトルになっていると思うので、ぜひやり込んでいただきたいですね。

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演出のこだわりとキャラクターの設定

――今回プレイしていて、BGMも非常にかっこいいなと思いました。

寺田 曲は、ゲストコンポーザーの岩崎琢さんにお願いしました。本編の主人公が敵であるとか、インソムニアが舞台になる、といったコンセプトを映像付きでお伝えして、作曲していただきました。

――岩崎さんにオーダーした理由は?

寺田 小山内のプッシュです。

小山内 僕は、本編でずっと音楽のディレクションをしていたんです。DLCを作るときに音楽担当からは離れたのですが、岩崎さんの作るエッジがきいていてモダンな曲は『FFXV』の取り組みに合うとずっと思っていました。受けてくださることが決まったときはうれしかったですね。あがってきた曲がやはりすばらしくて、感動しました。

――これまでにない雰囲気で、『エピソード アーデン』だから入れられたんだろうなと感じます。

小山内 途中のバージョンで「これからラップを入れるらしい」って聞いたときは、いままでにない曲になりそうで「やったー!」って思いました(笑)。バッチリハマりましたね。

――岩崎さんには、インソムニアで流れる曲だけでなく、タイトル画面で流れる曲もお願いされたのですよね。

小山内 はい。タイトル曲は、ストーリーのテーマをベースに作ってもらいました。

寺田 “エイラに捧げる曲”とオーダーしました。本編のアーデンからは想像もつかないような優しい曲にしたかったんです。これも見事にハマったと思います。

――演出面では、アーデン役の藤原啓治さんの演技がすばらしかったことも印象深いです。

小山内 収録の時、藤原さんはいつも、「アーデンが好きなんだよね」とおっしゃってくれるんです。悪役を自由に演じるのを楽しんでいるようで、ご自身でアーデンのカットシーン集を見て、「やっぱりこのキャラはいいなあ、って思ってた」とおっしゃっていました。

――収録は順調に進みましたか?

小山内 今回はアーデンがプレイヤーキャラクターになるということで、本編では録らなかったようないろいろなセリフを収録しました。本編とは違い、バトル系のボイスの追加があったり、感情の起伏があるところが多かったので、収録する順番は工夫しましたね。

――小山内さんから、演技に関してオーダーをされるようなことは?

小山内 藤原さんはベテランですし、アーデンをずっと演じられているので、細かい演技指導はほとんどありませんでしたね。ただ最初に、今回のアーデンについて、こういうところを見せたいという説明だけさせていただいて、温度感を合わせてスタートしました。ときどきアドリブ入れたりもされるんですけど、それをそのまま採用したり、楽しく収録できました。

寺田 藤原さんはアドリブを入れるほうなんですか?

小山内 ときどきですね。アドリブが多いのは、柿原さん(プロンプト役の柿原徹也さん)です(笑)。藤原さんはアドリブというより、「あ、このセリフをこういうテンションで言うんだ」と驚かされることが多いんです。高らかに笑うシーンなんかは、こっちのイメージを超える演技をしていただいて、いちファン目線で「すごいな……」と圧倒されちゃいました。

――今回はアニメもあって、藤原さんの幅広い演技を存分に堪能できるのもポイントですね。

小山内 アニメの収録では、最初に「今日はいい人です」って藤原さんにお伝えしました(笑)。「いつものやつは出さないでいただいて……」と言ったら、「大丈夫、大丈夫(笑)」と返事をしてくださって。

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――(笑)。アニメではアーデンはいい人でしたね。一方、ソムヌスは……。

小山内 兄への妬みがあったとしても、ソムヌスにはソムヌスなりの正義があり、民のためにやっているというところを描きたかったのですが、尺が足りずそこまで入れ込めていない部分はあります。アニメもゲームも中心はアーデンで、彼の視点ではソムヌスは敵対する相手なので、ああいう描きかたになっています。

