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Text:永田泰大(週刊ファミ通編集委員)





 そんなわけで、金曜の夜、というか土曜日の朝にすべての仕事を終えると朝の6時であった。クレイジーな時間である。ホントはもうひとつ原稿があったのだが、それはもういいや、ということにしてしまって6時である。

 さて帰るかあ、と思っていると、先輩編集者のNさんが近づいてくる。

 「おい、並びに行くぞ永田」

 えええええ。

 『ドラゴンクエストVII』発売日の朝は、そんなふうにして始まった。

 ニュース記事の担当者にとって、大作ソフトの発売日というのは修羅場である。行列がどのくらいできたのか、先頭の人は何時に並んだのか、店はどんな対応ををしたのか、そういったことを克明にレポートしなければならない。とくに、このファミ通.comが始まってからは、リアルタイムの更新が要求される。ご苦労なことである。
 さて、Nさんの申し出に驚いていると、ちょうどニュース記事担当者が渋谷に取材に向かうという。クルマで行くのだという。渋谷のTSUTAYAが開店するのは7時だという。意外と渋谷の行列は短いという。

「よし、とりあえず便乗するぞ永田」

 えええええ。

 うやむやである。

 ソフトの予約が嫌いであることは昨日書いた。そして僕は同様に行列が嫌いである。昨日書いたように、帰り道にふらりとゲームを買って家路につきたいというのが僕の理想なのである。それが、なんの因果で渋谷の行列に並ばなくてはならないのであろうか。

 ぶつくさ言ってるあいだにクルマは渋谷に着いた。センター街入り口である。朝帰りの酔っぱらいと汚れた鳩が交錯するスクランブル交差点を渡るとTSUTAYAがある。どれどれどんなもんだね、と様子をうかがってみて驚いた。

 テレビカメラである。各社ずらりと取材陣である。妙に場違いなのはレポーターのお姉ちゃんである。

 傍らにニュース記事担当者のFを見つけた。携帯電話とノートパソコンでレポート作りの真っ最中である。朝からご苦労なことである。僕はFに状況を聞いてみる。やはり渋谷の行列はもっとも短いらしい。新宿では500人だとか言ってる。行列が店をぐるりと1周しているとか言ってる。朝からご苦労なことである。

 たしかにここで並べば比較的苦労なく『ドラクエVII』を入手できそうだ。行列は嫌いだが、背に腹は代えられん。なんせこちとら4年ぶりなのである。しかし、テレビカメラはどうかなあ。6時のニュースで放映されちゃったりしたら、とてもイヤだなあ。「ここ渋谷では人気ソフト『ドラゴンクエスト』の最新作を求めて早朝から長い列ができました!」とか言われて、その映像に自分がこそこそ映ってるっていうのは、とてもイヤだなあ。買った瞬間にインタビューされたりして、「会社員です。仕事が終わってすぐに来ました。買えてうれしいです!」なんて答えたりするのは、とてもイヤだなあ。

 そうこうするうちに店の入り口が開いた。行列が誘導されながら店内に入っていく。ああ、あそこに並べば『ドラクエ』が買えるのだな。チャリに乗って駆け回らなくても『ドラクエ』が買えるのだな。ちくしょう、やっぱ予約しとけばよかったな。

 Nさんを見ると、僕と同じく『ドラクエ』は欲しいがカメラがうざいなあという表情である。悩んだ僕は、いま東京中でもっとも『ドラクエ』の販売情報に詳しいと思われるFに決定権を委ねた。

「あのさ、Fが今日絶対に『ドラクエ』を手に入れなきゃいけないとしたらどうする?」

「いますぐあそこに並びますね」

 即答だった。

 意を決した僕とNさんは、いままさに店内に入らんとしている行列の最後尾に向かって歩きだした。背に腹は代えられん。なにしろこちとら4年ぶりなのである。ところが、である。行列の最後につき、まさに自動ドアをくぐろうとしたその瞬間。列を仕切っていたメガネのお兄ちゃんが、サッと僕らを遮った。

「申しわけありません、店内混雑してまいりましたので、しばらくここでお待ちください」

 ええええええ。

 なんともスマートに物事が進まないこと甚だしい。帰り道にふらりとゲームショップで『ドラクエVII』を入手するはずだった僕は、どこをどう間違ったか、渋谷センター街入り口のTSUTAYAでテレビカメラに囲まれながら開店まで待たされる羽目になってしまった。しかもやっかいなことに、僕は行列の先頭である。もちろん本当の意味では先頭ではないのだが、僕より前の人たちはすでに店内に入っているため、パッと見僕は一番乗りなのである。これがまたどうにもばつが悪い。

 一番乗りが恥ずかしいと言っているわけではない。断固たる決意とともにイベントを楽しむ気持ちで一番乗りを選んだのであれば、それはそれで胸を張ることができるだろう。「会社員です! やっぱり『ドラクエ』が好きですから、昨日から並んでます!」と男らしく答えることだってできるだろう。しかし、僕はどさくさに紛れてこっそり並んでみちゃったという感じなのである。できれば並ばずになんとか買えたらいいなあと思いつつ、列も短いし、ちょこっと並んじゃおうかな、と思って並んだ不貞な輩なのである。

