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『ドラゴンクエスト』は藤子不二雄? 堀井雄二氏が語る“国民的ゲーム”
【CEDEC2009リポート】

2009/9/3

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●「これからもゲームはなくならないと思います」(堀井雄二)


 CESAデベロッパーズカンファレンス(CEDEC)が、2009年9月1日〜2009年9月3日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜、国際会議センターで開催されている。このCEDECは、社団法人コンピュータエンタテインメント協会(CESA)により毎年開催されている、ゲーム開発者向けの講演会。11年目を迎える今回は、2008年の約1.5倍のセッション数が用意されるなど、大きく規模を拡大して行われている。この“新生CEDEC”の模様をリポートする。

 CEDEC 2009で行われる全セッションの中でも、発表当初からとくに高い注目を集めていた、開催最終日の基調講演“国民的ゲームとは何か? 〜ドラゴンクエストの場合〜”。この講演では、先日シリーズ最新作『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』が発売された、スクウェア・エニックスの『ドラゴンクエスト』シリーズが、“国民的RPG”と呼ばれる所以について、ゲームデザイナーの堀井雄二氏と、スクウェア・エニックスのプロデューサー市村龍太郎氏、ディレクターの藤澤仁氏による座談会形式で語られた。
 

▲堀井氏が公の場でゲームデザイナーとして講演を行うことはほとんどなく、かなり貴重な機会。話を始めるまえには「僕はこういうところで喋るのは苦手なので、聞いてもらって答えるためにこういう形(パネルセッション)にしてもらった(笑)」という冗談も。

 

▲堀井氏はシリーズ誕生の経緯から語り始めた。

 最初のお題は、“なぜ『ドラゴンクエスト』は人気を維持できるのか”というもの。『ドラゴンクエスト』シリーズの歴史を振り返ったときにまず驚かされるのが、第1作目登場以来つねに国内トップクラスの販売規模を記録している点だ。また、「人気を維持しているだけでなく、拡大している」という市村氏の言葉にあるとおり、第7作目でシリーズ史上最高の販売本数を見せ、最新作『IX』はそれに迫る勢いで売れ行きを伸ばしているなど、作品を重ねるごとにファン層を広げているとこも特筆すべき点だろう。このように、数字だけ追っても国民的RPGとしての風格が感じられる『ドラゴンクエスト』シリーズ。堀井氏は作品が誕生するまでの経緯を交えながら、長年にわたって愛され続けるシリーズ作りの秘訣を語った。

 

 『ドラゴンクエスト』が登場する以前の家庭用ゲームは「短時間でゲームオーバーにしなければいけない」(堀井)という、アーケードの影響を色濃く受けたアクションゲームが主流であった。しかし、堀井氏は「家庭用ゲームならだらだら遊んでもいいはず」と考え、当時はまだPCゲームユーザーくらいにしか知られていなかったRPGタイトルをファミコンで出そうと思い立ったのだという。とは言え、アクションに慣れ親しんだユーザーに、いきなりRPGを提供するのは敷居が高いと考えた堀井氏。そこでまずは「文字で遊ぶゲームになれてもらう」(同)ために、アドベンチャーゲーム『ポートピア連続殺人事件』を発売することにしたのだ。ちなみに同作はもともとPC向けのタイトルで、ファミコンへ移植するに当たっては、コマンドを直接テキストで打ち込む型式から、選択式へ変更されている。その理由はPCとファミコンでは入力デバイスが違うことに加えて、日本語表現の多彩さから来るデータ容量の限界も関係していた。「たとえば“自分”と言う場合、英語なら“I”だけですが、日本語だと私、俺などたくさんある」(同)。当時ファミコン用ROMの容量は64キロバイト程度で、無数にある入力候補の単語を登録するだけですぐにいっぱいになってしまう。選択式の採用はできる限り多くの要素を入れるための仕様変更だったというわけだ。

 

