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第2回:北京発!アメリカで得た成功を投げ捨て、自分たちが夢見る革新的なゲームの開発に取り組む新世代クリエイター
【不定期連載】世界のゲーム産業研究ノート

2008/3/15

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●開発パートナーとして中国を受け入れる

 

 中国というとまず思い起こすのは、海賊版の横行やオンラインゲーム産業の躍進だろう。筆者自身、中国市場の立ち上がりから継続的に市況をウォッチしてきたが、外資系企業、特に日本企業にとっては、中国市場はいまだに謎に満ちている。オンラインゲーム産業の黎明期は、台湾製、韓国製のMMOPRGが市場シェアのほとんどを握っていたが、現在はトップシェアを誇るコンテンツの多くが中国国産となってきている。けっきょく、タイトルにおけるヒットの要因が、技術的優位性や美麗なグラフィック、優れたゲームデザインなど、ゲームそのものに依存するというよりは、オフラインやオンラインにおける顧客サービスやそれに対応した組織構成の構築及び人材教育、そして、時代のニーズにマッチした事業モデルなど様々な要因に依存するため、外資系企業にとって、中国市場の実態を把握するには困難を極める。


▲左がゲージガリンガー氏、右がフォング・ズー氏。まだ30代のコンビ。


 だが、欧米日と比べ安価な労働コストを武器に、既存の方向性とはまったく違った方向でイノベーティブな作品をつくりあげるクリエイターが現れた。Possibility Spaceのゲージ・ガリンガー(Gage Galinger)氏と、フォング・ズー(Feng Zhu)氏だ。現在北京で、ゲームベンチャーを立ち上げた二人は、もともとテキサスのオリジン社で出会った。ともに『ウィング・コマンダー』の開発に携わったのだ。その後、ゲージはゲームプログラミンマーとして、ブリザード、エンセンブルスタジオと渡り歩き、『スター・クラフト』、『エイジ・オブ・エンパイヤ』など数々の作品に携わった後、新天地を目指して北京に単身乗り込み、モバイルコンテンツの開発会社を経てPossibility Spaceを立ち上げた。一方、フォング氏は、ハリウッドを目指す。ゲーム業界の様々なプロジェクトでコンセプトアートを担当した後、ジョージルーカスに招待され、スカイウォーカーランチの、『スターウォーズ エピソードIII/シスの復讐』アートスタッフとして加わったのだ。その後、NCソフトアメリカのクリエイティブディレクター、ジェームス・キャメロン監督のプロジェクト、エレクトロニック・アーツ、Epic Games、ワーナーブラザーズなど数々のプロジェクトを経て、『トランスフォーマー』での仕事を終えた後、2005年にPossibility Spaceを立ち上げていたゲージ氏のチームに加わった。

 Possibility Spaceの開発者は35名。デザイナーとエンジニアにはそれぞれ中国人が17人と11人、シニアデザイナーは4人の中国人と1人のオーストラリア人で構成されている。これらのチームを統括している2名のプロデューサーはアメリカ人とカナダ人だ。なお、サウンドエフェクト及びBGMは全て米国のスタジオにアウトソーシングしているとのことだ。まさに国際傭兵部隊といった感がある。
 

▲Possibilty Space社内部。非常にスッキリしたデザインだ。

 

●コアゲーマー、社会人ゲーマー、すべてのゲームを愛するひとたちを巻き込むために

 

 彼らが創業当時より開発を進めたのがMORPG(マルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲーム、以下、MORPG)だ。北京で開発に勤しんでいる。すでに2年以上経過したプロジェクトだが、現在は全世界で同時クローズドβという段階にまで進んだ。ゲージ氏は北京という場に開発拠点を移した事に対し、ゲーム開発現場としての欧米の限界について説明してくれた。ゲージ氏によれば、リスクを除いてゲーム開発することは現在の欧米では不可能だと主張する。「クリエイティブフリーダムはすごく重要だよ。開発費が高騰すればするほど(作品開発での)リスクを減らさなければならない。欧米で開発コストが高騰する理由は3Dグラフィックのレンダリングにかなりの開発費を注いでいるからなんだ。これをすることによって必然的にふたつの結果を招く。ひとつは、ゲームファイルが膨大且つ複雑化してしまう。もうひとつはユーザー層を著しく制限してしまう。PCのスペックがかなり高くない限りプレイすることは出来ないからね。これは本当に理不尽な事だよ。なぜそんなゲーム開発をするか正直いって理解出来ないよ。自分自身開発に携わりながら、ずっとおかしいんじゃないかって疑問を持ち続けていたんだ」(ゲージ)。

 

 このような問題意識を持ちつつ、昨今のMORPGプレイ時におけるGPUやCPUのスペック制限という呪縛や、ファイルダウンロードの煩雑さを解決しながらもコンテンツとしてのハイクオリティーを維持しようと開発を進めたのが『Warrior Epic』(以下、『WE』)だ。『WE』は中世ファンタジーを舞台としたアクションMORPG。これまでの欧米系開発スタジオによる作品はアイテム課金モデルを前提にしたカジュアルゲームか、月額課金+パッケージ販売による本格的MMORPGというのが主流だった。『WE』は、公式ウェブサイトからの無料ダウンロードのモデルを採用する。従ってパッケージ販売も、自ら販売を手がける欧米では念頭にないという。ではすべて新しいことづくめという感がある『WE』の特徴について簡単に触れよう。

