小林ゆう『ゆうのお部屋』

古谷徹さん×小林ゆうのクロストーク(その2)

人気声優、小林ゆうさんが、「会いたい人に会いに行く!」ファミ通.comの人気コーナー。ゆうさんが、憧れの存在である超人気声優の古谷徹さんの魅力に迫る。古谷さんのアフレコ現場におけるスタンスが明らかに。


●小林ゆうは恋愛をすべき!?

ゆう 最初に古谷さんにお会いしたのは、『ワールド・デストラクション 〜世界撲滅の六人〜』のアフレコ現場だったんですよね。丘の上に立つ王子様みたいな雰囲気で立っていらっしゃったのですが、私が「今度ラジオをごいっしょさせていただくことになりました。足を引っ張らないようにがんばります」って挨拶をすると、「そのままでいいからね。がんばってね」と言ってくださって、とてもほっとしました。

古谷 そうだったね(笑)。

ゆう それで、実際にアフレコをごいっしょさせていただいて、私が思ったことがあるんです。それは、古谷さんはすごいキャリアをお持ちで、大御所と呼ばれるような立場なのに、演じることに対してずっと情熱をお持ちで、キラキラされているということです。本来私たち若手が持っているべきである剥き出しの熱意に加えて、演技に対するどん欲な情熱をずっと持ち続けていらっしゃる。すごいことだと思いました。

古谷 そういうふうに思ってくれていたんだ。それは本当にうれしいなあ。僕の場合、ひとつひとつの与えられた役に対する取り組みかたはずっと変わっていなくて、ひとつの役を演じることで、何か最低ひとつは必ず向上したいと、いつも思っているんだ。だから、役柄を与えられたときは、できる限りのことをやろうと、いつも決めているんだよね。

ゆう たいへんおこがましいのですが、古谷さんが役に対して真摯に取り組んでいらっしゃるのは、アフレコ現場を通じてものすごく感じさせていただいております。大先輩である古谷さんが、ひとつの役柄にここまで突き詰めて取り組んでいらっしゃる姿を見て、「ああ、やっぱりみんなが憧れる先輩というのはこういう方なんだ」というのを感じて衝撃を受けました。私はまだまだ足りないって思ったと同時に、『ワールド・デストラクション 〜世界撲滅の六人〜』では古谷さんの取り組みかたを間近で見られて、とても幸せでした。古谷さんは情熱がさらに膨大に膨れ上がっていって、「ああ、ヒーローを演じる古谷さんがヒーローなんだな」って思いました。

古谷 それは、たしかにそうありたいと思っているね。ヒーローを演じるためには、ふだんから自分がヒーローでなければ!って思っているんだ。

ゆう 私がリ・アを演じるときは、ただもうガムシャラに無我夢中だったのですが、古谷さんの場合はもっと大きなエネルギーのようなものを感じます。

古谷 ありがとう。どんな仕事でもそうなのかもしれないけど、仕事って長くやっているとなかなか情熱が燃やせなくなって、情熱がないままにやっていても合格点を取れてしまったりするよね。ベテランになるとそういう傾向が強くて、中にはきっとそうやっている人もいるとは思うんだけど、僕はそれが許せない。ひとつの役に取り組むときは、その役に関するさまざまな情報を集めて、自分なりに咀嚼する。たとえば、キャラのイラストをもらったら、自分のデスクに置いて、同じポーズを取って演じてみたり。形から役作りに入ってみたりするんだ。あとは、キャラクターと同じような体験ができるのであれば、あえて同じ立場に身を置いて、そのときの気分を身体に覚え込ませるようにしたり。

ゆう たとえばどんなことをされたんですか?

