羽生蛇村日報
羽生蛇村日報 第31報 - 開発者インタビュー(前編)
こんばんは。時計じかけ豊田です。訪れていただき、ありがとうございます。
『SIREN: New Translation(サイレン ニュー・トランスレーション)』の魅力をお届けしていく当ブログ。本日からは3日間連続で、開発者の声を皆さんにお伝えしていきます。ご登場いただくのは、本作のディレクターを務める外山圭一郎氏と、シナリオを担当している佐藤直子氏です。


時計じかけ豊田(以下、豊田) 昨日まで5日間連続でアーカイブ裏話をお伝えしてきたのですが、アーカイブの制作はかなりたいへんだったのでは……。
外山圭一郎(以下、外山) 細部までこだわって作っていますので……。
佐藤直子(以下、佐藤) 地獄を見ましたね(笑)。
豊田 ひとつひとつのクオリティーがすごいですよね。
佐藤 HDですので細部まで読めちゃうってところがまず地獄で……。今回は武器アーカイブという要素が増えたので、一個一個のネタを増やすというよりは、密度を濃くするというアプローチをして。50個すべて、実際にそこにあるかのように作らなきゃいけないってことが本当にたいへんでした。
外山 たいした内容じゃないものや、くだらないアーカイブほど作るのがたいへんで……。
佐藤 毎回、アーカイブ担当者は死ぬか生きるかの瀬戸際まで追い込まれるんですけども、本作のアーカイブ担当デザイナーの船山という人間は、結婚式の前日まで徹夜という地獄を味わっていました(笑)。
豊田 ……え〜と、逆にいい思い出になってよかったですね、と言っておきます(笑)。
佐藤 あ〜、確かに人間として大きくなった感じがしましたね(笑)。
外山 『SIREN2』のアーカイブ担当者から、アドバイスをまとめた書類が船山へ手渡されたんです。「タイムスケジュールをこういう風にしておくとスムーズになるよ」という類のものが。で、その書類の序盤には「出すもの出すものリテイクの嵐。精神的にツライ時期」と書かれていて(笑)。
佐藤 どんな時期だよ、と(笑)。
豊田 ある意味では的確なアドバイスですね(笑)。
佐藤 正解の形がないんですよね、アーカイブは。だんだん作っているうちにみんなの思い入れがおかしくなっていきますし。
豊田 でも現場は楽しそうですね。反面、「その場にはいたくない」とも思いますが(笑)。
外山 ある意味、通過儀礼ですので(笑)。
豊田 ちなみに、羽生蛇三大麺は、羽生蛇蕎麦、はにゅうめんのほかに、もうひとつあるんですよね? 最後のひとつは……?
佐藤 いまだ未公開です。ここまできたら、麺のゲームを作ってでも紹介したいですね(笑)。
豊田 (笑)。そういえば、犀賀の幼少期の声は、外山さんの息子さんが担当されていますよね?
外山 じつは大人の声優さんで収録を行ったんですけど、どうしてもリアリティーがないということでオファーがあり……。
豊田 あ、チームからオファーが出たんですね。
外山 で、長男と次男で家庭内オーディションを行って(笑)。
佐藤 長男が勝ち取ったんだよね(笑)。おもしろかったのが「このまえやったようにやりなさい」って指導しているんですけど、長男が「パパは無理しないでいいって言ってたよ」とつぶやいていて。外山の家庭の顔と仕事場の顔の両面が見えた、貴重な体験でした(笑)。
豊田 “開発チームからこんばんは”でも述べられていましたが、身近な方が多数登場されていますよね?
