立命館大学映像学会がカンファレンスを開催! 日本のゲーム産業が築き上げたゲームニクスとは?
●任天堂の上村氏やコーエー松原氏らが講演!
2007年11月10日に京都にある立命館大学で、映像学会の発足を記念したカンファレンス”ゲームインターフェイスとオンラインネットワークの先端技術が示唆するインタラクティブエンタテインメントのこれから”が実施された。
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▲立命館大学に2007年4月から映像学部が創設されたことを受け、学部の教育研究機関である映像学会が立ち上がった。 |
立命館大学には、2007年4月から映像学部が新設。日本では初の映像学部という称号を掲げる学部となっている。カンファレンス開催に先立って挨拶を行った同学部の細井浩一教授は、「映像に関して総合的に真正面から捉えて研究する学部というのはこれまでなかったのですが、映像は現在、非常に重要なメディアになっています。その映像の持つ意味やリテラシー、社会的文脈を研究していこうというのが、学部創設の趣旨となります」と説明。映像と言っても、映画を含む映像作品、ゲーム、ケータイコンテンツ、さらにはインターネットやYoutubeなどなど多様なジャンルを扱う。なかでも、インタラクティブな映像としてのゲームは非常に重要なジャンルなのだという。この4月に入学した学生たちの多くは平成生まれで、生まれたときにはすでにプレイステーションが世に出ていた。彼らはゲームとともに育ってきたと言っても過言ではなく、いまやゲームは社会に深く入り込んでいる。そんなゲームに関するさまざまな論点が、カンファレンスで取り上げられた。
講演は3パートに分かれており、まず最初に行われたのは立命館大学映像学部の教授であり、ハル研究所などでゲーム制作に携わった経歴を持つサイトウアキヒロ氏の特別講演。サイトウ氏が掲げているゲームニクス理論についての解説と、ゲームニクスを活用したユビキタスコンピューティングの例が紹介された。ゲームニクス理論とは、ゲームのインターフェイスのノウハウを理論体系化したもの。そのノウハウが何なのかを説明するため、サイトウ氏はまずゲームの歴史を紐解くことから始めた。現在、ゲームは日本発の産業として世界に認められているが、その発祥の地はアメリカだ。業務用のゲームはもちろん、家庭用ゲームでも`77年にアタリ社からアタリ2600が発売。アメリカでは4分の1の家庭が所有していたとするデータもあるほど、圧倒的に普及した。だが、2年ほどでアタリ2600の市場はほぼゼロにまで落ちてしまう。いわゆるアタリショックと呼ばれるもので、粗悪なソフトが乱発され、ユーザーに見放された結果と言われている。後に世界中に広まるファミコンが任天堂から発売されたのは、アタリ2600の発売から約6年後の`83年。ゲーム史の中ではむしろ後発であり、しかもアタリショック後という言わばゲーム産業に強烈な向かい風が吹いている状態の中で、なぜ任天堂のファミコンが世界中を席巻することができたのか。サイトウ氏は、「独自のゲーム開発のノウハウを構築してきたから」と見ている。それこそが、同氏の語るゲームニクス理論なのだ。
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▲サイトウ氏は、任天堂から始まった日本のゲームがなぜ世界中で受けたのかを分析し、そのノウハウを独自に理論体系化してゲームニクス理論と名づけた。 |
サイトウ氏は、「当時の任天堂は、アタリショックをふたたび起こすまいと強く意識していたはず」と指摘。対策として、スーパーマリオクラブによるソフトの審査チェックを徹底したのだと見ている。任天堂は自社ソフトだけではなく、サードパーティにもきびしいチェックを課し、特殊なライセンス契約を交わす体制を構築。これによって、サードパーティにも質の高いソフトを作る意識が高まった。
ゲーム開発におけるノウハウについては、『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修
脳を鍛える大人のDSトレーニング』を例に説明。このソフトはもともと書籍で発売されており、知名度はあった。ニンテンドーDS用ソフトとして発売される以前には、PDAのパームやザウルス向けにソフト化もされていたという。ご存じのとおり、PDAはタッチペンによる入力が可能で、ハードウェアの面ではニンテンドーDSと大差はない。だが、PDA版はさほど話題にならず、ニンテンドーDS版で社会現象とも言える大ヒットを巻き起こした。中身は同じでも、ゲームのノウハウを活用したインターフェイスに包まれることでユーザーに受け入れられたのだという。