古谷 『巨人の星』だったら、実際にキャッチボールをして投げるときの間合いや呼吸を学習したりとかかな。そうそう、コスチュームも役と同じものを着て、自分自身をキャラに近づけたりもするね。まわりのスタッフや共演者を見た目から刷り込ませていくんだ。自分と役柄が近くなることで、共演者もやりやすくなるんだね。とにかく自分ができることはすべてやったうえで、マイクの前に立とうと思っているんだ。やるべきことをすべてやったのだったら、決して自分が後悔することはない。何もしなくて、あとで「あれをやっておけばよかった」って後悔するのがイヤなんだよね。ある意味、自信がないのかもね。だからいろんなことをやる。

ゆう すごいですねえ。

古谷 もうひとつは、「古谷さんにやってもらうからには……」という期待に応えないといけないというプレッシャーかな。当然といえば当然なんだけど、僕は若手声優さんよりぜんぜん高いギャラをもらっているわけだし、制作者もそれだけのものを見込んでいるわけだよね。だから、僕にとってはヒットではダメで、いつもホームランを打たないといけない。そういう意味ではイチローといっしょ(笑)。収録中は、後輩たちの「あの古谷徹がどう演じるんだろう?」っていう視線も背中に感じるし。

ゆう とくに私の視線はお背中に刺さっているかもしれません。

古谷 そこでありきたりの芝居をしていると、名が廃るじゃない? そういうのも意識しながら演技をしているんだ。ゆうちゃんが僕の役作りに対して感じてくれている部分があるとしたら、そんなところが大きいのかもしれない。

ゆう オーラがありますね。

古谷 あと、いまの僕が注意しているのは、共演者との壁みたいなものを崩すこと。僕の場合キャリアがあるので、どうしても“あの古谷徹”ということで、みんなが近寄り難いと思っている。そうなると現場が硬くなってしまう。作品というのは、キャストが同じ土俵で作っていかないとおもしろくならないから、あえて僕のほうから降りていくというのはあるね。そういう意味では、主役以上に気を使っているかもね、みんなに対して。

ゆう それは感じます。古谷さんは若手も含め、その場にいる人たちに積極的に話しかけたり、あだ名で呼んだりしていらっしゃいますよね。古谷さんがものすごくフレンドリーに後輩に接していらっしゃるのを見て、すごく感動してしまいます。

古谷 うん。僕が一段上から接していると、みんなも気を使うし、お芝居のときでもお互い気兼ねなく言い合えない。演技をしていると、自分だと気がつかないことも多いわけで、お互いコミュニケーションを取りながら作ることで、作品はよりよくなる。そうしてほしいから、僕も宮野君のことをあだ名で「マモ」って呼んだりして垣根を壊そうとしているんだ。あと、『ワールド・デストラクション』では大ベテランの方がゲストとして登場することが多いんだけど、アフレコのときはともすれば孤立しがちになってしまう。もちろん、みんな名前は知っているけど、大ベテランだから近寄り難いって思っちゃうんだね。そんなときは、僕がゲストの方に積極的に声をかけるようにして、レギュラー陣との橋渡し役というか、ジョイント役になっているんだ。それでゲストの方にもリラックスしてもらって、お互いが言いたいことを言い合える空気を作るようにしている。それは演技にも大きく影響すると思うから。

ゆう 私、古谷さんが宮野さんや小野大輔さんのことを「マモ」とか「小野D」とか呼んでいらっしゃるのを聞いて、初めはものすごくうらやましかったです。ついつい耳がダンボのようになってしまって。でも、あるとき私も「あれ、そういえば私も“ゆうちゃん”って呼ばれている!?」って気がついて(笑)。

古谷 そうだよ(笑)!

ゆう ずいぶん後になってから気がついたんですけど(笑)。古谷さんがアフレコ現場の空気を和らげようと努力されているという空気がものすごく伝わってきて、私たちもリラックスして演技ができました。そんな空気があるから、私もお芝居のときに古谷さんが演じるトッピーを、情け容赦なく痛めつけさせていただくことができたんです。

古谷 (笑)。


――ちなみに古谷さんは若手にライバル意識を燃やされることはおありになるのですか?