佐藤 特徴的な方と出会うと「いつかアーカイブに使ってやろう」と思っちゃうんですよね。たとえば、“独眼竜ドラゴン”のポスターのモデルになっている女豹役の女の子は、いつも背中に“スケバン”って書いてあるパーカーを着ていて、どう見ても現代の子じゃないんですよ(笑)。それを見て、「いつかアーカイブに……」と思っていて(笑)。家庭内手工業と言いますか、少ないソースをいかに最大限活かすかという。それは外山の教えでもあるんですよ。制限の中でよりクオリティーの高いものを作り出そうという。
外山 まあ、ようするに貧乏性ってことですかね。ふつう、予算的なお話はしないのですが、オープニングシーンは脅威の総予算50万円という格安のものですから(笑)。
佐藤 バス1台にスタッフを詰め込んで撮影に挑んだという(笑)。
豊田 次世代機でその価格はスゴイですね。
外山 小道具も衣装も全部手作りです。
豊田 次回作があるなら、ぜひ出演させてください(笑)。
佐藤 そう言ってくださる方はけっこう多いんですよね。
外山 過酷ですよ(笑)。いや、本当に(笑)。
佐藤 過酷なのは本当で、オープニング撮影のときも、雨は降ってるわ、寒いわで……。私なんて薄手の看護服で頭には袋かぶって、足元はタイツ一枚にサンダルですから(笑)。その格好のまま、整備なんてまったくされてない小石とか木の枝が転がっている地面をズルズルと引きずられて倒されてですもん。そのうえ、平気で外山から「あ〜、NG。もう1回」って(笑)。
外山 葉っぱが写ってたんだよ。
佐藤 葉っぱが写ってるからやり直しって(笑)。そのときは、かなり険悪な雰囲気になって、NGが出た瞬間にすごい眼で睨んで罵声を浴びせましたから(笑)。
豊田 気になったのがその、喧嘩とか言い争いが頻繁に起こるんじゃないかなって……。
佐藤 喧嘩するほど仲がいいチームですよ(笑)。
外山 口に出して言っている分には健全ですから(笑)。
佐藤 でも、ここまでこだわれて、なんていうかぶつかり合えるのは、なかなか得がたいコミュニケーションだと思いますね。
豊田 それはシリーズを重ねてきたチームだからこその結束力ということですか?
佐藤 そうですね。チーム全体に、費用対効果を度外視して限界の限界を目指そうという気概がありましたね。
豊田 お話を聞いていて、昔のファミ通編集部を思い出しました。幼児用プールに飛び込む写真が欲しいと言われれば、ものすごい高さから本当に飛び込む時代だったので(笑)。
佐藤 そういうノリは確かにありますね。グランドを10周走り終えてクタクタになり、疲れ果てて地面に倒れこむ瞬間に「あと10周ね」って平気で言われる状況が何回か起きましたし(笑)。でも、意外かもしれませんが外山が癒し系なので耐えられたというか。チームのトップなのに、いちばんの癒し系なんですよね(笑)。
外山 いや、周りが怒ってくれるので、僕が怒る必要がないんですよ(笑)。これ以上怒っても意味がないなぁ、と。
豊田 (笑)。そういえば、今回のアーカイブは笑いの要素が押さえ気味だなという印象を受けましたけども。
外山 『SIREN2』と比べると少ないかもしれませんね。
佐藤 確かに数を50個に絞った分、笑いを入れる余裕がなかったという要因もありますが。
豊田 ひとつの人形を4パターンに加工するなど、制作時にはさまざまな工夫をされていたそうですが……。
佐藤 何枚も領収書を落とすのはきびしいというか(笑)。新人の女の子に、「アーカイブの領収書を清算しといて」と何回か頼んだんですけど、あまりにも奇妙なものを購入しているんで、上司に呼び出されて「これはいったい何に使うんだ?」と(笑)。
豊田 『SIREN』のときは、人形がもっとも高くて6000円だったと記憶していますが、本作でもっとも高価だったのは?
佐藤 角ウサギ男の着ぐるみですね。でも、どのアーカイブもすべて低コストですよ。あ、ハワードのブログであまり注目されていないんですけど、天狗のお面があるんです。あの天狗のお面は領収書を清算するのがめんどくさくなって自腹で買いましたね(笑)。上司に天狗のお面をゲームの何に使うのか説明するのがイヤになって(笑)。
豊田 でも高いんじゃないですか?
佐藤 いや、800円くらいです(笑)。
豊田 武器アーカイブも50種類用意するのは苦労したのでは?
外山 でも、ボツになった武器もいくつかあって。いちばん残念だったのはコケシですね。
豊田 え!? 木彫りのコケシですか?
外山 ええ。すっごくがんばって推したんですけどね。屍人の口にねじ込むカットインが入ったり(笑)。完全にギャグになるということと、海外ではわからないという理由で泣く泣くボツに(笑)。
豊田 あ、そうだそうだ。武器を使って屍人を倒したときのカットイン演出ですが、正式名称はあるのですか? 説明書にも載っていなかったので……。
外山 チームでは“フェイタルムーブ”と呼んでいます。
豊田 なるほど。あれは武器と場所の組み合わせで発生するものなんですか?
