『SIREN』と『忌火起草』、日本を代表するホラーゲームから学ぶ”恐怖”の作りかた
Game Tools & Middleware Forum 2008 TOKYO
●徹底した効率化が生む、究極のホラー映像
ソニー・コンピューターエンタテインメントジャパンから、2008年7月24日に発売が予定されているプレイステーション3用ソフト『SIREN: New Translation(サイレン ニュー・トランスレーション)』。シリーズ1作目から独自の恐怖を追求してきた本作の演出に欠かせないのが、細部まで描きこまれた各キャラクターのグラフィックと、屍人と呼ばれるキャラクターたちの不気味な動き。ゲストスピーカー講演”SIREN NT”では、このグラフィックと動きを表現するために利用された開発ツール”Autodesk Maya”および”Autodesk MotionBulider”の開発事例が紹介された。
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▲Autodesk Mayayaの紹介はSCEワールドワイドスタジオ JAPANスタジオ グラフィックデザイン部の山口由晃氏が行った。 |
Autodesk Mayaは、キャラクター制作で使われるメインツール。『SIREN:
New Translation(サイレン ニュー・トランスレーション)』ではキャラクターを作る際に必ずモデルの撮影を行うのだが、それを3Dスキャンしたのちにゲーム用に調整を加えていくのが本ツールの役割だ。このツールが優れている点は、キャラクターの骨格にあたる”ボーン”の位置を検出して、ボーンが移動すると自動で身体的変化も調整してくれる点。これにより、ボーンを動かすたびにそのほかの部分を調整するという手間が省け、開発効率が飛躍的に向上するという。
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▲屍人は人間では到底不可能な体勢で移動する場合もある。そのような想定外の姿を持つキャラクターも、Autodesk Mayaならばそれほど大きな手間をかけることなく制作が可能に。 |
キャラクターに個性を持たせるうえで重要な表情は、あらかじめ用意された複数のカテゴリーから選択するだけで制作が可能。大まかなフォーマットをすべてのキャラクターで共有して作業時間を短縮し、そのぶん細部の描きこみに集中する……『SIREN:
New Translation(サイレン ニュー・トランスレーション)』に登場するキャラクターたちは、このような工程を経て命を吹き込まれたというわけだ。
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▲こちらは3Dキャラクターを作るまえに必ず行われるモデル撮影の様子。この時点ですでに屍人の白い顔や、服に飛び散った血など細部までメイクが施されている。表情は本物役者を用意して、さまざまなパターンを収録するとのことだ。 |
一方のAutodesk
MotionBuliderは、キャラクターの動きを設定するツール。本作では約150のキャラクターが用意されているが、それぞれ動きを設定していたのでは膨大な時間がかかってしまう。そこで登場するのがMotionBulider。このツールでは動きのパターンをひとつ作成すれば、それをほかのキャラクターにワンタッチでコピーをできる機能が搭載されているのだ。たとえば、プレイヤーキャラクターの場合、駆け足、段差を上る、汗を拭うといった基本的な動作の95パーセントはコピー機能で設定され、残り5パーセントの動きで各キャラに個性を持たせるという、効率的な手法でモーションが作られている。
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▲Autodesk MotionBuliderの事例紹介を行ったGavin Moor氏。山口氏と同じく、SCEワールドワイドスタジオ JAPANスタジオ グラフィックデザイン部のスタッフだ。 |
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▲体格、性別に関係なく同じモーションをコピーすることができる。走る速度や、上れる段差の高さは腰の位置で自動的に調整されるとのこと。 |
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もうひとつの優れた点として、リアルタイムでの動作チェックが挙げられる。一般的なツールでは、設定された動きをチェックするために別のソフトを立ち上げる必要があったりと、何かしらのアクションを挟む必要があった。ところが、MotionBuliderでは同ツール内にプレビューが搭載されており、数値をいじりながら細かな動きを微調整することができるのだ。今回のセミナーでは、つるはしを持ったプレイヤーキャラが屍人に襲われるシーンの作成を実演。初期段階ではプレイヤーキャラが地面に倒れ込む際に体や地面につるはしがめり込んでいたのだが、15分ほどでその不具合も修正。ほんのわずかな時間で、緊迫感溢れる戦闘シーンが完成してしまった。
