HOME> ゲーム> “楽しむことは正しい”――ゲームクリエーターの心がまえを松山洋氏らが熱弁
●「皆さんにしか作れないクリエーティブというのは絶対にある」(松山洋氏)
2009年10月1日、神奈川県の厚木に校舎をかまえる東京工芸大学にて、サイバーコネクトツー代表取締役社長の松山洋氏、プログラムマネージャーの渡辺雅央氏、ディレクターの下田星児氏による“ゲームクリエイティブ-“つくりたい”から“つくる”へのステップ-”と題した講演が開催された。
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▲松山氏らによる講演は芸術学部だけでなく、工学部の学生も対象に実施。ご覧のとおり満席となった。 |
今回の講演は2部構成で実施され、第1部ではサイバーコネクトツーの歩みと、独自の取り組みが説明された。松山氏はまず、サイバーコネクトツーの経営理念について言及。九州を代表するゲームデベロッパーとして、これまでに数多くのタイトルを手掛けてきた同社。松山氏は「ゲームソフトって、誰のものだと思います? 突き詰めると、子供たちのものだと僕は思っているんです」と説明した。
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▲サイバーコネクトツー代表取締役の松山氏。「今日はウトウトする暇もないと思います」という言葉どおり、興味深い話がつぎつぎに飛び出す講演を行った。 |
サイバーコネクトツー経営理念に続いて、話はこれまで手掛けてきたタイトルの内容へ。『テイルコンチェルト』、『サイレントボマー』とデビュー以来佳作を立て続けに投入してきた同社だが、セールスの面ではふるわなかったという。そんな状況を変えた、転機となった作品が『.hack』シリーズだ。ゲームソフトにDVDアニメを同梱するなど、初めてクロスメディア展開に挑戦し、3年をかけて制作された同作はスマッシュヒットを記録し、サイバーコネクトツーを代表するRPGタイトルとなった。当然、次回作の開発も行われることになるのだが、「でも、またやるとなると3年かかってしまうわけです。3年も経つと子供って大人になってしまうんですよね」(松山)という問題が出てくることに。そこで松山氏は、社内に『.hack』シリーズを手掛けるラインと、そのほかのタイトルを手掛けるライン、ふたつの開発ラインを作ることで、最低でも年に1本はサイバーコネクトツーのタイトルをユーザーへ届けられる体制を整えることにしたのだ。そして、このもうひとつのラインから、アクションゲーム『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズが生まれることになる。
『ナルティメット』シリーズは、テレビアニメの『NARUTO-ナルト-』を題材にした、いわゆる版権物タイトル。松山氏はつねづね世に溢れる版権物タイトルの完成度に不満を持っていたそうだ。「作った人間は一度でも遊んだのか? キャラクターもののゲームを作るのにはさまざまな障害や事情があるのはわかるが、にしてもひどかった。キャラクターゲームだから、とキャラクターに胡坐をかいて、とりあえずキャラが動けばいい、という考えは許せない」と、ゲームだけでなくマンガ、アニメにも強い愛を持つゆえに辛辣な言葉で当時の状況を振り返る松山氏。こういった背景もあり、同氏は『ナルティメット』シリーズの開発に「世の中にあるキャラクターゲームのお手本となるような、子供たちをがっかりさせない魂の入った作品を出してみせる」という信念を持って取り組むことになる。その結果、プレイステーション2用ソフト『NARUTO-ナルト-
ナルティメットヒーロー』シリーズは、週刊ファミ通のクロスレビューでのゴールド殿堂入りを始め高い評価を得ることに。アニメのデザインをポリゴンで起こすというハイブリッドな表現は海外でも賞賛され、松山氏いわく“超アニメ表現”に挑戦したというシリーズ最新作のプレイステーション3用ソフト『NARUTO-ナルト-
ナルティメットストーム』では、日本よりも海外ユーザーからの反応のほうがよかったほど。「彼らは映像を観たときに、素で「オーマイガッ!!」って言ってましたからね(笑)」。ちなみに、同作は先述したファミ通のクロスレビューで同社初のプラチナ殿堂入りを果たしている。
『.hack』、『ナルティメット』シリーズという強力なふたつのラインを持つサイバーコネクトツーだが、それ以外のタイトルももちろん手掛けているようだ。そちらも順次発表されていくとのことなので、楽しみにしたい。
講演の第1部ではサイバーコネクトツーならではの取り組みについても触れられた。その中で興味深かったのが、社内コンペのルールについて。さまざまなアイデアを社内募集するというのは、ゲーム業界に限らず多くの企業で行われていることだが、サイバーコネクトツーではその企画書をA4サイズの紙1枚に収めなければいけないという。松山氏は数十枚もある企画書があったとして、その内容がいかに優れていようとも「それだけのページ数をクライアントにすべて読んでもらうことは難しい」とコメント。「企画というのは他人に伝える仕事。1枚で伝わらないおもしろさなんて、誰にも伝わりません」と断言した。