外山 まず、武器によってフェイタルムーブのあるものとないものがあります。あるものでも、場所が重要で、出せる場所というのがあるんですよね。開発途中は「なんとなく出るというよりも、意味があるものにしようか」という提案もあったんです。たとえばカウンターだったらとか、ボタンを変えたらとか。スタッフと議論を重ね、幅広い層に受け入れてもらいたいのに重要な演出が見られない可能性があるシステムはどうなんだろう、という結論に達して。
豊田 狙って出せないことによって、テンポにもいい意味で変化が生まれていますよね。
佐藤 フェイタルムーブを捜すのも楽しいですし。
外山 僕もすべてを把握していませんから(笑)。
豊田 アーカイブもスゴイですけど頭脳屍人もスゴイですよね? なんて言えばいいんでしょう。突き抜けた感じがするというか……。
外山 頭脳屍人は「おもしろければもう何でもいいよ」という割り切りをしました(笑)。ハードがプレイステーション3になったので、ギミックとして変わったこと、次世代機でしか表現できないことは全部仕込もうと思って作りましたね。
豊田 最初に遭遇する頭脳屍人からしてスゴイですよね。人型ですらないですし(笑)。
外山 車椅子に乗っているという設定だったので、どういった形にするかが難しかったんですよね。病気や怪我などを連想させるものはNGにしつつ、インパクトのあるものを……と考えていたときに、逆に解釈の幅がドーンと広がった感じで。
豊田 ちなみに、あの屍人は【入院患者の手紙】を書いた人と同一人物ではないんですか?
佐藤 今回、その辺は深くつなげていないんです。
外山 頭脳屍人のコンセプトは“出オチ”なんですよね(笑)。バカバカしさというか。
佐藤 とはいっても、ユーザーの皆さんが気つかないかもしれないという部分、細部の細部まで徹底的にこだわって作っていますので、怖いとか気持ち悪いという感情を乗り越えて注視してもらえるとうれしいですね(笑)。
豊田 (笑)。24日には北米でもダウンロード配信がスタートしましたが、反応はいかがでしたか?
外山 毎夜0時に解禁されるという仕様ではないのですが、リアクションはすごくいいですね。ビックリするくらい評判がいいんです。ネット専売で価格的にリーズナブルだったこともプラスに働いて。また、これまでプレイステーションネットワークで配信されていたものは、ライトな感じのゲームが多かったんですけど、ユーザーは意外とヘビィなものをやりたかったようで。「プレイステーションネットワークでリッチなゲームができるのがうれしい」という声が多くて驚きました。北米では『SIREN』の認知度は日本と比べると低いんですけど、ハワードのブログとか写真ネタとかをすごく新鮮に楽しんでくれていて。日本では即日に解明されてしまったアーカイブ捜しも、ユーザーどうしで質問しあったり、時間をかけて見つけていますから。
豊田 確かに日本のユーザーはあっという間にアーカイブを集めちゃいましたよね。僕のブログがアップされる前にすべてが終わっているという(笑)。あ、ちなみに犀賀のキャラクター性は、北米ではどのように受け止められているんですか?
佐藤 「すごくいい」というリアクションを聞いています。ワールドワイドに受け入れられる日本人像を意識して服部さんというすばらしい役者さんに行き着いたので、うまく伝わってくれたなと。
豊田 ユーザーからの反応と言えば、ゲーム本編以外にも“羽生蛇村を求めて”のページはとても人気がありますよね?
佐藤 正直あそこまで人気が出るというのは……。
外山 ちょっと意外でした(笑)。設定や世界観の整合性としては微妙なもので、どちらかというと『SIREN』を知らない層に向けて「なんか変なことをやってるな」という興味を惹くものとしての試みだったんです。半分オフィシャル、半分お祭りのようなノリの(笑)。
佐藤 お祭りという要素としては、すごくよかったなと思っています。
外山 まあ、「1年前の事件がライブかよ!」っていうツッコミもあるわけですが(笑)。
佐藤 でも、12時にサイレンが鳴るときにはみんな大盛り上がりで(笑)。定刻にサイレンが鳴るだけでよろこんでもらえているのがうれしいですね。
豊田 いやぁ〜、初めて見たときは「ライブなの?」って思いますもん(笑)。
外山 「小屋に隠れて出演の準備をしてるのかな?」と思ってくれた方もいたらしくて。
佐藤 「スタッフおつかれ〜」って、そんなわけないだろ! って(笑)。
豊田 シリーズのファンとしては、「サイレンチームならそこまでやりかねない」って思うわけですよ。
外山 ライブだとしたら、タンクトップの役者さんのギャラは安いですね。出すぎですから(笑)。
豊田 収録はどちらで行われたんですか?
