HOME> インタビュー> 『キングダム ハーツ 358/2 Days』発売記念! 『キングダム ハーツ』シリーズの楽曲について、作曲家の下村陽子氏を直撃インタビュー!!
●発売直後の『ピアノ・コレクションズ
キングダム ハーツ』の話題も!
週刊ファミ通2009年6月12日号(2009年5月29日発売)に掲載されている『キングダム
ハーツ』特集では、シリーズ作品の楽曲を手掛ける下村陽子氏のインタビューをお届けしている。その記事に入り切らなかった貴重なお話の数々を含め、インタビューのノーカット版をファミ通.comで特別掲載!
『キングダム ハーツ』シリーズの楽曲の魅力から、下村陽子氏の作曲時の秘話まで余すところなくお届けするので、ぜひじっくり読んでほしい。
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下村陽子 |
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スクウェア(現スクウェア・エニックス)などのゲーム会社を経て、現在はフリーの作曲家に。『キングダム ハーツ』シリーズなど多くの楽曲を手掛ける。2008年、作曲家活動20周年を記念したアルバム、『ドラマティカ』を発売。 |
――『キングダム
ハーツ 358/2 Days』(以下、『358/2 Days』)ではニンテンドーDSの音源ということを考慮されましたか?
下村陽子(以下、下村) そうですね。同時に鳴らせる音数が据え置き機より少なく、キレイに響きづらい音もあるので、その中でよく聴こえるように想像して作っていきました。
――制限がある状況で、盛り上がる曲を作るのには苦労されたのでは?
下村 『358/2
Days』ではアレンジがメインで、新曲を含めて担当は10曲強あったのですが、そのすべてがたいへん! という状況でした(笑)。
――XIII機関が主人公になったことで、楽曲への影響などはありましたか?
下村 “XIII機関だから”ということはあまり考えていません。『キングダム
ハーツII』を遊んだ人はロクサスの運命を知っていると思いますが、意識せずとも自然と悲しくやるせない曲調になりました。
――たとえばXIII機関用に作った曲が、ほかのシーンで使われるということはあるのでしょうか?
下村 『II』を作っているときに、XIII機関をイメージしてバトルの曲を作ったのですが、そのときにスタッフに「もしXIII機関のバトルにふさわしくなかったら、ほかのボスの曲として使ってもいいですよ」と伝えたことがありました。でも、それはちゃんとXIII機関用に使われて、ほかのボスで採用ということにはなりませんでしたね。XIII機関の曲は、独特な雰囲気があるので、ほかのシーンで使われることはないと思っています。
――『358/2
Days』でとくに聴いてほしいポイントは?
下村 某新キャラクターの曲を聴いてほしいですね。と言うとバレちゃうかな(笑)。
――下村さんが考える、『キングダム
ハーツ』シリーズの楽曲の魅力はどこでしょう?
下村 必ず明るい前向きなバトルの曲があるところでしょうか。バトルで明るい曲というのはあまりないように思います。それを意識して、『I』のトラヴァースタウン、『II』のトワイライトタウンで、明るいバトル曲を入れました。
――作曲のうえで苦労する点は?
下村 作曲を仕事にしている以上、コンスタントに曲を作っていかなくてはいけないのですが、頭の中が空っぽで、どんなに絞っても音符の一滴も出てこないという状況があるんです。それをどう解決するかがポイントですね。自然と浮かぶときもありますが、どうしようもないときは「ちょっと2泊3日でいなくなります」と言ってこっそり旅行に行ったり、買い物に行ったりと、自分の環境を変えています。よくほかの作家さんと話題になるのですが、不思議なもので、締切ギリギリになったときのほうがすごくいいフレーズを思いついたりするんですよ。サクッとできる曲もあるのですが、曲によっては「きっとこれはもっとよくなるはず」と思って、いいメロディーが浮かぶまで待ってしまって。そうして待機させている曲が増えると、締切直前にたいへんなことになるんですけれど(苦笑)。
――詰まったときは気分転換するのが秘訣なんですね。
下村 気分転換しなくても、それがずっと続くことはないと思うのですが、そういう状態のときは「このまま1曲も作れないんじゃないか……」という不安が出てきてしまいます。ですので、その不安に押しつぶされないように、「気分転換をしないと!」と思いながら環境を変えていくんです。
――曲を待機させておくというのも興味深いですね。待っているといいものが浮かぶのですか?
