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宮本茂氏の”ちゃぶ台返し”も…… ”『Wii Fit』誕生物語”
GDC 2008

2008/2/22

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●制作開発本部の澤野貴夫氏がバランスWiiボード

 

▲任天堂の情報開発本部の澤野貴夫氏。『Wii Fit』、バランスWiiボードの開発過程を細かく説明した。

 2008年2月20日、アメリカのサンフランシスコで開催されているGDC 2008で、任天堂による”Wii Fit 家庭向けコンソールにおける革新的インターフェース”というセッションが行われた。登壇したのは、任天堂の宮本茂氏と同じ部署にあたる情報開発本部に所属する澤野貴夫氏。同氏は日本で昨年12月に発売された『Wii Fit』の開発に携わった人物で、今回のセッションではバランスWiiボードやWii用ソフト『Wii Fit』の誕生秘話を語った。



 『Wii Fit』は北米や欧州などでは未発売で、講演を聞きに来ているクリエーターたちのほとんどが欧米人ということもあり、日本で放送されている『Wii Fit』のテレビCMを披露し、同ソフトの内容をおさらい。澤野氏は「日本での発売から約2ヵ月半が経ち、順調に販売数を伸ばしており、先週末(2008年2月10日)の時点で、140万本を超えました。欧州で4月25日、米国では5月19日に発売する予定です」と紹介した(販売本数は、メディアクリエイト調べによるとのこと)。

 

 今回の講演は”バランスWiiボードはいかにして誕生したのか?”と”『Wii Fit』に盛り込んだ内容の特徴”、”バランスWiiボードの仕様や機能”、”バランスWiiボードをコントローラーとして考えたときの新たな可能性”の4本柱で構成。とくに、バランスWiiボードの誕生秘話には講演の半分以上の時間が割かれた。

 

●バランスWiiボードはいかにして誕生したのか?

 

 澤野氏によるとバランスWiiボードを使った『Wii Fit』というソフトは、Wii本体が発売されるまえからあった構想だったと語り始めた。その証拠として、澤野氏の上司にあたる宮本茂氏がWii本体発売まえに書いたメモを公開。そのメモには、”卓球”や”画面に触るおもしろさ”と書かれたカテゴリ”パーティーパック”(これが後に『はじめてのWii』になる)や”テニス”や”野球”と書かれたカテゴリ”スポーツパック”(これが後に『Wiiスポーツ』になる)とともに、”健康管理”や”運動”といったキーワードを集めた”ヘルスパック”というカテゴリも明記されている。「このメモを見ると、後に『Wii Fit』となる”ヘルスパック”が、Wiiの重要なコンセプトのひとつとして最初から宮本の頭の中にあったことがわかる」(澤野)と説明した。なお、このメモに関しては「宮本に許可を得て特別にお見せしたものなので、写真を撮らないでください。怒られるので(笑)」とのことで、残念ながら掲載することはかなわなかった。

 

▲宮本茂氏がWii本体発売まえから構想を持っていた『Wii Fit』。「体重を量ってそのデータを蓄積していくのはおもしろい」という宮本氏の発想から、この壮大なプロジェクトが始まった。

 

 宮本氏がWiiの重要なコンセプトのひとつとして考えていた”ヘルスパック”だが、当時澤野氏は「テレビにWiiを繋げてまで体重を量るのか?」、「人が集まるリビングで体重を量るのか?」などの疑問でいっぱいになり、開発当初は「上司の宮本が「やれ」というからやりましたが、当時はヒット商品にはほど遠いだろうな」と感じていたそうだ。宮本氏から「開発陣はミリオンをイメージして開発しないと、つまらない商品になってしまう」と叱咤激励されたが、それでも頭の中は疑問だらけで、澤野氏は「最悪の場合、発売されない可能性もあるだろう」とまで考えてたという。

 

 そんな中始まったバランスWiiボードの開発。最初は体重計をいかに低コストで開発するか、というところからスタートする。体重計のメーカーといろいろ協議を重ねたとのことだったが、「シンプルな体重計を低コストで作ることに興味を持ってもらえるメーカーさんがなかなかいない」(澤野)という現実にぶち当たった。そこで、ゲーム機のコントローラーを作っているメーカーと共同で開発することにした。その共同開発の中で、出てきたのがニンテンドウ64用コントローラーの3Dスティックに採用されていた光学式のロータリーコーダーという部品を応用するというアイデア。この部品はもともと回転量を測る装置で、体重計の沈み込みを歯車を使って回転に変え、その回転量から体重を計測するという仕組みに。結果的にこの仕組みを採用することでコストを抑えることも可能になったということだ。

 

▲ニンテンドウ64のコントローラーに採用されていて3Dスティックの部品を利用して体重を量る仕組みが生み出された。まさに任天堂ならではの発想と言えそうだ。

 

 体重計を低コストで作れるアイデアが決まり、試作品を作る段階に至ったが、澤野氏は「試作品を待っているあいだも気分がモヤモヤしていた」と語った。その原因は「リビングで体重を量るだろうか?」(澤野)という疑問が、ずっと頭にあったからだという。そしてその疑問の解消するきっかけになったのが、”ふたつの体重計を使って左右の傾きを測定する”というもの。これは力士が体重を量る際、ひとつの体重計では足りず、ふたつ使って測定するところからヒントを得たという。このアイデアを組み込んだ試作品を宮本氏に体験してもらったところ、「遊びとしての素性のよさを感じる」と認めてもらえ、”体重計のさきにあるもの”が見え始め、開発の大きな原動力になったと澤野氏は力強く語った。その後、左右だけでなく前後左右の動きを感知できるように改良。これによってバランスWiiボードの原型ができたわけである。
 