外山 奥多摩ですね。
豊田 ちょっと待ってください。もしかして、本編制作後にわざわざ収録に行ったんですか?
佐藤 ええ、そのためだけに行ってきました(笑)。
外山 天気がちょうどドンピシャで、ずっと雨がシトシトと降っていたんですよね。
佐藤 サイレン日和だったんです(笑)。
豊田 なるほど。ライブだと感じたひとつの要因が、あの季節感のなさだったんですよね。
外山 ラッキーでしたね。行き当たりばったりで行ったのに(笑)。
豊田 (笑)。あ、“羽生蛇村を求めて”に出演されているキャストの方は、そのためだけにキャスティングをされたんですか?
外山 そうですね、エピソード0も含めて、そのためだけに(笑)。
佐藤 みっちゃん役の方は、お弁当を食べているときに垣間見せてくれた素の部分も役柄に落とし込んでいます(笑)。エピソード0は、いままでの異聞録とはちょっとやりかたが違うんですけれど、まったくゲーム本編と絡んでいないわけではなく、ゲームプレイ後に映像をチェックするとそれなりに楽しめるようなギミックが入っているので、まだ見ていない方はぜひチェックしてみてください。
豊田 各所で目にするポスターや看板も、さまざまな種類がありますよね。あれを決める会議は楽しいだろうな、と感じたんですけど(笑)。
外山 いやぁ〜、アートディレクターが本当にきびしくて、“何となく”っていうのはダメなんですよ。「なんでこの商品の名前はこうなの?」という鋭いツッコミが入るわけです(笑)。
豊田 バックボーンまで考えて作れ、ということなんですか?
佐藤 バックボーンもそうですけど、見た人にどう伝わるのかという部分を大事にしていて。たとえば、パロディーをやるなら、パロディーとしてどういう意図があるのか、見た人にどう伝わるのかと、本当にビックリするくらいきびしいんです(笑)。
豊田 ブログでもいろいろ書かせていただきましたが、すべてを拾い切れなかったのが心残りで……。ちなみに、“会えるかな、マンチェ”というポスターがありましたよね? あれは何の商品なんですか?
佐藤 キャンディーですね。
豊田 なるほど。では、“腋”と書かれた看板は、読みかたは“わき”でいいんですか?
外山 じつは、“月夜”(つきよ)です。え〜、くだらないんですが、デザインに失敗して文字が近すぎるために“腋”と読めてしまうという裏設定があります(笑)。
豊田 (爆笑)。
佐藤 そんなくだらないものがデモシーンで思いっきり目立って写っているという(笑)。
外山 あれでも暗くしてもらったじゃん。最初はもっと煌々と光ってたんだから(笑)。
(インタビュー中編へ続く)
開発チームからこんばんは
デモパートのリハーサル。ハワードを背負う犀賀…と台本では簡単に書かれますが、成人男子一人を担ぎ上げるのは結構たいへんです。(外山)

おんぶしてみました。とてもクライマックスに向かう雰囲気ではありません…。
モーション演出のギャビンの指導でカッコいい背負い方が完成。
そのギャビンさんを背負っての一枚。
ブログ後記
蛇足ですが、インタビュー中の雰囲気もお伝えしたかったので、敢えてラフな感じの構成にしています。お話を伺って感じたのは、チームの結束力ですね。“いいものを作ろう”とチーム全員が一丸となっていることがひしひしと伝わってきました。外山さんと佐藤さんの息がピッタリだったことも印象的です。明日は、インタビュー中編をお届けいたします。それでは、今日はこの辺で。ではまた明日。
時計じかけ豊田
ファミ通プロジェクトマネジメント編集部デスク。長くてよくわからない部署名だが、週刊ファミ通および姉妹誌にて"ファミ通チョイス"というマークが入っているタイトルを専属で担当する遊撃隊的部署のことらしい。編集歴10年。頭のネジがちょっぴり抜けている『サイレン』シリーズが三度のメシより好きな編集者。
