プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)副会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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ゲームクリエイター稲船敬二氏が立命館大学を訪問(後編)

小規模プロジェクトにも大規模プロジェクトにも対応可能なクリエイターとして、『踊る大捜査線』シリーズで知られる本広克行監督を挙げていた、マルチメディアコンテンツクリエイターの稲船敬二氏。本広監督との会話から、監督は実際に、テレビドラマと映画では演出手法を全く変えていたと聞いて驚いたとのことでした。テレビドラマ撮影時はコマーシャルを意識して撮る。つまり、カット割りやシーンも15分しか持たない人たちが視聴していることを前提につくっているのに対し、映画は、2時間は覚悟している人を意識して、撮り方も変えているとのこと。ゲームクリエイターもそのような臨機応変さが必要だと述べました。

後半は、グローバル化やソーシャルメディアに順応したユーザーの飛躍的増加に、作り手は如何に対応するべきかを聞いていきました。

では、早速、対談の中から稲船氏の発言を確認していきましょう。

        ▲気宇第一部での学生との対話も非常に楽しそうでした。


『ロックマン』での敵キャラデザイン応募企画はユーザーに当事者感を実感してもらうのが目的

 
中村:『ロックマン』と聞くと、いまだに覚えているのがボスキャラクターの一般公募なのですが、今改めて考えると、あれはアナログ時代ならではのユーザー参加型だと感じたんです。なぜあのようなことをしようと考えたのですか?

稲船敬二氏(以下、稲船:)当事者意識というのが重要だと考えたんです。僕たちは8体のボスキャラを考えるのが面倒くさいからユーザー募集をかけたわけではないのです。アイデアはいくらでも出すことができます。実は当時、大体のコンセプトは固めていました。そうしないと間に合いませんから。でもそのコンセプトに合う応募者の作品が必ず出てくるのです。それを入賞としてセレクトするのです。一番多い時は20万人のユーザーから応募いただきました。当事者意識を持たせることによってその20万人が仲間になるのです。ユーザーとしてゲームを買うことのモチベーションも高まります。
 入賞作品もそれが技術的にうまいから選ぶわけではなくて、一生懸命さや、もともとの僕らのコンセプトと合致しているかを選ぶのです。中には一生懸命描いたけど、どうも納得いかなかったのでしょうね。何回も消しながら結局キャラクターの名前だけが描かれていて、あとは「デザインはそちらで考えてください」とひとこと(笑)。デザイン募集だったのですが、応募者の気持ちは痛いほど伝わりました。これはすごく嬉しかったですね。

中村:では、これからの時代におけるユーザー参加型はどうなると思いますか?

稲船:アバターコミュニケーションは重要ですね。テキストだとどうしても自分の主張を制御できないのですが、アバター同士の会話だと個人が特定出来る状態じゃなくても罵倒、暴言を見ないのです。やはりキャラクターの向こうにリアルな人が存在するということを自然に意識しているからでしょうか。自主規制がかかるのです。ダレットでサービスしていたときも、相手のキャラクターを見えないようにする機能などがありましたが、それはほとんど使われなく必要なかったのです。コミュニケーションが、うまくとれたという覚えがあります。リアルだとどうしても固定観念が生まれてしまいます。ですが、アバター上だとそのような社会通念上の格差や外観とは無関係に人間関係を築き上げることができるのです。当然、脳内補完をしているのですが、アバターを介していればより人間的なコミュニケーションができるのだなと思いました。これを活用していくと、もっと違った友人がつくれると感じました。

中村:ゲームにはどのような影響してくるのでしょう?

稲船:ソーシャルゲームというのはただ単に自分だけで遊ぶというよりは、友達や自分と関わりのある人たちとプレイするのが前提ですよね。『怪盗ロワイヤル』なども単にコンピュータとやっていたらお金まで投じてプレイするというところには至らないでしょう。人にアイテムを取った、取られたというところに、ライバル心や悔しさというのが生まれる。これは『ストリートファイター』も同様なのですが、それが重要なのです。

実はコンシューマ、アーケード系ゲームもかつてはそのような要素があったのです。ですが現在はインターネットやオンラインでのつながりなどで、コミュニティを築きあげやすくなりました。だから、アバターを介したコミュニケーションサービスでも、より多くの人が関われそうなイベントアイデアは、現実に存在するはずです。多くの人が何かをきっかけにつながっていくような状態をネットでもつくりあげることが出来るはずです。劇場用アニメ『サマーウォーズ』は正にそれを示していますよね。ただあのシステムを作り出すことを誰がどれだけの資本で何の目的をもってやるのかという所まで行きついていないので、実現していないだけです。まだ、ゲーム業界側は、それぞれのゲームを単発で開発して利益をあげるというモデルになっているので、限定品で人が並ぶような光景もありますが、アバターコミュニケーションと連動させれば単に、先着以外の方法で誰が限定品を購入できるかという点によりゲーム性を入れることもできるのです。

