第1回:聖地を飛び出しアジアへと向かった起業家精神溢れる人たち
【不定期連載】世界のゲーム産業研究ノート
●アジアから個人レベルのネットワークで欧米と連携
ここは、シンガポールの中心部。喧騒な街通りの向かいにあるビルのショーケースには、通常見られるマネキンや、映像機器などの展示ではなく2枚のコンセプトアートが飾ってある。しかもそこに展示されている作品は、アジアでおなじみの水墨画でもなく、仏像画でもない。または、世界中に愛されているピカチュウでもミッキーマウスでもない。ハリウッドCG的なイメージを彷彿とさせながらもモチーフとなった動物やヤモリ……、これまでのシンガポールでは考えられないような光景がそこにはあった。
ポスターとして展示されているのは、『KUNGFU GEKO』(以下、『Gecko』のコンセプトアート。実験作品として制作され、Digicon6+2(デジタル映像)にてシンポガールからエントリーされた結果、奨励賞を受賞した話題作だ。その後、アジア圏を中心に出資者を獲得し、現在は長編作品としての制作が進んでいる。同作品を作成しているのが、Egg Story Creative Producation(以下、Egg Story)。約10年にも及ぶハリウッドでの業務経験を経てUターンを果たしたニクソン・フォング氏を中心に創業されたベンチャーだ。
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▲Egg Story Productionの代表を勤めるニクソン・フォング氏。これまで、『シュレック』、ハリウッド版『ゴジラ』、『マトリックス』シリーズなど様々な作品に携わってきた。 |
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▲Egg Storyが製作中である『KungFu
Gecko』のメインキャラクター。 |
『Gecko』で奨励賞を受賞した後、ネットワークインフラを拡充し、シナリオライターなどはハリウッドでのコネクションを存分に生かしつつ、更なる努力を進めた。最終的に映画の冒頭10分程度を完成させる。そのころまでにはインターネットでの人材募集を通じ、US、カナダ、フランス、マレーシア、香港、台湾、インド、インドネシアなど、6カ国2地域からスタッフが集合した。「クローズドルームで見せた冒頭のシーケンスが決め手だったんだ。米国配給会社はハリウッド並みのクオリティーだって、本当に驚いていたよ」。クールに、且つ自信に満ちた声で説明するフォング氏。既に米国での封切りを皮切りに世界各国での上映が決定している。これをきっかけに投資家の信頼を得たEgg Storyは『Gecko』を含め3作品のプリプロダクションフェーズに取り組んでいる。『Gecko』は2009年にリリースを予定だ。
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▲マレーシア、Games brain CEOのブレッド・ビビィ。日本語もペラペラだ。 |
一方、70年代後半のシリコンバレーでAtari7600時代からゲーム開発に参加。 成功を収めた後は、日本を含むアジアを放浪し、最終的にマレーシアに魅せられ、そこで10年以上もゲーム開発を続けているのは、米国出身のブレッド・ビビイ氏。同氏が率いるGame BrainsはPC向けゲーム開発から出発し、Atari ジャガーではじめて家庭用ゲーム機ソフト開発に参入。その後、ゲームボーイ向けソフトを開発しながら、実績を積み、現在は東南アジア地域では数少ないWiiやDS用ゲーム開発の正式ライセンシーとしてゲーム開発に取り組んでいる。「東南アジア全域を巡ったけど、マレーシアがいちばんいいなと感じたんだ。シンガポールよりはコストが安く、生活環境は近いし、他の地域よりも安心だからね。英語も全然問題ない」。だが、もっとも重要なのは、やはり人だと言う。「なんて言うかな、もう、Malaysia Boleh!(マレー語で『Malaysian Can』の意)なんだ……人なつっこさや、せわしないところなんか僕がいた、’70年代のシリコンバレーにそっくりだよ」。
