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国領雄二郎の明日死ぬならこの1本
第47回(最終回) Stereo Future
2001年5月2日
文=国領雄二郎(週刊ファミ通編集部デスク)
週刊ファミ通ではクロスレビュアーとしてもおなじみ

週刊ファミ通デスク・国領雄二郎が、毎週1本劇場公開中の映画を題材に、その作品の魅力や、僕たちの暮らす世界について語り尽くすコラム!

●明るい未来のための物語

DATA
『Stereo Future』
■監督/中野裕之 ■出演/永瀬正敏、桃崎エリ ■配給/東北新社 ■上映時間/1時間51分 ■公開日/2001年6月2日公開予定
■STORY 2002年の未来。売れない役者の圭介は何をやっても上手くいかない。一方、圭介と別れたエリは、人と話すことができなくなってしまっていた。
 今回でこのコラムも最終回。最後は、僕たちの未来についての、とっても素敵な映画『Stereo Future』。ちゃんと、ただの言葉で刻みます。

 『Stereo Future』は未来の日本を舞台にした映画。未来といっても時代設定は2002年。そう来年のことだ。すぐそこにある未来のお話。ほとんど世界の外観は2001年の現在と同じ。自動車や洋服のデザイン。アパートのセキュリティー。こういったディテールはちょっと未来風にバージョンアップしている。また、クラブでは、アルコールやドラッグに変わり、新鮮な空気を楽しむのが一般的になっている。こういった表層の部分は、まあ一応、SF映画的である。

 中身はもっと深い。本当の意味でのSF映画だ。1年後の世界を舞台に、本作では、タイトルの『Stereo Future』の略でもある「SF」という言葉をキーワードに、4つのドラマが同時進行で繰り広げられる。そして、その個々のドラマは、「素敵な明るい未来のために、僕たちはどうするべきか」という問いの答えに向かっていく。そう、本作は「未来を描くSF映画」ではなくて「未来に向かって何をすべきかを描いたSF映画」なのだ。

 まったく売れない役者の圭介。彼は今日もセリフもなく斬り殺されるサムライ(Samrai Fighter)を、監督に怒鳴られつつ演じている。役者としては、まったく芽が出なかったが、人気主演女優に気に入られたことから、彼女の恋人となり大きな役ももらう。スターとベッドインして、思ってた通りの成功を手に入れたのに、あまり幸せじゃない。ちょっと前まで恋人だったエリとふたりで夢見ていた未来は、こんなもんじゃなかった。

 圭介に捨てられたエリは言葉を失ってしまった(Silent Female)。彼女は植物専門医のダニーと知り合い、美しい自然の中を散策することで、癒されていく。エリは傷ついて初めて、これまで気にもしなかった、この世界の自然の優しさと美しさを知る。

 そんなエリの姉、薫はテレビ局のディレクター。環境問題を扱ったドキュメンタリー番組を制作している。様々な専門家に取材を続ける薫は、未来(Stereo Future)の自然環境へ強い不安を抱く。2010年には全ての樹木が枯れ果ててしまうという学説まであった。薫は何かしなければという焦りに包まれる。

 圭介の悪友健吾はインチキ高級スピーカーを売っている(Sounds Funky)。圭介の映画撮影現場で、彼に思いがけないチャンスが訪れる。

 こういった4つのエピソードの中で、登場人物たちは、自分自身の明るい未来のため、様々な選択を迫られる。そして、この2002年の4つのエピソードに絡むかのように、日本の美しい風景がいくつも登場する。

 茂る木々から射す太陽の光。自然の中を何処までも走る鉄道。大地から顔を出した小さな植物。舞い散る秋の木々の葉。季節はずれに打ち上げられる花火。洗練された都市の生活空間とは段違いの強さで描写される日本の風景の数々。本当に美しい。そんでもって僕たちが思い知るのは、まぎれもなくここが僕たちのいる世界ってこと。

 『Stereo Future』では、声高に環境問題を叫ぶことはない。ひとりひとりが幸せに向かって、まともな正しい選択をしていくことが、この美しい世界を守っていくことにも繋がる。そのことが、これらの映像によって暗示される。

 本当に好きなことや大切な人を大事にしない。悪いとはっきりわかっている問題から目を背け知らん振り。悪意はなくても、こういった姿勢が僕たちを幸せから遠ざけ、この世界すらもっと暗いものにして、いつかは壊してしまうかもしれない。そんな悪い未来の可能性もこの映画は描いている。でも一方では、それを回避するための方法も、ちゃんとあるはずだ。

 できることなら、毎日を楽しく過ごしていきたい。そういったシンプルな想いの実現のため、僕たちがすべきことが、この映画では描かれる。それは説教臭くなく、押しつけでもなく、必要以上に深刻でもなく、ただひたすら楽しく、優しく、そんでもって、ちょっとだけ切ないタッチで描かれる。『Stereo Future』はそんなSF映画だ。

 僕も正しい選択をしたいと思った。この世界の中で、何度間違いを重ねても、正しい選択をしていきたいと思った。とりあえず、他の誰もやってなくたって、正しい選択をしようという気持ちを、大切にしていこう。その程度のことから、ちゃんとやろう。それが明るい未来に繋がって、この世界を美しく輝かすなら、素敵じゃないか。ついでに、そんな美しい世界に、僕の居場所があったりしたら、とっても素敵じゃないか。

約1年間続いたコラムも終了です。ご愛読ありがとうございました。どんな感想でもかまわないので「ここ」まで送ってください。連載中、たくさんの感想メールに、励まされ、また考えさせられました。みなさんから頂くメールを読むだけでも、娯楽である映画に、価値ある魔法が宿っているということを強く実感しました。連載1回目で書いたように、本当に凄く素敵なものを何度も観た気がします。確かに観た気がしています。それでは、さよなら。

週刊ファミ通編集部:国領雄二郎

※「国領雄二郎の明日死ぬならこの1本」のバックナンバーはこちら

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