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ゲーム業界の人材育成を目指して、サイバー大学で新学期からゲームの講義がスタート

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●講義は“コンテンツ”、新しい人材発掘の一助に

 すべての授業をインターネットで行う日本初の4年制大学として、2007年4月に開学したサイバー大学。講義はインターネットにアクセスして好きなときに聴講でき、Eメールや掲示板などを通して教授や学生仲間たちとコミュニケーションを取ることもできる。もちろん、正規の大学として文部科学省より認可されているので、学士資格を取得することも可能だ。時間や地理的な問題から、なかなか大学で勉強する機会が得られない人にとって、極めて利便性が高いのがサイバー大学と言えるだろう。

 そんなサイバー大学に、2008年からゲームの講義“ゲームの歴史と未来”が開講されるという。講師は西村亨氏。もと『ドリームキャストマガジン』(のちに『ドリマガ』)の編集長にして、ソフトバンクパブリッシング刊行のゲーム媒体部門を推進してきた方だ。今回の経緯について、西村氏にうかがった。

▲西村亨(にしむら・とおる)氏。’90年に『BEEP!メガドライブ』の雑誌編集に参加。以降『セガサターンマガジン』、『ドリームキャストマガジン』、『ドリマガ』などに関わる。’99年より『ドリームキャストマガジン』の編集長に就任。2003年にはゲーム情報部・総編集長として、ゲームメディア部門の指揮を執る。2004年以降は、ソフトバンクグループのゲーム関連コンテンツ事業に従事し、グループ内のオンラインゲーム会社の取締役などを歴任する。2008年よりサイバー大学客員教授としてゲームの講義を担当予定。


▲こちらが、西村氏の講義の模様。90分の講義が8回行われる。講義を受講した学生は、専用掲示板やメールなどで講師とやりとりをすることもできる。

 

◆インターネットで講義をするという魅力に惹かれて

 

▲「せっかくゲームをテーマにしているので、見て楽しい講義を目指した」と西村氏。今回講師を担当してみて、いろんなことができるという可能性を感じたという。

――この4月から、サイバー大学でゲームの講義が始まるそうですね。
西村
 サイバー大学自体は2007年4月からスタートしたのですが、準備期間の段階から「ゲームを科目に入れたほうがいいのでは?」という話があったんですね。ゲームは日本を代表するコンテンツ産業であり、講義として欠かせないであろうというわけです。それで講師としてのオファーをいただいたのですが、私自身サイバー大学の意義を興味深いと思っていたこともあり、引き受けることにしました。

――なるほど。意義深いというと、具体的にはどのような点がですか?
西村
 地域的な格差や時間的な格差、身体的な格差なしに講義を受けられるというところですね。いまは東京にあらゆるものが集中している都市型文化になっているのですが、地方にもいろんな才能が埋もれているはずなんです。インターネットならば、最先端の授業をどんどん配信できるのではないかと……。それで講義は、Wiiやプレイステーション3、Xbox 360などの新世代機が出揃って、ゲーム業界の趨勢もある程度は見えてくるであろう、2008年から開始することになりました。タイミング的にはちょうどよかったですね。それで、1年以上時間があったので、ぼつぼつと準備を始めた感じです。

――ゲームの講義といっても、取り扱う内容が多岐にわたるので、カリキュラムを作成するのはたいへんだったのではないですか?
西村
 そうですね。この講義は1単位ですので、8回(各90分)で修了するようになっているのですが、私が担当する“ゲームの歴史と未来”は一般教養科目なので、12時間のあいだで、ひと通りゲーム業界のことがわかるような構成にしてあります。各回の講義は、ダラダラ映像を流して学生さんが飽きないようにという配慮から4章立て(各15分程度。残りの30分は復習などの時間)になっていますが、ちょうどうまく配分できたと思っています。サイバー大学の担当の方からは、「講義には、ゲーム産業のビジネス構造のことも盛り込んでほしい」という要望がありましたので、そのへんもいろいろと盛り込んであります。1回めの導入としてゲーム産業の進化と市場概要を紹介し、2回め以降はアーケードゲームやファミコン、プレイステーションなどを概観しています。

