小林ゆう『ゆうのお部屋』

古谷徹さん×小林ゆうのクロストーク(その4)

古谷徹さんと小林ゆうさんのクロストークもいよいよ最終回。トークは、古谷さんが得意とするナレーションをテーマに始まります。最近初めてナレーションを手掛けたというゆうさんにとって、古谷さんのナレーション術は興味津々だったようで……。


●「僕は本当に強運だと自分でも感じる」(古谷)

ゆう 一方で、古谷さんはナレーションの分野でも定評がありますが、どういったスタンスで取り組まれているのでしょうか? じつは私も最近初めてテレビのナレーションを担当させていただく機会があったのですが、ぜひお伺いしたく思いまして。

古谷 そうなんだ。えっと、まず大きな違いは、ナレーションは情報を伝えるということがおもな役割なので、的確かつ明確にしゃべって、視聴者にしっかりと伝えることが第一ということ。そこでは自分の感情を表現するわけにはいかないから、感情過多にならないように、なるべく冷静に聞きやすい喋りかたを心掛けている。その際は、自分自身が主旨や文章の意味もちゃんと理解していなければいけないね。そうしないと相手にしっかりと言葉が伝わらないから、どうしても流れていってしまうんだよね。

ゆう なるほど。

古谷 加えて、僕がそれ以上のプラスアルファの要素として考えているのが、聴いている人が「もっと聴いていたいな」、「このしゃべりは心地よいな」って思ってくれるようなナレーション。それで、「万人が聴いて心地のいい音って何だろう?」って考えたときに、“自然界の音”がいちばん心地いいんじゃないかなって気付いたわけ。たとえば、波の音、鳥のさえずり、川のせせらぎ。それらを嫌いという人はあまりいない。その中に身を任せて音を聴いていると、とても心地よくなって癒される。そういう心地よい音を提供できれば……と思っているんだ。どうしたら波の音になれるかというのは、具体的にはすごく難しくて、いま試行錯誤している最中なんだけどね。最近感じていることはいくつかあって、ひとつには、映像と音楽、それにナレーションが乗っかって、そのコンビネーションがきっちりいくと気持ちいいということ。それこそクラシックのオーケストラみたいなものだね。とくに音楽のセンテンスに合わせてしゃべるととても聴き取りやすくなる。歌を聴いているみたいな感じになるんだね。

ゆう 参考になります。

古谷 あとは、自分自身の声の魅力というか、ウリの部分を自分なりに把握しておくこと。僕の場合は知性と色気を感じさせるナレーションを目指している。それが、自分の声を活かすポイントなんじゃないかなって思っているんだ。たとえば、報道のナレーションだと、どうしても無味乾燥になりがちだけど、どんな報道ナレーションでも男の色気を感じさせるものにしたい。そういった自分の持ち味をひとつ掴んで意識するだけで、それが魅力につながってくるんだと思うよ。

ゆう 知性と色気って、古谷さんにぴったりの言葉ですね! 色気って天性のものですか?

古谷 そんなことないと思うんだけどね。色気を出すためには底辺に異性が好きというのがないとダメかもね。僕は女性が好きですから……ってメモをするほどのことじゃないよ?(笑)

ゆう いえ、今後の参考にさせていただこうかと……(笑)。ちなみに、『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』のナレーションはいかがですか?

古谷 『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』はものすごくシリアスな話なので、重厚さはすごく意識したんだ。『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』の根底にあるのは、いまの若者たちにもっと危機感を持って欲しいというか、もっと世界情勢を考えてくださいという思い。ナレーションではその世界観というものを伝えたいというのがあった。「緊張感を持ってこの作品を見てくれよ」というメッセージだね。僕はドキュメンタリーのナレーションも多いので、緊張感をかもし出すのは得意とするところだったんだけど、『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』で目指したのは、報道ナレーションのような研ぎ澄まされたナイフのような感じではなくて、鉈(なた)のような重さを持った鋭さだったね。

ゆう ナイフに鉈ですか。とてもイメージしやすいニュアンスですね。やっぱりそれはイメージするだけで、違ってくるものなのですね?