第2部ではプログラムマネージャーの渡辺氏、ディレクターの下田氏もまじえて“ゲーム開発でよく発生する壁、その傾向と対策”というテーマのもと、あらかじめ用意したお題に答えていくというQ&A形式の講演が行われた。“忙しくてゲームを遊ばなくなりました”というお題に対しては、全員からきびしい意見が出ることに。「ゲームが好きでこの業界に入ったはず。好きなものをやらないで、どうしてゲームを作れるでしょうか?」(渡辺)、「自分の持っているゲームがどういうおもしろさを持っているのか、ユーザーの視点で見られなければいけない。忙しくて遊べないという考え自体を削除するべきです」(下田)。松山氏も「これはゲームクリエーターとして絶対にダメなことです」と断言。自分たちの仕事は「イヤイヤやるようなことではない」と語り、「もっと大事なことがあるなら、別の仕事をやるべき」と、ゲーム作りに誇りを持つよう呼びかけ、「楽しむことを恐れないでください。楽しむことは正しいんです」と改めてゲームクリエーターがゲームを遊ぶことの重要性を説いた。
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▲第2部でさまざまな問題の対策を語った、プログラムマネージャーの渡辺氏(左)とディレクターの下田氏(右)。 |
ゲーム開発ではチーム内のコミュニケーションも、よい作品を作るうえで重要な要素のひとつ。“人と話すのが苦手です”という題に対して渡辺氏は「そう言われても「で、どうしたんですか」としか思えない。言葉が苦手なら、文章でも絵でも伝えることができる、そういった考えを持つべき」と、言葉以外にもコミュニケーションの取りかたがあると提案。下田氏も「じゃあ、聞くことはどうでしょうか? 相手の意見を引き出すことも立派なコミュニケーションですよ」と続ける。松山氏は両名の意見を踏まえながら「ほかの手段で意思を伝えることもできますが、やっぱり話すのがいちばん容易い」とコメント。その上で「いずれにしても意思の疎通がとれないと、モノ作りはできません」とまとめた。
“ゲームの方向性やアイデアがまとまらない!!”とお題がスクリーンに出ると、3人は思わず苦笑してしまう。「これはいつもあることなので、とくに気にしなくていい(笑)。プロも同じですよ」と下田氏。どうやら、プロアマ関係なくアイデア出しにはいつも困っているようだ。渡辺氏も「逃げることは諦めてください(笑)」と語りつつ、「それでも向き合って考える必要があるのがクリエーターです。プロになればこの壁がなくなることはありません」とクリエーターとしての自覚をうながした。松山氏は、クリエーターだからと言って、アイデアがつぎつぎと自然と降りてくることはまずないとし、「アイデアはフィーリングじゃない。感じるのではなくて考えるんです」と説明した。
続いての“ゲーム制作の中盤以降にゲームをよりおもしろくするアイデアがでた!!”に対しても、3人は思わず「いつもあること」と苦笑いすることに。スケジュールの問題もあるが「おもしろくなるならしょうがない」(渡辺)という部分で意見は一致しており、下田氏は「おもしろくないのをバグだと思っている」とコメント。「我々の仕事は終わりがない」と松山氏は語り、「少しイヤな言いかたですが、時間切れになった時点でゲームは完成するんです」と、締切とよりよい作品を作りたいという気持ちのあいだで揺れるクリエーターの心情を表現した。
新世代機の登場で飛躍的な進化を遂げたゲーム表現だが、その最新技術をいかに使いこなすかは、多くのクリエーターにとってうれしい反面、悩ましいところでもある。最後のお題“つぎつぎと新しい技術が出てきて大変です!”では、新技術に対するサイバーコネクトツーのスタンスが明かされた。
「いままでと違う技術にチャレンジすることは開発コストの高騰などが懸念される」と、新技術対応への苦労を語る下田氏。一方で「ただ、それ以上に新しい表現ができるようになった、というほうがクリエーターとしてはうれしくてしかたない」と語り、新技術への取り組みは「メリットしかないと思う」と結論づけた。渡辺氏も「新しい表現ができるようになるというよろこびは別格。我々の仕事の根っこにあるのは“楽しい”ですから。新技術の大変さというのは、裏返せばうれしさなんです」と下田氏の意見に続く。「ゲームを作るうえで、いちばんつらいのはできないこと」と松山氏。それからつぎのように語り、最新技術を得られることの喜びを力説した。
「さまざまな理由で諦めなければいけないことはあります。ただ、新しい道具や新しい技術があればできるようになる。表現できるというのは感動なんですよ。いままでできなかったことができるようになる、ということ以上の喜びはないです。なので技術の革新に対して我々は一生懸命勉強しています。皆さんにも、自分自身にとってタメになる勉強をしてほしいなと思います」(松山)。
