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押井ワールドの新開地! 『アヴァロン』
2001年1月17日
=keyward from AVALON=

 『アヴァロン』には、人間・押井守のテイストがふんだんに盛り込まれている。ここでは、監督がこだわった部分をキーワードで解説。どれもこれも、映画を構成するための良質な細胞たちなのである。もちろん、"押井印"全開だ。


アヴァロン画像
アヴァロン
 古くからケルト民話として、ヨーロッパで広く語り継がれてきた"アーサー王伝説"に登場する地名のこと。アーサー王は、紀元6世紀頃イギリスに実在したと言われる英雄。彼が最後の戦いを終えた後、安息の地として選んだのがアヴァロンだ。ここは、不死を意味するリンゴの木が生い茂る楽園。伝説によると、アーサー王の墓石には「英雄は死せず、再び来たれり」という言葉が刻まれているという。つまりアヴァロンは、死の訪れない輪廻の世界=リセットすれば何度でも再生可能、といったゲーム世界の暗喩になっているである。実際、剣と魔法の騎士道ファンタジーを描いたこの物語は、多くのRPGの源流となっている。こういった理由からアーサー王に敬意を表し、映画のタイトルを『アヴァロン』にしたということだ。


ポーランド共和国
 東欧に位置する人口約3800万人の民主主義国家。首都はワルシャワ。1939年に開戦した第二次世界大戦は、ナチスのポーランド侵攻から始まった、というのは歴史の授業で習った通り。『アヴァロン』はこのポーランドで、約3カ月に渡りすべての撮影を敢行。監督がロケ地にポーランドを選んだ理由としては、軍が戦車等の貸し出しに協力してくれることと、監督が"ポーランド好き"ということがあげられている。監督曰く、「ポーランド映画は、ボクのなかで昔から格別だったし、ポーランド語の響きも好き」なのだそう。ちなみに、ポーランド人の文化水準は非常に高く、歴史上ではショパンやコペルニクス、キュリー夫人らを輩出している。


DOMINO(ドミノ)
アヴァロン画像
 映画『アヴァロン』は、全編を通してそのほとんどのシーンが、独特の淡いトーンで統一されている。その色合いは絵画的ですらあり美しい。また、ゲーム中に人が死ぬ場面では、2Dと組み合わせることによって(VFX)、これまでにかつて見たこともない表現法を確立。血を流すことなく肉体が崩壊していく様は、アニメでも特撮でもない不思議な印象を与える結果となった。これらは、手作業によるコマ単位のデジタル処理に加え、"DOMINO"というデジタル・エフェクト・ツールを使って作成。これは、監督の演出意図によって自在にコントロールできるデジタル合成ツールで、従来のフィルムを使った光学式合成ではでき得なかった加工処理を可能とした。こうしてアナログ素材とデジタルを見事に融合した結果、『アヴァロン』の世界が誕生したのだ。


6.1chドルビーデジタル・サラウンドEX
 映画のイメージを決定づけるものとして、音楽の持つ役割は大きい。『アヴァロン』の場合は、劇中にも登場する国立ワルシャワ・フィルハーモニック・オーケストラの演奏によって、その世界観を確固たるものとした。音楽監修は、『機動警察パトレイバー』(89年)、『攻殻機動隊』(95年)など、押井作品ではおなじみの作曲家・川井憲次。彼は、「ソプラノの音でやりたい」という監督の意向を汲み、ポーランドで録音してきた生音にデジタル加工を重ねることで、ライブのみでは表現し得ない独自のアンサンブルを作り出すことに成功した。さらに、音響システムには『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(99年)と同じ、"ドルビーデジタル・サラウンドEX"という日本初の6.1chデジタルサウンドシステムを採用。ダイナミックな音響が、『アヴァロン』の世界をより壮大に盛り上げている。


ハインド
アヴァロン画像
 今回ポーランド軍の全面協力により、セットに本物の兵器を登場させることが実現。とくに監督がこだわったのは、ハインドという大型武装攻撃ヘリだ。監督曰く、「実物のハインドは、アメリカ映画でもいまだ使われていない。『ランボー3 怒りのアフガン』でさえ、ニセモノなんだから。ただし、遺憾ながら機関砲は撃てない。そこらへんはデジタルで乗り越える。現実を補完するときに発揮するのがデジタルなんだ」とのことである。また、戦車についてもフリークであると自認する監督は、「戦車は町に出て、人間を蹴散らしてこそ初めて絵になる」と言い、見せ方にもこだわりをみせている。


ゲームのプロプレイヤー
アヴァロン画像
 劇中に登場する仮想現実ゲーム"アヴァロン"は、試合に勝つと報酬が出る。プレイヤーたちは、これを生業とするいわばプロだ。この発想は、以前監督がゲームにハマっていた頃、「1日に何十時間も辛い思いしてるのに、どうしてこれで飯が食えないのだろうか」という、純粋な疑問から思いついたものだという。さらに、近年の『バーチャファイター』ブームにより各地に出現した"新宿ジャッキー"や"池袋サラ"など、ひとりで複数の名を持つプレイヤーたちの存在が、今回の映画制作への直接のキッカケになったとのこと。かれらの登場により、ゲームセンターが道場と化したことに感動した監督は、「こいつらの話をやりたい」と考えたのだそうだ。


"食べる"
 アッシュ役のポーランド人女優から、役作りのことでいろいろ質問された際に、監督はこう答えたという。「この映画で現実と呼べることはひとつもない。たしかなことは、アッシュという女性が存在したことだけだ」。しかし、映画というただでさえ仮想空間において、さらに仮想ゲームをプレイするという設定は、その映画を現実の世界で観ている者をときに混乱させてしまう恐れがある。そこで監督は、現実と仮想のあいだに橋を渡すことができ、なおかつ次元の整理がつくように、"食べる"というアクションをアクセントに置いたのだと思われる。なぜならこの映画は、とにかく物を食べているシーンが印象的なのだ。食べるということは、もっとも現実的な行為。だから、食事のシーンが強調されるていることで「あ、これはこっちの世界なんだな」と、観ている者に対して感覚的に判断できる材料となるのだ。ちなみに、監督がアッシュ役の女優に言った「アッシュだけが現実」という言葉は、"食べる"シーンと相対的な意味を持っていると考えてよいだろう。う〜ん、意味深い。


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