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桜井政博氏が語る、『大乱闘スマッシュブラザーズX』のキャラはこうして命を吹き込まれた
GDC 2008

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●『大乱闘スマッシュブラザーズX』の制作秘話を語る

 GDC 2008では、全部で10あまりの日本人によるセッションが組まれているが、そのハイライトとも言うべきは間違いなくこの人、桜井政博氏による講演“『大乱闘スマッシュブラザーズX』の開発・事例検証”だろう。世界中で絶大な人気を誇る『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズのディレクターによる講演ともなれば、注目度は絶大。増してや北米では最新作の『大乱闘スマッシュブラザーズX』の発売日が3月9日に控えているとあって、2008年2月22日(現地時間)のGDC 2008の開催最終日に行なわれたこの講演には、たくさんの来場者が詰め掛けた。

▲日本を代表するクリエーターのひとり桜井政博氏がGDCにやってきた。

 「『スマブラ』に関するネタは尽きないのですが、今回はキャラの構築に話題を絞ってお話しします」(桜井)との前置きで始まった講演は、“いかに各キャラクターはゲームの中で生き生きと命を吹き込まれるに至るか?”という、『大乱闘スマッシュブラザーズ』のキモに迫る内容。多くのゲームクリエーターが口を揃えて“天才”と認める、桜井氏のゲームへの取り組みの一端をうかがえる講演となった。

 「企画がスタートする段階からほとんどの参加キャラが決まっていました。最初から決めておかないと入るものも入らなくなりますから(笑)。キャラは多めに考えておいて、きびしくなったらカットする。そのため全力をあげて入れるようにしました」と口火を切った桜井氏。肝心のキャラの選択にあたっては、キャラの個性やシリーズのバランスなどいくつか基準があるそうだが、もっとも重視しているのは「そのキャラにしかできないことがあること」。最初にそのキャラができることをはっきりさせておくことで、ゲームが引き締まってくるのだと言う。そのために桜井氏が薦めるのが、キャラの個性をキャッチフレーズのような言葉にすること。たとえば、『ファイヤーエムブレム』からの参戦となるアイクは“Mighty Howling Blade(うなる剛剣くらいの意味)”などとすることで、キャラの個性をしっかりと把握するのだという。

 さて、実際にキャラクターをゲームの中で生き生きと動かすために必要になってくる要素は3つ。(1)グラフィック、(2)モーション(動き)、(3)パラメーターだ。桜井氏は、この3つのポイントについて『大乱闘スマッシュブラザーズX』での事例を交えながら、詳しく説明してくれた。

(1)グラフィック

 「いちばん重視するのは、やはりキャラの感触の統一です。某ハイデフ対応機には及びませんが、Wiiにおいても感触を統一しようと思うと、ギャップが生じ勝ち。アニメと実写が共演するような感じになってしまうからです」。色彩イメージの統一には、とくに心を配ったようだ。たとえば、『大乱闘スマッシュブラザーズX』におけるマリオは、本来ならばジーンズをベタに表現すべきところを、生地にかすれをつけている(!)とか、オフィシャルの規格からすれば許されないような描き込みがなされているが、それもリアルに見せようというのではなく、キャラを並べたときに違和感を生じさせないため。たとえば、本作から参戦することになった『ピクミン』のオリマーも、オリジナルでは宇宙服のディテールなどはあえて省略されているが、「『スマブラ』チームの解釈で、省略されている部分を推測します。もちろんデキについては制作者のチェックを受けていますよ」とのことだ。そして最終的にはキャラが立つことこそが重要だという。「コンセプトがしっかりしていればよいと思います。原作から近づき過ぎず、離れ過ぎず。キャラが立っていれば、原作者もたいていのことは許してくれます」。

 講演中では、映像を交えながら『光神話 パルテナの鏡』の発売から20年以上ぶりに復活するピットの造型などが説明されていたが、その細かいディテールに至るまでのこだわりぶりには唖然とするばかりだった。

(2)モーション(動き)

