追加配信も明らかに――『葛城ミサト報道計画』開発陣インタビュー
バンダイナムコゲームスから発表された、プレイステーション3向けの新サービス『葛城ミサト報道計画』。本作はアニメ『ヱヴァンゲリオン』の主要キャラクターのひとり”葛城ミサト”がニュースキャスターに扮して、毎日新聞から提供される最新ニュースを合成音声で読み上げてくれるという、ニュースとの新たな接しかたを提示する作品だ。
今回、開発を手掛けたセリウスの代表取締役社長である中村勲氏と、プロデューサーを務めたバンダイナムコゲームスの広野啓氏にインタビューする機会が得られた。開発経緯や今後追加されるコンテンツなどについて聞いたので、ぜひチェックしてほしい。
※関連記事:プレイステーション3が報道番組に参入?
ニュースキャスターは“葛城ミサト”
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セリウス |
バンダイナムコゲームス |
――セリウスの第1弾タイトルですが、どのような経緯から開発はスタートしたのでしょう?
中村勲氏(以下、中村) これはセリウスの成り立ち自体にも関係してくることなのですが、プレイステーション3という強力な計算資源を持ったハードが出たとき、もっといろいろな可能性を見つようじゃないかとの話がありました。しかし、アイデアがあっても現在の環境では従来のやりかたに固執してしまう可能性がある。そこで、いままでの取り組みから完全に分離した状態で、考えを集中させようとの思いで、SCEとバンダイナムコゲームスが共感し、セリウスという会社が立ち上げられたのです。会社の目標としては、“Cell”の豊富な計算資源での豊富な計算資源で、ゲームではないエンターテインメントの可能性を探るということと、サーバーとゲーム機がつながった状態でしか楽しめないコンテンツを提供していくところがあります。とは言っても、ゲームをネットワークに対応させて対戦できるようにします、では従来までの取り組みと同じになるので、そういうことではありません。ゲームソフトって、ディスクなどのメディアに落とし込むと、そこで遊べることが限られてしまうんですよね。さまざまな夢溢れるお話が盛り込まれているわけですが、プレイヤーはメディア内の情報だけでその世界を楽しむということに限定されてしまう。我々は、刻々と変わる世界で楽しむ遊びというものを提案したかったんです。これの解決手段のひとつとして、サーバーから提供する形を意識しました。こういった構図の具体例のひとつとして、今回の企画が立ち上がったわけです。
――なぜ題材にニュースを選んだのでしょう?
中村 ニュースというのは我々が生きている世界の中で、もっとも頻繁かつわかりやすく変化しているコンテンツだと思います。見ていて飽きがこないし、無限に変化していきますから。ただ、これを扱うためにはいままでの光メディアなどに封じ込めるというやりかたでは不可能。そういった意味で、セリウスの取り組みに合っていたというのがひとつの理由です。もうひとつは、技術力や計算力を使って何ができるのか? という点ですね。高度な計算力を単純に提示してもユーザーは興味を持たないだろうし、それって身近ではないのでよくわからないという反応を見せるでしょう。僕らが作るのはエンターテインメントなので、そんな野暮なことはしない。表向きは涼しい顔をしているけど、裏では一生懸命やっている。そういう“もてなしの心”につながるサービスを考えたときに“肉声の魅力”というのが挙がってきました。近年実用段階に入ってきた音声合成技術を用いれば、刻々と変化するニュースを、いつでも読み上げられる仕組みが作れるのではないかと。この技術への挑戦というところが、セリウスのテーマにも合っていた。というところから今回、音声によるニュース報道を題材に選びました。
――『ヱヴァンゲリヲン』の中で、葛城ミサトというキャラをピックアップした理由は?
中村 開発初期の試行錯誤段階ではいろいろなテーマでやってみたのですが、やはりユーザーにとっては“誰に読んでもらうのがいちばんうれしいか?”というところが重要なポイントになってくる。まあ、僕自身が『ヱヴァ』を好きというのもあって(笑)、とくに「サービス! サービス!」っていうセリフが。なので、現実のニュースを「サービス!サービス!」の精神を持つミサトさんに毎日読んでもらおうかと。
広野啓氏(以下、広野) ニュース番組という形のコンテンツを作るに当たって、実際の番組と同じでは意味がないですから。衣装や髪型が変えられるといった、ニュースを受け取るだけではないインタラクティブな要素も盛り込んでいます。そういった意味でキャラクターは非常に重要な存在ですから、そこも今回ミサトさんを選んだひとつの理由ですね。あとは、『ヱヴァ』が世に出てから10年以上経ちますが、テレビ放送当時に番組を観ていた人の多くが、いまプレイステーション3をもっとも遊んでいる世代に重なるという点。子供のころ夢中になったキャラが、大人になったいま、自分のためだけにニュースを読んでくれる。そこに感激する人はかなり多いのではと思います。
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▲ミサトさんが自分のためだけにニュースを読んでくれる。ファンにとってはたまらないシチュエーションだろう。 |
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――本サービスでいちばんの見どころは音声合成技術だと思うのですが、かなり肉声に近い仕上がりになっていますね。
中村 音声合成は積み重ねが物を言う技術で、一朝一夕でできるものではないようです。国内でも昔から根気強く研究しているところが何ヵ所かあって、その中から今回は日立超LSIシステムズさんが開発している“Ruby(R)Talk”という音声合成技術を採用させていただくことになりました。
広野 ただ、Ruby Talkは本来ゲームで動かすことに特化した技術ではありません。ゲーム映像と自然にリンクして音声を流すために、どこまでやれてどこまでやれないのか、という技術的な打ち合わせに、ものすごく時間をかけましたね。
――ゲーム内のセリフは基本的にすべて音声合成で流れているのでしょうか?
