国際的な学術会議DiGRA2007が開催。ファミコンの父と『パックマン』のクリエーターによる記念対談が実施
●上村雅之氏と岩谷徹氏が揃ってセッションに登場
2007年9月24日から28日までの5日間、東京大学にてDiGRA2007
The Third DiGRA International Conferenceが開催された。DiGRAとはDigital Games
Research Associationの略で、国際的なゲーム学術会議のこと。今回で3回目を数え、世界各国から500人を超えるデジタルゲームの研究者が集い、最新の研究成果の発表などを行った。
開催最終日にあたる9月28日には、“記念対談
日本のゲーム産業史:ハードウェアとソフトウェアの出会い/アーケードゲームと家庭用ゲームの出会い”と題されたセッションが行われた。東京大学の馬場章教授が司会役を努めるこの記念対談に登壇したのは、任天堂でファミリーコンピュータ(ファミコン)の開発責任者だった上村雅之氏(現・立命館大学大学院先端総合学術研究科教授)と、ナムコ(当時)にて、不朽の名作『パックマン』を手がけた岩谷徹氏(現・東京工芸大学芸術学部教授)。まさに、家庭用ゲームとアーケードゲームの黎明期を支えたふたりによる、豪華な対談となった。セッションでは、まずは上村氏と岩谷氏が自身の足跡を紹介する意味合いなども込めて、個別に講演を行った。
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▲左から馬場氏、岩谷氏、上村氏。貴重な対談が実現した。 |
●アーケードゲームの設計思想は、家庭用ゲーム機へと受け継がれる
まず登壇したのは岩谷徹氏。“日本独自のゲーム設計思想”というタイトルの講演は、なぜ日本のゲームがこのように発展したのかにフォーカスを絞った内容となった。1955年に2台の木馬をデパートの屋上に設置したところから事業をスタートさせたナムコだが(当時は有限会社中村製作所)、「アーケード施設の変移がゲームの設計に関わっていきます。時間消費にゲームを利用する時代から、ゲームを目的に外へ出向く時代へと移り変わっていったのです」という。そして時代はビデオゲームの世代になりゲーム設計に劇的な変化が訪れる。
「ビデオゲームの時代になり、それまで30〜50円が主流だった1回あたりの料金が100円になります。100円は高いので、“なるべく長く遊びたい”ということで、1時間でも楽しめるようになりました。それだけ長く楽しんでもらうには趣向を凝らさないと……ということで、30分後にボスを出す……といった展開が必要になったのです」(岩谷)
単調なゲーム展開から細かく展開を設計する時代へと変化したのだ。そうした土壌のうえに、1980年に開発された『パックマン』には、いろいろなゲーム設計が多く組み合わさっている。「ユーザーを飽きさせない工夫が世界中から高い評価をいただきました」という。
つぎに岩谷氏が言及したのは、日米間におけるゲーム料金の違い。日本では100円の料金に対して、アメリカでは25セント(感覚的には30円程度と当時岩谷氏は言われたらしい)。アメリカでは高い回転率を確保するために「難易度を高くしてくれ」と言われたという。岩谷氏がそこで思い至ったのは、魅力あるハイリスクを設定すること。「高得点を獲得できたり、一網打尽で気持ちがよいというハイリターンのために、あえて危険を冒してでも挑戦したいという魅力あるフィーチャーを設定する」というのだ。そして最後に岩谷氏は結論づける。
「ミスやゲームオーバーにつながる自分の失敗の経緯が、明確にわかるような設計をする。成功したイメージから、その攻略方法を実行したくなるような……。これらの設計思想は脈々と家庭用ゲーム機に引き継がれています」(岩谷)
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▲少し見づらいかもしれないが、『パックマン』の難易度を上げたときのインカムをグラフで表した貴重な手書きの資料。『パックマン』のインカムは赤い線で表示されており、中央あたりから難易度を上げたときと上げなかったときの線が分かれている。上げると上げないとでは毎日で2000円くらい差が出たらしい。筐体にかかる費用を早く回収したいゲームセンターにとっては、この差は大きかったとか。 |
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▲アーケードゲームの設計思想は家庭用ゲーム機に脈々と受け継がれていく。そもそも『パックマン』自体がコンテンツとして家庭用ゲーム機に受け継がれているわけだし! |
●ファミコンはなぜ大ヒットしたのか?