――バトル後、謝ってきたときは「何を言ってるんだ!」と思いました。

寺田 僕的にも、謝ってくるシーンは印象的でしたね。

小山内 ふたりの関係を象徴するようなシーンですね。アーデンとソムヌスの時間の流れは、まったく違っているんです。ソムヌスはアーデンがいなくなった後、兄に悪いことをしたという贖罪の気持ちを持ちつつ国を興し、民を守って長いあいだ過ごしてきました。一方で、アーデンはそれを知らずに約2000年間幽閉されていたので、「なに謝ってるんだよ!」というリアクションになる。ユーザーも同じ気持ちになるように意図した台詞でした。

――そうだったんですね。ここは本当にアーデンに感情移入しました。

小山内 ちなみに、あそこで謝ってくるソムヌスは本人ですが、そこまでのイベントシーンでたびたび出てくるソムヌスは、“アーデンの心の中のソムヌス”です。だから、アーデン視点の“より悪いヤツ”なんですよ。

加部 すごく悪い顔しますよね(笑)。

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小山内 ソムヌスはアニメの初期シナリオだと、けっこういい人にしていたんです。でもそれだと、なんでアーデンが王家をそこまで憎んでいるのかがわかりづらくなってしまって。しっかりと敵対構造を作らないとアーデンは王家を憎めない、というところでいまの形に落ち着きました。

寺田 逆に、もっとひどかったときもありました。エイラと三角関係になっていたり(苦笑)。それはさすがに、ということでマイルドにしてもらって、いまの設定になっています。

――ソムヌスは、プロジェクトの初期からある曲名でもありますが、関係はあるのでしょうか。

小山内 本編で『Somnus』をどう使うか考えたときに、ルシス王家にまつわるところはこの曲で統一することにしました。その後、初代王の名前を決める際、この曲名から名をもらうことになったんです。名前を決めてから、キャラクターの細かい設定を考えていった感じですね。

――そういう経緯があったのですね。巨大化したソムヌスとのバトルも印象的です。

寺田 『キングスグレイブ FFXV』のときの大きさをなるべく再現したくて。でも、サイズは最後のほうまで調整していました。

加部 じつは完全に同じというわけではなくて、『キングスグレイブ FFXV』のほうが少し大きいんです。まったく同じスケール感だと、戦うときの視界など不都合が多くて。それと、インソムニアはビルだらけで、ソムヌス的には壊せないし動きにくい。そのため、バトルの舞台になる中央通りに合わせた中でのサイズ感になりました。

――ソムヌス関連ですと、ボタン連打を求められるイベントがありますよね。何度かやって耐えられずにグサリといってしまったのですが、あれは連打をがんばれば耐えられるんですか?

加部 耐えられます。ほとんど耐えられないと思うんですが、耐えたらどうなるかもぜひ見ていただきたいですね。

小山内 実装担当者に、「シナリオ的には耐えるのと耐えられないのとでは、どっちがいいんですか?」と聞かれて、耐えられないほうが「なんちゅうことを!」と思えるので、大半の人が失敗するように設定してもらいました。

――まんまとハマりました(苦笑)。それから、設定的なお話になりますが、“アダギウム”の由来について教えていただけますか?

小山内 ラテン語で“警句”という意味があるんですけど、そこはあまり重要ではないですね。ルシス王家がアーデンの存在を隠蔽するために付けたコードネーム的なものです。じつは『FFXV』本編の開発の途中から、チーム内ではアダギウムという呼称は使われていたりもしました。

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――続けてアーデンについてお聞きします。彼は人に幻影を見せるなどほかの人にはない力を持っていますが、それもシガイの力ということですか?

小山内 力の源はそうです。すべては、自分の中にシガイを取り込んでいったことで使えるようになった能力です。アーデンはシガイを吸収するほどに、いろいろなことができるようになっていきます。

――では、アーデンが名乗っていたイズニアという姓はどこからきたのでしょうか? 本編では誰かの姓であることを匂わすセリフもありましたが。

小山内 今回、そのことも触れようと思ったのですが、きちんと説明しようとすると軸がブレたりする関係で入れませんでした。誰の姓であるか、アーデンはあまり覚えていません。シガイ化でいろいろな人の記憶を吸収することで、膨大な知識を蓄えている一方、それゆえに錯乱していき、自身にまつわることも忘れています。

――アーデンが不老不死になったのは、どこのタイミングですか?