中村 劇中でよく聴かれるような言葉や、一部の定型文は収録したものですが、ニュース内容はつねに変わっていきますからニュース部分は完全に音声合成でやっています。ニュースの読み上げが始まったら、ニュース番組っぽく、抑えた感じに読みますが。
広野 音声合成用の収録には特別な手法がありまして、ふつうとは違う読みかたをする台本があるんです。ミサト役の三石琴乃さんにはキャラクターを演じていただきながら、音声合成用の声の素材にするための特殊な読み方をしていただき、非常にご苦労をかけてしまいました。ニュースなのであまり感情が入るとリアリティーがなくなってしまうので、ある程度客観性が保たれた状態で読み続けます。でも、完成後ご本人に確認してもらったら、あの収録の成果が「こうなるんだ!」と驚いてもらえましたよ。
――原作の舞台が忠実に再現されているところもファンにとってはうれしいところですよね。再現するうえでこだわった点などはありますか?
中村 自慢したいのはやはり、キャラモデリングの細かさ。パッと見た感じは1枚絵のアニメっぽいですが、実際にはこれ、すべて3Dで表現されているんですよ。なので、ニュースを読んでいる最中もカメラ視点をいじっていろいろな角度から見ることができます。ここまで顔や体の輪郭が自然に出ているミサトさんは、いままでなかったんじゃないかな。ファンの方には、このミサトさんが立体として成立している事実にまずは唸ってほしいですね。いろいろな角度からミサトさんを眺めていただき「あー、この人は鼻が高いんだなぁ」とか(笑)。
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▲開発陣がその完成度に胸を張る、3D化された葛城ミサト。一見するとアニメ絵に見えてしまうほど、そのクオリティーは高い。 |
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広野 表情のパターン、動きも自然かつ豊富なので、そこも自慢できるポイントでしょう。「俺はミサトさんだけが見たいんだ!」という方のためには、じっくりと眺められる“スクリーンセーブ”モードを用意しました。
中村 プレイステーション3が接続されているテレビは、ご家庭でいちばん大きいテレビだと思うんです。そこで、僕らの自慢であるミサトさんを心ゆくまで堪能してほしい。なのでスクリーンセーブモードでは、バックにクラシック音楽を流させてもらいました(笑)。もちろん選曲は『ヱヴァ』ファンなら「おっ」と思えるおなじみのものになっています。そのほかにも、プレイステーション3用コントローラーの6軸検出システムと連動してメニューなどのインタフェースが動かせるという、いままでにないような演出も。コントローラーは手に持っていますから、つねに何となく動いていますよね。その無意識の動きをゲームにも反映できないかな、ということで今回採用してみました。これもさきほど言った、さりげなく使われた高い技術を楽んでもらう要素のひとつになっているんじゃないでしょうか。浮遊感のある不思議なメニューを楽しんでください。
広野 自分たちで言うのもなんですが、メニューまわりなどのデザインセンスはかなり凝っていると思っています。原作らしさを残しつつ新しい試みにチャレンジしているので、見せかたにもこだわっています。画面が切り替わる際のメニューの消えかた、現れかたにもぜひ注目してほしいですね。
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▲『ヱヴァンゲリヲン』っぽさを意識してデザインされたインターフェース類。 |
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――ゲームのモードとしては、ニュース以外に何があるのでしょうか?
広野 さきほども少し話しましたが、更衣室で衣装を変えることができます。最初に選べるのはひとつだけですが、順次追加配信予定です。衣装も劇中で見たことがある内容になっていますよ。ちなみに、あとに配信されるものほどラフな服装になってきて、最後はびっくりするような服装でニュースを読んでもらうことも(笑)。
中村 ニュースを読んでもらうステージも複数選べて、NERV本部の総合先頭指揮所である“第1発令所”以外にも学校の教室、ミサトの自宅が用意されています。そのほかに、ある衣装を着ているときだけ選べる場所もあったり……こちらは乞ご期待です。
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▲ステージ、衣装は変更が可能。自室でニュースを読む際にはあぐらをかいていたりと、変わったシチュエーションで聴くことも。 |
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――ユーザーにはどのような形でこのコンテンツに触れてもらいたいですか?