サイトウ氏の掲げるゲームニクス理論は、”理屈抜きで直感的、本能的に操作できる”、”複雑な内容を段階的に理解し、思わず夢中にさせる”という2大要素を持つ。具体的には、マニュアルを読まずとも操作を覚えられるよう設計され、段階的に攻略法を学習していけるようになっている。そのために必要なのは直感的なインターフェイス。たとえば、Aボタンで決定、Bボタンでキャンセルというお約束がきっちり守られているために、ユーザーは安心してAボタンを押し、深い階層の情報を見ることができるのだ。また、段階的に攻略法を身につけてもらうためのノウハウは、『スーパーマリオブラザーズ』の1−1に隠されているという。ここでは、キノコを取るとスーパーマリオにパワーアップすることをユーザーが直感的に理解できるよう設計されている。ハテナブロックをわかりやすく配置し、ジャンプをするとキノコが出現。左側へ流れていくが、地上に落ちると土管に当たって左向きに進路を変え、マリオに自然と当たるようになっているのだ。
ゲームを進めていくためのモチベーションを保ち、熱中させ続けるためには、途中で見失わないような目標がきちんと設定されている。『ドラゴンクエストI』では、冒険が始まってすぐに最終目的地の竜王の城が見えるなど工夫。つぎにすべきことを見失わないよう、目先の目標についても用意されている。たとえば、”ノコノコを倒す”、”1UPアイテムを取る”など目の前に目標が置かれるわけだ。もうひとつ重要なのが中間目標で、これはユーザーが自由に設定できるものが望ましい。”コインを100枚集める”、”レベルを上げる”などで、ゲーム中で目標となりうる情報は与えながらも、ユーザーがみずからの意思でゲームを進めていると感じさせることが大切なのだそうだ。
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▲膨大な理論体系となっているゲームニクスの一端を説明。『スーパーマリオブラザーズ』は誰もが遊んだことのあるゲームで、その操作は体に叩き込まれているが、ひとつひとつ紐解くとじつに練りこまれていることがわかる。最初にゲームに触れたとき、画面の左側にマリオがいるからこそユーザーは+キーの右を押し、そこで右スクロールゲームだということを理解していた、なんて考えたことありました? |
これらのゲームニクスは、なぜ任天堂を中心とする日本のゲーム産業で花開いたのか。サイトウ氏は、「日本の文化と関わりがあるのだと思います。茶の湯に代表されるような気配りや気遣いといったもてなしの文化と、俳句に代表されるような制限された中でイメージを膨らませる工夫の文化が、日本にはあったからではないでしょうか」とまとめた。
さらにサイトウ氏は、このゲームニクス理論をゲーム以外に活用する必要性を説いた。昨今身の回りにデジタル機器が増え、多機能なものが溢れているが、ボタンの数が多すぎて使いこなせないリモコンなど、かえってストレスを感じさせてしまうものが少なくないのが現状だ。
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▲現在は、多チャンネルに対応したユーザーインターフェイスの研究などを行っているというサイトウ氏。 |
「ユビキタスコンピューティングとは、コンピュータだということを意識させず、ストレスを感じさせないインターフェイスのこと。それこそが多機能生活を快適なものにするために必要で、ゲームニクス理論が有効だと思うんですね。このままでは、リテラシーが低い方は生きていくために必要な医療や教育の情報収集ができず、いわゆるデジタル格差が生まれてしまう。そのためにこそゲームニクスを使うべきだと思っています」(サイトウ)
サイトウ氏の講演の後半では、立命館大学大学院先端総合学術研究科教授の上村雅之氏との対談も実施された。上村氏は、ファミコンやスーパーファミコンなどのハードウェア設計を担当した人物で、現在は任天堂のアドバイザーを務めている。サイトウ氏の講演を振り返り、「ファミコンがブームになり、あっという間に20数年が経ちました。僕はハード側にいて、いつこのブームが終わるかという危うい気持ちをずっと持っていたんです。ゲーム以外にもこのノウハウを使えないかと、サテラビューなどのさまざまなトライをしてきたんですが、ことごとく失敗しまして……」と上村氏。それらの試みがなぜうまくいかなかったのかという疑問を抱えていたことを明かし、ようやく見えてきたというヒントについて語った。それは、世界中に広まるようなヒット現象を起こすものには”遊び”要素があるということ。お手玉のルーツを探ると世界中に広がっていることに触れ、「遊びだけが広い分布をして、しかも何千年という長いルーツを持っている。ファミコンやDS、Wiiが世界中で売れたヒントは、ただただ遊びの文化だったからなのではないか?」と問題提起した。「いまわかっているのは、我々には遺伝子レベルで遊びが刻みこまれていて、その遺伝子を刺激することができれば世界中に広まるということ。それをいちばん始めに、ゼロから作ったのが宮本君(茂氏)の『スーパーマリオ』だったと思います」(上村)。また、ゲームは遊びである以上、リアルな世界の遊びの経験が影響している、というのが上村氏の持論。日本人が現在のゲームを作り出したことを考えると、クオリティーの高い遊びを生み出す土壌が日本の文化にはあったはず、と分析した。
