大塚角満の ゲームを“読む!”
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俺がラギアクルスに対抗すべく持っていった武器は、水属性のスパイラルランスだった。
なぜこの武器にしたのか?
ぶっちゃけ、ラギアクルスに水属性が有効なのかどうかと聞かれたら、いくら知識に乏しい俺でも「うーん……」と首を捻らざるを得ない。ラギアクルスはどっからどう見ても水の中が大好きそうだし、そもそも“海洋の王”なんていう異名まで持っている。これでもしも「……じ、じつは俺カナヅチで、水が大の苦手なんだよね……」なんてことをラギアクルスが生放送でカミングアウトしようものなら、即座に「しばらくそのままでお待ちください」というテロップが画面に表示され、舞台裏では「ちょっと!! いきなり何言ってんだ! 生放送だぞ! ナマナマナマ!! あああ……。編集長に大目玉だ……。俺の出世が……」なんていう悲喜こもごも(喜、の部分がないがね)を生み出すに違いない。まあそのくらい(どのくらいだ)、ラギアクルスに“水が苦手”というイメージはない、ということですな。
ではなぜ、俺はわざわざ水属性のスパイラルランスを得物として持っていったのか? その答えはじつに単純にして明確だ。それは……。
スパイラルランスしか持ってないから。
これに尽きる。
「ラギアの水が強いのか、それとも俺の水が強いのか。雌雄を決する時が来た!!」
自分を鼓舞するために、俺は無理矢理わめいた。しかしそう叫びながらも腹の内では、(……このランスのもとになったやわらかライオン(ロアルドロスのことね)の水の力で、海洋の王者に対抗できるとはとても思えぬ)なんてことも考える。こういう思考を突き詰めていくと最終的には、「生存競争に決着をつける最大の要因は、オノレの腕なんだよナ」ってことになって、それがもっとも欠如していることがわかっているから、「実力不足を補うには、やっぱり弱点属性だよナ」という考えに行き着く。ところがどっこい、いまの自分は水属性のランスしか持っていないから、無理矢理「どっちの水が強いのか勝負だ!!」という言葉をみずからに叩きつけるのだが、しかし……って一生ループが続くヘタレハンターの螺旋階段から降りられなくなるのでこのへんで止めますね。
まあそういう理由からしかたなく、俺はスパイラルランスを持って出かけたわけですね。でも弱点属性こそ合ってはいないが、このランスは手ごろな素材で作れるわりには斬れ味が優秀で、攻撃力もそこそこある。序盤はこれ1本あればなんとか生きていけるんじゃないか……と思えるくらいの性能を備えているので、「ランス、使ってみたいな」と思っておられるルーキーハンターの皆様にオススメしておきます。
そして俺は初めて、ラギアクルスの視線を真正面から受け止める場所に立った。降り注ぐ陽光を浴び、鮮やかなオリオンブルーの表皮をキラキラと輝かせながら、海洋の王者は堂々と陸地を闊歩している。大きい……。ラギアクルスって、こんなに大きかったっけ……? ……いや、大きいよりも何よりも、このモンスター、こんなにも神々しかったか……? 俺は、まわりの空間が歪んで見えるほどの瘴気を纏わせて歩くラギアクルスを呆然と眺めながら、かつて立ち塞がった幾多のライバルたちの顔を思い浮かべた。
リオレウス、クシャルダオラ、ティガレックス、そしてナルガクルガ……。
ゲームを象徴する存在として息を吹き込まれたモンスターの、なんて威厳に満ちていることか……。こいつらと初めてやりあったときも、俺はその圧倒的な存在感にすっかり魅了されちまったんだよな……。しかし、相手はモンスターだ。出会ってしまった以上、両雄並び立たずということでどちらかはその場から消えなければならない。そんなことは、重々承知していた。でも俺はどうしても彼らに対して憎しみや敵愾心といった感情を抱くことができず、逆に尊敬の念が湧き上がってくるのを感じて大いに戸惑ったものだ。
そして、ラギアクルス−−。
こいつも、圧倒的に“本物”だった。かつての象徴たちが持っていたのと同じ誇りと威厳を身にまとわせ、俺の前に立ち塞がらんとしている……。
「バオオオォォォォォォォオ!!!」
ラギアクルスの海鳴りのような咆哮が、孤島全体を揺るがした。開戦の合図だ。Wiiリモコンとヌンチャクを握り締める手に、自然と力がこもる。とてつもない緊張感……。本当にこんなモンスターの、上を行くことができるのか……? でも陸地は、ハンターの土俵のはずだ。ビビってないでいまのうちに、徹底的にダメージを与えないと!!
俺はがむしゃらに、ランスを振り続けた。いま使える技術を総動員し、突進やキャンセル突き、カウンター突きもくり出して、ラギアクルスに食らいつく。完全に、この場の主導権は俺が握っている。しかし不思議と、ラギアクルスは自分のテリトリーである水中に帰ろうとはしなかった。……なぜだ? 俺を値踏みしているのか? 好敵手となりうる存在なのかどうか、この張り詰めたガチンコの舞台でテストしているとでもいうのか!? 俺は、その実力を隠しているとしか思えないラギアクルスにイラ立った声をぶつけた。
「本気出せよラギア!!」
しかし、開始から10分も経たぬうちに尻尾を切断したところで、俺とラギアクルスの初対決は“水入り”となった。“撃退した”ということで、クエストが終了になったのである。
単純に見たら、今回は俺の圧勝だろう。あれだけ入念に準備した回復薬をほとんど使用せず、わずかな時間で撃退を果たしたのだから。でも、このときの俺に去来したのは安心感や優越感ではなく、やってきたのは一抹の不安と恐怖だけだった。俺は海に帰っていくラギアクルスの背中を眺めながら震える声でつぶやいた。
「今回、ラギアクルスが真の実力を発揮する水中で、勝負をしていない……」
この間、俺はモンスターハンターフェスタ`09を追跡取材している中でイヤと言うほど、日本を代表する強者ハンターたちが水中闘技場で猛り狂うラギアクルスに屠り去られる映像を観てきた。自分の土俵に立ち、すべての力が解き放たれたラギアクルスは、それほどまでに強いのだ。それを知っているからこそ、実力を隠したまま去っていった海洋の王に、俺は言い知れぬ恐怖を感じたのである。
俺とラギアクルスの生存競争は、まだ始まったばかり−−。
余裕の凱旋は逆に俺の気を引き締め直してくれたが、このときに抱いた恐怖はすぐに、現実のものとなって俺を覆い尽くすのである−−。
次回に続く……?
大塚角満
週刊ファミ通副編集長にして、ファミ通グループのニュース担当責任者。群馬県出身。現在、週刊ファミ通誌上で“大塚角満のモンハン研究所”というコラムを連載中。そこら中に書き散らした『モンハン』がらみのエッセイをまとめた単行本『本日も逆鱗日和』シリーズ(4巻)が発売中。また、そこからのスピンオフとして別の視点から『モンハン』の魅力に迫る書き下ろし作品『別冊『逆鱗日和』 角満式モンハン学』シリーズも。このブログではさまざまなゲーム関連の話題を扱うつもり。一応、そのつもり。
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