プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)副会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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ゲームクリエイター稲船敬二氏が立命館大学を訪問(前編)

ゴールデンウィーク明けの2011年5月6日、「株式会社comcept」のCEO、稲船敬二氏が立命館大学に来校し、講演をおこないました。稲船氏は昨年まで、カプコンの開発部隊のトップとして同社をリードしてきたゲーム業界のカリスマです。

    ▲立命館大学以学館。当日は200名程度の学生が聴講しました。

 

代表作は『ロックマン』シリーズや『鬼武者』シリーズ。現行機でも『Lost Planet』や『デッドライジング』シリーズを生み出しました。前半は学生との対談をまじえた稲船氏の講演が行われ、その模様は先日、本誌でもリポートされたばかりです。
      ▲プロジェクターに投影された質問にあわせて答える稲船氏

 

本ブログでは、「グローバル化するゲーム産業」という題目でおこなわれた筆者との対談の模様をお届けします。入社時は社員100名程度のベンチャー企業だったカプコンが、世界的なヒットを連発し大企業に成長するのを、開発側の立場から24年間にも渡ってけん引してきた同氏は、現在のゲーム業界を如何に見据えているのでしょうか?

さっそく稲船氏の見解を確認してみましょう。


ソーシャルゲームの勃興は、60-70年代の映像産業におけるテレビの台頭に等しい

 ▲筆者もこれまで疑問に感じていたことを真剣に稲船氏にぶつけてみました。

中村:現在、ゲームのリリース先は、家庭用据え置き機から、携帯ゲーム機に加え、スマートフォンやiPadなど、プラットフォームの多様化が進んできています。このような状況にゲームクリエイターは如何に対応していったらいいのでしょうか?

稲船敬二氏(以下、稲船):プラットフォームという言い方が誤解を招くことがあって、いままでの大手企業はコンソールばかりをプラットフォームととらえる傾向にありました。ですがこれは間違いです。PC上のSNSや、ガラパゴス携帯ならびにスマートフォン向けSNSポータルなどもプラットフォームとしてとらえ、これらの多様化に対応するには、さらに知識を蓄え、ゲームの考え方そのものを捉え直していく必要があります。

従来のハード向けゲームとSNSなどで展開されているゲームに存在する大きな違いはなんでしょうか?ユーザーの購入形態から考えてみましょう。従来のハードの場合、ユーザーはまずハード自身を購入することからはじめなければなりません。ハード自身は25000円ぐらいとしましょう。さらにゲームソフトを購入する必要が出てきます。これで3万から4万円はかかります。従って、コンソール向けゲームを開発してきたクリエイターは「ゲームは買ってくれるものだ」という前提条件のもと、購入後のユーザーを「楽しませること」だけを考えてくればよかったのです。

中村:では、ソーシャルゲームやアプリの場合はどうでしょうか。

ソーシャルゲームやスマートホン向けアプリの場合は、そのためにハードを購入するということはありません。携帯電話、スマートフォンはそもそもゲーム以外の目的で購入される機器です。ですので、これらのゲームは登録して無料でプレイするところからはじまります。ここがプラットフォーム上の違いなのです。つまり、「途中で課金するためのゲーム性」をあらかじめデザインするのです。「悔しい!」と思わせて、お金を使ってでも次がやりたくなる面白さというゲーム性を考えなければならないのです。いままで考えなくてよかったゲーム性というのがそこにはあります。それに対応できるクリエイターとできないクリエイターで、クリエイターの将来が決まります。

Q:ではそういった新たなゲーム性を追求するにはどうするべきでしょう?

稲船:ソーシャルゲームならではのゲーム性を考えて、とにかく経験すること。映画業界もそうですが、はじめて映画を撮った人は、カンヌ映画祭でグランプリを取れません。だから経験を積むのです。全くわからない現場に出て、全くわからない中で仕事をするのです。どんなクリエイターでも、いきなりトップクラスのSNSゲームを作れるわけがありません。私でも無理です。

でもトップクラスのSNSゲームを超えられるのだという決意を持って目指さなくちゃいけないんです。成功も失敗もするでしょうが、それらも経験です。これは簡単なようで難しいです。SNSゲームの場合、億単位のプロジェクトは本当に少ないですから。数千万円、もしかしたら数百万円という場合もあります。コンシューマ向けゲームでの成功体験を積んでいると、「なんで数十億円単位の予算でゲームを作って来た自分がSNSゲームのような小規模プロジェクトに携わらなければならないのか?」と言い始めるクリエイターが出てくるのです。

ただそうすると貴重な経験を得ることができなくなる。新しい先を目指すために経験させていただくのです。それができれば、トップクリエイターとしてSNS用ゲームでも超大作でも対応できるクリエイターになると思います。

Q中村:昨今、世界的に支持されるコンテンツは、斬新なアイデアが素早くゲーム化されたタイトルと、数十億円という予算をグローバル規模でマネジメントしつつ、圧倒的なボリュームと競争力を有するコンテンツとの二極化へと進む傾向が見受けられますが、これには如何に対応するべきでしょうか?

稲船:人材としても両極に分かれていく傾向にあります。ゲームクリエイターで、ある程度の能力をもち、企業も任せようとするクリエイターは、大規模コンテンツのほうに配属されがちです。そうではなく、これからのゲーム業界で頑張りたいという理念を持つ人も、従来のゲームメーカからSNS企業へと転職したりしています。ただ最終的にはどちらか一方しか勝てないのではないかと思っています。なぜなら両方が違うことをやっているからで、本来は両方を理解してやるべきなのです。いまの業界は、60年代から70年代ごろに映像産業に、テレビが台頭してきた頃に似ています。当時は映画業界のスタッフや役者がテレビ業界のひとたちとまったく交わりませんでした。往年のベテラン監督は「なぜ俺がテレビなんかやらなくちゃいけないんだ!」と息巻いていました。でもいつのまにかテレビが市民権を得て人々に受け入れられたときに、それを受け入れた業界人とそうでなかった人たちの間でとしてのキャリアの寿命に大きな隔たりが生まれたのです。ゲーム業界はそれと同じ状況が続いています。確かに映画だけを撮る巨匠もいたわけですが、あの黒澤明監督でさえ、一時期海外からの出資が無い限り映画が撮れないという時代もありました。僕らも今でこそ、大規模の予算でゲーム開発をしていますが、業界がはじまったばかりの当初は、今のソーシャルゲームと同程度の予算と時間でゲームを作って来たのです。
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「これまで大規模プロジェクトにのみ関わってきたトップクリエイターも、ソーシャルゲーム開発を経験し、小規模プロジェクトにも大規模プロジェクトにも対応できる人材となることが必要です。」と稲船氏。

開発現場のトップとしてクリエイティブと経営の双方を統括してきた人とならではの、含蓄ある指摘ですね。

では、グローバル化やソーシャルメディアに順応したユーザーの飛躍的増加に作り手は如何に対応するべきなのでしょうか?その点に関する稲船氏の見解は、後編でお伝えします。

2011年5月19日 18:28