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▲画面下部のデータ項目およびプレビュー画面での微調整が可能。リアルタイムでの動作確認は、作業時間の大幅効率につながる。 |
グラフィックと動作、両ツールに共通しているのは、効率化できるところは積極的に効率化していくという考え。開発費の高騰が止まらないゲーム業界において、このような思想のもとに設計されたツールは今後も増え続けていくに違いない。
●『忌火起草』の非日常的なサウンドの肝は低音にあり
視覚的な恐怖が印象に残る『SIREN:
New Translation(サイレン ニュー・トランスレーション)』に対して、チュンソフトが2007年10月に発売したプレイステーション3用ソフト『忌火起草』は音による恐怖の演出が際立っているタイトル。”『忌火起草』におけるサランド開発事例セミナー”では、その音作りに関するこだわりを聞くことができた。本作ではゲームの臨場感と集中力を高めるため、”ドルビー5.1ch”が採用されている。サウンドディレクターを務めたチュンソフトの沖邊美佐紀氏、およびReaJ
Soundサウンドエディターを担当したダイナマジックの嶺川千春氏は、このドルビー5.1chから出る各スピーカーの音を細分化することで、ゲーム画面と音のシンクロ率を上昇させることができたと語る。一例として具体的に名前が挙がったのが”スウィートナー”という手法。これは、聴く人の周りを囲むのではなく”埋めていく”イメージの音の使いかたで、ゲーム中では幽霊が出てくるシーンなど、周囲から複数の声が一斉に発されるときに利用されているという。
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▲新たなサウンドノベルを作る、原点回帰とも取れる考えから”ドルビーデジタル5.1ch”の採用が決まった。 |
また、各キャラクターのセリフにもシンクロ率へのこだわりがある。ゲーム中には約4300のセリフが収録されているのだが、そのすべてに場面に合わせたエフェクトがかけられているのだ。会場ではエフェクトのないセリフと、食堂をイメージしたエフェクトをかけたセリフが流され、その違いを紹介。とくに音の勉強をしているわけではない記者でもその違いは理解することができ、後者はセリフ全体にエコーのように響く効果がかかっており、食堂の絵と同時に流された場合のシンクロ率は確実に増すように感じられた。
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▲セリフにはすべてその場ごとのエフェクトがかけられている。このこだわりが、画面と音の高いシンクロ率を生む。 |
しかし、絵と音のシンクロ率はあくまで本作における基本テーマであり、もっとも追求されたのは音による恐怖の表現方法。こちらでも工夫された点は音の出しかただ。嶺川氏は”新しいが普遍的な恐怖”を主題にさまざまな手段を吟味した結果、低音スピーカーの音を交ぜることで、日常的ではない状況を表現することに成功したと語る。この手法は主人公がひとりで寝ているときに幽霊から「あなたは誰?」と呼びかけられるシーンでもっとも効果的に使われており、上記のセリフに被せて不気味な低音ボイスが流されるのだ。「はっきりと聞こえないけど、いやーな音を忍びこませる」(嶺川)。『忌火起草』の恐怖の真髄は低音にありというわけだ。
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▲恐怖シーンで響く低音が、プレイヤーの恐怖心や不安を刺激する。 |
低音はなにも恐怖シーンにのみ使われているわけではない。ひとりで部屋にいるときの空調音など、静かな場面でもギリギリ聞き取れる範囲で流されている。これは、ゲーム全体に不気味な空気を流すとともに、”完全な無音”という恐怖表現を生み出すための手法でもあると嶺川氏は語る。ショッキングなシーンの直前にいままでうっすらと聞こえていた低音が消え、プレイヤーは静寂に包まれる……そして、つぎの瞬間耳をつんざくような大音量が! という表現も、低音があってこそ活きてくるのだ。
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▲講演行ったチュンソフトの沖邊氏(左)とダイナマジックの嶺川氏(右)。「バーチャルな空間の音を作るのはサランドの醍醐味だと思う」(沖邊)と語り、苦労もあったが達成感はそれ以上だったと述べた。 |
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なお『忌火起草』は2008年8月7日に『忌火起草 解明編』としてWiiでも発売予定だが、こちらではドルビー5.1chが採用されていない。しかし、沖邊氏によればプレイステーション3版の音をWiiで採用された”ドルビー Pro Logic II”向けにエンコードしているので、ほぼ同質の音を作り出すことができたという。いずれにせよ、これから『忌火起草』を遊ぶ人には低音部分に注目してプレイしてみては?
※『SIREN: New Translation(サイレン ニュー・トランスレーション)』の公式サイトはこちら
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