下村
「音楽の神が降りてきた!」と冗談ぽく言うこともあるのですが、自分の力以上のもので突き進められる、押し上げられる瞬間が本当にあるんです。それを味わってしまうと、つぎもその瞬間を求めてしまって……。私は「音楽の神様が振り返ってくれるとき」と言っているのですが、その瞬間をずっと追って、追い続けて。これは音楽の本質に手が届くような瞬間なんです。それが来るかもしれないと思っていると、つい曲を寝かせてしまうんですよね〜。そして、それが積み重なって「下村は仕事が遅い」と言われることに(苦笑)。
――そういった瞬間を待って生まれた曲は、どの曲になりますか?
下村
『The Other Promise』などですね。あと、知らずに神様が降りてきた曲もあると思います。そういう曲は5分くらいでできて、提出してみたら即オーケーが出て、さらにすごい人気が出たり。そういうのは自分が気づかなかっただけで、神様が遠くで微笑んでいてくれたのかなと(笑)。でも、待ち続けてその瞬間がきたときが、いちばんうれしいですね。好きな人を追いかけて追いかけて、やっと振り返ってくれたような気分で(笑)。
――あきらめないことが重要なのでしょうか?
下村 そうですね。私がまだよくなるかなと思っていても、曲を提出すると「オーケーです」と言われることもあるんです。でも、それで満足しちゃダメという、自分のこだわりと言うかエゴと言うか……。『The
Other Promise』は逆のパターンで、私は「これでいける」と思ったのですが、哲さん(ディレクターの野村哲也氏)に「もっといけるはず」と言われ、必死になってもうひと盛り上がりを考えることになりました。「もう無理」という本当にギリギリのところで、音楽の神様が来てくれてよかったです(笑)。
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『キングダム ハーツII ファイナル ミックス』のロクサス戦で流れた『The Other Promise』。『II』の北米版をベースにした完全版、『ファイナル ミックス』で追加されたこの楽曲は、切ない物語をより盛り上げ、非常に高い人気を誇っている。 |
――たとえば『Roxas』から『The
Other Promise』へアレンジされたように、1曲を複数のバージョンにアレンジするのには苦労されるのでしょうか?
下村 曲によっては、これ以上アレンジしようがないという場合もあります。たとえばハロウィンタウンの曲は隙がないので、そういった曲でアレンジをお願いされた場合は「できません!」と言ってしまいます(笑)。ハロウィンタウンだけでなく、ホロウバスティオンもちょっときびしいですね。明確な線引きはないのですが、『Kairi』や『Dearly
Beloved』などのメロディーやコード進行が単純な曲だと、音と音のあいだにコソッと仕込めるのでアレンジがしやすいですね。
――「この曲は苦労した!」という、苦労した曲のトップ3を教えてください。
下村 う〜ん、そうですね。最近だと、『358/2
Days』の中にもかなり苦労した曲がありますね。哲さんの求めているイメージはわかるのですが、どうしてもニンテンドーDSの音源では実現が難しくて……。「こういう方向性だろうな」と提案してオーケーをもらっても、それをどう再現しようかと、けっこう苦労しました。あとは、さきほどお話した『The
Other Promise』と、トワイライトタウンの曲がたいへんでしたね。
――メロディーライン、アレンジなど、これがないと『キングダム
ハーツ』の曲と言えないポイントなどはありますか?
下村 自分の中に「『キングダム
ハーツ』の曲はこれだ!」というものはあるのですが……。自分でも「『キングダム
ハーツ』はこれでいいんだよね」と、それに問い掛けたりはします。確かに、自分の中にはそれがあるんですけれど、無意識の底のほうにあって言葉にできないというか……。
――では、『キングダム
ハーツ』とそれ以外の作品の曲調で、もっとも異なるものは何でしょう?