◆とにかくおもしろい講義にするために


――講義に当たって、とくに気をつけたのはどのような点ですか?
西村
 じつは私は、もともと学校の先生になりたくて、教員免許も持っていたりするのですが、サイバー大学のお話をいただいたときに、“おもしろい講義”ってなんだろうって考えたんですね。で、自分の経験も照らし合わせて判断するに、一方的にしゃべりまくるような講義というのは、おもしろくないんじゃないかな、と思ったんですね。たとえば、黒板に知識と情報だけを書くだけ書いて、学生とあまりコミュニケーションも取らないような講義ではなく、もっとコミュニケーションの余地があるようなものにしたいな、と。

――とにかく、“おもしろい講義”にしたいと。
西村
 サイバー大学が展開しているインターネットの特徴と言えば、やはり“双方向性”ということになりますよね。たとえば、「1983年にファミコンが発売されて〜」といった感じで、事実だけを網羅するのだと芸がないですよね。やっぱり、そこに学生さんが考える、考えたくなるような内容にしたい。それで、授業には、最初に「なぜ?」が必要だと思ったんですね。たとえば、最初に「なぜ、日本がゲーム産業の中心にいるのですか?」といったふうに謎かけを出して、学生さんにその答えを考えてもらう。今回の講義では、そんな「なぜ?」を随所に盛り込んでいます。「かつてはゲーム産業の原点にアーケードゲームが存在したが、いまは縮小傾向にある。その原因はどこにあると思いますか?」とか。講義では、「なぜ?」に対する結論を用意しつつも、最終的には学生さんに考える余地も用意しています。意外と業界の人も、すぐに答えられないような、たくさんの「なぜ?」が詰まっていると思いますよ。

――個々のゲームタイトルというよりも、ゲーム産業の歴史にフォーカスした講義になりそうですね。
西村
 そうですね。イメージとしては、ドキュメント番組の『プロジェクトX』のような感じにしたいと思ってました(笑)。たとえば「ひとりのサラリーマン技術者の熱意によって生み出されたプレイステーションというゲーム機は、その後ソニーに莫大な収益をもたらすことになったが、それはどうして可能だったのか?」とか。ゲームの過去の歴史にはたくさんのドラマがありましたし、切り取って分析すべき、産業構造もある。以前、私はオンラインゲームの会社で役員を担当していたこともあるのですが、たとえば、オンラインゲームはなかなか儲からない難しさがあります。それはどうしてだろう? そんな理由も、講義のなかにはちゃんとわかりやすく盛り込んでいます。

――ゲーム産業に携わる人にとっても、興味深い講義になりそう。
西村
 そう言っていただけるとうれしいですね。今回の講義では、かなりの数の文献や資料を教材として使っているのですが、担当の方に使用許諾のお願いにうかがうと、みなさんからは、意外と「講義がスタートしたら見てみたい」とおっしゃっていただきましたね。みなさんおっしゃるのですが、たとえば「アーケードならアーケード、ファミコンならファミコンで、それぞれのハードに言及した書物はあるけれど、アーケードから家庭用ゲーム、オンラインゲームからケータイゲームまで全部を網羅したものはない」と言われるんですね。確かに言われてみれば、そうかなと思いましたし、そういった意味では、ゲーム雑誌の編集をやっていたからこそ、こうやってうまく体系づけてまとめられたのかもしれないですね。雑誌編集者って、やっぱり常に、読み手のことを考えて「いかにおもしろくするか?」を前提に作り込んでいくじゃないですか。今回の講義も、そういった雑誌編集者ならではの方法論を活かした、おもしろい内容になっていると思いますよ。