 

●ハイスペックGPUフリーのゲームグラフィック


▲『WE』のコンセプトアート。これはオープイングでも見ることができる巨大都市。幻想的だ。


 

 『WE』の特徴はハイスペックGPUおよび最先端のDirect3Dに頼る事なく、美麗なグラフィックを描画するようにしたこと。テクスチャーの配色に特に気を配り、シェーダエフェクトを極力抑えながらグラフィック的にハイクオリティーなものを目指した。また、ライティング機能すらも活用してない。あたかも光源があるかのような色合いは全てテクスチャーを工夫して達成したものだ。これにより、昨今のゲームでは見られない独特なゲーム世界を作り上げるのと同時に、必要以上のメモリーを食ったり、CPUパワーを過度に使うことを防いだ。これが、オフィス用ノートPCでも快適にプレイが出来る大きな要因なのだ。



▲『WE』の最新スクリーンショット。


●ファイルマネジメントシステムの導入によるプラグアンドプレイ

 

 『WE』では、まずゲーム開始用EXEファイルのデータが非常に軽い。300kbと昨今のゲームでは、最も軽いデータ量になっている。また、『WE』にはインストールという概念がない。EXEファイルの“ダウンロード”を承認してから1分程度でゲームプレイを進められるような工夫も施している。これは自社開発した技術を用い、すべてのファイルをダウンロードしなくてもプレイに必要なファイルだけ必要時にオンデマンドベースでプレイ出来るような技術を導入したことで実現した。従って、プレイ可能なキャラクターデータやエリアなど、必要に応じてメインサーバーからダウンロードされることになる。これはそれぞれのデータファイルのサイズが小さいから可能となるのだ。新たなファイルや拡張パックを開発しても、サーバーから、随時各クライアントにダウンロードすれば、ほとんど時間がかからない。新コンテンツは、パッチという形ではなく、いつでも好きなときに必要なデータ容量のみインスタントダウンロードするということなる。つまりデータ交換量を最低限に抑えることでデータ回線が太くない状態でもサクサク動くのだ。これまで、実験として北京のサーバーからインドのバンガロールにつないでゲームをプレイしてみたが、問題もなくプレイができたとのことだ。

 

●豊富なキャラクター群



 キャラクター数は、プレイヤーの望むままに増やす事ができる。現在は、一般的な戦士に、魔法使い、ヒーラー(または白魔術師)、弓使い、そして大柄のバーバリアンなどがあるが、プレイヤーは自分たちの思うがままにキャラクターを増やす事が可能だ。また、ゲームデザイン上、プレイヤーは複数のキャラクターを活用しなければ全部のゲームシナリオを楽しめない構造になっている。それは、ゲーム世界の環境に応じ、キャラクタークラスによって得意、不得意があるからだ。各ストーリーをある程度効果的にプレイしていくには、プレイを始める前に、現在プレイしているステージの環境がどのキャラクタークラスに最もマッチしているかを熟慮してからゲームプレイする戦略性が求められる。同時に数多くのキャラクターでプレイ可能ということはチームプレイにも適している。それは一つのキャラがインフレーションのように強くなり続けるということを防いでいるため。つまり新プレイヤーも熟練ゲーマーと一緒にプレイできる要素をゲームデザイン的に残している。最初は8種類のキャラクタータイプのリリースから始めるが、オンラインサービスを開始後は序々にプレイ可能なキャラクタータイプを増やしていく予定とのことだ。

 

●気軽に且つドップリと浸れるゲームワールド

 

 多くの人、とくにかつてはゲーマーだったが、仕事で忙しく時間がとれないという理由でゲームから離れてしまった人たちを巻き込むために考えられたのが15分モデルだ。つまり、ひとつのシナリオは長くても15分程度に抑えられている。だからと言って、世界観そのものがおざなりになっているわけではないのは上のスクリーンショットを見てのとおりだ。

 これに加え、キャラクターには死の概念がある。『ファイヤーエンブレム』よろしく、いちど死んでしまったキャラクターは通常のゲームプレイでは生き返らす事ができない。ただし、死んだキャラクターはゴーストとしてクエストに参加させる事ができ、暫定的ではあるが必要時にキャラクターから力を貸してもらう事はできる。実際のゲームプレイを見ると、『FFXI』の召喚獣的な雰囲気に近い。これにより、死んでしまったキャラクターすらも使い捨てという形ではなく、ゲーム世界に“生きる住人”として留まり続けるという構造をつくりあげている。

 

●アイテム課金を想定したバラエティ豊かなアイテム群

 