広野 画面内には天気予報、時刻といった日々のお役立ち情報も表示されるので朝起きたらまずはプレイステーション3を起動して、といったスタイルが理想的です。また、ニュースは毎日新聞社さんからご提供いただいています。
中村 つねに起動しっぱなしにしてもらえるのがいちばんいいですね。僕らもそういった利用を想定して作っています。朝起きたらまず起動して、ニュースを流しながら歯を磨いて、着替えて、ご飯を食べて……と、朝の忙しい時間はミサトさんから情報を収集しつつ過ごす、みたいな遊びかたをしてもらえれば理想的です。朝の準備と言えば、いわゆるテレビ放送を見るのが一般的かと思いますが、『葛城ミサト報道計画』なら、いつでもニュースだけを“耳”から得ることができます。
広野 インターネットでニュースを見るという人もいると思いますが、こちらは読み上げてくれますから、パソコンの前に居続ける必要がありません。基本的には何かをしながら利用してもらえればと。
――ながらプレイ推奨ということですね。
広野 まさにそうですね(笑)。『葛城ミサト報道計画』のある生活スタイルを提案できればおもしろいかなと思います。
中村 テレビニュースのキャスターは、全国の人にまんべんなくメッセージを出すわけですよね。でもこれは、自分のためだけにミサトさんが読んでくれる! この贅沢感、独り占め感は新しいかな、と考えています。また、PSP(プレイステーション・ポータブル)の“リモートプレイ”にも対応しています。なので本体を起動したまま出掛ければ、外にいるときでも無線LANのアクセスポイントからミサトさんが読むニュースを観られるわけです。
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▲リモートプレイなので、グラフィックのクオリティーを下げることなくミサトさんを持ち歩ける。 |
――情報を得られるコンテンツと言えば、SCEJが展開している『まいにちいっしょ』の“トロ・ステーション”がありますが、あちらは基本無料です。『葛城ミサト報道計画』は有料コンテンツ(※ニュースライセンス料として30日間800円[税込]を課金)として、差別化を図れていると思いますか?
広野 “トロ・ステーション”のニュースはリアルタイムの最新ニュースというわけではなく、いくつかのニュースがピックアップされる形で、ボリュームにはかなり差があります。内容も手作りなので、差別化というよりは、そもそも方向性が違うコンテンツと言えるでしょう。
中村 現行のサービスで内容が近いものをあえて挙げるとすれば、SCEさんの“Life with PlayStation”でしょうか。ワールドワイドでニュース情報が得られるところなど、充実している点もあります。しかし、ニュースは目から得ますよね。あと、しつこいようですが、ミサトさんがいない(笑)。と言ってもこれは冗談ではなく、我々のサービスでは情報を得る以外にも、ミサトさんがニュースを読んでいるという、ある種のシュールさにクスっとしてもらい、心に潤いを与えたいと思っているんです。たとえば、早朝に起動すると「おっはよー!」と挨拶をしてくれるんですね。僕なんかはそれを聞くと「よしっ! 今日もがんばるか」って感じになれます。開発スタッフの中にも、朝方まで作業しているときにその挨拶で元気づけられた、って言ってます(笑)。
――起動時の挨拶は何種類くらいあるのですか?
広野 時間に合わせて「こんにちは」、「こんばんは」もあります。あとは、特別な日になると専用のメッセージが聞けることもあったり。まだ具体的に紹介することはできないのですが、ぜひ見てほしいですね。そのためにも毎日起動してもらえればと思います。
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▲将来的には最新ニュース以外の情報も見られるようになるかも!? |
――今後もセリウスでは、ゲームではないコンテツを提供していくのでしょうか?
中村 そうなると思います。今回の作品は、最初に説明したセリウスが掲げるCellの豊富な計算資源で、ゲームではないエンターテインメントの可能性を探る”という目標に対して、どんなのがあるのだろうか? という議論を重ねていくなかで、比較的近い未来に実現できると判断されたものです。なので、このほかにもまだお見せできないプロジェクトもいくつも走っていますよ。近い内に魅力的な形にしてお届けすることができると思いますので、お楽しみに。
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開発した“セリウス”ってどんな会社? |
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『葛城ミサト報道計画』の開発を手掛けたセリウスは、バンダイナムコゲームスとソニーコンピュータエンタテインメントが共同で、2007年に設立した合弁会社。代表取締役社長は過去に『リッジレーサー』シリーズなどを手掛けた中村勲氏で、プレイステーション3のCPU”Cell
Broadband Engine”を活用した、新しいエンタテインメントコンテンツの創造を目的とした開発を行っている。作品をリリースするのは今回が初めて。今後も”Cell”を活用したノンゲームを中心に展開していく予定で、同分野のさらなる発展の鍵を握るメーカーと言えるだろう。 |
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