マイクロソフトはPS4への奥の手をまだ隠しているのではないか?

 米ロサンゼルスでゲーム見本市「E3」が行われた。10日のプレスカンファレンスで、前評判を覆してソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション4(PS4)」の発表が高い評価を獲得するに至り、にわかに注目が集まり始めた。中古販売の方針を変更なく既存と同じ方式でやり、価格設定が399ドルということで、PS4は様々な意味で、2月の最初の発表時よりも魅力的な提案をしていた。そのため、私自身も、日経新聞電子版に「プレステ4に復活託すソニー スマホと共生で『不要論』払拭」という記事を書いた。

 

 次世代機の対抗馬となるマイクロソフトの「Xbox One」が499ドルと、新型の体感型コントローラー「Kinect」が最初からついているとはいえ、いくらなんでも競争力のない価格設定ではないかと感じられた。これは聴衆の失望した雰囲気からも伝わってきた。また、中古ソフトには個人認証システムを作り、友達にゲームを貸しても動かないといったことになるため、その点でも評価を下げていた。ただ、マイクロソフトが、この状態がすんなり市場に受け入れられると信じているとは思えない。

 

 ところが、筆者は、時間が経つにつれ、現状のまま今年後半の発売日を迎えることになるのだろうか? という疑問を感じるようになった。ハードウェアの設計としては、PS4は、Xbox Oneよりもハードウェア性能は若干低いと言われている。その上、機能向上したKinectを標準装備するため、それが99ドル分高くしている要因と見られている。しかし、スマートフォンの安価なゲームに押されるようになっている現在、新規の家庭用ゲーム機を購入して、さらに60ドルもするゲームを購入するには高すぎる。専用タイトルが揃っていない状況の中で、喜んで新ハードを購入するユーザーは限られるだろう。

 

■たびたび流れていたXbox 360の無料配布モデルの噂

 

 実は、昨年から、アメリカのゲームメディアでは、すでにXbox 360は製造コストがかなり下がってきているため、Kinectをのぞけば、無料で配布しても十分にビジネスになるという議論が出ていた。月10ドル前後の有料会員制度の「Xbox Live ゴールドメンバーシップ」による収入によって、数年間で回収できると推測されてきたためだ。ところが、今回のプレスカンファレンスで、マイクロソフトはそのカードを切ってこなかった。

 

 筆者は、SCEが2011年に、携帯型ゲーム機の「プレイステーション Vita」を9月に発表したプレスカンファレンスには相当失望をした。「PS Vita」の最大の売りは3G回線への接続を利用したGPSを使った新しい遊び方の提案だった。ところが、3G回線に接続するにはNTT Docomoと通常の携帯電話回線に近い契約を行わなければならず、なおかつゲームを遊べる時間制限による一番安い「プリペイドデータプラン20h」で20時間しか遊べないため、完全に自殺行為と思われた。ゲームを遊ぶ上で、ネットに時間制限を設けたサービスで成功したケースはない。

 

 この発表に、今のSCEのビジネス設計力と交渉力の低さに、当時は呆れた。率直に言うとソニーは混乱していると思った。事実、3Gモデルは売れず、Wi-Fiモデルだけが売れるようになった。目玉の1つだったソーシャル機能は成功しているようには思えない。

 

■マイクロソフトは米国向けにサブスクリプションモデルを取る?

 

 今回のE3では、PS4は価格においては第1ラウンドを取ったが、勝ったわけではない。

 

 マイクロソフトは、昨年から、アメリカのケーブルチャンネルやオンデマンドサービスなど様々な企業に声をかけ、Xbox One向けにサービスを提供してくれないかという交渉をしているという情報が、3月の米サンフランシスコのGame Developers Conferenceの席上では噂として流れていた。これらの対応については先行した5月のお披露目のプレスカンファレンスで明らかにされたが、具体的な価格モデルの発表はなかった。そして、おもしろいことも起きた。日本のメディアは、基本参加できなかったのだ。なぜ、そうしなければならなかっただろうか。Xbox Oneは、欧州も含めた、世界主要国に年内に発売すると発表は行われているため奇妙だ(日本については曖昧)。

 

 しかし、マイクロソフトは、アメリカでのセットボックスとして、市場を固めることを、最初の戦略としておいているのではないだろうか。最大の切り札は、ハードを299ドルなりの低価格で発売し、電話キャリアと連動するなどして、2年縛りで、「Xbox Live ゴールドメンバーシップ」の加盟を必須とすることだ。その上で、多数のストリーミングやレンタルのオンデマンドサービスを組み合わせる。これならば、発売当初こそは赤字であったとしても、数年後の黒字転換は不可能ではない。299ドルならば、任天堂の「Wii U」のプレミアムセットの299ドルとも張り合えるため、かなり有利になると思われる。もちろん、SCEもこのモデルを検討しているようだが、実際には初期投資が大きすぎるため、財政面で不安を抱えるソニーグループが現時点で実施するとは考えにくい。一方で、日本ではアメリカほどケーブルテレビが発達していないため、同様の展開は当初は行われないだろう。

 

 マイクロソフトは、販売当初は、すでに市場では最も有利な立場になっているアメリカ市場に絞り込んで、まず勝つことを狙いに来ているのだろう。それなら、プレスカンファレンスに、日本のメディアを閉め出したと辻褄が合う。そして、夏から秋に発表をぶつけることで、PS4の立ち上げに打撃を及ぼすこともできる。SCEの今回の勝利は順風満帆とは言えないと筆者は見ている。今後も価格に対する慎重な駆け引きは続くだろう。

2013年6月17日 18:50