欧米よりもアジア圏の人がアイテム課金を行いやすい?

 どうして、日本人がソーシャルゲームに対して、世界的に高いお金を支払うのかは、ほとんど謎といっていい。

 

 昨年、世界最大のスマートフォン向けのソーシャルゲーム市場があるアメリカと比較して、日本の市場規模は互角に並んだ。とても単純化して考えるが、日本の1億2000万人で、アメリカが3億1600万人であるため、一人当たりの1ヶ月のスマホソシャゲへの支払金額は3倍という計算になる。

 

 実際には、ソーシャルゲームの収益は課金している上位5%以上の多額の課金をしているユーザーに依存しているため、平均はあまり意味がないとは言えるが、疑問が生まれる。

 

 よく言われるのは、海外では一般化することが難しい1回300円が必要なガチャのような、高い金額のアイテム課金が、日本のユーザーが支払うことに慣れており、その定着が大きいと言われている。それでも、05年頃から日本でもアイテム課金が一般化したMMORPG(大規模オンラインRPG)の分野でも、日本人のアイテム課金への支払い率が高いといわれていた。

 

 どうも、スマホソシャゲでだけで、起きている現象ではないようだ。

 

■賭け事にのめり込むのは欧米よりもアジア圏の人

 

 それで、おもしろいデータに出会った。もしかすると「民族性」が影響を与えているかもしれない、と考えられるのだ。

 

 1月24日に、都内で、依存学推進協議会のシンポジウムが行われた。この団体は、依存症のメカニズムや調査研究を行うことで、社会的に過剰な問題を引き起こさないためには、何をするべきかを議論していく団体だ。

 

 特に、今後日本でも作られるギャンブルの依存症について、海外の知見を紹介し、日本では不足している実態調査を行い、その問題に対応する仕組みを整えることを目標としている。

 

 近く、この団体では包括的に「依存症」についてまとめたレポートを発売する。講演の中で、その一部が紹介されたが、病的なギャンブル依存へと発展する可能性のある有病率をまとめたデータが紹介された。カナダのオンタリオ州政府と、韓国、日本のデータを整理したものだ。このデータが非常に興味深い。欧米圏とアジア圏とで、はっきりとした違いがあるのだ。おしなべてアジア圏の方が、有病率が高い。

 

 欧米圏では、アメリカでは1.2~2.3%、イギリスでは0.6~1.6%、カナダでは0.6~1.8%と、1%~2%台だ。

 

 一方で、アジアは、日本が5.6~8.6%、韓国が6.5~9.5%、香港が3.3~5.8%。最も低いシンガポールで2.6~2.9%。それでも、アメリカより高い。

 

 日本データが存在しないため、正確な比較はできないが、病的な状態にまで進む人の割合のデータも調べられており、その傾向もアジア圏が高い。どうも、「アジアの人の方が、ギャンブルにはまりやすい」という傾向ははっきりとあるようだ。

 

 なぜ、これほどの違いがあるのかは、大阪商業大学教授の谷岡一郎教授は「原因は説明できない」と述べていた。「民族による違いがあるのでは」といった説明までしかできないという。

 

 ギャンブルとソーシャルゲームを比較して議論するのは、若干乱暴な議論ではあるだろう。しかし、似たような刺激を受けていると想定することはできる。これが日本人のアイテム課金への課金率の金額の高さを、説明するヒントとしては使えるのではないかと思う。

 

 もちろん、「有病率=害悪がある」ではないことには、注意してほしい。

 

■依存症は7年間かけて浸透する

 

 これらの調査が行われるのは、カジノを運営している国や地域が予防をして、適度な「はまり」の中で、楽しめる環境を提供するためにはどうすればよいのかを考えるために行われている。カジノの場合には、依存症の専門病院がカジノに併設されるのが一般的だ。その基礎的なデータとなる。

 

 実際には、病的な依存症にまで発展することは少なく、生活に支障が出始めた段階でどの程度予防できるのかが重要になる。

 

 ギャンブルの場合は、お金がかかっており、また、買った場合には得られる金額も大きいため、重度の依存症にまでなった場合には、しっかりとした治療が必要になる。

 

 明白には証明されていないが、ゲームで得られる刺激は、射幸心を利用していることを考えると、ギャンブルでもソーシャルゲームでも似ていると考えられる。

 

 ただ、ソーシャルゲームの場合は、相対的に使う金額が少なく、換金もできない。そのため、類似の刺激を受けていても、刺激量は少ないと推測することができる。

 

 例えば、私は明らかに、今ソーシャルゲームに、はまっている。最近は一日の1時間は遊んでいる。ただし、病的な依存状態とまでは言えない。ゲームのために借金をしたり、家庭を崩壊させたりはしない。やめようと思えばやめられる。適度に「はまっている」のだ。

 

 適度に楽しめる状態を維持することは、とても重要だ。ギャンブルなどでも娯楽として、長く楽しめる状態を作らなければ、結局は、その娯楽は社会的な批判を受け、廃れていくことになる。

 

 ひどい依存状態になると、だんだんと時間をかけて、病的な状態へと重くなっていく。「7年間かけて浸透していく」(谷岡教授)という。その進行を適度なところで、どのように予防するのかが重要になる。

 

 ソーシャルゲームが08年頃からブームになり始めて、そろそろ7年目なので、重度な依存症のユーザーが登場するのだろうか?

 

 ただ、裏を返すと、7年も経つと、社会に定着してくると言い換えることもできる。今では、ソーシャルゲームのアイテム課金は社会的に定着してしまった。社会上で支障が起きない軽度に「はまっている人」が、多数存在するのだろう。

 

 しかし、民族によって、なぜ、これほどまでに違いが出るのだろうか?

 欧米の「狩猟採集民族」と、アジアの「農耕民族」という、昔からよく言われる単純な比喩が浮かぶが、どうもギャンブルと結びつかない。

 

 長い時間をかけて、こうした傾向は生まれてきたと思われるが、江戸時代以前の日本人は賭け事が、欧米圏の人たちよりも好きだったのだろうか。多分、そうだったのだろう。

2014年2月5日 11:55