小山内 アニメの時点で不老不死になっています。本人も周りもそれに気づいたのが、アニメの最後で、死なないことが初めて判明します。あそこでアーデンはやはり危険だということが公になり、幽閉されることになりました。

――登場人物としてはヴァーサタイルも出番がありました。若いころはなかなかのイケメンだったんですね。

寺田 ヴァーサタイルの顔は、何度も調整しました(笑)。ヴァ―サタイルは、あえてプロンプトに似せた雰囲気にしています。初登場キャラクターをオリジナルデザインにしすぎると、ユーザーに馴染みがなくなってしまいます。なので、ソムヌスはノクティスに、エイラはルナフレーナに、ヴァーサタイルはプロンプトに寄せました。そうすることで、キャラクター性を想像できる余地が生まれるんじゃないかなと思っています。

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――『エピソード プロンプト』ではヴァーサタイルがシガイ化しましたが、あれは自分の意思だったんですか? それともアーデンの仕業?

小山内 アーデンが絡んでいるのは間違いないですね。

寺田 ヴァーサタイル自身も究極の兵器を追い求めていたので、無理やりというよりは、自分の意思もあったんじゃないかなと。

――『エピソード アーデン』では若いころのレギスと戦う場面もあります。このとき、レギスにはアーデンの姿が警備隊員に見えているということですよね。

小山内 冒頭でわかる通り、アーデンは、他者からは警備隊員の姿で見えています。レギスは『キングスグレイブ FFXV』でアーデンと会ったときに過剰な反応はしていないんですが、あの時、レギスはアーデンと初対面……“だと思っている”、ということです。

寺田 『エピソード アーデン』での戦いは、インソムニアからすると、アダギウムが王都に現れて暴れ回った事件という見えかたになっています。

――アーデンが暴れているあいだ、ヴァーサタイルは何をしていたんですか?

小山内 アーデンが魔法障壁の増幅装置を破壊したらインソムニアに奇襲をかけるという作戦のもと、外で待機していました。でも、装置を破壊したタイミングで、アーデンが「王様を殺しにいく」と言い出してレギスのもとへ向かい、連絡が断絶してしまったため、その後の動向はわからなくなります。設定としては、奇襲したものの、思ったより障壁が強固だったりルシス軍の反撃にあったりして、撤退したという流れです。その反省点は『キングスグレイブ FFXV』での襲撃に活かされます。

寺田 王のもとへ向かったアーデンはアーデンでバハムートに止められてしまうので、ニフルハイム的には完全に作戦失敗という形で終わっています。

――レギスとのバトルも盛り上がるポイントですが、ここにはどんなこだわりがあったのでしょうか。

加部 個人的にすごくこだわったポイントがあります。ノクトでレギスの剣(父王の剣)を使うと、フィニッシュで勢いよく剣を振り下ろすんですよ。あれをレギスにやってほしかった。ノクトとのつながりを感じられるので、気づいてもらえたらうれしいですね。あとは、お父さんが弱いと嫌なので(笑)、見た目にカッコいい動きをたくさん取り入れつつ、強さも調整していきました。『キングスグレイブ FFXV』のときにバリアを張っていたので、プロテスを使うようにしたりも。

寺田 バトルの面は『キングスグレイブ FFXV』を見ながら、いろいろ考えていきましたね。

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シナリオへのこだわりと小説へ続く物語

――先ほど、“バディが欲しい”というオーダーがあり、イフリートのことをシナリオにも落とし込んだというお話がありましたが、そういう断片的なオーダーをこれまでの設定に矛盾することなく反映するのは大変そうですね。

