『99のなみだ』の開発は“泣ける”ほどに山あり谷ありだった
【CEDEC 2008】
●いくつもの挑戦から生まれた涙の作品
2008年9月9日〜11日までの3日間、東京都世田谷区にある昭和女子大学で開催されている国内最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2008”。開催2日目となった9月10日も早朝から夕方までさまざまなセッションが行われ、ゲーム開発技術の活発な交流が行われた。
“泣いてスッキリ、明日も頑張ろう”というテーマに沿って開発された、バンダイナムコゲームスのニンテンドーDS用ソフト『99のなみだ』。全207話ある感動のショートストーリーの中から、プレイヤーの“泣きのツボ”に合った99話を選んでくれる“なみだのソムリエ”システムなど“涙”に焦点を当てて開発された作品だ。“女性ががんばる新しいゲーム開発+α in 「99のなみだ」”では、このタイトルの企画立案から発売までの流れが明かされた。
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▲ゲームの企画立案を行った磯氏。 |
バンダイナムコゲームス
コンテンツ制作本部 第2制作ディビジョン 第5制作ユニット CG6課の磯桂子氏が本作の企画を思い立ったのは2006年のこと。当時、同氏はグラフィッカーとして3年間関わっていたプロジェクトが突然中止となり、ショックから半ば引きこもりに近い生活をしていたそうだ。そのときにボンヤリと考えていた「何か柔らかいものを作りたい、人のためにもっともっと役立てるものを作れないだろうか」(磯)という思いがそもそものスタートなのだという。その後、同僚であるコンテンツ制作本部
第2制作ディビジョン 第5制作ユニット 企画8課の青木奈津子氏とともに、そのボンヤリとした思いを具現化するべくさまざまアイデア出しを実施。ふたりとも企画書作成などのノウハウはなかったが、そんなことは気にせず“大食い”、“お笑い”、“イルカと泳ぐ”、“泣く”といった癒しにつながりそうな案をつぎつぎと出し合ったという。
けっきょくこの段階では何をテーマにするかは決まらなかったが、“喜怒哀楽でストレスを解消できるムービー”を収録した作品を作る、というコンセプト部分に関しては決定した。しかしすぐに「具体的に何が人の喜怒哀楽を動かすのか? という点がはっきりしませんでした。自分たちだけでやるには限界があった」(磯)という壁にぶち当たる。そんな折、バンダイナムコゲームスの社内フォーラムで、ゲームが起こす生理的効果や心理的効果などを研究している早稲田大学の河合隆史教授が講演を実施。磯、青木の両氏はすぐに河合教授へ協力の相談を行い、産学連携プロジェクトとして『99のなみだ』は本格的にスタートしたのだ。青木氏によればこの時点で、作品のテーマを“泣き”にすることも決定したという。「泣くとスッキリするという自分たちの経験をもとに、前向きになるための手段として泣きに焦点を定めました」(青木)。
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▲青木氏は磯氏とともにゲームの企画段階からともにアイデアなどを出し合った。 |
ゲームを作るにあたって、まず最初に行われたのは“どうすれば涙を流してくれるのか?”という研究。約100名へのアンケートなどから、男性は友情、女性は恋愛に関する物語で泣きやすいという傾向が明らかになった。加えて、男性はうれしいときなどに出る“ポジティブな涙”が多く、女性はくやしいとき、悲しいときなどに出る“ネガティブな涙”が多いという結果も得られた。これらを踏まえたうえで、ゲームのプロトタイプを開発。今度は社内モニターで“これで泣けるのか? 気分は変化したのか?”という検証を徹底的に重ねたそうだ。
ゲームのキモとも言える“なみだのソムリエ”システムの解説も行われた。青木氏によれば、これはプレイヤーの入力情報をもとに、そのプレイヤーにとっての“泣きやすいランキング”を立てるという仕組みなのだという。ただし、単純にそこから物語を抽出するだけでは同じような話が集まってしまう可能性もあるため、今日は思い切り泣きたい、少しだけ泣きたいといった、そのときどきのプレイヤーの気分に合わせた提案が行えるように調整されているという。
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▲『99のなみだ』専用のツール開発などを行った鈴木氏。 |
実際にゲームの開発がスタートしたあとの流れについては、コンテンツ制作本部
第2制作ディビジョン 第5制作ユニット 企画8課の鈴木恒氏より語られた。『99のなみだ』はショートムービーから成る作品のため、必然的にムービー制作にかける手間の効率化が求めらた。そこで鈴木氏らは“ナミダツール”という専用の作成ツールを作成。これはFlashの知識などがなくてもムービー制作を行うことができ、PCさえあれば誰でも利用が可能というもの。ムービーにはサウンドもともなうので、そちらに関しても“なみだのサウンドシステム”と呼ばれる専用ツールを開発。これは、限られた曲数の中でも使いまわし感を感じさせない、話の盛り上がりに合わせて曲も盛り上げる、というコンセプトのもと作られており、楽曲内のイントロ、Aメロ、Bメロなどをメロディーごとに区切って、それの組み合わせを変えられるというもの。イントロからAメロを飛ばして、Bメロにつなげるといった構成も可能で、これにより同じ曲でもメロディーのつなぎを変えてガラリと雰囲気を変えたり、話の盛り上がりに合わせてメロディーをサビにつなげることができるようになったというわけだ。
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▲こちらは鈴木氏が「僕からは絶対に出ない、女性らしいエモーショナルなアイデア」と言って紹介したランプ点火、吹き消し仕様。これは物語を読むまえにランプを灯し、読み終えたらニンテンドーDSのマイクに息を吹きかけて消すというもの。 |
最後に登壇したCSカンパニー
CS第1プロダクション 第1課 マネージャーの石田氏はソフト発売に向けて行われたプロモーション展開について紹介。『99のなみだ』はソフト発売に先立って、同名の小説が販売された。これはゲームのメインターゲットである女性層や、ふだんあまりゲームを遊ばない年代の人に『99のなみだ』という作品の存在を知ってもらうために展開したという。「『99のなみだ』はいい作品だ、ということにまずは気づいてほしかった」(石田)。小説以外にも、女性およびゲームを遊ばない年代へ向けたさまざまなプロモーションが行われた。ゲームのイメージキャラクターにタレントの入山法子を起用、収録される物語の執筆を秋元康(作詞家)、高原直泰(プロサッカー選手)といった著名人に依頼などだ。この施策は確かな成果を結んだようで、石田氏によれば、雑誌・フリーペーパー、テレビ、ラジオ、新聞など幅広いメディアで約65回も取り上げられたのだという。ソフトの発売からすでに3ヵ月以上経過しているが、石田氏は「旬がある作品というわけではないので、細く長く売っていきます」と、まだまだこれからといった様子。
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▲石田氏は非ゲームユーザー層などに向けたプロモーションについて解説を行った。 |
女性スタッフ主導での開発、喜怒哀楽の研究、そして涙を切り口としたいままでにない内容……『99のなみだ』はいくつもの挑戦があってこそ生まれた作品だ。石田氏は最後に「我々はいまも挑戦中です」と力強いコメントを残し、セッションは終了となった。
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