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3D『マリオ』の歴史がここに! 小泉歓晃氏基調講演(その1)
モントリオールインターナショナルゲームサミット2007

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●ゲーム制作とは、かくも楽しく、かくも困難なロードムービー
 

▲小泉氏の基調講演は、ご覧のとおりの大盛況! 今回のゲームサミットにおいて、間違いなくもっとも注目された講演となった。


 カナダ第二の都市、モントリオール市で開催された、モントリオールインターナショナルゲームサミット2007。その開幕を告げる最初の基調講演を行ったのは、任天堂・情報開発本部東京制作部の小泉歓晃氏だ。小泉氏は『スーパーマリオ64』以来、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(ともにニンテンドウ64)、『スーパーマリオサンシャイン』(ゲームキューブ)、そして発売されたばかりの『スーパーマリオギャラクシー』(Wii)といった、3D表現を用いた綺羅星のごとき名作の制作に、かの宮本茂氏とともに関わってきた気鋭のクリエーターだ。講演のタイトルは”Super Mario Galaxy The Journey from Garden to Galaxy −箱庭から銀河への旅−”というじつに心ときめくもの。『スーパーマリオ64』から最新の『スーパーマリオギャラクシー』に至る13年の道程が、小泉氏の口から語られたのだ。めったに聞くことができない貴重な講演とあって、開場まえからコンベンションセンターの会議室前には大行列が発生。数百席用意された席はあっと言う間に埋まってしまい、それでも来場者は後を絶たず、ついには立ち見の受講者も出るほどの人気となった。
 

▲13年にわたって携わってきた3Dのゲーム制作のこだわりを語った小泉氏。


 冒頭、小泉氏は「ゲーム開発はかくも楽しく、かくも困難なロードムービーです。そんな私の旅の経験談をお話させてください」とやさしく語りかけ、自身の歩んだ道のりがそのままゲーム業界の3D技術の歴史に直結するという、貴重な体験談を語り始めた。

 

 1994年。任天堂は3Dグラフィックを本格的に用いる新ハード、ニンテンドウ64の開発に着手。小泉氏は大学で映像制作を学び、趣味で3DCGの研究を行っていたという経験を買われて、宮本氏が陣頭指揮を執る『スーパーマリオ64』のプロジェクトに配属される。手始めに関わったのは、3Dのマリオを歩かせること。プログラマーと二人三脚となっていろいろなアクションを作り続ける。当時を振り返って小泉氏は「とても新鮮で楽しい体験だった」と微笑む。

 

 小泉氏の師匠とも言える宮本氏の注文は、「とても多く、とても細かかった」と小泉氏。ある日、マリオの仕様について相談にきた宮本氏は、仕様書やコンセプトアートを見せるのではなく、「こんな感じ、こんな感じ」と身振り手振りで演じて、思っていることを伝えてきたという。3Dグラフィックスの世界になると意思伝達が非常にあいまいになるため、宮本氏の伝達手段は「じつはとてもわかりやすかった」と小泉氏は振り返る。

 

▲身振り手振りを使って自身の考えを伝えようとしたという宮本氏。一見、抽象的なようだが「非常にわかりやすかった」と小泉氏は言う。

 

 『スーパーマリオ64』の制作において小泉氏が念頭に置いたのは、”プレイヤーができることがひとつ増えれば、遊びが一気に広がる”というものだった。ここで小泉氏はファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』の映像をスクリーンに映し、「もしもマリオにジャンプというアクションがなかったら……」という設定でゲームをプレイし始める。マリオは闇雲に左右に動くだけで、じきにやってきたクリボーに接触してゲームが進まないことを実証した。

 

 「ご覧のとおり、マリオがジャンプできないと最初に出てくる敵であるクリボーが最強になり(笑)、ゲームにならない。ところが”ジャンプ”という行為が加わるだけで連鎖的にアイデアが生まれていくんです」

 

 しかし、と小泉氏。ジャンプができることで遊びの幅は一気に広がるが、同時にプレイヤーに”Aボタンを押させる”という行為を強いることになる。これは”操作が複雑になった”こと以外の何者でもなく、「ここでどうバランスを取るかが、プレイヤーをベースにゲームデザインをするときのこだわりになる」と力説する。

 