ただこのような考えは若い人のほうが面白いことを考えることができるかもしれません。そのような素地があるので、今あるサービスを決められたルールだと思い込んでしまうと柔軟な発想は生まれません。インターネットに存在するあらゆるルールは、人がつくりあげたのです。よって自分たちは、どのようなルールにするか考えていけばいいのです。

クリエイターは日本に生まれたということの幸運を実感しつつクリエイティブに勤しむべき


中村:では、そのような時代の流れにあって、日本にいること、日本人としてクリエイターになることの強みはなんでしょうか?

稲船:日本ほどゲームやアニメ、漫画などを贅沢にクリエイティブが溢れている国は他にはありません。アメリカですらここまでではないと思います。生まれた時から面白い漫画があってアニメがあってゲームがあって、その中はクリエイティブを目指す人にとって学べる事だらけなのです。

中国の人達も面白いものの多くを日本から学んでいます。私も先日中国杭州市にあるとある大学で講演をしましたが、学生たちの熱意に驚きました。日本のクリエイターに会いたくて仕方がないようなのです。確かに中国にも優れた映画や文学作品はありますが、漫画、アニメ、ゲームという部分では日本に優れたものがたくさんあります。「NARUTO -ナルト-」は正式に中国では流通されていないはずなのですが、中国の皆さんは自分たちで努力してこれらのコンテンツをネットから見つけ出し読んでいるのです。日本は必至で入手する必要ないですよね。でも他の国では必死になって手に入れなければならない作品です。日本にはすべて当たり前のように存在している、それが強みです。

いまの欧米のゲームが面白いのは、制作している30代のクリエイターが20年前にアメリカのゲームではなく日本のゲームで遊んでいて、一番多感な時期に日本のゲームだけを遊んできたため日本のゲームと欧米のゲームのいいところだけをかいつまんでゲームをつくっているからです。
日本の30代のクリエイターが何を遊んでいたかというと日本のゲームです。日本のゲームで日本のゲームを学び、日本人の感覚でゲームをつくるから問題なのです。


中村:では、クリエイターが世界を目指すにはどうすればよいのでしょうか?

稲船:何をしなくても日本のコンテンツは潤沢に得ることができるわけだから、もっと貪欲に他の国のコンテンツを取りにくいことが大切です。「おさるのジョージ」や「スポンジボブ」など日本人としては面白いとは思えないとしても世界では「スポンジボブ」を楽しみながら『ポケットモンスター』もプレイしているのです。これを理解しないから負けてしまうのです。だから、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのコンテンツに目をむけてその良さを学べばいいのです。あと、日本にいることが如何に幸せであるかということをかみしめつつクリエイティブ活動をすることも大切です。当たり前というところに流されてはいけないでしょう。

中村:これからはまさに、グローバルの時代ということですね。これまでスウェーデン、カナダ、英国と様々な国々のクリエイターとゲームを開発してきたわけですが、これらの人たちとモノづくりをしていくことのメリットは何でしょうか?

稲船:デメリットはないですね。言葉や時差、文化の違いは常にあります。ですが、今、ゲームは世界市場のシェアで日本は10%です。だから各地の市場を知るという意味からも、共に苦労することが当たり前なのです。

作品を世に出したときも日本人だけでなく世界で売れたほうが嬉しくないですか? アメリカの入国審査は厳しい。英語が喋れなくても、長い時間拘束しているのですが、私がゲームクリエイターだというだけで興味を持ってくれるのです。さらにカプコンで開発したと言うと目の色を変えて自分がカプコンファンだと言ってきてくれます。ここで一気に信頼関係を築き上げることができました。1億3000万人に褒められるよりも63億人に褒められることを目指すのです。スウェーデン、イギリスにいったときに、サインをねだられたほうが嬉しいはずです。スポーツの世界はそうで、ゲームもすでにそうなりつつあります。

中村:ではゲーム作りの上ではどの点が大変だったのですか?

稲船:実はそこまで苦労していません。欧米では、映画がカルチャーにすごく浸透していてゲームも映画の影響を受けています。開発中のときは「この映画見たか?」という感じで映画がすごく話題になっていました。ディレクションも映画をたとえにして指示を出していたのです。海外のひとたちとモノづくりをするうえで、何によりも重要なのはとにかく彼らを好きになることです。あと、日本の常識を押しつけない事。海外は「こういうものだ」と理解を示し、そのうえで仕事をしていくと、一緒にやっていて非常に楽しいです。


グローバル規模で成功を収めてもなおクリエイティブを忘れない映画『スパイダーマン』のプロデューサ

中村:そのような中で米国のプロデューサとも出会っていると
伺いました。映画「スパイダーマン」などをプロデュースしてきたアヴィ・アラッド氏です。彼との交流で何を学びましたか?

