任天堂の宮本茂氏がキーノートスピーチ。自身のビジョンを語る!
【GDC 2007 リポート】
●リスクがあるから成功がある……Wiiが成功したワケとは?
GDC 2007のハイライトともいうべき、任天堂の宮本茂氏によるキーノートスピーチ(基調講演)が、開催4日目となる2007年3月8日(現地時間)に行われた。ゲーム業界における最重要人物とも言える宮本氏の講演とあってか、会場は当然のごとく満員。立ち見で溢れるほどの大盛況のなか、"A Creative Vision(創造的ビジョン)"と題するスピーチは始まった。GDCでの講演は8年ぶりになるという宮本氏は、その8年間にゲームを取り巻く状況は大きく変わったという前置きから話をスタートさせた。
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▲Wiiの写真チャンネルを利用して、キーノートスピーチを行った宮本氏。登壇するや「僕のパートナーです」として、通訳さんとWiiリモコンを紹介。笑いを誘った。 |
「ここのところ、取材を受けるたびにゲームの内容そのものよりも、"ゲームがプレイヤーをゾンビにしてしまうのではないか?"といったふうに、ゲームが社会に与える影響についての質問を受けることが多くなりました。このままではゲームに対する評価が下がってしまう。そのたびに、新しいものを作っていきたいと思うようになりました。いま、ゲームデザイナーはどうすればいいかの岐路に来ている。僕も、今後自分のゲームスタイルが受け入れられるかどうか……自問自答しました。そこで僕は今日、クリエイティブビジョンと任天堂のビジョンについてお話をしたいと思っています」(宮本)
つねに挑戦する姿勢をとり続ける任天堂には、3つのエレメントがあると宮本氏は言う。"プレイヤーの拡大"と、"バランス"、そして"リスク"だ。宮本氏は、"プレイヤーの拡大"について説明した。例としてあげてくれたには、ご自身の奥さんだ。もともとゲームに興味がなかった奥さんは、『スーパーマリオブラザーズ』や『テトリス』にはまるで興味を示さなかったという。ところが、娘さんが『ゼルダの伝説 時のオカリナ』をプレイしているのを見たときからゲームへの興味が沸き始め、『どうぶつの森』で初めてコントローラーを持ち、「敵が登場しないゲーム」ということで、大きな関心を示したという。さらに、宮本家では犬の"ピック"を飼い始めたところ、奥さんはとても犬好きになり、犬好きの友人もたくさん増えた。そこで、「この犬好きの人たちすべてにゲームをプレイしてもらったらいいのではないか?」と思い『nintendog』を開発、奥さんにプレイしてもらったら、大いに喜んでくれたという。そして、しだいに奥さんはインタラクティブなゲームのおもしろさを知り、ゲームを身近なものとして捉えるようになったという。
お次は"バランス"の説明。大学で工業デザインの勉強をしていたという宮本氏は、任天堂に入社したあと、まずはコントローラーのデザインに携わっているという。「ひとりで作るのでなく、何人かで作るのがうちのやりかた」(宮本)とのことだが、そんな宮本氏にとっても、Wiiのプロジェクトはひときわ苦労が伴ったらしい。
「Wiiは複雑で強烈なプロジェクトでした。いろんなチームが関わっているのですが、あるチームは"新しいゲームが作りたい"といい、ほかのチームは"いまのゲームがプレイできないといけない"といい、さらに別のチームは"サードパーティーのゲームが遊べないといけない"という。僕としては、シンプルで使い勝手がよく、新しいゲームプレイを取り入れるようにしないといけないと思っていました。もちろん、これまで積み上げてきたことに背を向けてもいけない。相反する命題に応えようと、たくさんのプロトタイプを作りました。それは、楽しいことであると同時に長いトンネルでもあったのですが、最終的にまの形になりました。それは、さまざまな人の意見を聞いて、ハードとソフトのバランスをとった結果です」(宮本)
そして最後に"リスク"。前社長の山内溥氏から「人と違うことをしなさい」と言われていたという宮本氏は、ここでもWiiを例にあげて説明してくれた。結果として新しい層にアピールすることができなかった、ゲームキューブというハードを経て、任天堂はリスクを押して新しいことにチャレンジした。
「Wiiは正直言って、僕も不安でした。ゲームは両手で遊ぶものという文化が10年以上も継続しているのに、それを片手に持ち替えさせることになるわけですから。開発中の僕の任務は、いかに社員にWiiのよさを伝道するかでした(笑)。"何かが失われるのではなく、何かが得られるほうに未来を感じよう"と説得して回りました。岩田さんとふたりで話していると勇気付けられたのですが、ひとりになったら不安になったりしました」(宮本)
と、意外な心の動きを吐露してくれた。それでも2006年5月に行われたE3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)で、ユーザーが楽しそうにWiiを遊んでいるのを見て、よかったと思ったという。
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▲Wiiリモコンのプロトタイプの数々。紆余曲折のすえ、いまの形に。 |
●ユーザーの顔を思い浮かべながら開発をする