’94年にたった3名で立ち上げた彼のゲーム開発スタジオは現在15名を数え、これからは10タイトルものゲーム開発を同時進行で進めるために100名以上の開発者を揃えようと動いている真っ最中だ。
タイでは、マイクロソフトでの勤務経験を得てC#をつかったカジュアルゲーム開発を中心としたゲームベンチャーを立ち上げるべく取り組んでいるソフトウェアエンジニアがいる。ジェイソン
R. スウェアリンゲンだ。ワシントン大学で学んだ後、マイクロソフトのWindows Vista開発チームで6年の経験し、C#の発展などを考えた上で独立を決意。今年の4月に開発拠点をタイ、バンコクに構えた。企業名は英語の「Turn Over A New Leaf(心機一転)」を想起させるNovaLeaf。人件費の安さもさることながら、能力溢れる人材に驚いたようだ。
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▲Novaleaf CEO ジェイソン R. スウェアリンゲン氏。アメリカからタイへ飛び出しあらたな新天地とすべく奮闘する。 |
今回、企業を立ち上げC#とXNA ゲームスタジオエクスプレス(マイクロソフトがユーザー向けに開放している簡易版ゲーム開発用ミドルウェア)を活用してパズルゲームの開発をこころみたところ、2週〜3週間ほどで、ゲームのプロトタイプの開発を完了できた。もともと、現地の採用者にC#を理解してもらう、という意味から始めたプロジェクトということで、ゲームそのものはラフなゲームアイデアを具現化した程度で、グラフィックデザインも未完全のものだが、今後グラフィックデザインの刷新も含め、ブラッシュアップしていく予定だ。「タイでは情報系コンサルティングはともかく、ソフトウェア開発そのものが産業としてはまだ若い。たしかにしっかりと訓練を受けた人材は少ないけど、能力が高い人はたくさんいる。そういった人たちを育てながら企業としても成長していきたい」と抱負を述べる。
●フラット化とチープ革命はゲーム産業にも確かな変革を促している
これらは、映像制作やゲーム開発の『聖地』から飛び出し、アジアに新拠点を立ち上げ、自らの夢をその手で掴むべく動きだすひとたちのほんの一例に過ぎない。情報インフラのグローバルレベルでの発展による「世界のフラット化」と、高額で一部のエリートのみしか手に出来なった映像設備や特殊ソフトウェアも含めた、より大きな枠組みでの「チープ革命」は、映画、ゲーム、アニメといったコンテンツ産業にも確かな変革をもたらしている。もはやハリウッドやシリコンバレー、秋葉原や京都といった一箇所のみを定点観測することで、世界的トレンドを掴む時代は終焉を迎えつつある。これからのトレンドは、「聖地」そのものからというよりは、「聖地」での経験をもとに培われたコンテンツ開発のノウハウをもった人たちが自らのビジョンをふまえつつ、グローバルネットワークとウェブの荒波の中で自らのビジョンにマッチした場や人を発見し、それらをコアコンピテンシーとして独自のネットワークを形成することで突然変異のように生まれてくるのかもしれない。
これはゲーム産業のこれからを推測するうえで大変重要な状況変化だ。この大きな変化の流れを明確につかむにはGame Brainsのようなゲーム開発スタジオは当然だが、今回敢えて冒頭で紹介したCG制作プロダクション、デジタルサウンドスタジオ、キャラクターデザインスタジオなどゲーム素材の開発能力を有する拠点の動向もしっかりとつかんでいく必要がある。
今回紹介したクリエーターたちは日本や欧米、韓国のクリエイターが手にしたような成功を収めているわけではない。ただ、世界を縦横無尽に駆け巡りながら、ゲームやイベントCG開発のために奔走する彼らの姿は眩しい。それぞれが自らの心の中にある夢に向かって猛進しているからだ。重くのしかかる次世代の壁を乗り越える鍵はそこにあるのかもしれない。【中村彰憲】
訪問企業
Egg
Story Creative Production(シンガポール)
Game
Brains (マレーシア)
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