プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)副会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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稲船敬二氏が語る次世代中国ゲーム市場

中国の「宮本茂」を探し出せ! 稲船敬二氏が語る次世代中国ゲーム市場の成長を妨げる大きな要因とは?

 

 「中国で欠けているものは1つ。ゲームで言えば『宮本茂』、アニメで言えば『宮崎駿』、マンガで言えば『手塚治虫』がいない事です」。株式会社comceptの代表取締役社長の稲船敬二氏は、中国コンテンツ業界に存在する問題点をこう切り出し、「たとえ今後もしばらくの間、中国市場の成長が続いたとしても、中国を代表する世界のトップクリエイターが生まれ、その世代の目標となりうるクリエイティブが成されない限り、市場の成長は限定的になる」と警鐘を促した。


 冒頭のコメントは株式会社comcept代表取締役社長の稲船敬二氏が登壇したGame Developer Conference China(以下、GDC)の基調講演での一幕。現在、中国では、上海新国際展覧中心において7月26日?29日までの間、オンラインゲームを中心としたゲームの祭典で第10回を迎えるChina Joyが開催中だが、近年、前述のGDC、ビジネスカンファレンス、アウトソーシングカンファレンス、そしてBtoBパビリオンと、あらゆるイベントが一体化し、世界でも類を見ない程の規模と勢いが感じられるようになった。そのような状況を受け、GDCでも世界中から様々なクリエイターが招かれ講演するようになってきたのだ。

 会場は多くのゲーム業界関係者で満席となり、世界的な成功を収めたクリエイターから何かを得ようと真剣な面持ちで講演に望んでいた。そんな中稲船氏は、まず冒頭で、23年間に及ぶカプコンの経験に触れつつ、新たな機会、新世代のゲーム開発を求めて同社から独立したこと、自身が株式会社comceptを立ち上げるに至った経緯について述べた後「これからは世界の人達とともにゲームを開発し、その中で新たなゲームづくりをともに学びたい。そして、将来的は中国の人達とも一緒に、ゲームを作っていきたい」と自身の意向を示した。

 

 

 ただ稲船氏の発想とは裏腹に、一般的なこれまでの日本ゲーム業界では、「グローバル」という言葉が謳われるようになりつつあるものの「グローバル=欧米」を指していることが多く、アジア、韓国、中国に対する比重は低かった。これは、日本から見た中国、特にエンターテインメント、アニメ、ゲームについては、コピーの存在や、模倣、または類似のコンセプトで生まれた作品が数多く存在するため、そのようなイメージを払拭出来ない事が主な理由である。その結果、日本のクリエイティブ業界やゲーム業界関係者が、実態の如何に関わらず、中国のクリエイティブを軽視するという状況が実際に生まれてきていた。ただ、この「軽視」する傾向が、日本のクリエイティブが更なる成長をとげるうえでの障害になるだろうと稲船氏は述べた。

 

講演会における学生の積極さにアジアクリエイティブ業界の可能性をかいまみる

 これは、2011年5月に中国杭州で開催された国際動漫節のとある美術学校の講演会に参加した際、教室に入りきれない程の人たちの中で講演をしたときの経験だという。

 

 「クリエイターの卵たちである学生たちに、日本では感じ得る事の無い積極性を強く感じた」と指摘した。また、「中国に限らずアジアで講演をすると、前のほうから詰めて座る傾向があるのに対し、日本では後方から着席し、前は常に空くという状況がどの講演でもみられます。これは遠慮をしているというよりは、積極性の無さのように感じ取れる」と稲船氏は言う。日本は昔から、非常にクリエイティブに長けており、稲船氏も、大先輩が作り上げた優れたマンガやアニメから影響を受けてゲームを開発してきたのだ。

 

 これに対し「現在、日本のゲームもやっと世界で影響力を発揮出来るようになったが、これは、日本自体がクリエイティブなものを生み出す環境として非常に恵まれているということを意味する。ただ、同時に何もしなくても、優れた作品を得る事が出来る環境になってしまっているため、若干甘えに近い様な状況を生み出している」と指摘する。「アジアでは、優れた作品を得るには、その多くが正規な形で流通されていない事から能動的に動かないと不可能なため、中にはこれら優れたコンテンツを理解するために外国語を勉強してまで吸収しようとしている」と稲船氏は言う。


