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『パワースマッシュ3』の開発は夢がない? 新ハード導入時期だからこその苦労話を暴露
CEDEC 2007

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●「肩の力を抜いて作ったほうがいい」と受講者にメッセージ
  

▲平山氏の講演は安田講堂で行われた。『パワースマッシュ3』の開発における最先端の開発技術が紹介されると期待していた受講生には衝撃的な内容だったかも!?


 セガの第三AM研究開発部、平山尚氏は、”PowerSmash3の描画設計と多機種対応”と題したセッションを行った。『パワースマッシュ3』は、実在のテニスプレイヤーが登場するリアル系のテニスゲームで、業務用でリリースされたあとプレイステーション3用ソフトとして発売された作品。新世代機で超美麗なグラフィックと謳われたタイトルだけに高度な技術が紹介されるかと思いきや、受講者の笑い声が絶えないぶっちゃけトーク満載の講義となった。

 

 平山氏はこのセッションの内容を以下のように説明。

 

 「この発表に含まれるのは、絵作りの設計やプレイステーション3への移植のことなど。逆に含まれないのは、高度な技術や役に立つテクニック、最新の開発手法、そして夢。始めに言っておきますが、非常に夢がありません」(平山)

 

 夢のない話はこのあと徐々に明らかにされるのだが、平山氏は最初から「リアルであればあるほどいいゲームですが、技術力のない我々にはじつに不利でした」と暴露。さまざまなマイナス面を抱えながらの開発だったそうだが、まず第一に業務用のハードウェアが開発初期には不明だったことが挙げられた。その新ハードには、ハードウェア上でプログラミングができるシェーダ機能が搭載されていると噂されていたが、平山氏の所属する開発チームは当時、シェーダが何なのかも知らない状況だったとか。にも関わらず発売日はすでに決まっていたため、シェーダのことをそれぞれ勉強しながら、絵とゲームプログラムを別個にPC上で作り始めることになった。ちなみに平山氏は、絵を作るチームとゲーム本体を作るチームのあいだを取り持つ描画担当プログラマーになったが、それまで描画エンジンを担当したことはなかったとか。

 

▲自虐ネタを織り交ぜて、終始受講者を笑わせていた平山氏。


 現在のゲーム開発では、グラフィックを担当するいわゆるグラフィッカーはビューアと呼ばれるソフトを使って、描いた絵をチェックしながら作業を進める。『パワースマッシュ3』の開発でも、PC上で動くビューアが採用された。だが、平山氏いわく「我々には従来、ビューアを作るという文化はありませんでした」。グラフィッカーは作った素材をプログラマーにお願いして出してもらっていたのだという。当然、プログラマーの手を止めることになり、グラフィッカーにとっても時間がかかり、品質が落ちる。面倒な作業なので新人プログラマーに任され、結果的に新人が成長しないという問題もある。素人目にもなんだかアナログに思えてしまうが、最終的な絵は実機でしか出すことができない上に、実機ビューアがあってもグラフィッカー全員に配れるほど数量がないなどの問題もあって、2004年までこうした状況で開発を行っていたのだそうだ。平山氏は、「まだこういう現場もあるんじゃないかなあ。絵出しプログラマーは地獄ですよね」と受講者に語りかけ、笑いをとっていた。

  

 実機でテストをすることができず、そのスペックもわからないままに開発を進めることを余儀なくされたため、平山氏はさまざまな苦肉の策を弄した。たとえば、地面に落ちる影の数を細かく設定できるようにしておき、仮に実機のスペックが高かった場合にはフルで影を表示し、スペックが低かったときには影を減らせるようにした。実機が届くまえに素材の量産を始めなければ発売日に間に合わなかったため、素材の作り直しをせずに済むよう描画エンジン側で対応できるようにしておいたのだ。平山氏は、「ただし、リスクを考えると低性能を想定しておくべきでした。まあ始めからそうしていれば、ここまでキレイな絵が出ることはなかったと思いますので難しいところですが……」とコメント。なぜスペックが低い場合を想定していなかったのかというと、当時はスゴイものを作るんだという幻想に捉われていたのだそうだ。平山氏は、「会社の偉い人には、今後数年は誰もリアル系テニスを作れないようにしてくれ、って言われてたくらいですから」とぶっちゃけた。

 
 ほかにも、技術的にはさまざまな試行錯誤があったそうだが、平山氏は「誰かがどこかでやったことしかしない、と割り切って開発に当たった」と明かした。ハードがわからず、期限が決まっているという悪条件の中では、「難しいことはしない」のが鉄則。現場レベルでのさまざまな苦労話が語られた。

▲苦肉の策のひとつが、影の描写。このゲームではプレイ中に太陽が動くこともなく、影を固定してしまえるため、ライティングによる影ではなく、テクスチャに影部分を描き込むことで対応。人物に落ちる影とは別の作りかたをしているのだ。こうして、プレイヤーにはわからないようなところでデータ容量をできるだけ軽くしているというわけ。


▲観客席についてもいわゆる手抜きの技術が使われている。テクスチャは正面から見たものと横から見たものの2枚で、ただ板に貼り付けてあるだけ。


 最終的に、業務用の新ハードは十分に高性能で、それほどの手直しをすることなく『パワースマッシュ3』は世に送り出された。そして、平山氏らはプレイステーション3への移植に着手。ここでもさまざまな問題が立ちはだかったのだが、そのひとつがメモリ量だった。業務用と違って家庭用ゲーム機はメモリ量が少なく、メモリが足りなくなった。テクスチャを削るなどの対応で切り抜けたが、じつはE3 2006に出展する数日まえまで1回プレイするとフリーズするほどの状態だったとか! 平山氏は、「E3にまともに出展できたのは奇跡でした。我々は本当に運がよかった」と振り返った。もうひとつの問題は、ロード時間だった。業務用はハードディスクだが、プレイステーション3は光学ディスクを使用するため、ローディングにかかる時間は3倍ほどの差があるのだという。『パワースマッシュ3』は業務用でも7秒〜10秒のロード時間があり、「ゲーセンに置くゲームとしては失格」(平山)。これをプレイステーション3にベタ移植した場合には、40秒を超えていたそうだ。「こんなものが売れるわけがない」と平山氏。プレイステーション3はハードディスクが標準搭載されることになったので、これを使うことにして結果的には10秒程度に収めることができたそうだ。

 

 平山氏は新ハード導入時期だからこその苦労と、その対応策を臨場感たっぷりに披露し、最後には以下のようにまとめた。

 

 「我々が『パワースマッシュ3』をこうして無事に発売できたのは、無理をせず、身の程をわきまえていたから。それに運がよかったからというしみったれた理由によるものです。たかがテニスゲームを作るだけで何億円も飛んでしまうこの狂った時代を生き抜くには、もう少し肩の力を抜いたほうがいいのではないでしょうか? 結局そのほうが全体として品質の高いものを作れると思います」(平山)

 



 

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