古谷 そうだね。自分にテーマを与えることはとにかく大事だよ。「これは鉈で行こう!」とかね。

ゆう あと私が古谷さんと接していて感じたことのひとつが、ファンの方へのサービス精神。『ワールド・デストラクション』のWebラジオの公開録音で強く感動して心に残っているのは、真心を持ってファンの方に接していらっしゃるお姿です。「ファンの方に楽しんでいただこう」という姿勢を、自然体のままで貫かれているんですね。

古谷 ファンの方に対しては、僕はエネルギーをもらって支えてくれている存在だと思っているんだ。だから、とても大事にしている。あとは、イベントなどで同じ空間にいられることってそうそうないから、そのあいだはお客さんといっしょに楽しみたい。いっしょに楽しむには、まずは自分が楽しまないとダメだから、まずはイベントでのお客様とのひとときを、自分がめいっぱい楽しむようにしているんだ。

ゆう 10月に行なわれた『ワールド・デストラクション』のイベントでもそれは感じました! 古谷さんの「みんなで楽しもう!」という熱意のようなものが伝わってきて、率先して私たちを引っ張っていってくださいました。古谷さんはどこにいらっしゃっても古谷さんなので、弾ける私たちを暖かく包んでくださいました。だから私たちも萎縮することなくラジオやイベントを楽しめるんです。古谷さんは本当にサービス精神旺盛な方であります!

古谷 (笑)。サービス精神旺盛というのはよく言われるんだけど、僕にとっては自然なことなんだよね。

ゆう 私も声優の駆け出しとして、古谷さんの姿勢を学ばせていただきたいと思っているのですが、古谷さんは「自然なこと」とおっしゃっていて、それはすごいことだと思います。

古谷 でも、人が喜んでいるのを見るのはうれしいじゃない。

ゆう うれしいです。すごくうれしいです。

古谷 やっぱりそれが基本にあるんだよ。

ゆう その姿勢が、古谷さんの一流たるゆえんなのですね!

古谷 どうだろうね。声優ということでは、僕は本当に強運だと自分でも感じる。運が強い。改めてそう思う。何が強運かって言うと、まずは雨に降られない(笑)。何か大事な日は絶対に晴れる。「自分のまわりだけ雨が降らないんじゃないかしら?」ってくらいに晴れ男なんだ。自分が生まれた年の7月31日は、どの星占いの本を見ても“ものすごい強運”って書いてあるし。

ゆう すごいですね。

古谷 人にも恵まれたし、作品にも恵まれたんだけど、何よりも時代に恵まれたというのがいちばん大きかったんだと思う。『巨人の星』なんて36パーセントの視聴率を記録しているからね。いまだとありえない話だけど、それはあの時代だからこそ可能だった。『機動戦士ガンダム』にしてもそうだけど、時代のエポックメーキングとなるような、世の中の流れを大きく作るような作品に巡り会えた。本当に自分は強運だったなって思う。

ゆう 古谷さんが運を引き寄せていらっしゃるんだと思います。

古谷 だといいんだけどね。あと、ここ数年のジャパニメーションのブームってすごいじゃない。そういった波が来ているときに、僕もある程度自由にスケジューリングができたので、ここ2〜3年は世界中のいろんな国に行ったんだ。僕が行くことが海外での話題作りになって、海外でのアニメ熱がさらに盛り上がってきた。そこで「古谷徹ここにあり」ということになって、制作会社からオファーが来て、いまいろんな仕事をさせていただけるようになった。いまはレギュラーが5本あって、逆にとてもではないけれど、海外へ行ける状況ではなくなっている。海外へ行ったタイミングもタイムリーで、やっぱり強運なんだなって思えるんだよね。

ゆう 古谷さんがよく海外にいってらっしゃるということは、いろいろな記事で拝見させていただいていたのですが、週にレギュラーが5本も! 『キャシャーンSins』さんにも主演されていますよね。

▲往年の名作テレビアニメ『人造人間キャシャーン』が装い新たに蘇る。記憶喪失のまま長い眠りから覚めたキャシャーンは、荒廃した世界で生きていくことで、己の“罪(Sins)”と直面することになる。古谷さんは主人公のキャシャーンを演じている。マッドハウス制作による本作は、現在MBS(毎日放送)深夜枠などで好評放送中。2009年2月25日からはBlu-ray DiscとDVDがリリース開始される予定だ。


