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【CEDEC 2006】セガの名越氏が『龍が如く』にこめた強い信念とは?
【CEDEC 2006】

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●「クリエーターは逃げずに新しいチャレンジを」と受講者へ強いメッセージ!

 CEDEC 2006初日に開催された数多いセミナーの中でもっとも注目を集めたもののひとつが、セガのプロデューサー、名越稔洋氏による"これからのクリエーターのあり方とゲーム表現と倫理哲学の重要性について"だ。名越氏は、おもに2005年12月に発売されたプレイステーション2用ソフト『龍が如く』を作るにいたったプロセスや、それによって学んだことを議題に挙げた。


▲「コレをやるのがゲームだと縛られてしまうものなら、僕はそんな業界にはいたくない。もっとやれることがあると『龍が如く』で証明したかったんです。じつはあの作品には、そういう追いこまれて作った部分がありました」と語った名越氏。


 ご存じのとおり、『龍が如く』は新宿歌舞伎町をモデルに任侠の世界が描かれており、"大人向け"を強く打ち出した作品。このゲームが生まれた土壌について、名越氏は大きくふたつのポイントを上げた。ひとつは、日本国内のゲームマーケットについて。国内市場が縮小していることから、リスクを負わないために続編ばかりが制作されている状況に触れ、名越氏は以下のように語った。


 「作品の中身に対して守りに入っている、またそれをよしとしてしまう状況があります。現在は、インターネットやケータイなどがあり、以前とはライフスタイルが変わったという見かたもありますが、これはユーザーからゲームがいちばん楽しいと思われなくなったということだと思うんですよ。コンテンツに対する期待値を減らせてしまったこと、それはメーカーの責任がいちばん重いだろうと思っています」(名越)


 名越氏自身も、「ここ何年も、自分自身が作品に対してマンネリになってしまい、ユーザーに申し訳ないという気持ちがありました」という懺悔の思いがあり、この反省がある意味まったく新しいゲーム『龍が如く』を作るきっかけになったのだという。


 ふたつ目のポイントは、表現倫理の問題。現状では、表現に対する倫理基準が曖昧だと名越氏は指摘。「人間を殺すのでは問題になるが、それがロボットならオーケーだったり、時代を変えて戦国時代であれば人間を殺しても問題がなかったりします。ただ絵の線引きだけで済まされているんです」と以下の実例を挙げた。


 「いまの基準だと、たとえばピカチュウなら痙攣を起こして血を吐いて倒れてもオーケーになってしまうんです。これは、そういうゲームが実際に出てきてから、はじめて議論がされるんだろうと思います。そういう意味で、『グランドセフトオート』シリーズという暴力を全肯定したゲームが出てきたことには価値があると思っています」(名越)


 じつは、『GTA』シリーズと『龍が如く』は比較されることが多かったのだとか。名越氏は『龍が如く』を作る際、敢えて『GTA』を意識。暴力を全肯定する『GTA』シリーズに対して、「表現は暴力だけれど、必然性のある暴力」(名越)を目指したという。

 

▲会場では、『龍が如く』のゲーム映像が上映。名越氏は、「クリアーするまでに何万発のパンチやキックをしなければならないけれど、自分がしたくて仕かけられるバトルはひとつもない。これは徹底しました」と解説した。

 

 『龍が如く』は、言うなれば以上のような"作品のマンネリ化"、"表現倫理の曖昧さ"といった問題意識の中から誕生した。実際に開発に着手した上では、さらに3つの決めごとを作ったという。ひとつは、"マーケティングの絞りこみ"。海外を視野に入れず、ターゲットを大人に絞りこむことで、まったく新しいゲームを作り出そうとした。ふたつ目は、"開発費はあえて使おう"ということ。『龍が如く』のようなゲームの場合、ただ刺激が強いだけのゲームと思われがちだが、それだけではない真剣さを伝えるためにはお金を使わなければダメだと考えた。そして3つ目に、名越氏はスタッフや会社を含めてタイトルに関わるすべての人にきちんと説明をする覚悟を持って開発に臨んだという。


 「スタッフにも、ゲーム表現をもう一段乗り越えていこう、ということをわかってもらえるまで話しました。もちろん、CEROともプラットフォーマーとも話し合いました。倫理表現はうまくつき合っていけば、まだまだできることはたくさんあります。でも、目の前にあるハードルが高いからいままで作り手が逃げていたと思うんですよ。みんなアイデアはあるけれど、自分の中の常識に縛られている。僕自身も、『龍が如く』を作ったことで以前はそういった自分のカラがあったことに気づきました。クリエーターにはさぼらずにモノ作りをしてほしいなと思います」(名越)


 名越氏は、会場の若いクリエーターたちにエールを贈る形で話を終えた。そのあと行われた質疑応答では、おもにプランナーとして開発に携わる人から多くの質問が寄せられた。CEROの新区分であるZ区分について聞かれると、名越氏は「Z指定ソフトは一般流通に乗らないので売上に影響があります。でも、これはリスクを背負ってチャレンジする義務がとくに大手メーカーにはあると思うんですよ。リスクを背負える会社が先陣を切ってやっていき、あとに続く道を広げてあげたい」と、マイナスイメージよりも希望を強調。また、新たなチャレンジをするときに「社内から否定的な意見もあったのでは?」という質問には、「正直、むかつく意見とかはなかったですね(笑)。ただ、"これをやって本当に何かが変わるのか?"と聞かれたときに、プレッシャーは感じました。作り逃げできないな、という気持ちにさせられました」(名越)と振り返った。『龍が如く』に込められた強い信念に、会場の若手クリエーターたちは心を動かされたのではないだろうか?
 

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