 容量の問題は『ドラゴンクエスト』開発時にも堀井氏を悩ませた。何せ64キロバイトというのはケータイの待受画面と同程度の容量。そこにひとつの世界を入れ込む作業は「アイテムの種類、テキスト、モンスターのデータはビット単位で調整した」(堀井)というギリギリでの取捨選択の積み重ねだったそうだ。しかし、そんな状態でも「とにかくわかりやすさに気をつけた」と堀井氏。この信念が最後まで貫かれていたからこそ、第1作目はRPGという当時マイナーだったジャンルにも関わらず100万本を超えるヒットを記録したのだろう。
 

▲市村氏は司会進行役として、堀井氏にさまざまな質問を投げかけた。

 その後シリーズは、『II』で仲間が加わり、『III』で転職が初登場するなど着実な進化を遂げ、人気を不動のものとする。市村氏は『ドラゴンクエスト』シリーズの魅力について「進化はするんですけど、遊び心地は変わらない。その絶妙なバランスで作られている感じ」とコメント。続けて“多くの人が遊ぶゲームだからこそ大切にしていること”というテーマを堀井氏に投げ掛けた。

 

 「僕はゲームを遊ぶとき、基本的にマニュアルを読まないんです。だからRPGでも読まなくて遊べるようにしようと思った」と自身がゲーム遊ぶ際のスタイルが、ゲームの作りかたにも影響していることを明かした堀井氏。そのこだわりは、ゲームスタート時のシチュエーションに見ることができるという。「いちばん最初に王様の部屋など、小さい空間にプレイヤーを置いて、そこを脱出するだけで基本的なルールがわかるようにしたんです。これはある意味『ドラゴンクエスト』の文法だと思う」(堀井)。話を聞く、周囲を調べる、階段で移動するといった基礎中の基礎を凝縮して、最初にプレイヤーへ提示するというわけだ。

 

 このゲーム序盤に入れ込む要素をチェックする際、堀井氏は“一部のユーザーが理解できないかもしれない部分をレアケースとして考える”ことを禁じる。『ドラゴンクエスト』のような数百万本単位で売れるソフトの場合、全体の1パーセントという些細な割合でも、ユーザー数に置き換えればかなりの数になるため、レアケースはレアと呼べないのだ。「理解できない人はだまって去ってしまう。そういう人を増やしてはいけないと思っているんです」(堀井)

 

 シリーズ作を作るうえでの苦労についても堀井氏は語った。「すごく難題なのは、期待値がどんどん上がっていくこと。映画でもそうですけど、シリーズものは前作と同じくらいのおもしろさだとつまらないと思われてしまうんです。その点『ドラゴンクエスト』は幸運なことに、ハードが進化し続けてくれたのでやれることが増えていった」(堀井)。しかし、シリーズ最新作『IX』では据え置き機から携帯ゲーム機へと移り、容量とグラフィック表現の部分でハード性能が低下している。この問題に対して開発陣はどのような姿勢で臨んだのだろうか?
 

▲『IX』のゲームデザインを紹介した藤澤氏。

 藤澤氏によれば『IX』は“ニンテンドーDSでマルチプレイができる『ドラゴンクエスト』を作る”という構想からスタートし、“ずっと遊べる、みんなで遊べる”という、これまでのシリーズ作品にはないテーマのもと開発されたタイトルであるという。具体的に説明すると、“ずっと遊べる”という部分を実現するために取られた手段が、“Wi-Fiショッピング”や“すれちがい通信”など。一方の“みんなで遊べる”はすれちがい通信による“宝の地図”の受け渡しや、攻略サイトの存在を意識して作られた高難度のクエストなどに当たる。

 

 つまり、ハード性能のダウンに対して開発陣が出した答えは“新たな『ドラゴンクエスト』の提供”というわけだ。藤澤氏はこの変化を「“スタートダッシュ型ゲーム”から”ロングラン型ゲーム”への質的変換を遂げようとする試み」と説明。中古市場への出回り率の低さや、過去作品比べて減少率が低い販売本数推移といったデータをもとに、「その効果が明確に見え始めている状況です」と胸を張った。