任天堂のビジョンのあとは、宮本氏自身のビジョンについて教えてくれた。宮本氏は、よく雑誌のインタビューなどで「ゲームのアイデアはどのようにして浮かんだのですか?」といった質問を受けるが、ゲームの詳細を分析すればするほどゲームから離れていくという。
「ゲームを作るときのビジョンで大切なのは、プレイする人の顔をイメージして開発することです。小さい要素にいちいちこだわってはいけない。僕らはユーザーを楽しませたいと思ってるし、驚きや楽しみを感じてほしい。ユーザーがポジティブに解釈するのであれば、ゲームではどのような遊びも可能だと思っています。
ゲームクリエーターはおおうにして同じ間違いを犯します。それは自分の作っているゲームをあまりに知りすぎているために、プレイヤーがゲームのことを知らないということがわからない。極端に言えば、ゲームはプレイヤーの視点でずっと開発したほうがいい」(宮本)
また、近年ではゲームにおいてもユーザーどうしの"コミュニケーション"に脚光が集まっている。宮本氏の代表作とも言える『ゼルダの伝説』シリーズは、「人によっては、シングルプレイ用のアドベンチャーと思われるかもしれないが、自分は違うと思っていました」(宮本)という。最初に『ゼルダの伝説』を社内で見せたときに、ゲームの目的がわからないし、謎解きもわからないし……ということで、「日本では受け入れられがたい」という評価だったらしい。
「開発者からは一本道のゲームにしてほしいと言われましたが、断固却下しました(笑)。結果、『ゼルダの伝説』をプレイしたユーザーは、寝るまえにもゲームのことを考えるし、みんなで攻略方法を考える。当時はチャットルームがなかったので、電話で情報交換をしたりしていました。結果、『ゼルダの伝説』をきっかけにすることで、競争ではなくて、コミュニケーションが芽生えたわけです。じつは、『どうぶつの森』は、『ゼルダの伝説』がインスピレーションになって生まれたものなのです。コミュニケーションだけで成り立つソフトを作ろうと考えていました」(宮本)
一方、実務的な問題として、ゲームデザインには優先順位をつけたほうがいいと宮本氏は主張する。クリエーターはよく、"人が足りない"、"予算が足りない"、"時間が足りない"というが、ユーザーを喜ばせようとして、いろいろと盛り込もうとするのは人情というものだが、必ずしもそれがプラスに働くわけではないという。その好例が『Wiiスポーツ』だ。とくにリアリズムを追求した野球ゲームが好きだという宮本氏だが、『Wiiスポーツ』の野球はまさにその対極に位置する。球場はひとつだし、送りバンドもできない、3イニングしかない。
「『Wiiスポーツ』はいろいろな開発者にショックを与えたと思いますが、"投げて打つ"ことのリアルさを感じてもらうことにすべての神経を集中したゲームです。あえてマリオなどを起用するよりも、こけしのようなキャラを使ったほうが自分でプレイしている感じがあると判断して、思い切った決断をしました。そのためにスケジュールどおりにできましたけどね(笑)」 (宮本)
その結果、『Wiiスポーツ』は世界中のプレイヤーに支持される人気ソフトになった。そして、最後に宮本氏が自身のビジョンとして挙げたのが、"しつこいこと"。ファミコン時代から「人の顔を作れるといいなと思っていた」(宮本)という宮本氏は、これまでさまざまなハードで人の顔を作るソフトに取り組んできては不評を買っていた。ところがMiiで、「人の顔を作る」というプロジェクトは見事に結実する。ここでもキーとなったのは、Wiiというハードだ。
「ハードのレベルが上がればいろいろな要素が複雑になるわけですが、Wiiでは発想の逆転が必要だった。シンプルにいくことで、幅広い層に障ってもらうことができたわけです。"人の顔を作る"という僕の執念がついに形になりりました(笑)」(宮本)
そして宮本氏は以下のコメントでキーノートスピーチを締めくくった。
「クリエイティブビジョンはひとつのゲームデザインの要素ではなくてエッセンス。あなた(来場したゲームクリエーター)のビジョンは私のビジョンではありません。ゲーム業界が成功するかどうかは、あなたのビジョンにかかっています。成功を計る定規は、いいゲームを作るということだけはなく、ひとつのプロジェクトを成功させることで社会に出ていくこと。ゲーム好きだけではなく、ゲームを敬遠している人たちにもゲームを遊んでもらえるようにしてほしい」(宮本)
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▲キーノートスピーチでは、2007年発売予定の『スーパーマリオギャラクシー』の映像を披露。以前デモンストレーションした『スーパーマリオ128』の答えがここにあるとか。 |
GDCの会場らしく、ゲームクリエーターに向けての真摯なメッセージに終始した宮本氏のキーノートスピーチ。宮本氏の言葉が多くのクリエーターの胸に響いたであろうことは、スピーチが終わったあとのスタンディングオベーションが証明している。「新しいものに挑戦する」という姿勢を貫いてWiiやニンテンドーDSなどのヒット作を生み出した任天堂だが、その精神は、宮本氏のスピーチを聞いたクリエーターに確実に受け継がれていくのではないか? そんなことを実感させる万雷の拍手だった。最後に宮本氏は、以下のコメントを英語で残して壇上を後にした。
「僕が自分の妻にゲームを始めさせることができたのですから、あなたもみんなにゲームを始めてもらうことができるはずです」
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