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国領雄二郎の明日死ぬならこの1本
第41回 ハイ・フィデリティ
2001年3月28日
文=国領雄二郎(週刊ファミ通編集部デスク)
週刊ファミ通ではクロスレビュアーとしてもおなじみ

週刊ファミ通デスク・国領雄二郎が、毎週1本劇場公開中の映画を題材に、その作品の魅力や、僕たちの暮らす世界について語り尽くすコラム!

DATA
ハイ・フィデリティ
■監督/スティーブン・フリアーズ ■出演/ジョン・キューザック、イーベン・ヤイレ ■配給/ブエナ ビスタ インターナショナル ■上映時間/1時間54分
■STORY 中古レコード屋のオーナー、ロブ。30歳を過ぎたというのに、彼の人生は何ひとつ上手くいかない。
●音楽をめぐる恋のお話

 今週は『ハイ・フィデリティ』をただの言葉で刻む。おそらく、世界で最初の、中古レコード店の店主を主人公にした恋愛映画だ。

 ロブは超音楽好き。30代前半で、趣味のいい、ある意味ではマニアックな中古レコード屋の店長だ。彼は自分がどんな人かということには興味がない。自分がどんな音楽を好きかということにしか関心がない。音楽オタクである。だから彼にとって、音楽の趣味が良いか悪いかだけが、物事の判断基準になっている。そんなロブの店で働く店員や、やって来る客たちも、みんなロブのような人種ばかりだ。ひとことで言うと、音楽好きのダメ人間たち。

 ダメ人間といっても、劇中のレコード店で流れる音楽は確かにいい趣味だ。ハイ・ラマズ、ベル・アンド・セバスチャン、ニルヴァーナ、ヴァセリンズ、グリーン・デイ、ベータ・バンド。ここに挙げたバンドはほんの一部。これだけでも、ロブの音楽センスとこだわりが、わかる人にはわかる。ちなみに、ロブの部屋の入り口にはペイブメントのポスターが貼ってあり、店内の目立つ場所には日本のファンタスティック・プラスティック・マシーンのレコードがディスプレイしてあった。

 こんな音楽オタクだから、失恋しても、悲しい曲を聴いたり、所有レコードを整理したりして、気をまぎらわすことしかできない。自分の何処が悪いかなんて考えない。「なんで女たちは自分を捨てたのか?」。そんな疑問の答えも、自分で考えるのではなく、自分を捨てた女の子たちに連絡をとり、直接「何でボクを捨てたんだい?」なんて聞く。すべて相手に問題を押しつけるだけ。そんでもってひとりぼっちの部屋で「音楽を聴くから失恋するのか、失恋するから音楽を聴くのか」なんて、出口のない不毛な思考を続けている。

 そんな彼も大好きなローラに去られて、色々と本気で悩み出す。ローラは将来有望なキャリアウーマン。ロブとはまったくもって釣り合わない。レコードが好きというだけで、何も考えず大人になってしまった自分は正しかったのか? もっと、ちゃんとした仕事を持った大人になることができたのではないか? それでも、いまさら音楽好きはやめられないし、趣味の良い彼を慕って寄って来る女の子たちと遊ぶこともやめられない。ダメだ。

 こんな混乱したダメで勝手な男の心情が、本作では、すべてポップミュージックと、その曲やアーティストに関するウンチクと共に語られる。もちろん、まったく原曲を知らなくても、普通に恋愛映画として楽しめる。

 好きなことだけしてきたロブは、幸せにたどりつくことができるのか? 何かを好きということが、ただ単に収入を得るということ以上のものになりえるのか? こういった問題に対する回答を、この映画は軽いタッチで描きながらも、ちゃんとボクたちに観せてくれる。

 たとえ音楽好きではなくてもかまわない。一生の趣味と思えるような何かを持っている人。好きな人にお気に入りの曲を詰め込んだテープをプレゼントしたことのある人。大好きな本や映画を彼女や彼氏に勧めたことのある人。『ハイ・フィデリティ』はそんな経験のあるみんなに観てほしい作品だ。

 仕事でも、趣味でも、好きなことを、わざわざ見つけなければならない人は、不幸だ。本当に好きなことがあるなら、多分、それだけでもちよっとだけ幸せに近い場所にいるはずだ。そんなことを、この映画は教えてくれる。そして、そんな、ちょっとだけましかもしれない自分を、ちゃんとした幸せな結末へと導くためのヒントが、この映画にはある。

いつもご愛読ありがとうございます。どんな感想でもかまわないので、「ここ」まで送ってください。では、また。来週の水曜日に。

週刊ファミ通編集部:国領雄二郎

※「国領雄二郎の明日死ぬならこの1本」のバックナンバーはこちら

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