 しかも悪いことに、列がどんどん伸びていく。なんだなんだと道行く人が立ち止まる。開店の瞬間に備えてカメラマンが慌ただしく行き来する。レポーターのお姉ちゃんもマイク片手に立ち位置の確認だ。どうしたどうしたと道行く人が立ち止まる。列はさらに伸びていく。そして、その先頭にいるのが僕である。

 なんともスマートに物事が進まないこと甚だしい。

 しかし、いろんな人がいるものである。渋谷という場所柄もあるのだろうが、列に並ぶ人も老若男女多種多様といったおもむきである。茶髪が並ぶ。金髪が並ぶ。おっさんが並ぶ。コギャルが並ぶ。もちろんふつうの人も並ぶ。挙動不審の人が並ぶ。チーマー風のグループがぞろぞろ寄ってきて、ガードマンのおっちゃんに追い払われている。メガネにリュックという昔ながらのゲームファンが駅から突進してきて店内に突入しようとするがガードマンのおっちゃんに阻まれている。あ、さっきの挙動不審の人だ。並んだかと思ったらまたうろうろしている。あ、挙動不審の人がガードマンに近づいて何か言ってる。なになに? 「値段はいくらですか?」 これにはさすがにガードマンのおっちゃんも困っている。

 するとなにやらカメラマンが騒ぎ出した。矢継ぎ早にシャッターを切る音がする。なんだろうと思って見ると、おお、ドラクエバスである。バスの全面に『ドラクエ』のイラストをプリントしたバスがセンター街の交差点に横づけになったのである。さあ、お祭りムードが盛り上がってまいりました。中からエニックスの関係者らしき人たちが降りてくる。堀井さんが現れたりしないだろうか。ん? あの人どこかで見たことあるな。「福嶋社長だよ」と後ろからNさんが教えてくれる。おお、福嶋社長。どうです社長、わかりますか、先頭は僕ですよ。僕が一番乗りですよ、社長。『ドラクエ』ファンの鏡ですよ、社長。ついては一足先に『ドラクエVII』をもらえませんか、社長。

 てなことを考えているうちに、そろそろ開店の時間である。カメラマンもレポーターも店内でばっちりスタンバイの様子。外はなにやら寂しくなった。そしてついに8月26日、午前7時。

 「10! 9! 8! 7!」

 おやおや店内でカウントダウンが始まった。道行く人の視線から察するに、どうやらスクランブル交差点のオーロラビジョンにもカウントダウンが表示さ
れているらしい。

 「6! 5! 4!」

 待たされている身としてはなんとも寂しい感じである。やれやれようやくか
と、少々醒め気味ですらある。

 「3! 2! 1! ……0!」

 パンパンパンと店内からクラッカーの音が弾ける。フラッシュが炊かれる。そして。

 チャチャチャチャ〜、チャチャチャチャ〜。

 おお、この音は! 『ドラゴンクエスト』のオープニングテーマである。そして、ざわざわざわっと感じるこの感触は、僕の両腕に鳥肌が立った音である。なんだか知らないが、反応して感動してしまっている僕である。意味がわからない。こうなってくるともうパブロフの犬である。しかしそれでもかまわない。さあ、個人的に俄然盛り上がってまいりました。

 ややあって店内へ案内された。すると案の定、異様な雰囲気である。おお、コスプレしている人がいる。コスプレというか、要するに司祭の格好である。たしかに『ドラクエ』のコスプレは難しいのだろうなと同情してみたりする。あちこちでフラッシュ。店員の「いらっしゃいませ!」は絶叫に近い。おやおや、報道陣が小競り合いだ。カメラを抱えた人とテレビ用のでっかいマイクを持った人が、「踏んだ」「踏んでねえ」と言い争っている。さあ、盛り上がってまいりました。

 まるでディズニーランドのアトラクションよろしく、ジグザグにくねった列を少しずつ進んでいく。15分ほど進むと、ようやく僕の番である。レジに進む。店員さんがひきつった笑顔で「いらっしゃいますぇっ! TSUTAYAのポイントカードはお持ちですくわっ!」と聞いてくる。たしかに覇気のある応対ではあるが、テンションが高すぎます。ここで、「そこにある『ジョーズ・コレクターズエディション』のDVDをください」と言ってみたらどうなるのかな、などという考えが一瞬頭をよぎるが、やはりやめる。『ドラゴンクエストVII 〜エデンの戦士たち〜』をください!

 「8190円になります!」

 むう、お祭りとはいえ消費税はとるのだなあ。こんだけ盛り上げるのなら、いっそ無料配布してもよさそうなのになあ。財布を覗き、1万円札を出す。ちょっと気を遣って、200円をつけ足す。

 「2010円のお返しになります!」

 ありがとうございます。

 そんなこんなでようやく『ドラクエVII』を手にした僕でした。へとへとになって渋谷駅に向かうと、改札付近でものすごくテンションの高い大学生風の男が、道行く人に「TSUTAYAはどこですかっ!」と聞いていたのが印象的でした。

 理想論からいうと、帰り道にコンビニに立ち寄りお気に入りのお菓子など購入し、ということになるわけですが、さすがにふらふらです。徹夜明けで行列後ですから、ぼろぼろです。せめてオープニングだけでもとか思いましたが、逆に半端にそれはできんわいということになり、家に着くなりベッドに倒れ込みました。

 ぐう。

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