IBM vs HP 第2回
第2回 サービスカンパニーだからこそできるIBMの提案とは
IBMを象徴する「THINK」という言葉
IBMには、「THINK(考えよ)」という言葉が根付いている。
これはワトソン・シニア氏が、C-T-Rに入社する以前に勤務していたNCR(National Cash Register)の営業部長時代に使用していたモットーだという。
C-T-Rに入社し、全社員に対して、ワトソン・シニア氏が発した最初の言葉は、「私はなにをすべきか」だったという。
社員の多くは、上司から求められたことに対して仕事をするという発想がベースであっただけに、この言葉を聞いた社員には大きな驚きがあった。
ワトソン・シニア氏は、組み立て製造ラインの作業員から技術者、販売員、秘書に至るまで、すべての従業員が「考える」ことが大切であると呼びかけ、それとともに、経営トップに対して意見が直接言える環境を作り上げた。当時の企業体質にはない、まったく新たな発想が、このTHINKであったというわけだ。
IBM社内には、THINKとかかれた文字があちこちに張り出され、IBMの社員は、表紙に「THINK」と刻印されたポケット・サイズのメモ帳を持ち歩き、いまでも、IBMを象徴する言葉となっている。
そして、同社では、THINKという言葉が、企業のベースに常に存在していたことが、IBMを100年企業とした理由のひとつであるとする。
ちなみに、IBMが1992年に発売したノートPCのThinkPadは、もちろん、この「THINK」という、IBMに根付いた言葉をベースに命名されたものである。

PC事業売却に象徴されるサービス企業への転換
IBMにとって、2004年のPC事業の売却は重要な決断だったといっていい。
1981年にIBM PCを発売し、その後、IBM PC/ATが業界内の標準アーキテクチャーと位置づけられるようになったこと、そして、IBMに根付いた「THINK」の文字をブランドに使用した製品を含むPC事業を売却するということは、当時、業界内でも大きな話題となった。
2004年12月、米IBMは、中国のレノボグループにPC事業を売却することを発表した。
このときの発表によれば、米IBMは、レノボから6億5000万ドルの現金ととともに、6億ドル相当のレノボの株式を取得。さらに、レノボは約5億ドルという、IBMのPC事業の負債を引き継ぐという条件だった。そして、5年間にわたって、レノボが、開発、生産するPCに、IBMのロゴを使用できる条件までもが盛り込まれた。
だが、このとき、IBMにとっては、ハードウェア事業の限界がすでに見えていたともいえる。
この時の条件に盛り込まれたように、IBMのPC事業の負債は5億ドルにのぼっており、社内においてもお荷物といわざるを得ない状況となっていたのだ。その点では、PC事業の売却は、外部からみるよりも、IBMにとっては当たり前の選択肢だったともいえる。
その一方で、収益性の高いサービスカンパニーへの転換を急ぎ、2002年にはコンサルティング会社であるPwCコンサルティングを買収したほか、1995年のロータス、1996年のTivoli、2001年のInformix、2003年のRational、2008年のCognos、2009年のSPSS、2010年のNetezzaといったソフトウェアの大型買収を継続的に進めており、2011年度の業績では、グローバル・テクノロジー・サービス部門、グローバル・ビジネス・サービス部門、ソフトウェア部門をあわせた売上高は851億ドルとなり、全売上高の80%を占めている。
zシリーズをはじめとして、自社ブランドのサーバー製品を持つものの、ハードウェア事業の構成比は極めて低いといっていい。
IBMが取り組むスマータープラネットとは?
そのIBMがいま取り組んでいるのが、スマータープラネットである。
これは、まさにサービスカンパニーであるIBMだからこそ提案できるものだといっていい。
2009年にIBMが提唱したスマータープラネットは、環境、エネルギー、食の安全など、地球規模の課題をITを活用することで解決し、地球をより賢く、よりスマートにしていくというコーポレートビジョンだ。

この100年の間に世界人口は3倍以上になり、水の使用量が6倍に増加しているものの、全世界の5人に1人は安全な飲み水が確保できない状況にある。また、水道設備の水漏れのために貴重な水を最大50%も失っているという試算があり、今後の人口増で、さらなる水不足も懸念される。
一方、北米の小売業においては、在庫切れによる機会損失が9兆3000億円に達しているという事実や、世界の飢餓人口が9億6000万人にも達しているにも関わらず、日本では9000万トンの食料のうち21%が廃棄されているという実態もある。
IBMでは、交通、油田、食料生産・流通、医療、送配電網、小売・サービス、水管理、サプライチェーン、国家、天気、土地管理、都市といった、社会のあらゆる領域で無駄と非効率性を解決することが必要だとし、その解決を図る取り組みをスマータープラネットと表現している。
たとえば、こんな例がある。
日本における渋滞の影響度を換算すると、年間で38億時間もの時間が消費されており、1人あたりに換算して年間30時間もの時間が無駄にされていることになるという。これは、12兆円もの損失に匹敵し、GDPの2%相当にあたるコストが無駄になっているともいえる。
渋滞解消は世界規模での課題となっている。世界規模での無駄は相当なものになるだろう。さらに、新興国では10人に1人といわれる自動車の所有率が、今後は3人に1人になるといわれており、これはさらなる交通渋滞を引き起こす要因にもなる。

スマータープラネットでの解決例として、スウェーデンのストックホルムでは、センサーやカメラなどを利用して、料金所を設けずに都市部に入ってくる車両に対して、渋滞税を課金。ドライバーは、口座振替か、銀行決済、ネット決済などで支払う仕組みを構築した。
この結果、料金所で新たな渋滞を発生させることなく課金することで、都市部の交通渋滞を約25%緩和。CO2排出量は40%削減され、公共交通機関の通行速度が上昇し、公共交通機関の利用率が6%高まったという。また、市内の小売店の売上高が6%増加するというように、交通渋滞の解消やCO2排出量の削減だけでなく、新たな収益減を生み出すという結果にも結びついている。
このように、ITを活用することで、社会の課題を解決し、無駄や非効率化を削減。社会全体の効率化を図ろうというわけだ。
サービスカンパニーであるからこそ、こうした社会全体の課題解決に取り組む姿勢を表明できるともいえる。ハードウェアメーカーでは限界があった提案を、サービスカンパニーのIBMは行えるのだ。(つづく)
2012年2月17日 13:16
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