 桜井氏いわく、「キャラクターの動きは、モーションデザイナーのよしあしに左右されることが多い」とのことだが、ディレクターたるもの「しっかりと伝えれば間違いは少ない」と分析する。そして会場では、“しっかりと伝えるため”の道具として、日ごろから“ミクロマン”(全身の30箇所以上が可動する小型のおもちゃ)を使用していることを明らかにした。スクリーンでは、“ミクロマン”にポーズを取らせた写真と、実際のキャラのポーズが並べて紹介されたが、その姿はまさにそっくりで、いかに桜井氏が自分の頭の中のイメージをしっかりと伝えているか、うかがい知るのに十分だった。さらに、格闘ゲームに共通する4つのアクションとして、“待機”、“構え”、“攻撃”、“フォロースルー”の4つを挙げた桜井氏は、技が出る時間の長さを指定することで「モーションデザイナーが理解するための足がかりになれば」と考えているらしい。天才と言われる桜井氏は、じつは自分の頭の中のイメージを相手に伝えるのに細心の注意を払っている……というのはちょっぴり意外な事実だった。

 ちなみに、「人型だからといってリアルなものばかり追求しているとバランスが悪くなるばかり」とのことで、動きはモーションキャプチャーを使わずに手付けで行っているとのことだ。また、『大乱闘スマッシュブラーズ』シリーズでは、横から見た姿勢を重視しているという。

(3)パラメーター

 「ファンの方にとっては、新しいキャラクターが出演すれば、姿形だけで十分かもしれませんが、作り手はそれだけでは不十分。“数値”をこそ再現してあげる必要がある」という桜井氏。いわゆるパラメーターによる数値化だ。今回の講演ではその数は明らかにしてくれなかったが、“移動速度”や“ジャンプの速度”、“ふっとばし力”など、『大乱闘スマッシュブラザーズX』で、決めなければならない数値は多岐に渡るはず。ただ、その数値が“キャラ立ち”の根幹を担う部分であり、「ゲームのもっとも大切な部分」となる。これは、それこそ細かく毎日のように更新が必要になり、まさに地道な努力の積み重ねのようだが、「これは基本的に私ひとりでやります」と桜井氏は言い切る。

 一例として、ジャンプするときは等速移動のマリオとサムスだが、下降するときは、マリオは“すっと”降り。サムスは“ふんわりと”降りるという事実に触れ、なぜ本来は体重が重いはずのサムスが、マリオよりも下降速度が遅いのかについて考察する。2Dアクションだった『メトロイド』シリーズでは、ジャンプ中でも敵を攻撃できるというゲーム内容だったために、あえて開発者はジャンプの下降速度を遅くしていたのであり、桜井氏はそれに準拠しているのだと説明する。「なぜそうなっているのかを考えることが、結果としてキャラを考えることにつながるのです」という。

 最後に『大乱闘スマッシュブラザーズX』からの参戦となる、ソニック、スネーク、ピットの動きを実機でデモンストレーションした桜井氏は、以下のように講演を締めくくった。

 「単なるデザインや性能だけでなく、ゲームのキャラを考えた場合、最初に考えたことが重要になります。アイデア出しの段階で、キャラを立てる方向性を導き出すことが重要なのです。ばっちりと噛み合わせればキャラも幸福です。だから、ゲームデザイナーは最初にこそよく考えておくべき。臨機応変にゲームを開発するのも大切ですが、本来は頭の中でしっかりとゲームを作っておいたほうがいい。ゲームを作るときは往々にして道に迷うかもしれませんが、そういうときこそ自分を信じて進んでほしいですね」(桜井)

 と今回の講演の結論述べた桜井氏は、おまけとして“伝える努力”を挙げた。それは自身がWebで展開している“スマブラ拳”のこと。『大乱闘スマッシュブラザーズX』の発売時には、週に700万アクセスを記録したという“スマブラ拳”だが、「あえて過酷な更新地獄に足を踏み入れる必要があるのか?」と自問した桜井氏は、「どんなにいいゲームでも、人に知られる努力を怠ってはならない」という。“スマブラ拳”はいま6+1言語でサポートされ、世界中で人気を得ているという。

 まさに“キャラクターへの愛”としか言いようのないこだわりと、分析力、そして、“人にものをしっかりと伝えよう”とする努力。まさに、桜井氏のすごさを垣間見ることができた講演だった。

▲講演のあとは質問攻めにあう桜井氏。『大乱闘スマッシュブラザーズ』は海外でも絶大な人気を誇るのだ。



※“スマブラ拳”はこちら

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