 そして『スーパーマリオ64』だが、宮本氏はつねづね、「3Dでもっとも重要なのはカメラだ」と、開発チームの面々に語っていたという。カメラを考えることが3Dにおけるゲームデザインであるという信念のもと、小泉氏たちはさまざまなタイプのカメラを考案していくことになる。たとえば、真横の視点からプレイヤーキャラを捉える”パラレルカメラ”、ぐるぐると塔を駆け上るときに横から回りこむようにプレイヤーキャラを捉える”タワーカメラ”、そしてボス戦のときなど、プレイヤーキャラの真後ろからの視点となる”フォローカメラ”などがそれで、これらを小泉氏は「宮本といっしょに、じつに楽しみながら作っていきました」と振り返る。

 

 この『スーパーマリオ64』のときに制作したさまざまなカメラ技術が、つぎに携わる『ゼルダの伝説 時のオカリナ』や『スーパーマリオサンシャイン』につながる。これらのゲームで共通しているのは”3Dの箱庭の中で楽しむ”という行為であり、いま出来上がったものを遊ぶと何の戸惑いもなくその世界ではしゃぐことができるわけだが、「箱庭を作るには3つの大きな困難がありました」と小泉氏は顔を曇らせる。その3つの困難とは、

 

●奥行きがわかりにくい

●迷ってしまう

●3D酔いしてしまう

 

 というもの。「3Dのゲームを作るときに必ず現れる困難」と小泉氏は納得しているが、彼らがつねに目指しているのは、たくさんの驚きと誰でも遊べるプレイ環境、つまり”サプライズとイージープレイ”なので、これらの困難も限りなくゼロに近づけたいと考えているという。

 

 まず”奥行きがわかりにくい”ことの最大の弊害が、最弱の敵であるクリボーですら、ジャンプして踏むことができないことだった。これは3D空間では物体の立体感や距離感がつかみにくいことで起こる現象で、小泉氏たちはこれを打破するために”キャラクターにできるかぎり影をつける”ことを考え出す。実際に3Dの『マリオ』シリーズを遊んでみると、ジャンプしたマリオの真下に影が落ち、敵を踏んで倒すときの格好のナビゲーターとなっている。きちんとした光源からの光を反映させると真下に影ができることは矛盾を生みかねないことだったが、いまではこの仕様は任天堂タイトルだけに止まらない、ゲーム業界のグローバルスタンダードとなった。また『スーパーマリオサンシャイン』では、敵に水を当て続けるという攻撃を付与して、奥行きにこだわらなくてもいいという画期的な仕様を考案した。また『時のオカリナ』では、敵を剣で切りつけるときにどうしても距離感がつかみづらく、また敵とプレイヤーキャラの軸がズレてしまうことを補正するために、Zボタンを押すことでつねに敵の真正面に立つ、という仕様を入れた。これにより軸ズレと距離感の修正が成され、ストレスのない遊びをプレイヤーに提供することに成功する。

 

 つぎの”迷ってしまう”という問題は、まさに3Dならではの壁だった。2Dの『スーパーマリオブラザーズ』は右方向に進んで行けばゴールにたどり着いたが、3Dではこうはいかない。ではどうするか。小泉氏は「遊んでいるうちに地形を覚えてもらえるように、ゲーム内にランドマークを置いていきました」と解決方法を語る。確かに、『スーパーマリオ64』では大きな山が、『スーパーマリオサンシャイン』では大きな水門が目印となって、プレイヤーを迷子から救ってくれた。これもいまでは、3Dゲームのスタンダードとなっている仕様である。


▲ゲーム内にランドマークとなる目印を置くことで、迷いやすい、という3Dのゲームにつきまとってきた問題を解決した。


 最後の3D酔いについてだが、一般的にその原因は、画面の動きと三半規管のズレから生じることにある、という説がある。実際、『スーパーマリオ64』を制作中に、Aボタンを押してマリオをジャンプさせたとき、完全にその動きとリンクしてカメラも動いてしまうと甚だしい酔いに見舞われることを小泉氏は発見する。これを緩和するために生まれたのが”クッション機能”というもので、マリオがジャンプしてもその身体が画面から出そうになったときだけカメラが動くようにした。これにより酔いの確率が大幅に減少。必要ない動きはさせない、という鉄則が制作チームに植えつけられたという。

 

 こうして3つの困難を乗り越えた小泉氏だが、これだけで彼の旅が終わったわけではなかった。

 

 「『時のオカリナ』や『スーパーマリオサンシャイン』はプレイヤーが自由にカメラを動かせるフリーカメラという仕様にしましたが、操作が複雑になってしまいました。これにより”3D=難しい”という固定観念を作ってしまったかもしれません。僕はこのとき、Y字路に立ちました。サプライズとイージープレイを両立できるのか、どうか。僕はその答えが見つかるまで、3Dにおける『マリオ』を封印しようと決めたのです」

 

 続きはのちほど!
 

 

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