プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)副会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

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【akinakiのGDC2012】GPSゲームは地域経済を救えるか?

 現在、ゲーム開発者にとっての祭典とも言えるGDC「ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス」がサンフランシスコで開催されています。私も以前、何回か参加してきたのですが、映像学部に移ってからは、仕事が入ったりしていたので、なかなか行く事が出来ませんでした。ですが、今回は、実に7年ぶりに参加です。その理由は……。 私が立命館大学映像学部の学生たちとともに、準備してきたプロジェクトを発表するためです!


 これまで実行委員長として関わってきた太秦戦国祭りの関係者から、ベンチャー企業、supernovaの社長、殿岡康永氏を紹介されました。同社は、脱出ゲームの企画運営で知られるSCRAPとともに、「東京迷宮パズル」、「京都迷宮パズル」を開発。今後は、そこでの経験を発展させGPS機能を用いた地域密着型エンターテインメントを作っていきたいとのことで協力することになりました。supernovaは2011年に創立されたばかりということもあり、ゲーム開発に取り組む創業間も無い企業が如何にして1年間にいくつものサービスを生み出したのか、今回の取り組みが、従来の携帯型ゲームサービスと如何に違うのかという点を中心に講演が行われました。今回はその講演の模様を中心にリポートしたいと思います。

 

    


Creating Location Based GPS Entertainment in Kyoto


 講演のタイトルは、“Creating Location Based GPS Entertainment in Kyoto”、すなわち『京都でロケーションベースのGPSエンターテインメントを生み出すには』です。セッションはモバイル・タブレットゲームサミットの1セッション。確認すると、このサミットに属するセッションの中で、GPSを用いたゲームに関するケーススタディはこの発表を含め2つのみ。つまり、GPSゲームというのは業界全体から見てもまだ真新しいジャンルであるということ。ただ、「今回の発表では敢えて「ゲーム」とうい言葉を用いず、「エンターテインメント」にしたかったと殿岡氏は言います。それは、ワイヤレスブロードバンドの実現と、スマートフォン、タブレットデバイスの普及とともに、GPS機能とリッチな動画像コンテンツを活用することで、「地域に密着したこれまでに無い感動体験」を提供出来るからです。

 

 即ち、この体験はGPSを生かしたゲーム性と映像、音声、文章、そしてインタラクティブコンテンツを複合的に活用することで実現するわけです。従って、単に「ゲーム」と表現してしまうと、本来の意図を正確に伝えることが出来ません。当然、如何なる「体験」を提供するにしてもGPSがフラグ的機能を果たすという意味では「ゲーム性」が内包されるわけで、そのような意味で「GPSエンターテインメント」は、従来以上にリニアな映像体験とインタラクティブな映像体験をシームレスに統合することが可能になります。

 


GPS機能Xモバイルリッチコンテンツは、使い方によって、

あらゆる生活空間に「娯楽」をもたらす


 更に重要なのが、このサービスはアウトドア派であること。ある動画像が「特定の場所」に依拠して存在するということは、その場所に行かない限りそれらを得ることが出来ません。ユーザーは、携帯を通して得られる「謎」や「ヒント」を元に場所を推測し、その場所でGPSボタンを押します。正解であれば、動画が現れそこには更なる「謎」や「ヒント」が。これに基づいて、ユーザーは次なる場所へと導かれていくこととなります。

 

 このようなコンテンツを開発するうえで不可欠となるのが、様々な組織や団体とのコラボレーションです。supernovaは私の研究室のような大学に加え、京都商工会議所、交通局といった行政関連組織や、前述のSCRAPを皮切りとした各種企業との連携を進めることで様々なユーザー層を対象としたサービスを展開しました。SCRAPと共同開発した「迷宮パズル」シリーズは、謎解きが大好きな層に対して作り、「京都検定迷宮ドリル」は、京都検定の受験に興味がある層をターゲットにし、京都商工会議所などと連携で開発しました。

 

 「うじゅのぱわーすぽっとめぐり」は、同イベント参加者がイベントだけでなく近隣に存在する神社仏閣に足を運んでもらうことを意識して開発されました。従って、同イベントのマスコットキャラクターである、「からす天狗うじゅと、あい」(プロデュースは何と、ファミ通コミッククリアで『デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト』の連載が終了したばかりのRa-Senの皆様です!)のブロマイドに添付されたQRコードからゲームに参加するという仕掛けや、イベント会場の東映太秦映画村の近くを通っている京福電鉄の沿線を中心に、半日程度で回れるルートを取り入れるといった工夫がなされています。あくまでもイベントプロモーションが主目的である同コンテンツは、リリース時、朝日新聞、京都新聞、毎日新聞といった数々の一般メディアに掲載されました。つまりプロモーションという意味でも充分役割を果たしたわけです。



独立系映像制作者が多い京都の地の利を生かした「京都妖怪絵巻」


 更に本講演では、現在開発中のサービスについても解説が行われました。京都には、松竹撮影所や、東映撮影所といった大手撮影所が存在することもあり、独立系映像制作者が多数存在します。現在、supernovaが開発している「京都妖怪絵巻」は、これらの映像制作者と、映像学部でゲーム業界を目指す学生たちとで開発されました。魔界の封印が解け、妖怪が文字通り跋扈する京都で妖怪を見つけ出し、人間をこれ以上悩ませないように封印するというRPG型のサービスになるとのこと。シナリオは、数々の映像作品で監督を務めた酒井信行氏が自ら担当。コンテンツ開発前には、映像作品の制作工程を酒井監督に伺いながらロケーションハンティングも行ったとのこと。場所の選定や、その場所にちなんだ「謎」のデザインについても酒井監督が全面的に関わりました。

 

 一方、妖怪を含む、グラフィック全般を担当したのが、数多くの映像作品で美術スタッフとして実績を重ねた「勝又つかさ」氏です。ただし、メインキャラクターのデザインは、学生の「八木まどか」さんも参加。勝又氏が最初につくりあげたコンセプトデザインをもとに、八木さんが、20代の男女層を意識したデザインへと変更。それにあわせて、勝又氏がプロのグラフィックデザイナーとして技術指導を施し、10代後半から40代までの男女層とより幅広い層に対し訴求しうるデザインへと調整していきました。更に12年1月には酒井監督が自らメガホンをとり有志の映像制作者とともに同ゲームタイトルのためのトレイラーを実写で撮影。この映像は後日YouTubeでも公開するとのことですが、今回は、講演参加者のために特別に先行公開がおこなわれました。

 

 

GPSエンターテインメントで世界中の人をつなげたい


 このように、創業1年目にもかかわらず、様々な組織や団体と営利、非営利問わず連携できたのは、「自身がデザインするサービスがGPSエンターテインメントに特化しているからに尽きる」、しかし裏を返せば「GPSエンターテインメントを作り上げるということは地域独自の強みを再認識できるきっかけにもなる」と殿岡氏は言います。事実、京都でありながら、今回開発された作品の中に誰もが訪れるようなメジャーな場所がスポットとして登録された数は驚く程少なかったとのこと。しっかりとしたストーリーが存在すれば、あまり知られていない場所や地域とユーザーとを繋げるきっかけにもなるのです。

 

 最後は、「GPSエンターテインメントをきっかけに世界の人をつなげていきたい」と自身の抱負を述べて講演を締めくくました。

 

 GPSエンターテインメントというジャンルは今まさに誕生したばかり。今後、殿岡氏が如何にして、本講演で提示したビジョンを完遂していくのかは、偶然この現場に携わる機会を与えられた筆者としても見守っていきたいと思います。

2012年3月13日 12:44