シリーズの歴史表現の要、特別スタッフ“ヒストリアン”が、その作業工程を明かす!

毎日ヴィクトリア朝時代に浸る日々を過ごせる今日この頃。『アサシン クリード』シリーズと言えば、時代背景を徹底した歴史考証で再現した、オープンワールドの舞台も大きな魅力のひとつ。この緻密な歴史表現の秘密は、シリーズ独特の開発スタッフ“ヒストリアン”の存在にありました。今回は、ユービーアイソフト、ケベック・スタジオのヒストリアン、ジャンヴァンサン・ロワ氏のインタビューをお届けします。今回は前編、街のお話です。

公開日時:2015-11-20 12:00:00

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▲歴史考証を担当するヒストリアンを担当する、ジャン=ヴァンサン・ロア氏

ヴィクトリア朝を再現するために行われた、作業工程

−−ヒストリアンとして、『アサシン クリード シンジケート』の19世紀ヴィクトリア時代を再現するにあたり、いったい、どのような作業をしていったのでしょうか?

ジャン ヒストリアン、という職業は、ゲームクリエイターの職種としてはめずらしい、というか『アサシン クリード』シリーズ独自のものかもしれませんから、きっと気になるところですよね。ヒストリアンの作業の流れとしては、まず『アサシン クリード シンジケート』では、19世紀のロンドンが舞台になることが決まったところからスタートします。

−−舞台となる地の歴史を調べるのでしょうか。

ジャン そうです。様々な書類の検討を開始しました。今回の場合だと、主に19世紀当時のロンドンの地図や、写真などでした。都市を作るにあたり、地図はとても重要な資料なのです。ロンドンに関しては、19世紀のとても詳しい地図を見つけることが出来ました。この古い地図に加えて、後の時代の地図も合わせて検討していくことで、当時のロンドンについての、明確な様子が見えてきたのです。

−−年代ごとに、何枚もの地図を比較して検討していったのですね。

ジャン そうなのです。また特徴的だったのは、従来のシリーズでは写真はあまり資料として存在していませんでしたが、『アサシン クリード シンジケート』は近代が舞台なので、すでにこの時代には写真が発明されており、よく使われるようになっていたのです。なので、資料となる写真も数多く残されていました。

−−当時の写真をそのまま資料にできたのですね。ゲーム中でも、通りで写真を撮っている人がいました。

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▲これはロンドン博物館にある、当時のロンドンをエリア別に色分けしたマップ。赤は商店など、青は住宅、黒はスラムを表すのだという。開発室には、こうした地図がたくさん貼られており、いつでも質問に答えられるようになっているらしい。

ジャン はい。当時写真はできたばかりの技術でもあり、かなり話題になったものでした。ゲーム中でも出会うことのできる“チャールズ・ディケンズ”も、写真には興味を持っていたそうです。なので、こうした資料は豊富でした。地図や写真以外にも、様々な研究資料、それから新聞、そして、同時代を舞台とした映画作品などを参考にしながら、当時のことを研究していったのです。そうそう、建築用の青写真を見ることもありましたね。

専門家と挑んだ、壮大なるロンドンの再現

−−資料がふんだんにあったということは、本作での歴史考証はスムーズに進んだのでしょうか。

ジャン いいえ(笑)。むしろ、その逆でした。その理由は、ロンドンという街にあります。

−−ロンドンですか。

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ジャン 歴史的にも、世界の中心とされた都市です。先ほどお話したように、考証のために資料を検討しましたが、それ以外にももちろん、実際にロンドンの街を歩いて取材も重ねたのです。そのように実際に取材して実感できたことがあります。それは……『アサシン クリード シンジケート』のプロジェクトは、壮大で大きな挑戦であるということでした。ロンドンという街は、単に大きな都市であるだけではなく、複雑に歴史が重なり合った場所。その歴史の層が厚く単純ではなかったのです。

−−実際に歩いたからこそ、その複雑な歴史を感じられたのですね。

ジャン ゲームで歩いてもらえれば感じてもらえると思うのですが、道路のレイアウトも、たいへんに込み入っています。こうしたことひとつとってみても、都市の歴史の複雑さが現れているのです。このようにロンドンの歴史は一筋縄ではいかないものだったため、今回のプロジェクトでは、ヴィクトリア朝時代の専門家に助力を求めました。19世紀のロンドンについて研究している歴史家のジュディス・フランダーズさんや、ジャクソン・リー氏です。

−−発売に先駆けて、メディア向けに行われたロンドンのカンファレンスに登壇されていたおふたりですね。

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▲ヴィクトリア朝専門家のジュディス・フランダーズさん(左)とジャクソン・リー氏(右)

ジャン そうです。ふたりには大いに助けられました。また、そのほかにも19世紀の産業革命を研究している教授や、当時の衣装の専門家などにもお話を伺いました。

−−あらゆるスペシャリストが集って、ヴィクトリア朝のロンドンについての正確な歴史を考証していったのですね。

ジャン そうです。自分の仕事は、こうした多くの専門家たちが検討した情報を整理して、チームのメンバーと共有することも重要なことでした。『アサシン クリード シンジケート』の制作に参加しているレベル・デザイナーや、レベル・アーティストなど、多くの開発者が集まって“19世紀のロンドン”を構築しているので、まずはその“軸”となる部分を作る必要があったのです。

正確な情報の集積が街を息づかせる

−−なるほど。その軸こそが、ゆるぎない時代考証だと。

ジャン そうですね。まずは、正確なその時代の地盤をまず作り、そこに小道具や、群衆などといったディティールの部分を追加していく。『アサシン クリード シンジケート』では、誰もいない空間はほとんどありません。ロンドンを歩き回る、コスチュームに身を包んだ生き生きとした群衆がいます。さらに事務員などが働き、馬車で行き交う人々がいて……見上げれば線路には列車が通過している。そんなふうに、都市そのものが生きたものの集積から作られていなくては、プレイヤーに“そこを訪問した”という体験を感じてもらえないのです。

−−『アサシン クリード』シリーズでは、まるでその時代の街を実際に歩いているような気持ちになるのですが、その気持ちは、そうした情報の積み重ねが生んでいたのですね。ところで、ヒストリアンとしてのジャンさんにあえて伺いたいのですが、作り上げた19世紀のロンドンで特にどんな部分が気に入っていますか?

ジャン どれかひとつに絞るのは、なかなか難しい質問です。しかし、あえて言うなら、やはり先ほどお話したような要素が集約されているロンドンの市場は、重要な独自性を表す部分として気に入っていますね。ゲーム中にも、市場はいくつか出てきますが、中でも“コヴェント・ガーデン”の市場はよく描かれていると、手前味噌ですが関心します(笑)。本作の街は「息をしている」のだ、と説明するのが好きなのですが、特に市場に行くと、肉や魚などの食べ物、花などが並んでいて活気があり、息遣いが感じられるように思うのです。なので、ゲームプレイ中に市場を見かけたら、ぜひちょっと寄り道してみてもらえたらうれしいですね。

(後編に続きます)

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『アサシン クリード シンジケート』特設サイト “Inside Syndicate 1868”

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