古谷 うん。『キャシャーン Sins』ではキャシャーンを演じさせてもらっているんだけど、この年になってテレビシリーズの主役が演じられるとは思っていなかった(笑)。

ゆう 私も拝見させていただいています。とてもおもしろかったです。

古谷 ありがとう。僕もチェックして見ているんだけど、自分で感動しちゃうんだよね。第2話なんかほろっとしちゃって、「いいなあ」って思っているんだ(笑)。手前味噌なんだけど、そう思える自分も素敵かな……とか思って。そういった出会いには本当に恵まれている。

ゆう 逆に、飛雄馬さんもアムロさんも、古谷さんに出会えて幸運だったのではないかと思います

古谷 ありがとう。そう言ってもらえると本当にうれしいな。

ゆう お話しは尽きないのですが、本日はどうもありがとうございました。古谷さんを形作る秘密の一端に迫れたのではないかと思っています。口のあたりまでには入れたのではないかと。

古谷 ええっ!? 体に入り込んだの!?

ゆう そうです。入らせていただきました。失礼いたしました。私もこれからもっともっと成長して、つぎは咽頭にいけるくらいまでにはしたいです。

古谷 いやいや(笑)。僕もゆうちゃんには長く好きでいてもらいたいから、少しずつ小出しにして、味わってもらいたいな(笑)。今日は、僕もゆうちゃんにはこんなふうに見てもらっているんだということがよくわかったので、ものすごく刺激になりました。これからもゆうちゃんが思ってくれる古谷徹であり続けたいと改めて思ったし、これからもがんばります! お互いがんばりましょう。

憧れの古谷さんとの対談は「口のところまで入れた(?)」とのことで、ゆうさんにとっても大満足だったようです。一流中の一流声優である古谷さんの仕事に対する取り組みかたは、ゆうさんにとってもさらに大きな刺激になったとか。



 古谷さんとは、テレビアニメ『ワールド・デストラクション』で初めて共演をさせていただいたことがご縁で、ふたりでラジオのパーソナリティーを務めさせていただくことになりました。アフレコ現場やラジオ収録を通じて、古谷さんとたくさんのお時間を過ごさせていただくこととなり、本当に幸運に恵まれたと思っております。
 古谷さんといっしょにお芝居をさせていただいたり、ラジオでいろいろなお話をさせていただけることで、たくさんの刺激をいただくことができました。駆け出しの声優である私にとって、それらの経験はかけがえのない貴重な財産になりました。お芝居やラジオでのトークの中で、学ぶべきことがたくさんあったのは勿論なのですが、同じ場所で同じ時を過ごさせていただいてるその一瞬一瞬が、輝く宝物です。いつかまた古谷さんと共演させていただけるような役者になりたいと思っております。一生懸命がんばります!
 そして、お忙しいなか、今回のインタビューをお受けくださいましたことに心から感謝しております。大事なことを沢山お教えいただいて、誠にありがとうございました。  小林ゆう



【インフォーメーション】

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小林ゆうさん出演情報

今日の5の2 佐藤リョウタ役
テレビ東京(毎週日曜日深夜1時30分〜2時)などで放送中

まかでみ・WAっしょい! シンクラヴィア役
チバテレビ(毎週日曜日深夜0時30分〜1時)などで放送中

銀魂 猿飛あやめ役
テレビ東京(毎週木曜日午後6時〜6時30分)などで放送中

OAD
魔法先生ネギま! 〜白き翼 ALA ALBA〜 桜咲刹那役

OAD
【獄・】さよなら絶望先生 木村カエレ役

 

▲憧れの古谷さんと握手をして小林ゆうさんも感激のご様子。

 

小林ゆう

2月5日生まれ。東京都出身。以前はモデルを務めていたほどの抜群のスタイルとルックスで人気を集める声優。代表作はアニメ『DAN DOH!!』の青葉弾道役、『魔法先生ネギま!』の桜咲刹那役、『さよなら絶望先生』の木村カエレ役など多数。