小山内 はい。「昼間のインソムニアに行きたい」というオーダーとか(笑)。ストーリー的には、いまのアーデンがどのように形成されたかを描きながらも、「昼間のインソムニアに行くのはどうすればいいんだろう」、「イフリートを仲間にするには?」と悩みに悩みました。イフリートの話は、ある日突然思いついたんですよね。

寺田 ヴァーサタイルがイフリートを運んできたと。

小山内 イフリートがラバティオ火山に眠っているという設定はすでにあり、そのうえで設定を補完しながら仲間にする方法はと考えていく中で、ヴァ―サタイルの動きがあったとすれば……「これだ!」と思いましたね。

――そうしたシナリオ作りの中、とくに意識した部分はどこですか?

小山内 本編で描かれなかった部分を補完し、なぜ本編のアーデンのようになったかをしっかり納得してもらえるようにしながら、ゲームとしておもしろくする、というところです。

寺田 僕は“終わりかた”です。アーデンはかわいそうな人物だ、という方向に振り切ったんですよ。開発中止になりましたが、ほかのDLCと対比させるという意味でも、あえてそういう終わりかたにしたという部分もあります。

小山内 アーデンに共感してもらうというのが、寺田と最初に話した目標でした。寺田も言った通り、『エピソード アーデン』は4つあった新規DLCシリーズのプロローグ的なものだったので、あえて暗い話にでもいいと考えていたところもあります。

――暗い方向に振り切ろう、というのは当初から決まっていたんですね。最後の選択肢も、暗い展開に拍車をかけます。

寺田 自分がゲームでやりたかったのは、“どんな選択を選んでも、アーデンは救われない”。アーデンの悲劇性を描くには、ユーザーに選択させたうえで何も変わらない、というのがいちばんだと思いました。果たして、皆さんにどう思われるか……そこに興味があります。

小山内 「ひどい」って思われたい(笑)。

寺田 ただ、この最後の選択肢は、ゲーム版と小説(『FFXV -The Dawn Of The Future-』)で大きく意味が違います。アーデンの“運命に抗う”という選択は、『エピソード アラネア』、『エピソード ルナフレーナ』、『エピソード ノクティス』というつぎの物語につながっていき、その選択に意味が生まれますので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。

――小説は、『エピソード アーデン』のお話も入っているんですか?

小山内 入っています。アーデン編からノクト編まで、どういうストーリーになるかを自分が中心になって原作を書いて、それを小説の著者である映島先生にお渡しして、1冊の作品にしていただいています。エンディングも1年以上前から決めていて、皆さんに満足いただける形になっていると思います。

――小説の表紙のイラストを信じていていいと。

小山内 もちろんです。“グランドフィナーレ”というテーマでこのシリーズを始めていて、そこに向かっていくお話です。だからこそ、アーデン編は暗くてもいいやと思っていました。ちなみに、アラネア編はかなり軽い感じ(笑)。ルーナとノクトのお話はけっこうシリアスになります。“ファンに向けて新しいエンディングをお届けする”ための作品として、皆さんの心に残っている要素をチョイスしながらシナリオを作っています。

――新規DLCシリーズ制作発表のときに、アーデンとノクトたちが仲睦まじくしているイラストが公表されましたが、あれは小説と関係があるのでしょうか?

寺田 新規DLCシリーズの企画を作るときに、最初に決めたのがエンディングでした。そのときに、『FFXV』はどういう終わりかたをしたらユーザーがいちばん満足するかというテーマで、アートチームでコンペをしたんです。ファンがずっと追いかけてくれている作品。その最後に、何を見たいのか。そうして描かれた中の1枚が、あの絵でした。そして、あの絵につながるようにシナリオを組み立てていった。小説が直接的にあの絵につながるというわけではないのですが、我々の目標を象徴するものではあります。

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――『エピソード アーデン』では、バハムートがすべての元凶のようにも思えるなど、未解決にも感じる部分があります。そのあたりについてもうかがえますか?