下村 私としてはそれぞれ曲調を変えているのですが、やはり言葉にするのは難しいですね。ただ、ほかのタイトルで作った曲を「『キングダム
ハーツ』っぽい」と言われて、「あれー?」と思うことはあります(笑)。音楽は抽象的なものなので、ユーザーさんの気持ちを投影することもあると思うんです。「ここに『ライブ・ア・ライブ』っぽさを感じる」と言う方がいたり、「『スーパーマリオRPG』の流れを汲んでるよね」と言う方もいたり。同じ人間が作っているので、どこか似ている部分があるとは思うのですが、聴いているうちにそれぞれの方の好きなものが投影されて、『キングダム
ハーツ』っぽかったり、『ライブ・ア・ライブ』っぽかったりすることはあるかもしれません。
――ほかの作品の曲を作るときは、『キングダム
ハーツ』と違うルールにのっとって作曲されているわけですね。
下村 そうですね。ほかの作品ではほかのルールがあります。ただ、『キングダム
ハーツ』は私が関わるタイトルの中で数少ないシリーズ作品なので、そういうルールが蓄積される重みはあると思います。『キングダム
ハーツ』はとくに、自分の中で色濃く積み重なっているルールがあるということですね。
――その分、『キングダム
ハーツ』の作曲は、シリーズを積み重ねるごとに楽になりますか?
下村 いやー、哲さんの頭の中がまだまだわからなくて(笑)。「これは大丈夫だろう」と思ったものがボツになったり、自分的に「これはどうだろう?」と思うものが褒められたりしますね。そのたびに、私もまだまだだなあと(苦笑)。
――世界中で人気の高い『キングダム
ハーツ』シリーズですが、世界中にファンがいるという状況をどのように感じられますか?
下村 海外のファンの方からメールをいただいたり、海外のコンサートに呼んでいただいたりして、そういうとき、皆さん非常に熱い反応をしてくださってるんです。メールなどは、翻訳サイトで翻訳しながら読ませていただいているのですが、実際にコンサートなどに行くと、英語がしゃべれなくてもコミュニケーションが取れるんです。ちょっとでも曲を口ずさめば、相手が続きのメロディーを口ずさんでくれたり。月並みな言葉ですが、音楽に国境はないんだなと実感させられますね。
――そういったファンの多さがプレッシャーになることは?
下村 プレッシャーは感じないようにしています。ないと言えば嘘になりますが。プレッシャーよりもモチベーションの向上につなげられるようにしたいなと思っていますね。つらいこともありますが、その分楽しい瞬間もあるので、楽しいときは最大限に楽しんで、つぎにつなげていこうと思います。
――つらいときは、そういったファンからのメールなどを励みにするのでしょうか?
下村 ちょっと恥ずかしいのですが、作曲で「ダメだ、つらーい!」と感じるときに、ユーザーの方からのメールやブログで「この曲が好き」と書いてあったのを思い出して、その曲を実際に聴き、「ああ、この曲を好きだと言ってくれる人がいるんだったら、新しい曲もそう思ってもらえるようにがんばろう」と、自分を奮い立たせることがありますね。やはりユーザーの方からのメッセージは励みになります。
――作曲家活動20年を超えられましたが、ゲーム音楽の作曲を始められたころと現在とでは、意識することに違いはありますか?
下村 ゲームが好きで、ゲームの世界観に合ったものを作りたいという思いは最初のころから変わっていませんね。「もっと自分の作りたいものやジャンルをアピールしたほうがいいんじゃないか」と言われた時期もあったのですが、もう開き直って「受け身でいいじゃん!」と(笑)始めから“ゲームに合ったものを作っていく”というところに楽しさを感じていたので、それをポリシーに作曲をしています。
――作曲を行う環境はすごく変わったのでは?
下村 それはもう、大きく変わりましたね。最初にパソコンで作曲したときは、MSXにカセットを挿してやっていたのが、いまはパソコン上でソフトシンセサイザーなどを使って作っていますから。MSXでファミコン用のゲーム音楽を作曲していたときは、ピアノの音を使おうと考えることはなかったんです。ピアノっぽいフレーズを一生懸命作っても、どうしてもピアノに聞こえなかったので(笑)。最近は、当然のようにピアノの音を使えるので、逆に「人間の手では、こんなピアノの曲は弾けないだろう」というアプローチの仕方もできますね。
――下村さんにとって、ピアノは特別な楽器ですか?
