人間の認知が「ドラクエX」で「ドワーフ」を不人気種族にする

 8月2日にサービスが始まった「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」で、「ドワーフ」が不人気種族だと聞いている。そりゃそういうことは起きるだろうなぁ、と内心感じていた。というのも、仮想世界にも関わらず、人間は身長差に対して、極めて敏感に反応するように認知が作られているからだ。5種類ある種族のうち「ドワーフ」の身長は、「オーガ」や「ウェディ」に比べると露骨に低い。単純に比較すると半分以下だ。これが奇妙なことに感じられるかもしれないが、人間の認知に大きく影響を与える。

 

 たとえMMORPGという仮想世界の中であっても、人は見た目で相手のことを判断するのだ。

 

■女性が男性に求める重要な要因は「身長」

 

 そもそも人間が自分の好みを決定する心理には、「身長」を重要視する傾向がある。シカゴ大学ビジネススクールのGunter Hitsch教授が行った有名な研究がある。03年に2万2000人に対して、アメリカのオンラインデートサイトを分析して、男女のデートが成功する重要な要因は何かを調べたものだ。

 

 デートサイトには、自分の特徴を入力しなければならない。身長、高さ、収入、体格といった特徴を入力が必要になる。またやり取りのデータも生まれる。実際に会うことに成功した人の回数や、写真、メールのやり取りといった情報が比較研究され、成功の要因を特定することができた。それらの情報は、数値化が容易に行いやすい、統計分析が行いやすい対象だったのだ。


 その結果は、驚くべきものだった。


 女性が、男性の価値を判断する場合には、「年収」を重要な判断材料としている。まあ、これは当然といえば当然だろう。しかし、特に女性が、男性を判断する場合に、もう一つ重大な影響を与えているのがある。それが「身長」なのだ。そして、それが「年収」と極めて深く連動している。


 男性の場合は、「例えば、5フィート6インチ(170cm)の男性は、おおよそ6フィート(182cm)の身長(サンプル内の平均的な身長)で、6万2500ドルの年収の男性と比較して、さらに1万7500ドルの年収が多いことが、希望として求められる」(※1) 


 一方で、身長が低ければ低いほど不利になる。


 5フィート(152cm)の人だと、6フィートの人に比べて3万1700万ドルほど高い収入が期待される。逆に、6フィート10インチ(186cm)の人だと、年収が6300ドル少なくても許される。


 ちなみに女性の場合は、男性から、背が高すぎない女性が好まれる傾向があり、5フィート4インチ(164cm)以下だと収入が高いことを期待されていない。


 もちろん、これはアメリカ人を対象にして行われた研究なので、そのままの数値を日本人に当てはめることはできない。このデータは、黒人、ヒスパニック、アジア系といった白人でない少数派の民族の場合にも同じように、同じ条件では高い年収を求められるといった影響を与えていることもわかっている。ただ、一般的な傾向として同じようなことはありうるだろう。

 

 この結果には、いくつもの解釈があるが、女性が男性を見る場合には、子供を産み、育てていく上で遺伝的に有利な相手を自然と選んでいる傾向があると考えられている。男性の場合は、女性に年収を期待するのではなく、子供を生んでくれる魅力的な相手の方を探す方に注力していると考えられる。もちろん、遺伝的には数百万年以上の積み重ねが生みだした一般的な傾向であって、個々人の趣味は関係ない統計処理の結果であることは、ご注意を。

 

■仮想世界のアバターにも影響を与える「身長」

 

 と、ここまでの研究は、実際にリアルな人間の話だ。ところが、この法則が「仮想世界」であっても同じような効果があることを、スタンフォード大学のNick Yee氏が07年にまとめた研究で突き止めている。(※2)


 身長の高いアバターを使っている人は、低いアバターを利用している人よりも、交渉が楽になるというのだ。視覚的に身長が低いアバターを使う人は、不利な交渉を相手に飲んでもらう場合には、標準サイズや背の高いアバターの人と比べて、3倍も難しくなるというのだ。面白いのは、そうした判断を被験者がなぜ行っているのかを実験が終了した後に聞いても、背の高いアバターの人であれ、背の低いアバターの人であれ、無自覚的に行っているという心理的な効果が見られるということだ。


 これは、現実世界での身長からまったく影響を与えることなく、アバターの身長がアバターの活動を変えてしまうことを実証している。アバターを操作している人の「自己認識」が、行動そのものを変えてしまうのだ。


 さらに面白いことに、高い身長アバターを使って仮想世界の中で自信を持つことができる人は、仮想世界の外側に出ても、自信があふれるように変化していくということが発見されている。現実世界で同じ身長だが、仮想世界の中で身長が高い人とそうでない人が、現実世界の中で顔と顔を合わせ、交渉を行った場合に、背の高い人の方が交渉を有利に運ぶというのだ。人間の認知が生みだす心理的な影響が、現実世界のみならず、仮想世界にも影響を与えているのだ。

 

 仮想世界の身長が高い相手と、仲間になったからといって、遺伝的に有利なのだろうか? 身長の低いアバターを使っている人は、そういう人間の認知が生みだす偏向の影響があることは、意識してもいいかもしれない。ただ、奇妙な話であり、不公平だと、多くの方は思うだろう。同時に、なぜ「ドワーフ」が不人気種族になるのかも、キャラ選択時に、不利になることを人間が何となく認知している可能性もあるのだ。

 

 実は、仮想世界の装備の豪華さでも同じ効果が出ることも、発見されている。もしかすると、身長が不足する分は、現実世界で年収が連動するように、豪華な装備で補うしかないのかもしれない。


(※1)Gunter J. Hitsch, What Makes You Click? - Mate Preferences and Matching Outcomes in Online Dating(訳は筆者訳)

 

(※2)Nick Yee, The proteus effect: modification of social behaviors via transformations of digital self-representation
Yeeについては、Jim Blascovich, Jeremy Bailenson "Infinite Reality: Avatars, Eternal Life, New Worlds, and the Dawn of the Virtual Revolution" P.105の研究の要約を参考にしている。

2012年8月20日 14:44