古谷 ありますね。ないとダメでしょう。同じようにヒーローのキャラをやっているわけだし。僕なんかは長年ヒーローをやり過ぎていて、いまどきの若者のヒーロー声優たちと比較すると大きなハンデがあるわけじゃない。若さや純粋さではかなわないわけで、そこの部分をどう対抗していくかということについては、僕自身すごく考えているね。もちろん技術や感性などは負けないつもりだけど、昔のことを考えてみると、20代や30代のころの自分には絶対に勝てないなって思う。僕が『機動戦士ガンダム』でアムロを演じていたのは、ちょうど26歳のときだったんだけど、いま見てもアムロに関しては、当時の古谷徹は最高なんだ。自分で言うのも何だけど、いい(笑)。情熱や純粋さもそうだけど、たどたどしさや、はっきりセリフをしゃべれないところも含めて、アムロという15歳の少年らしさにすごく活きている。僕はいまもアムロを演じているわけだけど、当時の古谷徹にはなかなか勝てない。もちろん、自分としては同じように演じたいわけ。僕も長いあいだ生きてきて、真っ白だったものが濁ってきているわけだけど、そういうものをいかにそぎ落として無垢なものであり続けるか……というのが僕にとっては勝負。それは、若手声優に対抗するときも同じことが言えると思う。

ゆう そぎ落とすためにどのようなことをなさっていらっしゃるのですか?

古谷 僕にとっては遊ぶこと。仕事はなるべくしない(笑)。

ゆう そういえば、ウインドサーフィンがお好きでしたね。

古谷 なるべく太陽の下で遊ぶこと。世の中のイヤなことをすべて忘れて、ひとつのことに夢中になる。大自然に身を置くと、時間も忘れるし、一般常識的な悩みなど、すべて忘れられる。たとえば、ウインドサーフィンをやっているときに、風向きが変わって岸に帰れなくなったりすることがあるんだけど、そんなときに沖のほうから岸のほうを眺めると、「自分自身はなんてちっぽけな存在なんだろう」って思える。そんな気持ちが、自分を新人のころの気持ちに戻してくれるんだ。「ああ、自分はまだまだじゃないか!」って。

ゆう Webラジオだとそこまで深くお話をうかがうことができなかったので、すごく貴重なお話をありがとうございます。

古谷 いえいえ(笑)。いつも思っていることは、心と体と頭のトレーニングが必要だということ。この3つのバランス。僕は勉強も好きなんだよね。パソコンとかも趣味で25年くらいやっていますからね。

ゆう そうでしたね。ほかの方がパソコンを始めていないときに、ホームページを始められたりしたらしいですね。ご自分で取り組まれる方ってなかなかいらっしゃらないと思うのですが、本当にすごいですね。

古谷 うん。ひと言でいうと凝り性なんだろうなあ。感動できる作品に触れて、心を揺り動かして自然のなかでトレーニングをする。

ゆう 私もがんばらなくっちゃいけませんね。

古谷 ゆうちゃんは恋愛をすべきだよ!

ゆう え!?

古谷 片思いでもいいから、人を好きになって、息ができなくなるくらいの思いを体験すべき。恋愛で心を鍛えるというのは、いちばん心が揺れ動かされやすいからね。だって、死にたくなるから、極端な話。仕事も手につかなくなる。趣味や仕事だとさすがにそうはならない。恋愛をすることで、仕事にも活かせる部分は多い。僕もそうだもん。いろんな収録現場で「この人を好きになろう」って思うんだ。それは男性でもよくて、「彼(彼女)は僕にないものを持っている、素敵だな」って思うとスタジオに行くのが楽しくなる。そうすると仕事をするのが楽しくなる。すごくポジティブに作品に取り組めるんだよ。

ゆう 私、古谷さんとお仕事をするのがすごく楽しいです。

古谷 ありがとう。僕も楽しい。そういう感覚だね。

ゆう ちなみに、古谷さんは『ワールド・デストラクション』では誰に対してそのような感情をお持ちだったのですか?