▲力士が体重を量るときにふたつの体重計を用いることをヒントにして、左右のバランスを量ることを思いついたという澤野氏。市販の体重計をふたつ使った実験などを行ったんだとか(写真右)。

▲これがバランスWiiボードの最初の試作品。このころは左右の体重のかかり具合によって、バランスを測ることしかできなかった。


▲左右だけでなく、前後の傾きを感知させるために試行錯誤した証。鍋のふたを利用するなど、苦労の跡が見られる。結果的に、ストレインゲージ(鉄の棒が重さによって変形することで、加重を検知することができるもの)と呼ばれるセンサーを装着することで、低コストなまま前後左右の傾きを感知することが可能になった。

 

 ただ、その後も澤野氏の試行錯誤は続いた。本格的な商品設計の段階でバランスWiiボードは真四角の形状だったが、宮本氏から「運動することを考えると、横幅を肩幅くらいにしたほうがいい」との提案があり、「コストや強度など、一から設計をやり直すことになった」(澤野)と当時の苦悩を率直に語った。だが、「肩幅にした効果は絶大で、ボードの上で少し手足を開いて運動することが可能になり、何より体重計というイメージから脱却できた」(同)とし、宮本茂氏のアドバイスが”足を使ったコントローラー”としての幅を広げることに繋がったと強調した。
 

▲試作品の段階では振動モーターを取り付ける案も。ただ、足から体全体に振動を感じさせるためには、もっと大きな振動モーターが必要となり、電池の消耗が激しくなるため、この案はなくなったということだ。

 

 そして最後の問題だったのが、任天堂の岩田聡社長に言われた「Wiiリモコンで繋がるというのはブサイクですね」という言葉。じつは最終設計直前まで、バランスWiiボードにはWiiリモコンを装着して使う仕様になっており、岩田社長がその点について「体重を量るためにWiiリモコンをつけたり、外したりするのはユーザーフレンドリーではない」と指摘したのだ。低コスト化のために、開発陣が誰も言わなかったことを岩田社長からズバリ指摘され、最終的にWiiリモコンを装着せず、バランスWiiボードとWii本体が直接繋がる設計になったが、「電波法の問題や電源ボタンの配置など、一時期は発売を伸ばすしかない」ところまで追い込まれたそうだ。そのほかにも、法律的な細かい苦労などは数知れなかったというが、澤野氏の長い苦闘の日々の末、バランスWiiボードは完成した。

 

▲真四角でWiiリモコンを接続することになっていたバランスWiiボードの試作品。宮本氏の”ちゃぶ台返し”によって、横幅が広くなり、”足を使ったコントローラー”としての幅がよりいっそう広がった。

▲ユーザー目線に立った岩田社長の言葉により、Wiiリモコンを装着せずに、バランスWiiボードとWii本体を直接繋げることに。電波の問題や強度の問題、ボタン配置など、商品設計を一から見直すことになったという。

 

●”足のコントローラー”を使ったクリエーターのインスピレーションに期待!

 

 前後左右の傾きを感知し、ボードの上での運動を高精度で感知することが可能なバランスWiiボード。このボードを使った『Wii Fit』のソフトは、「毎日手軽にプレイしてもらうことで、家族の健康管理のお手伝いをするもの」(澤野)とのコンセプトのもと、内容が詰められたという。また、澤野氏はソフト側の特徴として、体重を量るためにいちいちソフトを起動しなくてもいいように”Wiiチャンネル”内に”Wii Fitチャンネル”を設けて違うソフトが入っていてもからだ測定が可能なことや、ヨガや筋トレなどのトレーニングで運動しているプレイヤーの体の動きを感知してトレーナーがアドバイスをしてくれるような工夫を施したことを挙げた。
 

▲Wii用ソフトを起動しなくても、からだ測定が可能になるWii Fitチャンネルも、使う人のことを第一に考えての工夫と言える。

▲『Wii Fit』には、プレイヤーの運動を”貯金”するシステムや、外での運動を自己申告して記録する機能など、ほかの体重計やフィットネス系DVDにはない、”ならでは”の要素が満載。

 

 最後に澤野氏はバンダイナムコゲームスから発売中のWii用ソフト『ファミリースキー』をタレントの清水アキラが体験している映像を披露。「バランスWiiボードは”足のコントローラー”。非常にユニークなインターフェースだと思います。皆さんのインスピレーションの場、ゲーム作りの場を広げるものとして十分お役に立てると思います。皆さんのインスピレーションといっしょに、我々もユーザーの皆さんへより大きな喜びを与えられるよう、バランスWiiボードを推し進めていきたいと思います」(澤野)と、会場を埋め尽くすクリエーターたちに力強いメッセージを送り、講演を締めた。

 

▲澤野氏の苦労の跡が見られるバランスWiiボードの試作品の数々。澤野氏は、集まったクリエーターたちに対して、新しいインスピレーションによる新しいソフトの開発を期待していた。

 

※Wii.comはこちら

 

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