「ゲーム業界はいま最悪の状況」――それでもクリエーターを目指す理由とは? 稲船氏が示したゲームの未来像
“福岡をゲームのハリウッドに”という志のもと、レベルファイブ、サイバーコネクトツー、ガンバリオンを始めとした九州と福岡のゲーム関連会社が集結する団体“GFF”(GAME FACTORY’S FRIENDSHIP)。九州、福岡のゲーム産業のさらなる発展に加えて、ゲームクリエーターを志望する若者たちの支援にも力を入れている同団体では、九州大学、福岡市とともに“福岡ゲーム産業振興機構”として、大規模イベント“ゲームフロンティア in 福岡”を実施している。2010年3月6日、その第3回が福岡市の天神イムズにて開催された。
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▲新たな人材の育成にも力を入れているゲームフロンティアでは、学生および一般を対象とした“福岡ゲームコンテスト”も実施している。 |
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▲天神イムズ内には、コンテンストの入賞作品などを展示するコーナーも。 |
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2008年には『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズの生みの親で知られる桜井政博氏が登壇するなど、著名クリエーターの発言の場としても知られているゲームフロンティア。今年は、『ロックマン』、『鬼武者』シリーズを手掛け、現在はプレイステーション3、Xbox 360用ソフト『デッドライジング2』(2010年9月2日発売予定)を鋭意制作中のカプコン、常務執行役員の稲船敬二氏が登場し、“ゲーム産業の未来像”と題した講演を行った。
冒頭、来場者に投げ掛けられたのは「ゲーム業界、とくに日本の状況はいま最悪です」という“稲船節”とも呼べる強烈なメッセージ。「それなのになぜ皆さんはこの業界に入ろうとしているのでしょうか?」。稲船氏は自身を例に挙げ、「それは“仕事がおもしろいから”に尽きるのではないでしょうか」とゲーム業界で働くことの魅力を説明する。「ゲームをクリエートすることはおもしろい。だから僕は23年間、ゲーム業界で働き続けているんです」。たとえ最悪な状況でも、仕事の“おもしろさ”、“やりがい”というのは働くうえでの十分な動機づけになると力説し、「皆さんにもそういう姿勢を持ってもらいたい」と呼びかけた。
稲船氏はここで改めて、日本のゲーム業界が最悪な状況である理由に言及。「多くのクリエーターは、ゲームが売れない理由を誰かのせいにしている」と語り、「会社が作らせてくれない、お金が出ない、企画を通してもらえないといった声をよく耳にするけど、それは誰かのせいにして逃げているだけ」と断言する。さらに「作品を完成させて、そのあとはもう知らない、というのはよくない」と仕事に対する姿勢も説く。“いい作品を作れば売れる”という考えは一種の逃げであると指摘し、経営陣やプロモーション部隊と積極的に交流を持ち、いっしょにソフトを売っていくこともゲームクリエーターの仕事であると持論を展開。それができずに「誰かのせいにして逃げてしまう人がすごく多い」ことが、日本のゲーム業界を低迷させている理由のひとつであると結論づけた。
ゲームそのものの質についても稲船氏は語る。近年海外タイトルに勢いがある背景には、“これがゲームだ”という決めつけがないためであると同氏は分析。著名な海外クリエーターのほとんどは、かつての日本のゲームをリスペクトしつつ、そこに西洋の考えを融合させている。それはゲーム制作に対する姿勢が、いい意味で「凝り固まっていない」ことを意味し、結果としてつぎつぎと新しい発想が生まれてくるというわけだ。一方、日本のゲーム開発現場は考えかたが縮小しており、「どんなものがつぎに来るのか想像できてしまう」と稲船氏は危惧する。
この状況を打破するためには何が必要なのか? 稲船氏は人間の体に例えるというユニークな形で自身の考えを述べた。