 

稲船:アヴィ・アラッド氏はもともと玩具会社出身です。エアーホッケーの開発者です。玩具で成功しその会社を売却後、マーベルコミックが倒産の危機にあったときに1ドルで買収しているのです。負債を受ける変わりに同社を、立て直したのです。その立て直ししたのがマルチコンテンツ展開だったのです。新たな漫画を創り出したわけではないのですが、おそらくそれをやって、このように急速に会社を持ちなおす事は出来なかったことでしょう。マーベルのいままであったコンテンツを映画に持っていく事業を進めました。結果として、『スパイダーマン』、『アイアンマン』、『超人ハルク』を映画化して大成功しました。いまは、ハリウッドに住んでいますが、まさに豪邸というところに住んでいます。私も一度招待されましたが本当に驚きました。ですが、彼の凄いところは、そこまでいっても常にクリエイティブな事を考えていることです。そこまで成功したら、プロデューサという名だけクレジットに入れてもらい後は部下に任せてしまってもいいのです。でも自分で、このようなゲームや映画をつくりたいと言うのです。また仕事の仕方もカプコンと一緒にではなく稲船とやりたいと言ってくれます。『ロストプラネット』は既に何回も脚本を重ねていますが、何百ページという脚本に全て大きな文字でKEIJI INAFUNEと記してあるのです。この脚本のもともとの権利はあなたです、という意味ですよね。

 

カプコンは契約で条件を確定できるのですが、クリエイターは書類で縛ることが出来ないということをアラッド氏は知っています。だからモチベーションでコントロールしようとしている。各ページに私の名前を記すことで、真剣に読んで内容を確認してもらおうとしているのです。サラリーマンとして働いていた私は、それまでそのような扱いを受けた事がありませんでした。どんなに大ヒットゲームを生み出しても、会社のものだという教育を受けてきたわけですが、ここにきて初めてこのクリエイティブは、私のものだと認めてもらえたのです。そのような部分で、クリエイターのモチベーションを高めたりうまくクリエイターの力を借りたりする能力を彼は持っている、凄いかたです。彼の考え方は私にもとっても参考になりました。comceptでも、一緒にやっていく人とはパートナーとしてやっていきたいと思っています。

中村:次世代における「ゲーム」とは何か?

 

稲船:凝り固まった考え方ではダメです。結局、ゲームというのはバーチャルな世界の中で疑似体験をしているのです。喧嘩はしたことないけど、『ストリートファイター2』では負けなしと言う人がいます。喧嘩の経験が無くてもゲームの中では喧嘩が強いというバーチャルな経験が出来る、『鬼武者』に中で侍になり、日本刀を振り回す事が出来る、戦争には行きたくないのだけど、『Call of Duty』の中で戦争に参加する、全てバーチャルな経験です。バーチャルな経験というのは感覚です、その感覚を得て気持ち良くなることっていうのが大事ですよね。『ラブプラス』でバーチャルな恋愛をしてもいいのです。一回、ゲームでいい体験をしてリアルでも女性に声をかけてみようと考えることは大切じゃないですか。そのようなことをひとつひとつ経験していくのが大切ですね。それがゲームだと思ってゲームをつくっていくと、新しいものが生まれます。

 

ただ、ゲームビジネスで難しいのはお金を出す側もこの辺を理解していないことなのです。だから『モンスターハンター』『ドラゴンクエスト』、『怪盗ロワイヤル』みたいなゲームを、と言いがちです。『脳トレ』みたいなゲームはこのぐらいの予算でつくっているのだから出来るだろうと思われがちですが出来ないです。その感覚を理解して新しいバーチャルを生み出すことが大切です。『脳トレ』のコピーを出したところで売れないじゃないですか。コピーはどうやっても元祖には勝てないのです。なので、如何に新しい感覚を提供するかといのが大事ですね。ゲームというのは感覚と言い換えてもいいと思います。新しい感覚をつくるという...

 

中村:ありがとうございました。

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ゲームをバーチャル空間での疑似体験であることを踏まえ「感覚」であると定義し、常に「新しい感覚」をユーザーに提供することの重要性を伝えた稲船氏。世界でトップレベルの成功を抑えたハリウッドプロデューサーでさえクリエイティブスピリットを失わないのを目の当たりにし自分もそうありたいと迷わず言う姿にcomceptの本質を垣間見た気がします。ゲーム業界はまだ大変な時期にありますが氏のこれからの活躍に心から期待したいと思います。

2011年5月27日 16:00