古谷 やっぱり、そういう感情って、物語の設定に影響される部分は多いよね。『ワールド・デストラクション』では、キリエとモルテとトッピーというのは3人で仲良しだった。キリエ役の宮野君とは『機動戦士ガンダム00(ダブルオー』で共演していて旧知の仲だから、モルテ役の坂本真綾ちゃんとは親しくなりたいというのはあった。彼女とはレギュラーでいっしょに仕事をするのは初めてだし、トッピーとキリエはどこかでモルテに惹かれている部分があったからね。

ゆう うぅ……嫉妬心が……。うらやましい。私もいつか、古谷さんにそう思っていただけるようなキャラクターに巡り合いたいと、いま切実に思いました。ただ、私はいま心の体操はできておりません。だから、いろいろな心の体操ができるようになって、「ゆうちゃんって素敵になったんじゃない?」って思っていただけるような人になりたいと思います。

古谷 いまのゆうちゃんは仕事が恋人みたいな感じだもんね。お仕事大好きだからなあ。

ゆう そうなんです! お仕事によって、うれしくなったり、泣きたくなったりします。思い描くとおりのお芝居ができなくて、悔しくなって泣きながら帰ることもありますし。毎日が激動で……。皆様から見れば小さな世界なのですが、とにかく激動なんです。仕事に揺さぶられてしまって、誰かが入ってくる余地がないんですね。

古谷 そこで心のトレーニングができちゃっているんだね。

ゆう 悲しいんですけど、何にも入る隙間がなくて。とにかく、毎日の揺れ動きがすごいんです。お仕事に対しては。「なんで、こんなに私を揺さぶるんですか!?」ってくらいに思ってしまうのですが、お仕事が大好きだから、(お仕事に)私がひとりで勝手に恋焦がれて振りまわされているような感じです


古谷 その思いは、きっと将来の糧になると思うよ。

古谷さんとゆうさんのホンネトークに対する興味は尽きないけれど、今回はこれにて終了。思わず、小林ゆうさんの仕事に対する激烈な取り組みぶりが明らかになったわけですが……。次回は古谷徹さんの声優暦について、ゆうさんが質問の矛先を向けますよ〜。

【インフォーメーション】

vol133.jpgDVD『ワールド・デストラクション 〜世界撲滅の六人〜』Vol.3
■2008年11月21日発売
■価格:6090円[税込]
■発売元:セガ
■販売元:ジェネオン エンタテインメント
※Vol.1〜Vol.2は好評発売中
全6巻予定で、毎月1巻ずつ発売


※セガでは、DVD『ワールド・デストラクション 〜世界撲滅の六人〜』Vol.1〜Vol.3の購入者を対象としたプレゼントキャンペーンを11月21日から実施予定。購入者には抽選で、“トッピー等身大ぬいぐるみ”や声優さんのサイン入りアフレコ台本など豪華商品があたるのだ! 詳細は専用サイト(→こちら)まで。

※『ワールド・デストラクション』の公式サイトはこちら 

 

小林ゆうさん出演情報

今日の5の2 佐藤リョウタ役
テレビ東京(毎週日曜日深夜1時30分〜2時)などで放送中

まかでみ・WAっしょい! シンクラヴィア役
チバテレビ(毎週日曜日深夜0時30分〜1時)などで放送中

銀魂 猿飛あやめ役
テレビ東京(毎週木曜日午後6時〜6時30分)などで放送中

OAD
魔法先生ネギま! 〜白き翼 ALA ALBA〜 桜咲刹那役

OAD
【獄・】さよなら絶望先生 木村カエレ役


 

小林ゆう

2月5日生まれ。東京都出身。以前はモデルを務めていたほどの抜群のスタイルとルックスで人気を集める声優。代表作はアニメ『DAN DOH!!』の青葉弾道役、『魔法先生ネギま!』の桜咲刹那役、『さよなら絶望先生』の木村カエレ役など多数。