▲今回の講義のために膨大な資料に目を通したという西村氏。


◆ゲーム業界にとって人材育成は急務


――ちなみに、講義の収録のほうは?
西村
 すでに終わっています。講義は、ある程度ライブ感をもって収録していったのですが、最初は煌々としたライティングに照らされて頭が真っ白になりました。よく、ライトに照らされると頭が真っ白になると言いますが、あれ本当です(笑)。原稿もすっかり頭から飛んでしまって、最初は噛みまくりでした(笑)。さっきも言いましたけど、講義は約15分ごとの章立てになっていて、ある程度時間を考慮して講義をしているのですが、熱のこもった回ほど尺(割り当てられた時間)をオーバーしてしまうので、いま編集しているところなんです。とくにセガの章は大きくオーバーしてしまったので、困りました(笑)。

――(笑)。それはムリもないかも。
西村
 セガについては、“第6回 ゲームハードの盛衰”のところで1章を使って解説しているのですが、関係者には「西村さんは、セガの講義は1回分くらい使うんじゃないですか?」って言われました(笑)。でも、やはり思い入れがあったのか、収録だけで30分近くになってしまいましたね。講義にはレギュレーションがあるので、あんまり尺を伸ばすわけにもいかず、いろいろカットしているところです(笑)。

――人材育成という点からも、今回の講義は業界に一石を投じそうですね。
西村
 じつは、それはけっこう考えていたりします。いま日本ではコンテンツ産業に力を入れていて、人材育成の必要性が叫ばれているというのはご存じのとおりです。それを受けて産学官で連携して、さまざまなプログラムが組まれいるのですが、まだまだ遠回りをしているという印象がある。よく各社さんのゲーム雑誌の編集長さんなんかと話をしていますが、いまのゲーム業界の人材育成はまだまだ足りない部分が多いと思うんですね。とくに教科書ができていない。教師にしても警察官にしてもそうなのですが、あらゆる産業のあらゆる職種には教科書がある。ゲーム産業はそこが整備されていないんですね。ゲーム産業はテクノロジーの進化といっしょに歩んできているので、教科書を作るというよりも、「自分でがんばって学んでください」という文化だった。でも、そろそろ若い人材が望まれていると思うんです。いま、週刊ファミ通に載るような著名クリエーターさんは、たいがい30代までで、そこから下の世代がなかなか見つからないですよね。若手がいない業界って、将来あまり良くないと思うんですよね。

――今回の講義が“よい教科書”になるということですね?
西村
 教科書となるとまだまだこれからだと思いますが、サイバー大学のユニークなところは、講義は“コンテンツ”だという発想があるところです。たとえば、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)などの講演は1回きりで終わってしまうので、見逃してしまった人はそれっきりですが、サイバー大学の講義は、いつでも、どこでも、誰でも、何回でも聴講できる。アーカイブとして役立てることもできるわけです。将来的には私の講演を端緒として、サイバー大学にもっとたくさんのゲームの講義が開講されることを期待していますが、それらの講義が“コンテンツ”として、ゲーム業界の人材育成の一助になれば、とは期待しています。

▲「いま携帯電話のビジネスでは、“モバゲータウン”のように、既存のゲーム業界の発想からは出てこなかったコンテンツが増えています。生まれたときからそのサービスに触れてきている若い世代じゃないと、出てこない発想というものが確かにあるのです。そういった意味からも、人材育成は急務だと思います」と西村氏。長いあいだゲーム業界に身をおいているだけに、その言葉は重い。


 世界で最初のヒットゲームと言われている『PONG(ポン)』が登場したのが1972年。日本で『スペースインベーダー』がヒットしたのは1978年。「ゲームも30年〜40年という歴史があるわけで、そろそろ過去の成果を振り返ってもいいタイミングなのでは?」と西村氏。ゲームの歴史を検証するという意味からも、西村氏の講義は注目に値するだろう。なお、サイバー大学では、ただいま2008年度春学期生を募集中だ(2008年3月24日まで)。もちろん、ひとつの講義だけを聴講するといったことも可能になっている。

※サイバー大学の公式サイトはこちら

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