生命活動を維持するうえで、人間は食事を取らなければいけない。言い換えれば、それは胃袋に食べ物を入れて栄養を摂取するということ。しかし、ただ摂取すればいいわけではない。たとえば、同じ食物ばかりだと栄養のバランスが偏り、体調を崩してしまう。稲船氏はこういった栄養の偏りという問題は、胃袋だけに限らず、脳にもあると考えている。「脳にどんな栄養を与えて、吸収させるかを考えるんです」。ゲームクリエーターを目指すうえで、ゲームで遊ぶことは非常に重要だ。ただ、それだけでは「同じものばかり食べている」ことになり、胃袋同様、脳にも栄養の偏りが起きてしまう。稲船氏はこの考えを踏まえたうえで「ゲームばかりやっていてはダメです」と語る。「クリエイティブな栄養を多岐にわたって叩き込む。映画でも演劇でもドラマでもマンガでもなんでもいいから、そういうことをもっとやるべきだと思います」。
実際、稲船氏は新しいゲームを作る際に“ゲームを考えよう!”という姿勢で臨むことはほとんどないそうだ。さまざまなエンターテインメントを体験しているときに「ふと湧き上がる」感覚から着想を得て、それがゲーム制作にもつながるという。加えて「自分は人と比べて壁が低い」ことも、新たなアイデアを得るうえでプラスになっていると同氏は語る。ここで言う壁というのは、外部からの干渉に対する心理的防御という意味で「誰しもが、少なからず持っているもの」だ。その壁が必要以上に高いと「海外で新しいゲームが出てきたとき、オレには関係ないとか、遊びもせずにおもしろくないと判断して拒否してしまう」ことにつながる。結果的に学ぶ機会も減り、考えかたが縮小してしまうというわけだ。稲船氏は、壁を低くして、周囲の評価などに流されず「自分で確かめる」ことがクリエーターに必要な姿勢であると語った。
加えて、壁の問題はゲーム文化を批判する声にも見て取れると稲船氏は続ける。「“ゲーム脳”がどうだこうだ言っている人たちには、すごく高い壁がそそり立っているのだと思う。だから、とにかくゲームはダメだと言う。でも、そういう人たちはゲームを本当に遊んだことがあるのでしょうか。ゲームで救われたことがあるのでしょうか?」と語気を強める。「僕は何度か、ゲームを作っていて感動したことがあります」。
稲船氏はここで、『ロックマン』に勇気をもらって登校拒否を克服した女の子の話と、アメリカで不治の病に冒された少年が“最後の願い”としてカプコンのゲーム制作現場を見学し、それをきっかけにゲームクリエーターを志したところ奇跡的に完治したというエピソードを紹介。「これは作り話ではありません。ゲームにはそういう力もあるんです」と話し、つぎのようなメッセージを来場者に贈った。
「“楽しい”ことに加えて、人を救ったり勇気を与えることができるかもしれない。そんな仕事だから、僕は胸を張ってゲームを作る。そういう風に考えています。だから、これからさきもずっとずっと楽しいゲームを作って、ユーザーに届けたい。そして、みんなが同じような気持ちでゲーム作りに熱中して、いいゲームを作ってくれれば、僕自身にとっても非常にうれしいしことです」。
講演内ではそのほかに、GFFと関連して東京以外の地方でゲームを作る意味について稲船氏の見解が披露された。「地方だからできない、と言っているような人は東京でもがんばれない」と語り、「任天堂はどこにありますか? 京都から本社を動かしていないですよね」と“地方”であることが決定的なマイナス要因にはならないと言い切る。また、GFFに関しても「日野さん、松山さん、山倉さんなんかは福岡の代表ではない。日本を代表するクリエーターなんです。これはすごいことですよ」と絶賛した。加えて、ゲームクリエーターという仕事は、ほかと比べて世界で勝負しやすい業界であるため、フットワークの軽さが重要とも分析。そういった意味で、必然的に東京へ行かざるをえない機会が多い地方は「軽く動ける体にしておく」という部分で、メリットでさえあると持論を述べていた。
