【『ファイナルファンタジーXI』プレイ日記】
第21回 ファースト・パーティー

2002年6月24日
Text:永田泰大

 初めて味わったパーティープレイの神髄は、ちょっとした戦慄をともなった。
 

 そのパーティーに僕が加わったのは、ダンジョンの中でだった。最初は町で仲間を求めようとしたのだが、レベルと職業がぴったり合う人をうまく見つけられなかった。とりあえず「○○に行きたいのですが、ごいっしょさせてもらえませんか」と叫んだりしてみたが、やはり戦士というのは全体のバランスからいうと余っている職業であり、すぐに声はかからなかった。とりあえずひとりで行ってみるかと思いダンジョンまで出向き、内部に入ったとたんすぐに仲間と出会った。ダンジョンの中にはそういった単独の冒険者が意外と存在するから、町で声を張り上げるよりも効率がいいのかもしれない。
 

 彼らはふたり組で、ちょうど仲間を捜しているところだった。リーダーはMさんと言って、レベルの意味からいってもプレイヤーの経験という意味からいっても、まさしく3人の中でもっとも秀でているようだった。僕が3人目のメンバーだったが、ほどなく4人目のメンバーを見つけた。僕らはモンスターを倒しながら少しずつダンジョンを進んでいった。
 

 Mさんが先頭に立ち、行く手にモンスターを見つけると"挑発"を仕掛ける。挑発というのは戦士が持つアビリティーのひとつで、それによってモンスターの攻撃を自分に向かわせることができる。つまり、敵を自分のほうに引きつけるのだ。モンスターが近づいてくると全員で斬りかかる。ときにモンスターは付近から集まり2匹になったり3匹になったりするが、僕らはMさんのうまい判断によって効率よくそれを退けていった。
 

 つぎにパーティーに加わったのはひとりのモンクだった。そのモンクは、僕らに出会うまで、なんとひとりでダンジョンを進んでいた。話しぶりや戦いぶりから見て、彼もMさんと同じくらいの猛者であると思われた。Mさんがモンクを誘うと、彼は同意して僕らに加わった。戦力は倍増した。Mさんが敵を引きつけ、モンクが敵のHPをごっそりと削る。屈強なふたりに率いられたパーティーは、正直、心強かった。僕に入る経験値はあまり多くなかったが、僕は先に進めることがうれしかった。いいパーティーに入ることができた、と僕は思った。
 

 僕らはエレベーターを使って上のフロアに上がった。そこからはしだいに敵も強くなってくるのだという。しかし、述べたように僕らのパーティーは危なげがなかった。薄気味の悪い石造りのダンジョンを、僕らは深部へ向かって突き進んで行った。しかし、Mさんは不安がっていた。なぜなら、僕らのパーティーには白魔導士がいなかったからだ。回復の必要があまり感じられないほどに僕らは強かったけれど、Mさんは、先に進むにしたがってその危険性を強く感じていたようだった。
 

 複数の敵が集まってきて、ちょっとだけ危うい場面があった。もちろん最終的には無事に戦闘を終えたけれど、Mさんはそれ以上先に進もうとしなかった。「これ以上進むには、白魔導士が必要不可欠」とMさんは断言した。そうなのかな、と経験の浅い僕が感じていると、屈強なモンクが即座に「そうですね」と同意した。このふたりが脅威を感じているということは、間違いなくそうなのだろう。見慣れ始めていた周囲の仄暗さが、とたんに恐ろしく感じられ始める。
 

 いったん戻ろう、と言ってMさんがきびすを返した。僕はMさんのすぐあとに続いた。ようやくエレベーターの前に差し掛かる、というそのときだった。
 

「あれ?」とMさんが言った。
 

 後続が来ない。パーティーのしんがりはたしかモンクだった。Mさんと、僕と、もうひとりの戦士は彼らを待ったが、彼らが近づいてくる様子はない。
 

 おかしい。
 

 Mさんがもと来たほうへ走り出した。複雑なダンジョンだから、あるいは道を曲がり損ねたのかもしれない。僕ともうひとりの戦士もMさんに続いて走り出す。
 

 そのとき、突然に前方からおびただしい数の亀の大群が現れた。勢い、僕らはやつらと鉢合わせする。まったく足並みの整わないまま、戦闘突入。
 

 僕は剣を抜き亀の甲羅を見境なく斬りつけるが、それ以上に自分のHPが削られていく。そもそも、どの亀から攻撃を喰らっているのかわからない。ヤバい。ヤバいヤバいヤバい。モニターの中は誰かの振る剣がヒットする光と亀たちのどす黒い甲羅で満ちている。
 

 どうなっているんだ?
 

 一瞬、冷静になった僕は画面右下のゲージを見た。そこには、パーティー全員の体力ゲージが表示されている。いま、どういう状態なんだ? 
 

 並んだ体力ゲージを見て、僕は愕然とした。いちばん下に屈強なモンクの名前がある。その体力ゲージが、ゼロなのだ。つまり、あのモンクがすでに死んでいる。正式にはその状態を"戦闘不能"と呼ぶのだろうが、そのときの感覚は戦闘不能などという生やさしいものではない。
 

 あの、屈強な、モンクが、一瞬で、殺られてしまった。
 

 なんとか3人がかりで目の前の亀を倒す。しかし、その奥からつぎつぎに亀だ。戦闘解除するか? しかしそれが間に合うのか? 頼みの綱はMさんだ。ところがMさんの体力ゲージを見たとたんに血の気が引く。
 

 ドスン、ドスン、ドスン、という奇妙に段階的な間隔でもって、Mさんのゲージが見る見る減っていく。ひ、と思った瞬間、MさんのHPを示す数字が真っ赤なゼロに転じた。
 

 ――殺られた。『ベルセルク』的な恐怖を僕は感じる。
 
  そのあとは詳しく覚えていない。標的を失った亀が僕のほうへ押し寄せたのだろう。経験もレベルも足りない僕は瞬殺された。ダンジョンに崩れた僕は、モニターの中を亀どもが猛り狂うさまをぼうっと見ている。"ホームポイントへ戻る"というボタンを押すまで、死者は無力ながらその場面を見続けることができる。
 

 亀たちがようやくダンジョンの奥に消え去ろうとしたとき、奥からひとりの冒険者が走ってきた。僕らのパーティーにいた冒険者ではない。装備から見るとかなりレベルの高い戦士であるようだ。応援に駆けつけたのだろう。そのへんで僕はようやく"ホームポイントへ戻る"というボタンを押した。画面がブラックアウトする瞬間、その冒険者がこうつぶやいたのを見た。
 

「遅かったか・・・」
 

 町に戻った僕は、しばし放心する。何しろ突然のアップダウンだった。突然に劇的なことが起こり、僕はなすすべもなかった。分断されたパーティーの一瞬の油断、あっという間の崩壊、遅すぎた援軍。できすぎたような全滅の風景だ。 
 

 初めて味わったパーティープレイの神髄は、そのように、戦慄に満ちた。そこで僕が痛感することといったら、あまりにも自分は力が足りない、ということだ。
 





ファイナルファンタジーXI

発売日

5月16日発売

価格

7800円

メーカー

スクウェア

機種

プレイステーション2

テイスト

冒険・ファンタジー

ジャンル

RPG

備考

オンラインプレイ専用、要BBUnit、有料コンテンツ利用料 月額1280円


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