 『WE』はアイテム課金システムをビジネスモデルとして採用したが、そのために重要なのが、バラエイティー豊かなアイテム群だ。各プレイヤークラスごとに豊富な装備や武具、アクセサリーなどが準備されている。加えて、プレイヤーキャラクターとプレイヤーキャラクター群を貯蔵できるハウスを装飾できる各種アイテムも販売する。ハウスの各部屋やそこに置かれている家具や壁、床のデザインパターンなどもカスタマイズできる。とくにハウスには、他のプレイヤーを招きいれることができるため、自分のこだわりをビジュアルとして追及することは重要になるのだ。ハウス内にはプレイヤーVS.プレイヤー機能を持つファイティングピットもあるが、それも自分の好みのモチーフに変えることができる。


▲Warroom、装飾前は簡素だが……。
 

▲Warroomをしっかり飾ればここまでカッコよくなる。


 『WE』をデザインするうえで、ゲージ氏らがまず注意したのがRMT(リアルマネートレード)だ。システム的にゲーム貨幣の現金化を不可能にしている。まず、ゲーム内貨幣で購入できるアイテムと現金で購入できるアイテムを完全に切り分けており、当然、現金をゲーム内貨幣に換金するという仕組みも存在しない。さらに現金で購入可能なアイテムの交換はしくみ上不可能にした。唯一、ユーザーが現実世界で取引できるものは自らのアカウントのみである。しかしアカウント内にあるアイテムやキャラクターを別のアカウントに移す事は不可能であるため、他人のキャラクターの能力値を飛躍的に高めるというのはデザイン上不可能なのだ。

 

 また、ゲームデザイン的な視点から、購入できるアイテムをクエストを暫定的にアシストできるようなアイテムに限定した。つまり、ライフポーションやマジックアイテムなど、あくまでもゲームプレイを継続するのに役立つアイテムの販売はするが、ゲームデザインに影響をあたえるようなアイテム、とくにキャラクターレベルや能力値を恒久的に上げてしまうようなアイテムを販売する予定はないという。なお、前述したとおり、プレイヤーキャラクターに死の概念があるが、現金で復活させることも可能だ。

 

●徹底的な教育でグローバル市場に対抗できるクオリティーをつくりあげる

 

 Possibility Spaceの開発スタッフは、32人の中国人を中心としたスタッフで構成で構成されている。それぞれゲーム開発経験者ではあるものの、中国国内の作品にしか携わった経験がないという。だが、それにしてはグラフィックやゲームスタイルが欧米的だ。「彼らは如何にして中国のゲームデザイナーを教育しているのだろうか?」こんな質問をぶつけると、ゲージ氏が次のように中国ゲームスタジオの問題を指摘する。「問題は、中国のゲームスタジオのほとんどが、投資家やマーケティングの専門家がスタジオのトップになっている事だと思うんだ。だれもゲーム業界出身者じゃない。僕たちの会社の場合、COOのフォングは、ハリウッドでもトップレベルのビジュアルデザイナー、CEOの僕は業界で10年以上の経験を積んでいるゲームプログラマー。この二人がチームを組んでこの会社を運営してるんだ。ひとりひとりのスタッフを如何に育てていくかは十分分かっているつもりだよ。クオリティスタンダードも非常に厳しくしている。中国タイトルを見れば分かるように作品のほとんどは著名な作品をそのまま模倣したものが多いよね。だから1年、1年半といった短いサイクルでゲーム開発ができるんだ。でもオリジナルコンテンツを作り上げるというのとは開発モデルがまったく違うんだよ」(ゲージ)。
 

 これを受けて、「僕たちが開発に携わった作品のクオリティーはものすごく高いって自身を持っているよ。この作品が0から全て中国で開発されたなんて、誰も信じられないだろうな。しかも予算的に言ったらブリザード社の100分の1にも満たないコストで開発されたって事がね」と補足したのがフォング氏。作品に対する自信をのぞかせる。 「ただ、僕たちも苦労しているけどね。自分たちが気に入るレベルにまでクオリティを上げるには相当エネルギーを注ぎ込んでいるんだよ」(フォング)。最終的に『WE』でどこを目指しているのか、ゲージ氏に聞いてみた。


 「中国も日本も 『Diablo』を好きな人はたくさんいるよね。僕自身も大好きだよ。でも残念ながら『DiabloII』が登場した後はこれに続くようなゲームはもう生まれなかった。同じタイプのゲームはリリースされたけど、『Diablo』の雰囲気をうまくとらえたゲームはまだ出てきていなかったと思うんだ。だから僕たちとしては、メタバーズ的概念とアイテム課金をうまく取り込みつつ『Diablo』精神に忠実な作品を作りたいと思っているんだよ」(ゲージ)


 10年前オンラインゲーム業界黎明期に職場をともにした、生粋のゲームプログラマーと、ハリウッドとゲーム業界の股にかけるトップコンセプトアーティストが創業者としてタッグを組み、中国スタッフとのコラボレーションで自分たちの夢に懸ける。彼らのビジョンが実現すか否かはまさにこれからが正念場だ。



Warrior Epic』のオープンβ参加権を今月末に配布予定。
追って詳細をお伝えします。


※『Warrior Epic』公式サイトはこちら

※Pssibity Space公式サイトはこちら

 

 

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