小山内 まずバハムートは、この星からシガイをなくしたかったんです。そのためバハムートは、アーデンに使命を与えてシガイを広めさせながら、一方でルシスの歴代の王たちに力を溜めさせることにしました。そして、ノクトにアーデンを倒してもらうことで、シガイを一掃しようと考えたわけです。

――シガイは一度広めないといけなかった?

小山内 そうですね。シガイの発生自体に直接バハムートは関わっていませんが、理由があってその必要がありました。ちなみに『エピソード アーデン』は4部作のプロローグなので、そういった疑問をあえて持ってもらおう、という作りにしています。「もしかして黒幕って……」みたいな感じで……。

寺田 ちょっと待って! 続きは小説で!

――これは小説を読むしかない(笑)。

小山内 ストップがかかっちゃいましたが(笑)、『エピソード アーデン』で出た疑問の答え合わせは、小説のルーナ編とノクト編を読んでいただければと思います。

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ファンへの感謝を込めて

――『FFXV』はゲームのコンテンツとしてはここで完結して、小説につながっていくという形になりますが、今後このほかに展開はありますか?

寺田 基本的にはここで終了になります。

――『FFXV』の開発を終えたLuminous Productionsは、今後どうされていくのでしょうか?

寺田 『FFXV』を作ったチームで、既存IPではない新しいAAAタイトルを作りたい、というのがLuminous Productionsが生まれた理由です。詳細はお話しできませんが、『FFXV』のように、ハイクオリティー、ハイエンドで描く新しい世界を軸にしたゲームを作っていくことになります。すでにつぎのプロジェクトは動き出しているので、ご安心ください。

――発売されてからも2年近くDLCで展開して、『FFXV』はかなり長いプロジェクトになりました。振り返っての感想をお聞かせください。

寺田 僕と小山内は同時期、確か2012年ごろに配属されました。最初はロケーションを担当するプランナーからスタートし、僕の16年ほどの開発人生のうち、半分ちかく使ったプロジェクトというところで、最後まで走りきれたことは感慨深いですね。成長もできて、チャレンジもできて、刺激もあってと、世界中を見渡しても僕以上に『FFXV』に対して感謝している人間はいないんじゃないかなと思っています(笑)。

小山内 僕は、もともとi-modeで展開していた『ビフォア クライシス -FFVII-』を作っていて、つぎにPSPで『FF零式』を手掛け、そして『FFXV』と、作品がだんだんハイエンドになってきたんですね。『FFXV』本編では、後半のボイス収録に全部立ち会ったり、ラストバトルのレベルデザイナーをやったり、全BGMのプランニングとディレクションもやったりしました。そして、いまはシナリオをやっているので、かなりいろいろなことを体験させていただいたなと。声優さんやコンポーザーさんとの話題によく挙がるのですが、『FFXV』はいろいろな人を巻き込んだ大きなムーブメントみたいなものを作れたと感じています。しかも、いままでの『FF』とはまったく違うアプローチができ、刺激的なプロジェクトになりました。あとは、こんなにファンに近い位置で開発できたというのがうれしかったですね。ファンミーティングやコラボカフェなどの展開もそうですし。

――『FFXV』はファンと開発者が触れ合うような施策が多かったですね。

小山内 開発者がファンから直接力をもらえる、というのは本当にありがたかったです。お陰様でみんなが楽しんで制作に携わることができましたし、お互いが楽しんで作ったことで、いい相乗効果が生まれて、いいプロジェクトになっていったと思います。

――加部さんはいかがでしたか?