講演の最後では来場者からの質問タイムが設けられ、この中で松山氏がゲーム作りを始めた当時のエピソードが語られた。同氏は「とにかくガムシャラだった。それは皆さんと同じだと思います。“ゲームクリエーターになりたい”という気持ちだけで動いてましたね」と説明。しかし、実際に会社を起こしてゲーム作りをやるようになってからは、その考えかたが変わってきたという。同氏は、ゲーム作りは「世のため、人のため」にするべきで、「自分がやりたいと思っていることだけでは不十分」と説明。自分自身も含めて、若いうちは「誰に喜んでほしくて作っているのか? というのが、見えていないことが多い」と語り、つねにユーザーを第一に考える姿勢を持つべきとした。
加えて松山氏は、「そういう意味で、任天堂様のやっていることは改めてすごいと思う」とコメント。以前まで“ゲームばかりやっているとバカになる”という考えかたは世の中で多く見られていたが、それを任天堂がニンテンドーDS、Wiiの投入で変えてくれた、と同氏は分析する。「(“ゲームばかりやっているとバカになる”などの風潮に対して)いちばん困っていたのはゲームソフト自身。それを救ったのが任天堂様。『脳トレ』を始めとする学習ソフトで“世の中の役に立つ”というテーマを打ち出したんですから」(松山)。
松山氏はゲーム作りの本質について「求めている人たちに、それでしか味わえないド真ん中の感動」を与えることだと説明。「だから数打てば当たるというやりかたはできないし、捨て企画などは考えられない」とサイバーコネクトツーの開発理念にも言及した。また、“自信に影響を与えた作品は?」という質問に対して、「自分自身が唯一涙を流したゲームに、『428 〜封鎖された渋谷で〜』と『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』という作品がある」と話した。
約2時間にもおよんだ講演の最後に松山氏はつぎのような言葉で来場者にエールを贈り、ともにゲーム業界を盛り上げていこうと呼びかけた。
「ここにいらっしゃる方々はひとり残らず、ゲームクリエーターになってください。もしよかったら、九州の福岡はすごくいいところなので、うちに入社してくれればいいなあと思うんですけど(笑)。まあ、うちに入社しなくてもかまいませんから、せめてほかのゲーム会社に行って我々の敵になってください。いっしょにゲーム業界を盛り上げていきましょう。すばらしい世界です。楽しいことは正しいんですよ。我々はともに戦える仲間をつねに求めています。そして、これからとくに必要とされるのが皆さんのような、10代、20代のクリエーター。我々が物心ついたときには残念ながら携帯電話もインターネットもなかった。けど、皆さんは気がついたらそれがあったんです。我々とはもう生き物が違うんですよ。皆さんにしか作れないクリエーティブというのは絶対にあるので、ぜひいっしょに仕事をしたいと思いますし、その力に期待しています」(松山)
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▲司会を務めた岩谷氏は、「松山さんの話が聞けるなんてホントにラッキーなことですよ。今後はこれを糧にしてくださいね」と学生たちに語った。 |
なお、今回会場となった東京工芸大学は、『パックマン』の生みの親である岩谷徹氏を教授に招き、2007年度より芸術学部アニメーション学科にゲームコースを新設。次世代のゲームクリエーター育成に学校を上げて取り組んでいるのだ。充実した設備はもちろんのこと、今回のような著名クリエーターの生の声が聞ける機会の創出にも力を入れており、昨年は『テイルズ
オブ』シリーズなどのプロデュサーを務めた、バンダイナムコゲームスの吉積信氏による講演が実施されている。今回の講演もそういった取り組みの一環であることに加えて、サイバーコネクトツーを始めとする九州のゲーム会社が“福岡をゲームのハリウッドに”というテーマのもと推し進めている取り組みGFF(GAME
FACTORY`S FRIENDSHIP)の活動の中の“ゲームクリエイターズサーキット”にて登場してくれたことに対する恩返しの意味もあるとのことだ。
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▲ゲームをプレイ中の視線の動きを測定する機械や、脳血流を計りどういった場面で脳が活性化するのかわかる装置など、最新鋭の設備が用意されている東京工芸大学のゲームコース。 |
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▲設立から3年が経つゲームコースでは、すでに輝かしい実績を残している学生も。こちらは、先日の東京ゲームショウ2009内で行われた、“日本ゲーム大賞2009 アマチュア部門”で大賞を獲得したチーム“タイケノコ”。大賞作の『BAMBOONO』は、ふたりで協力して進んでいくアクションゲームで、そのクオリティーはすぐに製品化できそうなほど高かった。 |
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※東京工芸大学、芸術学部アニメーション学科ゲームコースの詳細はこちら
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