HOME> ゲーム> 上田文人氏のゲーム哲学は? 『人喰いの大鷲トリコ』開発者インタビュー
●3部作の集大成に
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(SCEJ)の内制タイトルでは“特A”級の注目度を誇っているプレイステーション3用ソフト『人喰いの大鷲トリコ』(発売日・価格未定)。『ICO(イコ)』、『ワンダと巨像』を手掛けた上田文人氏によるこの注目作は、東京ゲームショウ2009のSCEブースで最新映像を観ることができる。国内では初めて公の場に姿を現したことにあわせ、ファミ通.comでは上田氏への直撃に成功。そのゲーム制作哲学に踏み込んだ。
−−『人喰いの大鷲トリコ』の映像が国内で公の場に出るのは初めてです。映像出展という形ですが、この映像には開発現場の様子も映されている……。かなりプレミア感のある映像で、驚きました。
上田 この映像、かなり長い時間かけて収録したものなんです。1週間くらいカメラが回っていて、密着ドキュメントという感じでした。その一部が東京ゲームショウ2009のSCEブースで公開されているわけです。
−−ここ、映しちゃっていいの!? っていう場面もあったような……。
上田 さすがにチェックしているので、それは大丈夫だと思いますよ(笑)。
−−その中で上田さんは、『トリコ』に関するこだわりの部分を語っていらして。とても印象的なのは、変な世界でありながら創作物に関してはリアリティーを追求している……という部分。言葉だけ聞くと矛盾しているようにも感じますが、どのようにして整合性を取られたんですか?
上田 現実感のあるものをリアルに表現することって、じつはそれほど難しい作業じゃないんです。そうではなく、現実感のないものを“さも存在するように”見せるのが創作する側の醍醐味なんですね。なのでこれは、矛盾しているわけではないんです。作るのは非常にたいへんですけど。
−−ハードがプレイステーション3になったことの影響は?
上田 プレイステーション3になって、表現できる情報量が増えました。物量が増えるのでたいへんではありますけど、そこにあるものに現実感を持たせるための作業は、いくぶん楽になったと思います。
−−これは表現できない、というようなストレスから開放された感じですか?
上田 そうですね。でももともと僕は、制約されることって嫌いじゃないんです。制約の中でいいものを作る、というのがクリエーターですから。ですので、プレイステーション、プレイステーション2だから悪いとは思わないんです。そういう意味では、今回はハードがプレイステーション3になったことによりできることの上限がここまで上がったからその中で作ろう、という感じになりますね。
−−実際にプレイステーション3で作り始めて、いかがでした?
上田 これまでの作品はどちらかというとデフォルメした表現が多かったと思うんです。『ICO』にしても『ワンダと巨像』にしても。巨像に関しても、じつはそれなりにデフォルメしていましたからね。でも『トリコ』に出てくる大鷲はデフォルメせず、そのまま、というか現実に近い質感で表現しています。
−−逆にごまかせない怖さ、作りこまなければいけないプレッシャーのようなものは?
上田 ごまかせないものは、あまり出していないんです。つまり、「この生き物は現実のあの動物がモチーフになっている」ということをわかりにくくしている、という感じでしょうか。たとえばネコをそのまま表現しようとしたら必ず、実在のネコと比べてどうこう……という話になるじゃないですか? 人間がふだんから接していて細かな機微にも違和感を感じるものに関してはデフォルメ、というかボカした表現をしています。そのへんは、うまくバランスがとれているんじゃないかな、と。
−−『トリコ』を観て思うのが、上田さんの観察眼。観察眼が優れているからこそ、あのような表現ができるんじゃないですか?
上田 ああ〜。何を表現すればリアルに感じるのか、というチョイスに関しては、もしかしたら優れているのかもしれません……って、自分で言うのはナンですけど(笑)。
−−ふだんから印象的なものを見たら絵にしておくとか、そういうことはなさっているんですか?
上田 いや、してないですね。でもたとえば、レースゲームの背景としてビルがあったとします。これを表現するときに、どうすればユーザーはリアルに感じてくれるのか? と考えるんです。ガラスってフラットのものですけど、レースのスピードの中で見るといろいろな角度で歪みが発生して、そこに映りこんでいる風景もズレるんです。それをうまく表現できれば映り込むもののスケール感も表現できるんじゃないかなぁ……。こういったことは常日頃から考えていますね。僕がビルを表現するなら窓ガラスの数を合わせるんじゃなくて、そこにある歪みを描きたい。
−−ゲーム制作に携わるまえから、そういうことは考えておられたんですか?