下村 そうですね。いろいろ浮気しつつも、戻ってきたので。やはり特別ですね。
――すべての曲をピアノだけで奏でている『ピアノ・コレクションズ
キングダム ハーツ』が発売されましたが、その魅力を教えていただけますか?
下村 ピアノのキラキラした感じや、速いパッセージ、そして力強い音などを盛り込んだ、お腹いっぱいのアルバムにしたかったのですが、それがかなったなと。フルオーケストラ演奏の『ドラマティカ』もそうですが、私が作るものは、どれもお腹いっぱいにしたいんですよね(笑)。1曲の中にドラマ性を盛り込みたくて、それを全部の楽曲でやってしまうんです。順番に聞くのではなく、曲をシャッフルして聴いても、1曲1曲ドラマチックになっているのではないかと思います。
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好評発売中の『ピアノ・コレクションズ キングラム ハーツ』。このアルバムか『358/2 Days』のソフトを買って、封入されているポイントをスクウェア・エニックス メンバーズのサイトで登録すると、公式サイトでプロモーションビデオ撮影のメイキング映像が見られる。「私、こんなこと言ってるんだなあとか、態度でかいなあとか、とにかく恥ずかしかったです(苦笑)」という下村さんのナチュラルな姿も満載。 |
――下村さんの曲はどれもドラマチックですよね。
下村 私の曲は1〜2分ぐらいの短いものが多いんです。その短い曲の中にひとつでもドラマを入れようとすると、とても濃い曲になってドラマチックに感じられるんだと思います。
――アルバムに入っているソナタ形式の“-Sonata
on Themes of KINGDOM HEARTS-”もおもしろい構成ですね。
下村 そうですね。全部ふつうにアレンジしていくよりも、よりピアノのアルバムっぽくなっていいかなと。
――『Dearly
Beloved』の“超絶技巧バージョン”とおっしゃっていた、『Concert Paraphrase on
'Dearly Beloved'』は、とにかくスゴいテクニックですね。
下村 『Dearly
Beloved』の通常バージョンは、そんなにピアノをやっている人じゃなくても弾けるものなんですよね。ですので、逆に長くピアノをやっている人向けに作ったのが、超絶技巧バージョンです。
――以前、『ピアノ・コレクションズ
キングダム ハーツ』のプロモーションビデオ撮影の中で、『Concert Paraphrase
on “Dearly Beloved”』を、ピアノを弾く方に実際に演奏してほしいとおっしゃられていましたが?
下村 ピアノの先生をやっている友人がいるのですが、そこの生徒さんが『キングダム
ハーツ』のCDを出して、「これを弾きたい」と言ってくれたと聞いたんです。そんなうれしいことがあるなら、発表会でできるような曲を作って、できることなら楽譜も出して、皆さんに弾いてほしいなと。私が幼いころにショパンの曲に憧れて練習したように、この曲がそんな立ち位置になってくれるとうれしいですね。
――プロモーションビデオの公開収録はいかがでしたか?
下村 感想などを書かれているブログなどを拝見したのですが、皆さんの熱い想いが伝わってきて、うれしいですね。ユーザーさんと会える機会はそんなにないので、せっかくひとりひとりと触れ合える機会だったのに、私がテンパって「ありがとうございます、ありがとうございます」とお辞儀人形みたいになってしまって(苦笑)。もっと落ち着いていろいろとお話できればよかったなあと思っています。次回は撮影なしでやりたいな(笑)。
――『358/2
Days』のつぎは、『バース バイ スリープ』や『FF ヴェルサスXIII』、『ザ・サード
バースデイ』などが控えています。
下村 『バース
バイ スリープ』や『ザ・サード バースデイ』は、いままさに制作中ですね。新曲を作っています。『バース
バイ スリープ』は『358/2 Days』より新曲が多いですよ。『ヴェルサスXIII』は、これからがんばります(笑)。
――最後に、ファンの方へメッセージを。
下村 ただゲーム音楽が好きで続けてきたことが、こんなにファンの方に応援していただけるのは非常に光栄であり、幸運であり、幸せです。楽しみに待ってくださっている方がいるだけで、私の心の支えになっています。その皆さんの気持ちに応えられるように、今後もがんばります。
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