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企画・ニューストピックス

ICOチーム、5冠達成の裏側
【GDC2006リポート】

●「短期的な売上につながらなくても市場をかきまわすことがチームの意義」

 

講演会のタイトル

▲『SHADOW OF THE COLOSSUS』は『ワンダと巨像』の北米版のタイトル名。


 現地時間3月22日、ICOチームによるセミナーが実施された。開始まえからセミナー会場に500人以上の入場待ちの列ができるなど、海外でも変わらず注目度が高い。セミナー受付開始直後に満員御礼となった。


 ICOチームはご存知のとおり、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン第1制作部の海道賢仁プロデューサー、上田文人ディレクターが率いる精鋭集団。第1作目の『ICO』の発売後、世界的に脚光を浴びてチームとしてのブランドを確立。昨年待望の2作目、『ワンダと巨像』をリリースしたばかり。


 今回のセミナーは、"情緒的なキャラクターの制御"というお題で行われたのだが、登壇したのは海堂氏でもなく、上田氏でもない。彼らを陰で支えてきたリードプログラマーの杉山一氏、ゲームデザイナーの細野淳一氏、アニメーターの田中政伸氏、そしてアニメーターの福山敦子氏の4人。適切な言葉ではないかもしれないが、"初々しい"彼らが、600人を超す海外のクリエーター陣を目の前にICOチームのありのままを語った。
 

杉山氏

▲プログラマーの杉山氏。
 

 「これまで6チームで、10タイトルに携わってきましたが、ICOチームほど表現の質を追及するところはなかったです」(杉山)


 リードプログラマーの杉山氏は所属当初をこう振り返る。通常、ソフト開発はコストありきで行うもの。既存のシステムがあるならばそれをできるだけ有効活用して確実に制作を完成させていくのがセオリー。敢えてお金をかけて危険をおかすことはないのだから。「でも、このチームは敢えて難関に立ち向かうんです。上田(ディレクター)の企画には必ず技術的な挑戦が含まれているから」(同)。決してお金を湯水のように使う、ということではない。限られたコストの中で、苦労を惜しまず努力してクオリティーをあげていく、ICOチームはそこにソフト開発におけるアドバンテージを見出しているのだ。


 技術的な挑戦――それは『ICO』では"手つなぎ"、"ヒロインのAI制御"のこと。『ワンダと巨像』で言えば、巨像にプレイヤーがつかまり登っていく"変形コリジョン(造形)"を指す。どちらのシステムも、プログラマーにとってはひとつひとつ糸をつむぐような地道な作業が必要で、想像以上の労力を必要とするものだ。でも、それが「モチベーションの向上につながった」(同)と言い、結果、手つなぎはヒロインのヨルダに対して淡い恋心を抱かせるような効果をもたらし、ヨルダの動きは付かず離れずプレイヤーの心を掴んで離さない絶妙な距離をとった。巨像も冷徹に我々を狙ってくるも、つかまると生物のぬくもりを感じ、最後の一撃はコピーどおり"何だかせつない"気持ちにさせた。


 「ゲームデザイナーやアニメーターも同じ志を持っているんです。通常、皆分担作業ですが、僕がシステムを作ると、ゲームデザイナー、アニメーターもいっしょに調整して、チームが一丸となってクオリティーアップを追求していくんです」(杉山)


 彼らのこだわりは生半可なものではない。通常、キャラクターの動きはプログラマーが構築したシステムによって制御するが、「アニメーターがつけたほうが数字では計れない自然の動きが演出できる」と、アニメーターの注文どおり数式を組み立てていく方法を採用している。


 プレイした人なら誰もが感じるだろうが、『ワンダと巨像』の最大の魅力は、これまでのゲームでは感じたことのない自然な動き。プレイヤーが巨像につかまれば、振り落とされないように渾身の力を入れて必死にしがみつき、馬に乗れば馬に動きに合わせて体が自然と上下する。巨像に関してもその隆々とした体つきにふさわしい、重厚感溢れる力強い動きが魅力だ。

 「モーションに説得力を持たせたい。これが目標でした。巨像のような重い物体を急に動かしたり、ベクトル方向をかえるには大きな力が必要。もし、プレイヤーへのレスポンスを高めるために巨像を急ターン、急発進させてしまうと説得力は失ってしまう。主人公のモーションも同じ。ユーザーがボタンを押してすぐにジャンプをしたり、剣をふったりしません。ジャンプはボタン入力後、腰をいったん落としてジャンプします。攻撃もボタン入力後、いったん剣を振り上げて振り下ろします」(アニメーター 田中)


 ICOチームは、ボタン入力に対するアクションのレスポンスよさを、必ずしも"操作性のよさ"として考えているわけではない。「人も巨像も重さを感じられてこそリアリティーがうまれてくる」(田中)、これがこのゲームの核心だ。ゲームデザイナーの細野氏もキャラクターを自然に動かすことに試行錯誤を繰り返したひとり。


 「プレイヤーの動きにあわせて巨像が自然のままに遅くなったり早くなったり制御をかけました。主人公が飛びつきやすくなるだけでなく、巨像と並走するシーンを演出しやすくなるなど、遊びやすさも入れ込みました。本来、ゲームデザイナーはデータを管理する仕事なので、そこまで踏み込まない領域なんですけどね(笑)」(細野)


 妥協なきゲームを実現するために、このほかにもプログラムに関する苦労話は枚挙にいとまがない。しかし、どんな大きな壁が立ちはばかろうとも、「プログラマーやデザイナー、アニメーターの絵的なセンスは共有できないとだめ。そういう面ではうちは理想郷」(アニメーター 福山)と、古臭く言えばの全員の力で乗り越えてきた。ICOチームが向かう方向はひとつ。


 「短期的な売り上げにつながらなくても市場をかきまわすことがチームの意義」(杉山)


 その結果、GDC2006の権威ある賞"Game Developers Choice Awards"で5冠を達成するという偉業を成し遂げた。ICOチームの"こだわり"を世界の開発者たちが認めたのだ。記者は講演の最後に、ちょっといじわるな質問を杉山氏になげかけてみた。


 「『ICO』で手つなぎを実現し、『ワンダと巨像』で巨像に登るというたいへんな作業を成し遂げました。次回作でしたいことは何ですか?」


 「つぎにやりたいことですか。うーん、海堂、上田の企画にきちんとこたえていくことです」

 

 彼らの強力なサポートがあれば、次回作もゲームをプレイしたすべての人の心に残るような、そんな情緒的な作品になるに違いない。

 

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