稲船氏の講演に続いては“ゲームクリエイターズフォーラム”と題して、レベルファイブ代表取締役社長の日野晃博氏、サイバーコネクトツー代表取締役社長の松山洋氏、ガンバリオン代表取締役社長の山倉千賀子氏、そして稲船氏によるパネルセッションが行われた。“今のシゴト”というテーマでは、文字どおり各人が現在取り組んでいる仕事が語られ、松山氏の口からは「映像関連で、日本初になるであろうことに取り組んでいる」という気になる発言が。また、山倉氏も現在マル秘の新規プロジェクトを進行中とのことで、その内容は「我々がいままでに作ったことのないタイプで、皆さんにもビックリしてもらえるもの」になるんだとか。
稲船氏の講演でも触れられた低迷する日本のゲーム業界という問題。“今後の展望”というテーマでは、そこについてアツい意見がつぎつぎと飛び出した。なかでも印象的だったのが、日野氏の「いま成功している人たちは苦労していないように見える。それは苦労を苦労と思っていないか、または苦労を人に見せていないからでしょう」という発言。稲船氏もこれには大いに賛同し「ツライツライと言ってしまう姿勢がダメだと思う」と、改めて“逃げ”の存在を指摘する。また松山氏も「苦労が現れてしまうと、結果的によくない方向へ行ってしまう」と同意。「“できない”じゃなくて、どうやればできるのか? という作戦を考えるべき。作戦を持っている人は強いですよ。作戦があれば逆転することができますから」(松山)。
テーマ“今後のゲーム業界を担う人たちへ”では、かつて稲船氏が発言し一部で話題を呼んだ、ゲームクリエーターとキャバクラに関する考察について再び触れられるひと幕も。過去に語った内容についてはこちらの記事に詳しいが、要約すると“キャバクラ通いがゲームクリエーターをダメにする”という考え。稲船氏は「あれはあくまで象徴としてキャバクラを例にしただけです(笑)」と語り、本意はヒット作を出したからと言ってそれにうぬぼれてはいけない、ということであると説明した。
最後に4人から、テーマにあるとおり今後の業界を担う人たちへのメッセージが贈られ、今回のゲームフロンティアは幕を閉じた。
「ゲーム業界はいま非常にきびしい状況にありますが、クリエーターになればゲームが好きであればとても楽しい毎日が待っています。ただし、大変であるという覚悟を持ったうえで、ぜひ飛び込んできてください。そうすれば苦労以上の大きなものを手に入れることができると思います。ぜひ私たちの仲間になってください」(山倉氏)
「ここにいる学生さんはとにかくゲーム会社へ就職することを目的に生きていると思いますけど、それは目的でもなんでもありません。ゲーム会社へ入ったあとに、ゲーム開発をすることが目的でもありません。私はインタビューで、今後の夢を聞かれたとき、いつも“この仕事を続けることが私の夢”と答えています。クリエーターというのはそういう生き物だと思うんです。皆さん覚悟は完了していますか? 一生涯、ゲームクリエーターという仕事をやっていく覚悟ができているなら絶対にやっていけるでしょう」(松山氏)
「レベルファイブを作る以前から僕はゲーム業界でプログラマーをやっていたのですが、24、5歳のころは仕事が終わって家に帰ったら“はやく朝にならないかな”とよく思っていました。朝になると会社でまたゲーム作りができるからです。仕事でそんな感覚になれるのはスゴイことだと思うんですよ。いまゲーム業界は決して景気のいい状況とは言えませんが、それと戦いながらモノを作って生活していくというのはすごく楽しいことなので、ぜひ皆さんも参加してください。とにかく大変ですけど、すごくおもしろい業界ですから」(日野氏)
「まとめてしまえば、松山さんのような人間になればいいんです(笑)。この方はスケベ心みたいのがなくて、純粋にいいゲームを作りたいと一途に思っているのが見ていてわかりますよね。皆さんはなぜクリエーターを目指すのですか? ゲームを作りたいからですよね。……でもどっかで、有名になりたいとか金持ちになろうとか、邪心が含まれます。それが大きくなると、クリエイティブへの気持ちを覆い隠してしまう。それがクリエーターにとっていちばんまずいことです。松山さんはその邪心がまったくない。だから、松山さんのようになりたい、と思うことがクリエーターにとって必要なことにもつながると思っています」(稲船氏)
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