おつぎに登壇したのは上村雅之氏。“日本のゲーム産業史
ハードウェアとソフトウェアの出会い”と題した講演で上村氏がテーマにしたのは、ファミコンができたいきさつ。「日本のビデオゲームは、多くの遊び道具と同様に、海外からの渡来品だった」という上村氏は、LSI-GAMEブームの波に乗って、任天堂がゲーム&ウォッチを開発したと説明。「なぜゲームと時計なのかが疑問ですが、遊ばないときは時計として役立ててもらおうという弱気な名前ですね」と会場を笑わせたあとで、1981年にアーケードゲーム『DONKY
KONG』を発売したと続けた。
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▲当時リリースされたゲーム&ウォッチ・マルチスクリーンはニンテンドーDSのもととなった? |
そして時代は1983年へ。1982年にアメリカで発売されたATARI
2600の大ブームにより、「家庭用のビデオゲームがいままでの問題点を解決する最終兵器として有効なのではないか」という認識に至った任天堂は、ついにファミコンを発売するに至る。「初めて作る家庭用ゲーム機なので、どんなソフトを作っていいかわからず、本体と同時発売の3タイトルはすべてアーケードからの移植作だった」らしい。
さて、「なぜファミコンが大ヒットしたのかを知りたかった」という上村氏は、みずからファミコンが大ヒットした要因を、(1)ゲームグラフィック、(2)コントローラー、(3)『DONKY KONG』の移植、(4)ソフトメーカーの参画の4つに分析してみせた。
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▲ファミコンが大ヒットした要因その1:ゲームグラフィック。当時のアーケードゲームとそん色のないグラフィックを実現することで、技術革新をアピールできた。ちなみに、グラフィックの美麗さは、その後の家庭用ゲーム機の優劣を計るうえでのバロメーターとなる。 |
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▲ファミコンが大ヒットした要因その2:コントローラー。ゲームをプレイしているとき、ユーザーはコントローラーを見ていない。十字キーを採用することで操作の感触がわかるようになった。 |
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▲ファミコンが大ヒットした要因その3:『DONKY KONG』の移植。絶大な人気を誇っていた『DONKY KONG』がアーケードゲームと同じクオリティーで楽しめた(ゲーム&ウォッチ・マルチスクリーンにも移植されていたが、アーケード版と同じクオリティーというわけにはいかなかった)。 |
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▲ファミコンが大ヒットした要因その4:ソフトメーカーの参画。多くのソフトメーカーがファミコンに参加してくれた。任天堂1社では100万台に到達するまでに11ヵ月かかったが、10社で協力したら3ヵ月くらいで100万台を達成できた。 |
「いろんな要素が偶然に集まって、ファミコンのヒットが生まれました。結果としてファミコンは国内だけで1900万台、ソフトは累計1億4000万本を販売することになりました。1983年に発売されたファミコンは、4年まえまで生産を続けたのですが、任天堂にしてみると、明治時代から生産を続けている花札に続く大ロングセラーとなったのです」(上村)
「ファミコンはビデオゲームだけのノウハウで作られたのではなく、おもちゃのノウハウが作り出したまったく新しい遊び道具だった」と上村氏は総括する。日本の家庭用ゲーム機の基礎を作ったのが、ファミコンなのだ。
●「ゲームは技術と芸術の融合したもの。そのバッグボーンが日本にはあった」
そして最後は、上村氏と岩谷氏の記念対談へ。対談は、馬場教授の質問に対して、上村氏と岩谷氏が答えていくという形式で進められた。以下にふたりの印象的なコメントを紹介する。
岩谷 もともと技術立国だった日本には、いろいろと技術的な背景が整っていました。そうしたいろいろなテクノロジーを集約したものがゲーム。ゲームは技術の集合体です。一方コンテンツについては、アニメやマンガという文化的な背景がありました。ゲームは技術と芸術の融合したものなのですが、日本にはもともとバッグボーンがあったわけです。そうした背景が日本に優位性をもたらしたのだと思います。
上村 世界中のユーザーに何のためらいもなく受け入れられるのはゲームくらい。日本では、ビデオゲームはまずはおもちゃメーカーが紹介したのですが、それは技術に惚れ込んだのではなくて、おもしろさに目をつけたから。学者のホイジンガは「おもしろさはそれ以上分析できない」と言いましたが、じつは学校でゲームの研究をしているのは、「ファミコンはなぜ売れたんだろう?」というのを知りたかったから。“おもしろさ”は長い歴史のなかで育まれていくものだと思う。
岩谷 夏休みに入るまえに「旅に出ろ」と言っておいたのに、学生の様子を見るとみんなナマ白くて外出した様子がない。行動範囲が狭いと得られる情報も少ない。クリエーターは材料が多いほうが有利なので、積極的に活動してほしい。
上村 勉強ではなかなか手に入らないものがある。日常のなかで感性をどのように磨いていくかが大切。
セッションが始まるまえに馬場教授は、「ゲーム業界の神様ふたりにお会いできて緊張しています」とコメントしていたが、ふたりの対談を何よりも喜んでいたのは、聴講者だったのかもしれない。
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▲ゲームの黎明期を支えたふたり、上村氏(左)と岩谷氏(右)。ふたりはいま、奇しくも次世代の人材を育成するために、大学にて教鞭を振るっている。 |
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▲最後に聴講者に和歌を紹介した上村氏。遊ぶために人は生まれた。遊んでいる子の声を聞くだけで、自分の体もおのずと動いてしまう、といった意味。ゲーム業界に身を置く者にとっては何とも力強い和歌だ。 |
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