上田 そうですね。CGの制作を始めるようになってからは考えるようになりました。CGってのは作りものですから、目の前にあるすべてを盛り込むことはできません。ポイントとなる要素として何を抜き出すのかを捜す作業というのは、そのころからやっていましたよ。
−−“空間を捉える”ということも意識されているんですか?
上田 感覚としてはあります。ただ、うまく理論化できていないんですよね。でも僕は、生まれたときからテレビがあった世代ですので、ずっとドラマや映画を観て育ちました。ですからそういう感覚は学校の勉強と同じように自然と学習できていたんじゃないですかね? 編集の“間”だとかレイアウトだとか。基本的な知識として持っているんじゃないかな、と。
−−“間”というのは、具体的には?
上田 カットの長さだとか動きの間、リズムとか。基本的には、先を読まれないものがいいものだ、と思うんです。リズムにしても、お経のように同じテンポで進むのではなく、少しズレたほうがおもしろく感じるでしょう?
−−ジャズのようなイメージ?
上田 はい、そうですね。
−−ストーリーに関しても上田さんが手がけてらっしゃるんですか?
上田 そうです。これまでと同じく、映画とか小説のような複雑なストーリーではないですけど。物語はありますね。
−−『ICO』や『ワンダ』と同様に、今作も会話はほとんどない?
上田 はい。相手が動物ですしね。極力そういう言葉は排除したいなと。言葉が嫌いなわけじゃないんですけど、ビデオゲームを操作する人のことを考えたときに、やっぱり絵で伝えられるものを突き詰めたいなと。
−−プレイヤーとキャラクターの距離を縮めるような?
上田 結果的にはそうなるかもしれませんね。……まだまだこれからですけど。
−−解像度が上がったことについての感想は?
上田 じつはこれまで、正直に言うと絵にしても音にしても再生環境にはあまり興味がなかったんです。いい絵は低解像度で見てもいいだろう、と思っていて。でも今回自分で作ってみて、高解像度と低解像度のものを比べるとやっぱり解像度が高いほうがいいなとは思いました。でもやっぱり本質は、解像度の問題ではないと思っていますけど。音楽にしても、まずいい音楽ありきの話ですからね。再生環境の問題じゃないですから。
−−さて今回、ロゴが正式決定したと聞きました。
上田 そうなんです。たぶん……じゃないか(笑)。これが正式のものです。大鷲のデザインもそうなんですけど、いろいろな動物がミックスされたマッチング。ロゴもそれと同じく、いろいろな要素が含まれていることを表すために明朝体、ゴシック体を組み合わせたものにしました。
−−シンプルなんだけど、いろいろなものが含まれているという感じがします。
上田 さまざまな人に遊んでほしい、という想いも込められていますからね。
−−それと気になっているのが、上田さんが『トリコ』について“集大成”という言葉を使われていることです。非常に深い言葉なんですが……。
上田 深い……ですねえ。確かに。
−−これは『ICO』、『ワンダ』を含めた3部作、というイメージでおっしゃられているんですか?
上田 うん、それもありますね。ただきっちりとつながっているわけではなく、似たようなテイストの作品が3本あってもいいかな、というくらいのニュアンスですけど。
−−前2作でできなかったことを、『トリコ』で実現している……という感じですか?
上田 そう、まさにそれです。『ICO』にしても『ワンダ』にしても、技術的なチャレンジを含めてのゲームデザインだったんですね。でもいまだから言えることですけど、この2作は技術的な部分に時間を使ってしまってゲームデザインのチューニングにあまり時間を割けなかったんです。でも今回は、それらで得た技術的な蓄積があります。AIにしてもそうだし、エフェクトもそう。これまで開発したものに上乗せできるので、そこに時間を使わずに物語やゲームプレイの部分に力を入れられる。そういう意味でも集大成なんです。
−−では最後に、読者にメッセージを。
上田 もう少し時間はかかると思うんですけど、ものすごくプレッシャーを感じながらも、期待に応えられる、いや超えられるものを目指して作っています。ぜひ、待っていてください。
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