加部 僕は、『FFXV』本編開発の終盤、2015年ごろにチームに加わり、タイタン、リヴァイアサン、イフリートのイベントを作りました。その後、DLC作成の段階からプレイヤー周りの動きを作るようになって、『エピソード イグニス』や『エピソード アーデン』でアニメーターを務めました。チームに加わってからわりと早い段階で『エピソード イグニス』を任されたときは、「僕で大丈夫なの?」と、びっくりしつつもうれしかったです。

寺田 本編のときは田畑さん(田畑端氏)が指揮をとって開発をコントロールしていたんですが、DLCは若いスタッフに経験を積ませようという指針があったんですよね。だから、僕がディレクターになったり、シナリオは小山内が全部見ることになったりして。アクションが好きだと聞いていたので、社歴に関係なくそちらは加部に任せるという流れにしました。

加部 任されたときはびっくりしましたが、がんばらなきゃって気合が入りました。だから、『エピソード イグニス』と『エピソード アーデン』はすごく思い入れがあります。思うままに作らせてもらいましたし、成長もできたので、ありがたかったプロジェクトです。アニメーターの領域を超えて、ほかのセクションにも提案ができるという環境はなかなかないので、大変だった部分もありましたが、楽しかったです。

――そんな『FFXV』のコンテンツとしては最後になる『エピソード アーデン』でとくに注目してほしいところと、ファンに向けてのメッセージをお願いします。

寺田 僕がいちばん注目してほしいのは、アーデンの表情です。優しい笑顔や悲しい顔、激昂しているところを見ていただいて、アーデンというキャラクターをさらに好きになっていただけるとうれしいです。それと、『FFXV』は、ファンに支えてもらってここまでこられたコンテンツなので、皆さんには「ありがとう」と伝えたい! 『エピソード アーデン』でいったん区切りは付きますが、Luminous Productionsはまだまだ続いていくので、つぎの作品にご期待ください。

加部 『エピソード アーデン』ではバトル担当だったので、個人的にはアクション部分に注目していただきたいです。格闘ゲームのような、お手玉コンボとかもできるようになっているので、いろいろな動きを試してもらえれば。あとは、ソムヌスのいやらしい表情もぜひ見てほしいですね(笑)。ファンの方々には、本当にエネルギーをいただけました。『FFXV』チームにファンレターをいただいたりもして、届いたという連絡を受けたときはすぐに見にいっていました。ありがとうございました!

小山内 本編にはなかった、アーデンが“ひとりの人間として描かれる”という部分を見ていただきたいです。なぜあそこまで屈折した人物になったのか、徐々に変わっていくところを感じてもらえたらと思います。また、本編ではあまり公開できなかった謎の部分にも迫っているので、いろいろなことを想像してもらえればと思います。さらに続きとして、アラネア編、ルーナ編、ノクト編があります。ぜひ『エピソード アーデン』で疑問に思ったことを、小説で追っていただけるとうれしいです。小説の原作を書いているときに、「これはファンの皆さんのために書こう」と強く思って書いていました。『FFXV』の一旦の終わりを、いっしょに見届けていただければ幸いです。


 最後に、インタビュー監修で同席していた『エピソード アーデン』プロデューサーの新小田裕二氏にもひと言いただいた。長年、開発者たちが多くの想いを注いだ『FFXV』は、ファンあってのもの。開発者にとってもファンにとっても、強く心に残る作品となったことがうかがえる。そしてすべては、『小説 FINAL FANTASY XV -The Dawn Of The Future-』でのフィナーレへとつながっていく――。


新小田 僕は昨年の4月にチームに入るまでは、ファンとして『FFXV』を見ていましたし、客観的にこの作品のすばらしさを実感していました。だからこそここまで、いっしょに走ってきてくださったファンの目線で、『FFXV』をどういう風に見せればいいか、どういうメッセージを届ければいいかということを考えられたように思います。そんな僕が小説の原稿を読んだとき、「これは『FFXV』の愛すべき仲間たちへの、そして彼らと共に在り続けてくださった、ファンの方々へのラブレターだ」と感じました。皆さまこれまで本当にありがとうございます。これからも、ファンの皆さまに恩返しができたら、いっしょに楽しんでいけたらと思っています。

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▲プロデューサーの新小田裕二氏。

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▲今後の『FFXV』チーム、Luminous Productionsの活躍にも期待!

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