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国領雄二の明日死ぬならこの一本
僕らのいるこの場所こそがワンダーランド=ひかりのまち!
週刊ファミ通デスク・国領雄二郎が、毎週1本劇場公開中の映画を題材に、その作品の魅力や、僕たちの暮らす世界について語り尽くすコラム!
第17回 ひかりのまち

DATA
 
ひかりのまち
■監督/マイケル・ウィンターボトム ■出演/ジナ・マッキー、シャ−リ−・ヘンダースン ■配給/アスミック・エース ■上映時間/1時間49分

■STORY ロンドンでウェイトレスをしているナディア。幸せを求める彼女は、伝言ダイヤルで恋人探し。ナディアの姉妹や家族たちも、みんなもう少しだけ幸せを求めている。そんな人々の週末の4日間が描かれる。
   
 近年のイギリス映画ブ−ムを作った監督といえば、間違いなく『トレイン・スポッティング』のダニー・ボイルと『日陰のふたり』のマイケル・ウィンターボトムだろう。ダニー・ボイルが成功後、定石通りにハリウッドに拠点を移し、『普通じゃない』、『ビーチ』と、イマイチな作品を作り続けているのに対して、マイケル・ウィンターボトムはイギリスで地味ながらも堅実に作品を作り続けている。今回は、そんな彼の最新作にして、最高傑作と言っても過言ではない『ひかりのまち』を、ちゃんとただの言葉で刻みたい。

 本作のスタイルは、当コラムで過去に紹介した『ハピネス』とほぼ同じ。あとちょっとの幸せを求めて、さまざまな人々が悪戦苦闘するという群像劇だ。

 だが、最近流行気味の「幸せ探し映画」と、本作は決定的に違う。それは劇中のすべてがリアルなのに、観賞後はなぜかファンタジーのように感じられるということ。一見矛盾するような感想だが、原題の『WONDERLAND』が『不思議の国のアリス』を暗示しているということからも、これは監督の狙いだと思う。

 この作品におけるリアルさとは何か? 本作は「これってデジタルビデオ?」と思う(実際にはすべて16ミリのハンディーカメラで撮影されているらしい)ほど接写が多く、画像もとにかく自然だ。感触は『電波少年』、『ブレア・ウイッチ・プロジェクト』などに、近いものがある。照明もスタジオ撮影も、エキストラも一切なし。本当に幸せ探しをする人々の4日間に渡るドキュメンタリー番組を観ているかのような感じ。

 こういった画面の印象から受ける「リアルさ」とは、言葉通りに「本物っぽさ」だ。でも、僕が感じたリアルさはそれだけではない。映像のスタイルだけではない、「実感」としてのリアルさがこの作品にはある。

 『ひかりのまち』には『ハピネス』のように、エキセントリックなエピソードや人物は出てこない。普通にそこそこの暮らしをしている人々が、なぜか抱えてしまっている不安や、幸せを希求する心。それが本当に実感できるレベルで、普通の人々の切実な問題として描かれている。ドキュメンタリータッチの映像以上に、それが本当にリアルだった。

 伝言ダイヤルで恋人を探すが、いい出逢いを見つけられない女性。そんな彼女に声をかけたい孤独な青年。仕事を辞めたことを妻に言い出せない夫。ストレスに押しつぶされそうな老夫婦。誕生日、なんとか両親に連絡しようとする家出息子。子供を愛しているのに、落ち着くことの出来ない父親。どうしてもカーニバルの花火を観に行きたい男の子。

 こんな人たちが、泣いたり、笑ったり、怒ったりしながら幸せを探す4日間。何ひとつ特別なことはない。だからこそ、国は違えど、自分と変わらないこととして、リアルに感じることができる。

 恋人を求める女性がひとり歩く街。仕事を辞めた男が走らすバイクと流れる景色。少年がひとりぼっちで見上げる花火。これらすべての映像は自然光で撮影されつつも、美しさをひとつも損なうことなく、僕に飛び込んできた。それは、まるで光の洪水っていうか、光のパレードみたいな、普通なのに美しい映像だった。

 そう、原題のワンダーランドとは、不思議なことが起こる夢の国じゃなくて、普通の人々が悪戦苦闘しつつ、ささやかな幸せを求める美しいこの場所のことなのだ。

 恋人を探す女性は、ついに内気で孤独な青年と他愛もない言葉を交わす。家出した息子の留守電メッセージを、父親はひとり家で聞く。物語の後半にこの世に生まれる子供アリス。彼女もこのワンダーランド=ひかりのまちで、きっと素敵な幸せを探して生きていく。

 カーニバルの花火の光が、見上げる観衆たちの頭上に降り注いで、みんなの幸せそうな顔を、一瞬だけちゃんと照らす。そう、こんな風に、幸せを探す誰の上にも、ちょっとした偶然みたいな出来事が、優しい雨のように降り注ぐ。そのことを、ほんのひとかけらでも信じられる、感じられるってこと。それが、ちゃんとした、リアルなファンタジーってことなんだと思う。

 いっぱいお金を持ってて、仕事も順調。気に入った服を着て、美味しい食事とお酒。それで今日1日はすべてオッケー。そういった幸せも、もちろんアリで、僕はそれをひとかけらも否定しない。そういう人に言うべき言葉はひとつもない。

 でも、もしかしてそれだけではないんじゃないか。それとは違う何かを自分が求めているのではないか。その事実に気づいてしまった普通の人は、本当にたくさんいると思う。もちろん、僕もそう。だったらここで、ワンダーランドで、リアルなファンタジーが宿るかもしれない場所で、頑張るしかない。

いつも感想メールありがとうございます。今回紹介したウィンターボトム監督の最新作は早くもこの秋日本公開! 機会があったらこのコラムでも紹介したいと思います。どんな感想、リクエストでもかまわないので「ここ」までメールを送ってください。余談ですが、このコラムを読んでくれている知人が、SYLVIA55という名前でCDデビューしました。おめでとう! 皆さんも機会があったら聴いてみてください。それでは、また来週の水曜日に!

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