上村氏による遊びの原点に立ち戻る視点を受けて、サイトウ氏はハル研究所時代からつき合いがあるという岩田聡(現任天堂社長)氏について言及。ハル研究所にいたころから、岩田氏は「積み木のようなゲームを作りたい」と話していたのだそうだ。それは、素材だけを与えて、ユーザーが勝手に遊びを創造してくれるゲーム。だが、さまざまなチャレンジをした結果、ふたりのあいだでは「みんな、そういうものはやってくれないね」ということになったのだとか。リアルな世界では遊びは創造していくものだが、コンピューターで組まれたバーチャルな世界にただ放り込まれても、なかなか遊んでもらえない。バーチャルでは遊びのバリエーションが少ないのではないかと語った。ただし、現在はデバイスが進化しており、Wiiのモーションセンサーなどの技術を使えば、「縄跳びだって遊びになりうる」(サイトウ)。ユーザーが発想して拡張できるゲームが生まれる可能性はまだあるのではないか、とまとめた。
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▲ファミコンを開発した当時のことなど、秘話を明かして会場を笑わせていた上村氏。ファミコンのコントローラーがエンジ色なのは、山内溥元任天堂社長が好きな色だったからで、よくあの色のマフラーをしていたとか! |
サイトウ氏による講演のつぎは、6つの新たなエンターテイメント技術を発表する分科会が行われた。今回のカンファレンスは、立命館大学とともに独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主催している。情報処理推進機構では、IT系の人材の発掘育成のため、企画を公募して審査し、採択した企画について支援を行っている。幾人かのプロジェクトマネージャーが独自の審査基準で企画を見ているのだが、じつはそのひとりをコーエーの代表取締役社長、松原健二氏が務めているのだ。分科会では、松原氏が2007年に採択した6つの企画について各担当者が発表。健康器具のバランスボールを使った入力デバイスや、鍵盤楽器を使って誰でも手軽に音楽ゲームを作るための開発支援システムの研究などバラエティー豊かな企画がつぎつぎと紹介された。すべてが即事業化されるわけではないだろうが、ゲーム産業の未来を占うさまざまな可能性が感じられた。
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▲バランスボールを活用した入力デバイスや、内部に重りが仕込まれており、振るとその振動を感じられるスティック型のコントローラーなど、さまざまな実験的試みが発表された。 |
最後に、IPA未踏ソフトウェア創造事業のエンターテイメント部門プロジェクトマネージャーとして、松原氏の特別講演が実施。松原氏は、”我が国のエンターテイメントコンピューティング技術開発における産学官連携の現状と展望”というお題のもと、自身の経験を交えながら産学官連携の試みについて語った。松原氏によれば産学官連携の目的とは、産から学へ研究の源となる情報を伝え、学が研究した成果を産へとつなぐこと。そして官は、この産と学のあいだの循環が継続できるよう支援する。お互いにメリットは大きいが、それぞれの思惑が外れることも多く、産学官連携の成功例はなかなか見当たらないのが現状なのだそうだ。松原氏は、日立製作所でマイクロプロセッサーを開発していたころ、世界一のスーパーコンピューターを作ろうという産学官の試みに参加したことがあった。だが、官から下りてくる資金がまったく足らず、学の教授陣がそれぞれ自分の論文を仕上げるために必要な研究成果を盛り込むよう要求してくるなど、一筋縄ではいかなかったとか。そこから、継続的に連携していける組織や場を持つこと、人と人とのネットワークを築くことが必要だとした。
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▲松原氏は、産業界がなかなか手がつけられない分、学界に声を上げてほしいとして、ゲーム内キャラクターなどの知的財産権やRMT(リアルマネートレード)の問題にも言及した。 |
現在のゲーム産業で見てみると、産から学に求めるのは”応用技術”の研究。入出力デバイスや物理シミュレーション、キャラクターアニメーションといった個別の”要素技術”については現在でも研究が進んでいるが、それらを組み合わせた応用技術についてはまだまだ物足りないそう。とくに、エピックゲームズのアンリアルエンジンのようなソフトウェア開発環境については、海外のメーカーに比べて日本が弱い部分。これまで日本のメーカーはあまり意識してこなかったそうだが、莫大なデータ量が必要とされるプレイステーション3やXbox 360の開発においてはソフトウェア開発環境が必要不可欠となる。松原氏は、「現場の人間ががんばる、という従来のやりかたでは追いついていかなくなっているのが現状です」と明かした。
「産学官の連携は、必ずエンターテイメント事業に貢献できるものだと思っています。難しい側面はありますが、それでもチャレンジを続けないといけない。産学官の連携に取り組むことで、私の経験上いちばんの財産となっている人的ネットワークを築くことができる側面もある。これからも、松原個人としても会社としても、産学官連携は大きなテーマと思って取り組んでいきたいと思います」(松原)
※立命館大学映像学部の公式サイトはこちら
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