 

 堀井氏は『IX』がこれまでの作品と比べて「システム的にすごい難しい」にも関わらず「みんなふつうに遊んでいる」と驚き、ユーザーの質が上がってきたことも成功の要因ではないかと分析。また、100時間以上プレイしているユーザーが少なくないことに触れて「じつは『ドラゴンクエスト』ってゆるいゲームなんですよね。時間がプレイヤーのところで止まっているので、テレビを見ながらでも遊べる」と携帯ゲーム機との相性のよさを語った。

 

 同作が長い時間ユーザーを虜にしている要因としては“すれちがい通信”の存在も忘れてはいけない。市村氏は「こんなに流行るとは我々も思っていなかった(笑)」と、この大流行が予想外であったとコメント。「“コミュニケーションツールにする”という目的は当初からあって、まさにそうなってくれましたね。狙っていたことが何倍にもなって返ってきたのはうれしいところです」と率直な感想を延べた。

 

 市村氏はもうひとつの通信要素であるマルチプレイについても触れ、2009年9月11日からアーケードゲーム『ドラゴンクエスト モンスターバトルロードII』で始まる『IX』との“超連動”について紹介。これはニンテンドーDS用ソフトと業務用カードゲーム機を通信機能によって連動させる取り組みで『モンスターバトルロードII』の筐体と“すれちがい通信”を行うことで、同ゲームに登場するシリーズ歴代のボス“大魔王”を、特別な“宝の地図”として『IX』上で入手できるというもの。市村氏によれば、このサービスを始める背景には、都市部に比べて分散しがちな地方のユーザーたちを、『モンスターバトルロードII』をコアにつなげられれば、という狙いもあるそうだ。

 

▲講演の途中では、なんと登壇者とすれ違い通信ができる機会も。

 

 登壇者と来場者ですれ違い通信を行うという思わぬサプライズもありつつ、講演はいよいよ終盤へ。“これからのゲームはどうなっていくのか”という質問に対して堀井氏は「ゲームはなくならないと思います」と力強い回答。「昔、大学生がマンガを読む、と騒がれていて時期がありましたが、その人たちは60歳くらいになったいまでもマンガを読み続けている。だから、いまゲームを遊んでいる人が60歳くらいになって急に盆栽をやり始めるとは思えないんです」(堀井)。さらに、堀井氏は『IX』が携帯ゲーム機で成功したことに触れて、今後の方向性にも言及。「これから据え置き機に戻せるのか? と思うが、それに関しては波があると思う」と語り、携帯ゲーム機の普及が進めば、一方で据え置き機の映像美に惹かれる人も増えるだろうと持論を展開した。そして話題は、この講演の主題である“国民的ゲームとは何か”へ。

 

 「国民的ゲームを作るんだ! と思って作れるものではないんですよね。最初作ったときは国民的ゲームでも何でもなくて、20数年の歴史と皆さんの思いがそうしてくれたと思うんです。遊んでくれた人たちが思い出を持ったまま成長して、子供たちに教えて、親子で遊んでくれたから国民的ゲームになれたんじゃないかな」(堀井)

 

 国民的ゲームは、ユーザーが作ると結論づける堀井氏。最後に「マンガ家さんには、手塚治さんになるか藤子不二雄さんになるか、というのがあるのですが、ゲームもそうだと思う。成長したプレイヤーに合わせるのか、あくまで初心者に向けていくのか」と自分に問いかけ「『ドラゴンクエスト』はやはり藤子さんになれたらいいな」と講演を締めくくった。

▲堀井氏は最後に『ドラゴンクエスト』を国民的マンガ家にたとえて、その立ち位置を説明した。


※CEDEC 2009の公式サイトはこちら

 

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