以上を踏まえ、 「日本も昭和の時代は、コンテンツが限られており、自ら貪欲にクリエイティブなものを見つけ出し、それらを模倣する時代があった。特にアメリカからいろいろなモノを参考にしながら日本独自の文化を発展させてきたうえで、中国は、今まさに模倣の時代から独自に何かを発展させていく時期が到来した」と分析している。


 「杭州の美術大学で感じた積極性は正にそこだ」とのこと。「コピーや模倣が中国において完全に駆逐されたわけでは無いものの、学生の発言を聞いていると自分たちでオリジナルをつくりたいという強い想いを受け取ることが出来た」と稲船氏は言う。

 

 

「儲ければ何でもいい」という意識からの脱却が世界で活躍するための唯一の道


 「しかし、現在、中国のクリエイティブ業界で蔓延しているのは、模倣しようが何をしようと利益をあげるのが勝ちという発想。しかし、このままだと、売り上げの高い会社、利益の出る会社、同時接続者数の高い会社は注目されても、「この人がつくるからこの会社を支持したい」というファンは生まれてこない」と指摘。「その点において、これからはクリエイターに焦点をあてていかないと、同産業を更に牽引する原動力が生まれてこない」と警鐘を促した。日本のゲーム業界でも、黎明期は模倣から始まっている点を認めつつも「長期的な成長の原動力はクリエイティブにあるところが特徴である」とその優位性を示したうえで、「そのような意味では、企業が前面で出るのではなく、クリエイティブができる人を中心に企業が支えるという体制が本来のクリエイティブ産業に携わる企業のあるべき姿だ」と語る。


 更に、一般の人たちは、『スパイダーマン』や『バットマン』を見るときにこれらの配給会社まで熟知しているひとは、限られた映画ファンだけである点をあげ、「映画を見るとき監督や俳優で選ぶように、ゲームを遊ぶときも、クリエイターの力で選択させることができるか否かによって、コピーの延長線で終わるのか、世界に発信する中国へと発展するのかの分かれ道である」と指摘した。「日本のゲームの発展は、如何に売り上げを大きくするかではなく、如何に面白いものをつくるかに意識を集中させることで実現してきた」という自身の経験に触れつつ、「クリエイターが頑張って日本のゲーム産業を支えてきたからこそ世界に名を馳せるトップクリエイターが排出されたのだ」と稲船氏は語る。


中国の宮本茂を育てたのは僕だと言えたら嬉しい

 ただし、日本には、50代の宮本茂氏や、40代の小島秀夫氏、そして稲船氏自身が現役で活躍しているのに対し、「リーダー不在の中国にとって、クリエイティブに携わる人は、今がチャンス」と稲船氏。ただし、「金儲けに長けたビジネスリーダーは既に中国ゲーム業界に数多くいるので、その人たちの力に押されてしまうとクリエイティブ側が負けてしまう」と警鐘を促した。

 これからのゲームは、自国のマーケットのためだけに作品をつくる時代ではなく「日本のゲームプロデューサがゲームをプロデュースし、中国のディレクターがディレクションを、アメリカの出資者が資金を捻出するという時代が来るかもしれない。日本だけ、中国だけ、という形ではなかなかグローバルとは言い切れないが、これまで中国市場を中心に力を発揮してきた中国人クリエイターもこれからは世界に向けて発信できる時代になる」と語った。

 また、ファンの依頼に応えて一緒に写真を撮ったり、サインをしたりするというのは、日本よりもむしろ海外で多いという自身の経験に触れ、同じことが中国人クリエイターの間で起きることを期待している。「現在では、中国を代表する『宮本茂』はいません。だから、そのチャンスは中国人クリエイターの中にある。是非その手でそのチャンスをつかんで欲しい」。そして最後に稲船氏も将来中国のクリエイターとコラボレーションすることで、「中国の宮本茂を育てたのは僕だと言えたら嬉しい」と笑顔で抱負を語りながら講演を締めくくった。

 

 

 その後の質疑応答では、質問が止まず規定の講演時間を大幅にオーバーし次の講演の準備が続けられたが、ほとんど人たちは席を立つ事なく稲船氏の言葉に耳を傾けていた。これまで、GDCではここまで成功を収めた日本のクリエイターを招いた事が無かっただけに、改めてその影響力を実感する事が出来る講演となった。これをきっかけに、より多くの中国人クリエイターが世界のトップクリエイターを志す事に期待したい。

2012年8月3日 16:22